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日常
第二百九十九話 高菜弁当
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「あ、これください」
「はーい」
今日は運よくドーナツが残っていた。チョコをかけたシンプルなものだが、うまそうだ。
すぐにでも食べたいところだが、歩きながら食べていては、先生に見つかったときが面倒だ。教室に戻って食うとしよう。牛乳も買っておこう。
「……だよなあ」
自分の席は既に別のやつに占領されていた。言えばどいてくれるだろうけど、面倒だな。屋上にでも行くかなあ。
渡り廊下を行き、ひんやりした部室棟に向かう。
「一条、どこ行くの」
と、声をかけてきたのは百瀬だ。手にはスケッチブックと筆箱がある。
「ああ、屋上にちょっとな。席取られてさまよってる」
「あらら、そう。何なら美術室来る? 誰もいないし」
「お、助かる」
最近の屋上は気候が良くなってきたこともあって人が多い。あまり落ち着かないんだ。
美術室の鍵を開け、換気のために窓を開けながら百瀬が言う。
「今日はドーナツ買えたんだ?」
「余ってた」
「いいねえ。俺はこないだケーキ食べたよ。冷凍なのかな? すっごい冷たくておいしかった」
「冷凍ケーキって何気にうまいよな」
テーブルを挟んで向かい合って座る。
「いただきます」
結構がっちり目に揚げられたドーナツである。噛み応えは十分で、香ばしい。チョコがかかってないとこもちゃんと甘いんだなあ。バターのかすかな風味もいい。
チョコレートはほんのりビターだ。甘い生地によく合う。
「そろそろ連休だねー」
百瀬が紙にペンを走らせながら言った。
「一条はどっか行く?」
「いや、特に予定はない」
「そんなもんだよねえ」
ドーナツと牛乳、よく合う。ちょっと水分少なめの生地なので、いい塩梅になるのだ。
「小学校の頃にさあ、長期休みとか連休の度に旅行に行ってるやついて。夏休みは海外、連休は近場のいいとこ、みたいな」
「金持ってんな」
「まあ貴志のことなんだけど」
「なるほど納得だ」
そう言えば、どちらからともなく笑う。百瀬が楽しげに続けた。
「お土産がうれしくてね~。日本じゃまず見ないようなお菓子買ってきてくれたんだよね。めっちゃ甘かったけどおいしかったなあ」
「へえ、いいな」
ドーナツの最後の一口を飲み込む。
「ごちそうさまでした」
「海外のお菓子ってさ、結構すごい色してるよね」
「日本じゃ抵抗あるような色だな。食ってみたい気はするけど、いざ目の前にするとなあ」
「それこそドーナツとか、カップケーキとか。今じゃ、日本でも似たようなの売られてるけど、本場は格が違うよね」
間違えて絵具でもぶち込んだんか、みたいな色してるときあるな。
ふと百瀬の絵をのぞき込む。相変わらずうまいことで。
「よくそんなにさらさら描けるな」
「いやいや」
ちっちゃいキャラとか、アクリルキーホルダーにしたら売れるんじゃないか。
「一条も描いてみる?」
と、百瀬がペンを差し出してくる。一応受け取るが、俺には絵心など全くないぞ。
「俺お前みたいにうまく描けんぞ」
「いいから。ほら、描いて描いて。暇でしょ」
「まあ、暇だけど……」
「じゃあ、犬。犬描いて。犬飼ってるから描けるんじゃない?」
犬ぅ?
確かに俺は日ごろからうめずをそばで見ているし、ありありとその姿を想像できるが、それをアウトプットできるというわけではないぞ。そもそも動物はバランスが難しくないか?
「えー……犬かぁ」
迷いながらペンを走らせる。えーっと、とりあえず目と口と、耳を書いておけばそれっぽくなるかな。体は……尻尾どうだっけ。ひげ、ひげつけたら犬に見えるだろう。
あらかた書き終わったあたりで、百瀬が呟くように言った。
「……一条ってさ、中学の時、美術部?」
「いや、書道部だけど」
「そう」
何が言いたいんだ、こいつは。
とりあえず描いた絵は百瀬が「絶対持って帰る」と言ってきかなかったので、処分されないらしい。
「そんなへたくそな絵、持って帰ってどうすんだ」
「一条さ、へたくその意味わかってる?」
と、あきれたように笑って言われたが、どういうことだろう。
大した絵じゃなかろうに。あっ、嫌味か? そんな遠回しに言われても、俺には分からんぞ。
今日はなんだか疲れたので、弁当を買って帰ることにした。
「いただきます」
いろいろ種類があって悩んだが、今日は高菜弁当にした。
白米の上に錦糸卵と辛子高菜が半分ずつのっている。おかずはとり天と野菜天だ。紅しょうががちょこんと添えられているのもいい。シンプル極まりないこの弁当は、つい頼んでしまう魅力がある。
まずは高菜の部分から。ピリッとした刺激に高菜の香ばしさ、ごまの風味もいい。茎の方はしゃきしゃきとみずみずしく、葉のところはよく味が染みている。白米が進む味だ。
錦糸卵を一緒に食べると辛さがちょっと和らいで食べやすい。バランスよく食べないと卵だけ残ってちょっと寂しい弁当になってしまう。紅しょうがも一緒に合わせれば爽やかだ。
とり天はさっぱりと付属の出汁で。ちょっと残った皮もうまい。
からあげは変わって、がっつり濃い味だ。カリッとサクッとしていて、冷めていてもジューシーである。
野菜は……インゲン豆だろうか? サクッとした衣の奥にくにっとした食感の青い味。みずみずしくておいしい。
辛子高菜って、ほんと、ご飯進むなあ。口の中ちょっとひりひりするけど、止まらない。
それにしたって大型連休なあ。何して過ごそうか。
まあ、いつも通りが一番かな。
「ごちそうさまでした」
「はーい」
今日は運よくドーナツが残っていた。チョコをかけたシンプルなものだが、うまそうだ。
すぐにでも食べたいところだが、歩きながら食べていては、先生に見つかったときが面倒だ。教室に戻って食うとしよう。牛乳も買っておこう。
「……だよなあ」
自分の席は既に別のやつに占領されていた。言えばどいてくれるだろうけど、面倒だな。屋上にでも行くかなあ。
渡り廊下を行き、ひんやりした部室棟に向かう。
「一条、どこ行くの」
と、声をかけてきたのは百瀬だ。手にはスケッチブックと筆箱がある。
「ああ、屋上にちょっとな。席取られてさまよってる」
「あらら、そう。何なら美術室来る? 誰もいないし」
「お、助かる」
最近の屋上は気候が良くなってきたこともあって人が多い。あまり落ち着かないんだ。
美術室の鍵を開け、換気のために窓を開けながら百瀬が言う。
「今日はドーナツ買えたんだ?」
「余ってた」
「いいねえ。俺はこないだケーキ食べたよ。冷凍なのかな? すっごい冷たくておいしかった」
「冷凍ケーキって何気にうまいよな」
テーブルを挟んで向かい合って座る。
「いただきます」
結構がっちり目に揚げられたドーナツである。噛み応えは十分で、香ばしい。チョコがかかってないとこもちゃんと甘いんだなあ。バターのかすかな風味もいい。
チョコレートはほんのりビターだ。甘い生地によく合う。
「そろそろ連休だねー」
百瀬が紙にペンを走らせながら言った。
「一条はどっか行く?」
「いや、特に予定はない」
「そんなもんだよねえ」
ドーナツと牛乳、よく合う。ちょっと水分少なめの生地なので、いい塩梅になるのだ。
「小学校の頃にさあ、長期休みとか連休の度に旅行に行ってるやついて。夏休みは海外、連休は近場のいいとこ、みたいな」
「金持ってんな」
「まあ貴志のことなんだけど」
「なるほど納得だ」
そう言えば、どちらからともなく笑う。百瀬が楽しげに続けた。
「お土産がうれしくてね~。日本じゃまず見ないようなお菓子買ってきてくれたんだよね。めっちゃ甘かったけどおいしかったなあ」
「へえ、いいな」
ドーナツの最後の一口を飲み込む。
「ごちそうさまでした」
「海外のお菓子ってさ、結構すごい色してるよね」
「日本じゃ抵抗あるような色だな。食ってみたい気はするけど、いざ目の前にするとなあ」
「それこそドーナツとか、カップケーキとか。今じゃ、日本でも似たようなの売られてるけど、本場は格が違うよね」
間違えて絵具でもぶち込んだんか、みたいな色してるときあるな。
ふと百瀬の絵をのぞき込む。相変わらずうまいことで。
「よくそんなにさらさら描けるな」
「いやいや」
ちっちゃいキャラとか、アクリルキーホルダーにしたら売れるんじゃないか。
「一条も描いてみる?」
と、百瀬がペンを差し出してくる。一応受け取るが、俺には絵心など全くないぞ。
「俺お前みたいにうまく描けんぞ」
「いいから。ほら、描いて描いて。暇でしょ」
「まあ、暇だけど……」
「じゃあ、犬。犬描いて。犬飼ってるから描けるんじゃない?」
犬ぅ?
確かに俺は日ごろからうめずをそばで見ているし、ありありとその姿を想像できるが、それをアウトプットできるというわけではないぞ。そもそも動物はバランスが難しくないか?
「えー……犬かぁ」
迷いながらペンを走らせる。えーっと、とりあえず目と口と、耳を書いておけばそれっぽくなるかな。体は……尻尾どうだっけ。ひげ、ひげつけたら犬に見えるだろう。
あらかた書き終わったあたりで、百瀬が呟くように言った。
「……一条ってさ、中学の時、美術部?」
「いや、書道部だけど」
「そう」
何が言いたいんだ、こいつは。
とりあえず描いた絵は百瀬が「絶対持って帰る」と言ってきかなかったので、処分されないらしい。
「そんなへたくそな絵、持って帰ってどうすんだ」
「一条さ、へたくその意味わかってる?」
と、あきれたように笑って言われたが、どういうことだろう。
大した絵じゃなかろうに。あっ、嫌味か? そんな遠回しに言われても、俺には分からんぞ。
今日はなんだか疲れたので、弁当を買って帰ることにした。
「いただきます」
いろいろ種類があって悩んだが、今日は高菜弁当にした。
白米の上に錦糸卵と辛子高菜が半分ずつのっている。おかずはとり天と野菜天だ。紅しょうががちょこんと添えられているのもいい。シンプル極まりないこの弁当は、つい頼んでしまう魅力がある。
まずは高菜の部分から。ピリッとした刺激に高菜の香ばしさ、ごまの風味もいい。茎の方はしゃきしゃきとみずみずしく、葉のところはよく味が染みている。白米が進む味だ。
錦糸卵を一緒に食べると辛さがちょっと和らいで食べやすい。バランスよく食べないと卵だけ残ってちょっと寂しい弁当になってしまう。紅しょうがも一緒に合わせれば爽やかだ。
とり天はさっぱりと付属の出汁で。ちょっと残った皮もうまい。
からあげは変わって、がっつり濃い味だ。カリッとサクッとしていて、冷めていてもジューシーである。
野菜は……インゲン豆だろうか? サクッとした衣の奥にくにっとした食感の青い味。みずみずしくておいしい。
辛子高菜って、ほんと、ご飯進むなあ。口の中ちょっとひりひりするけど、止まらない。
それにしたって大型連休なあ。何して過ごそうか。
まあ、いつも通りが一番かな。
「ごちそうさまでした」
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