一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第三百一話 中華弁当

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 大型連休特別課題とかいうものが出ていたので、それをやっていたら電話がかかってきた。咲良だ。

「おう、なんだ」

『連休楽しんでる~?』

「課題やってる」

『うげ、いやなことを思い出させるなよ』

 そこは覚えとけよ、と思うが言わない。咲良相手に、こんなことにいちいち反応していたら身が持たない。

「用はそれだけか? 切るぞ」

『ああ、まあ待て、落ち着け。連休は始まったばっかりだろ? 課題ばっかりしててもつまんないじゃん』

「課題を無視しても楽しい連休はないぞ」

 早いとこ終わらせたいのだがなあ、今日の分。しかしこいつ、話し出したら長いんだ。いったん課題は閉じておくとしよう。

『まあまあ、そこはね。せっかくだからさー、みんなで遊びたいなあと思って。どう?』

「何をするつもりなんだ」

『うちさー、明日は親も妹もいないんだよね。で、俺も何も用事ないから、暇だなあと』

「誰を誘う?」

『都合が合うやつ』

 まあ、そうなるとこないだの花見のメンツになるんだろうな。

「勇樹は?」

『誘ってみる』

「そうか。で、何すんの」

『何がいい? たこパ?』

 うーん、たこ焼きかあ。それもいいけど……ふと、うちにある食材を思い出す。

「……餃子」

『餃子?』

「中身は作ってきてやるから、包むのはみんなでやりゃ楽しいんじゃないか」

『おおー、いいね。でも何で餃子?』

 それについては少々深いわけが……いや、ずいぶん単純なわけがある。

 要するにあれだ。うちに、キャベツが大量にあるんだ。冷蔵庫にあるの忘れて買ったのが一つ、ばあちゃんからもらったのが二つ。生で食うにしたって限界あるし、料理したとしても一人で消費する量はたかが知れている。

 たこ焼きもキャベツを使うが、餃子の方が消費できるだろ。

「消費に付き合え」

『あっはは、いいね。いいよー、ホットプレート用意しとく!』

「頼む。あ、皮は俺買ってくるから」

 さて、それなら買い出しに行かないとな。

 とっとと課題仕上げよう。



「餃子の皮って売り切れることあるんだなあ……」

 花丸スーパーに行ったら肝心要の皮が売り切れていた。まあ、大量に売ってるわけでもないし、連休だし、そういうこともあるか。

 せっかくだからなんか変わったお菓子も持っていくか、と思って向かったのはプレジャス。普通のスーパーじゃ見かけないようなお菓子も売ってるから楽しい。

「皮……ああ、あった」

 お菓子は大袋のを一つでいいか。

 他に買うものはないかと考えていたら、十二時を告げる放送がかかった。小鳥のさえずりと軽快な音楽。これを聞くとプレジャス来てんなーって気になる。

「あ、昼飯買って帰ろう」

 確か弁当とか売っていたはずだ。何があるかなあ。

 おや、ずいぶん見ないうちに様変わりしている。種類も豊富で、見やすくなった。

 中華を中心に洋風、和風とより取り見取りだ。カツカレーもあるし、親子丼とかもある。単品もいいなあ。お、おかず三種盛りとかあんの? へえ、どれにしよっかなあ。

「ちょっといいっすか~」

 悩みながら弁当の前をうろうろしていたら、後ろから声をかけられた。

「あ、すんません」

「い~え~、こっちこそ……って、一条君じゃん」

「山下さん、ですか?」

 やっほ~、という声、笑う顔はどう見ても山下さんだが、髪が。すっごいきれーな金髪になっている。カラメルがなくなってる。

「プリンじゃない」

「君結構はっきり言うよね」

 うける、と笑って言った後、山下さんはスマホを確認しながら続けた。大ぶりの立体的な装飾がついたスマホケースは、使いづらそうだがかっこいい。ちょっとほしい。

「今日はこっちの店舗のヘルプで来てんだよね。んで、プリンじゃないのは、染め直したから」

「あ、そうなんですね。お疲れ様です」

「ありがと~」

 山下さんは休憩に入ったばかりだったらしく、その後、サラダを買ってそそくさと売り場を後にした。大変だなあ。

 さて、俺もなんか買ってさっさと帰ろう。

 ……おし、これにした。



 この料理名は何だろう。揚げた鶏をたれに絡めた何かだ。うまそうだったから買ったけど、どうだろう。

「いただきます」

 一つ、箸でつまみ上げてみる。

 ひとつひとつは結構小さい。一口サイズだ。つやっとしていて、香りもいい。さて、味はどうだろう。

 んー、温かくはないけど、サクッとした衣に思いのほかジューシーな肉。染みたたれは甘辛く、振りかけられたごまが香ばしい。ご飯が進む味だ。

 弁当のご飯って冷たいけど、それが好きなんだよなあ。

 鶏の他にもおかずがちょっとずつ、二種類入っている。これは、青椒肉絲だろうか。噛みしめると染み出す肉のうま味、ピーマンはちょっとしんなりしていて、たけのこはしゃきしゃきとみずみずしい。濃い味でうまいな。

 こっちは……野菜炒めだ。キャベツともやし、きくらげ、ニンジン。塩気が強いが、コショウも効いていていい。きくらげの食感、好きだな。あ、これ、ちゃんぽんの野菜と一緒だな。

 どれもこれもご飯に合う。メインの鶏は特に、肉自体はもちろんだが、たれだけでもご飯が進むようだ。ご飯、おかわりしよう。

 さて、これ食ったらタネ仕込むかあ。

 大人数の餃子なんて仕込んだことないけど、大丈夫か、俺。まあ、なんとかなるだろう。



「ごちそうさまでした」

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