一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第三百四話 ファストフード

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 さあ、今日は一人を満喫するぞ。

 テーブルにはうちにあるゲームソフトとゲーム機をずらりと並べ、攻略本も準備した。昔やりこんでいなかったゲームや新しく始めたゲームを片っ端からやりたいようにやってやろうと決め込んだのだ。

 お菓子は手が汚れないもので。ソフトキャンディ。中にいろいろな果物のソースが入ったソフトキャンディは最近はまったものだ。

 まずはラズベリー。甘酸っぱくてうまい。香りの割に甘さは控えめだ。

「何からやるかな~……」

 よし、これにしよう。上下二画面のゲーム機で、スイッチを入れれば上画面だけ3Dに見えるやつ。まあ、3D機能はあまり使わないんだけど。買ったばかりの時に、調子に乗ってやりすぎて熱だしたんだよなあ。

 今でもソフトが発売されているゲームシリーズの一つを選ぶ。正方形のカセットを差し込み、起動。最近になってこれに登場するキャラクターを目にして、やってみようと思ったのだ。

 当初はやりこみ要素など気にしたこともなかったから、スルーしていたことがあった。ちょっと今日はそこをやってみよう。ひたすらバトルをしまくって、勝ち続けたら会えるキャラクターがいるのだとか。いっつも規定回数に達する前に諦めてたんだと最近になって気が付いた。

 だって終わりが分からないんだ。ずーっとエンドレスでバトルが続いていく感じがするし。まあ、攻略本をちゃんと読みゃよかったんだけど。つーか、バトル苦手だったんだよなあ。

「う」

 しかし手持ちのキャラ、どうもレベルが偏っている。つくづく育て方下手だな、俺。

「とりあえずやってみるかな」

 案の定、途中で惨敗した。これはまた育てなおす必要があるな。そもそも相手と相性の悪いタイプばかり育ててんだよ、俺。

 これは時間がかかりそうだ。よし、別のゲームにしよう。

 今度はほのぼのしたやつ。これもシリーズでちょくちょく出ているゲームだ。自分のアバターを作って、自分が住む場所を好きなようにカスタマイズするような。リアルタイムに時間が進み、季節も感じられて実に穏やかなゲームなのだが、たびたびローンを組まされてその返済に追われるのだ。期限も利息もないからあわてなくていいんだけどさ。

 そういやこのゲーム、根本的なシステムは変わらないけどテーマが違うのとか出てたな。人んち作るのとか、すごろくみたいなのとか。家作るやつは持ってたっけ。

 こっちはお金とか考えずに自由に好きな部屋作れるんだ。これはやりこんだ記憶がある。しかもこれ、リメイクというかパワーアップして新しい媒体でできるようになってんだよな。有料ダウンロードコンテンツで、こないだ買った。

 せっかくだし、大画面でやりたい。

 さっそくテレビにつなげて……コントローラーを持つ前にもう一つソフトキャンディを口に放り込む。この独特な風味は、サクランボだな。

「んー……」

 大画面につないだら別のゲームがやりたくなってしまった。どっちにしよう。

 よし、今やりたくなった方からするか。時間はたっぷりあるし。さっき3Dのゲーム機でやっていたゲームシリーズの最新作だ。

「あー……攻略本」

 ソファにあぐらをかいて座り、画面に視線を向ける。グラフィックがものすごくきれいになったなあ。ドット絵じゃねーんだもん。どこまで進んでたかな。確かレベル上げの真っ最中だったような。

 そうそう。全クリする前に、手持ちキャラをカンストさせるつもりであっちこっち回ってたんだっけ。経験値めっちゃもらえるモンスターばっかりおびき出して倒してた。あとどれくらいだろう。

「結構かかるかなあ」

 あ、そういえば経験値増えるアイテムあったような。そうそう、モンスター倒しまくってゲットしたんだ。これ使おう。昔であればもったいないと思って使ってなかっただろうけど、アイテムって、使ってなんぼだろう。

 別にカンストしなくてもこのレベルで戦えるんだけど、できれば相手、ワンパンで倒したいし。

 今度別のデータ作って、序盤から最強に鍛え上げてみてはどうだろうか。最初のデータはレベル上げに最適な追加コンテンツがまだなくてレベル上げに苦戦したけど、新しいデータ作れば最初から追加コンテンツ活用できて、レベル上げもしやすいだろうし。うわー、周りが弱い中で自分一人強いとか、気持ち良すぎるだろ。

 そうなってくるといろいろ物語を考えてしまう。ゲームそのもののストーリーとかじゃなくて、独自の、まあ、いわゆる妄想なわけだ。この主人公の生い立ちだとか、性格だとか、そういうこと考え出すときりがない。

 とにかく無心でレベル上げを進めること一時間。目の疲れと空腹を感じ、いったん休憩することにした。

「うー、くたびれた」

「わふっ」

「お、うめずも見てたのか?」

 足元にいたらしいうめずがこちらを見上げている。

 さて、昼飯どうすっかな。



 うめずの散歩がてらにファストフード店に寄った。ここで食べてもよかったが、今日は家でゆっくりしたい気分だったのでテイクアウトにした。

 ファストフード店の袋はなんか好きだ。匂いというか、質感というか。

「えーっと、ポテトと、ジュース。それに……」

 注文したものはちゃんと入っているようだ。ポテト、オレンジジュース、ハンバーガーはでかいやつ。普通のハンバーガーより分厚くて野菜たっぷりだ。

「いただきます」

 ソファに座ってアニメ見ながらハンバーガー。なんとまあ、緩んでいることか。

 まずはハンバーガーから食べよう。ぎゅっと抑えて、口に運ぶ。

 バンズの表面にはごまがついていて食感が面白い。次いでたっぷりのレタス、刻んだ玉ねぎが混ざったオーロラソース、そして肉。肉は香ばしく、塩コショウと香辛料かよく効いている。バンズもしっとりしていて、レタスはみずみずしい。オーロラソースもいい味だ。うちで作るのとはまた違う。

 ポテトもうまい。ラードで揚げられているので表面がものすごくカリッとしている。バンズからはみ出したオーロラソースをつけてみるのもいい。程よい味変になるのだ。

 オレンジジュースがこの味に合う。爽やかな酸味と甘みが、脂っこい口の中を通り抜けるとさっぱりする。

 そしてまたこってりが欲しくなる。

 ピクルスの酸味と食感が好きだ。このハンバーガーには三枚ぐらい入っている。

 バランスを保ちながら食べるのが難しいが、大きいハンバーガーにかぶりつくのはたまらなく楽しい。おいしいのももちろんだが、ファストフード感満載で、楽しめていいのだ。

 口の端に付いたソースをなめ、ジュースをすする。

 あー、やっぱいいなあ、一人の時間。やっと自分に戻った感じだ。人とかかわるのもいいが、やっぱりこういう時間が大切である。

 さて、残ったジュースでも飲みながら、ゲームの続き、やりますかね。



「ごちそうさまでした」
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