一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第三百八話 一人焼肉

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「おぉ」

 ばあちゃんが来た後の冷蔵庫の中身はずいぶんと充実している、というのはいつものことだが、今回はずいぶんと肉が多いな。

 牛肉、豚バラ、豚トロ、鶏もも、鶏むね。これ、冷凍しといたほうがいいよなあ。

 しかし、ここまで肉がそろうと焼肉がしたくなってくるな。

「あ、そうだ」

 買っておいて数回しか使っていない、一人焼肉用のホットプレートがあるんだった。小遣いで買えるぐらいの金額で売ってて、思わず買ってしまった。ここまで肉がそろってることなんてめったにないし。

 よっしゃ、今晩は焼肉だ。



 ただ肉を焼くだけでも十分豪華なのだが、せっかくだからいろいろと準備したいものである。

 というわけでやってきた。花丸スーパー。

 まずは野菜だよな。焼肉屋にはサンチュとかあるけど、今日はサニーレタスで。トマトやキュウリはうちにあるし、あとは……もやしだ。レンチンして、キムチ鍋の素で和えるとうまいんだよなあ。あ、そうだ。きのこ買っておこう。しいたけでいいかな。かいわれ大根も買っとくか。

 たれもなくなりかけてたから買うとして、あとはジュースだ。オレンジと、炭酸。メインの肉はうちにある分で十分だろう。いやあ、うれしいなあ、楽しみだなあ。そうだ。ご飯炊いておかないと。

 ああ、うめずのご飯も買っとくか。いつもより、ちょっといいやつをな。



 夜は豪華なので昼はちょっと質素にするか。買い置きのカップラーメンだ。

「いただきます」

 シンプルな醤油ラーメンである。

 しかしインスタントと侮るなかれ、麺の口当たりはよく、スープもうま味たっぷりだ。具材はキューブ上の肉にふわふわ丸い卵、乾燥ネギ。肉は濃い味で、卵はしっかりスープを吸っていてうまい。

「ごちそうさまでした」

 飯を食ったらさっそく夜の準備をする。

 まずは付け合わせ類から。

 もやしは洗って耐熱皿に移し、ラップをかけてレンジで加熱する。しんなりしたところにキムチ鍋の素を入れ、和える。ごまをまぶしてもいい。食欲を刺激する香り、たまらん。

 トマトとキュウリはシンプルに切るだけ。トマトはくし形切りして塩をかけておく。キュウリは斜めに薄く。洗ったレタスと一緒に皿に盛り付けておく。かいわれも。

 ラップで覆った盆の上に肉を並べていく。

 牛は赤身、豚バラも豚トロもきれい、鶏もも肉は分厚いので焼きながら切るか。だったらキッチンばさみを準備しよう。鶏むね肉は……冷凍しておくかな。他の肉も残った分はラップできれいに包んで冷凍しとく。それと、冷蔵庫にあったウインナー、それを薄く切ったのも並べよう。

 しいたけは薄めに切るかな。キャベツもまだあるからざく切りにしよう。ポン酢かけて食ってもいいし、焼いてもうまい。ヤングコーンも水を切って添える。

「おお、完璧」

 あとはホットプレート準備すりゃいい。

「わふっ」

「んー?」

 居間でうめずがじっとこちらを見つめている。

「お前の分も、いいものあるからな」

「わうっ」

「楽しみだなー」

 うめずはぶんぶんとしっぽを振る。その表情はどことなく、笑っているように見えた。



 透明のコップに氷を入れて、サイダーのペットボトルと一緒にテーブルへ。野菜の皿と肉の皿も並べ、あとは、ご飯を山盛りに。たれは三色皿に、焼き肉のたれ、わさび醤油、レモン塩。

「よし」

 ホットプレートの電源を入れ、鉄板が温まったところで。

「いただきます」

 少し油をひき、まずは牛肉から。じゅうっといい音、熱気、いいね。

 さて、焼けるまでは時間がかかる。とりあえず……野菜食うか。

 塩をかけたトマトは甘い。塩味と、トマトのさわやかさがうまい。キュウリは焼肉のたれとマヨネーズで。みずみずしさで幾分か薄まった焼き肉のたれ、マヨネーズのまろやかさ、よく合うなあ。

 キャベツをポリポリ食べながら肉をひっくり返す。鼻をくすぐる肉の香りと口に広がる青み。不思議な感じがする。

 よし、焼けたか。

 まずは焼肉のたれから。さて、どうだ。

「うっま」

 なにこれ、いつも買ってる肉と全然違う。高いやつだ。赤身のうま味と噛み応えはあるものの、やわらかい。口当たりもいい。おいしい。

 これをご飯で追っかける。うまい以外の言葉が出てこねえ。

 さて、肉にたっぷりとたれを絡め、サニーレタスにくるんで食べる。レタスのみずみずしさとほんのりとした青い香りがさっぱりさせる。あ、これご飯も一緒にくるんだらどうだろう。

 合わないわけないよなあ。この食べ応えよ。

「はー、さて、次々」

 次は……豚バラと豚トロ。

 豚バラはまず、わさび醤油で。豚って、おいしいけど脂っぽいところあるから、さっぱり系が合う。わさび醤油は辛さで味が引き締まるのがいい。

 当然、レモン塩も合う。それこそ脂が落ちて、酸味と塩ですきっとする。

 でもって、たれをつけたら、野菜にかいわれ大根とくるんで食うのがいい。レタスによってすっきりと、かいわれ大根によってきりっと、味が引き締まる。豚肉の歯ごたえって、どうしてこんなにいいんだろう。

 豚トロはぐにぐに、さくっとした感じ。これは……塩コショウが合いそうだ。鉄板の上の豚トロに振ってみる。ん、やっぱり。これはシンプルなのがいい。香ばしく、うま味たっぷりだ。

 ここでヤングコーンとキャベツ、しいたけを焼いてみる。

 野菜はすぐ焼ける。ヤングコーン、肉のうま味を吸っていい味だ。サクッと歯ごたえがよく、みずみずしく、ほのかに甘い。キャベツも甘みが増して、たれによく合う。

 しいたけはジュワッとうま味が染み出す。軸の部分を噛みしめればより香り立つのだ。しいたけ、うまいなあ。

 鶏肉は焼くのにだいぶ時間がかかりそうだ。

 その間にもやしを。じゃきじゃきといい食感、みずみずしい口当たり、それにピリッと辛くにんにくの風味が効いた調味料。焼肉に合う。ご飯も進む。

 ある程度火が通ったらはさみで切って……おお、生々しい手の感覚。

 しっかり焼いて、何なら押さえつけて焦げ目をつけてみる。皮目がいい感じの色になった。

 身の部分はジューシーでぷりっとしている。味わいが淡白だからたれの濃さがよく合う。醤油につけるとあっさりおいしい。皮目も香ばしく、ぐにぐにした歯触りが心地いい。

 いやあ、まさかこんなにいい思いができるとは。ばあちゃんに感謝だなあ。

 うめずも満足そうに、いつもより豪華なご飯を食べているな。よしよし、口にあったみたいだ。

 サイダーを口に流し込む。ぱちぱちはじける刺激とほのかな甘みが脂っこい口をさっぱりとさせた。

 ああ、楽しいなあ、焼き肉。

 たれにくぐらせた肉を白米の上にバウンドさせて、口に含み、たれがついたご飯をかきこむ。

 うまいなあ。ただただ、うまい。

 しっかり満喫、堪能した。



「ごちそうさまでした」

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