一条春都の料理帖

藤里 侑

文字の大きさ
上 下
305 / 843
日常

第二百九十五話 カルボナーラ

しおりを挟む
「あ、やべ。今何時だ」

 慌てて時計を確認すれば午前七時半。今日は土曜日、課外、ということは八時から授業だ。うん、だいぶやばいな。

「いかんいかん」

 朝飯は……悠長に食ってる暇はないが、なにも食わないわけにはいかない。とりあえず着替えて、荷物も準備して、それから、なんだっけ。

 昨日、ちょっとだけと思って始めたゲームが妙に盛り上がって、結局寝落ちした。土曜課外はいつもより遅く出発するから、平日と同じ時間に起きれば予習も準備も済むと思って油断した。あー、もう、こういうところだよ、俺。

「今日は何だっけ、英語……ん?」

 時間割り確認のために手帳を開く。しかし、今日のところに時間割も何もない。あれ? 書き忘れたか?

 壁に貼っている年間予定表を見てみる。

「あ、今日休みか」

 なんだよ、焦ったあ。もー、なんなんだよ。あぁ、びっくりした。まあ……よかった、よかった。

 しかし、確認不足だ。反省反省。

「……さて」

 制服ではなく普段着に着替える。最近はもうすっかり暖かくなって、暑いと思う日もあるぐらいなので、半袖でいいだろう。

 慌てる必要がなくなったので、朝飯はしっかり食おう。

 油をひいたフライパンにベーコンを四枚、卵を二つ。焼いている間にお湯を沸かしておいて、味噌玉も準備する。なんか野菜も食べたいなあ。あ、そういやキャベツあったな。ちょっと千切りにしてベーコンエッグに添えるとしよう。

 ご飯もよそって、いい朝ごはんだ。

「いただきます」

 ベーコンエッグ、程よく半熟だ。黄身を割って醤油をかけ、ベーコンでくるんで食べる。香ばしいベーコンの味と塩気、噛みしめればあふれ出す卵のまろやかさ。ご飯もかきこめば最高にうまい。

 みそ汁の具は巻き麩。このつるんとした口当たりが好きだ。

「まさか休みだったとは……」

 年に何回かこういう勘違いをする。逆に、課外があるのに無いと勘違いすることはないので、それだけは救いだ。無いのにあると勘違いする分は、自分が「なんだそれ」と思うだけだが、逆はそういうわけにはいかないもんなあ。

 そういや入学式の日、学生と保護者はそれぞれ集合時間違ったけど、それ勘違いして保護者の集合時間に合わせてきてたやついたなあ。誰だっけ。隣のクラスだったことは覚えてんだけど。

 まあいいや。それより、今日をどう過ごすか考えるとしよう。

 晩飯ちょっと凝ったものでも作ろうかなあ。

「ごちそうさまでした」



 朝食を食ったらとりあえず予習と課題をこなしておく。今日は休みだったので何とかなったが、次、マジで課外を忘れたり寝坊したりしたときに痛い目見ないように。気を抜いていたら、こういうミスは続いてしまうからな。

「はー……っと、もうこんな時間か」

 朝起きるのがのんびりだと午前中が過ぎるのが早い。

 昼飯はパン焼くか。それと……ああ、ヤングコーンあったし野菜炒めでもするか。ピーマンと、トマトと……味付けどうしようかな。醤油と柚子胡椒はどうだろう。あの組み合わせ、うまいんだよなあ。

「よっしゃ」

 考えてたら腹減った。

 パンを焼きながら野菜炒めを。ベビーコーンはそのままでもいいけど、今日は切り分ける。ピーマンも同じくらいのサイズにし、トマトはプチトマトなのでそのままで。

 オリーブオイルで炒めたら、火を消す直前に醤油を回しかけ柚子胡椒も和える。おお、いい香りだ。

 パンもいい感じに焼けたな。バター塗って食おう。

「いただきます」

 ベビーコーンは焼いた方がうまい気がする。ほのかに甘く、みずみずしく、何より食感がいい。ピーマンの程よい苦みとトマトのはじけるかすかな酸味と甘みがいい。醤油の香ばしさと柚子胡椒のピリッとした刺激がいいアクセントだ。

 パンにのせて食ってもいい。まろやかなバターと小麦の風味にピリ辛な舌触りがよく合う。

 あ、そういやこのパン、今日までだったなあ、消費期限。昼間いっぺんに食える量じゃないし、晩に食うか。

 それならなんかパンに合う料理を……スパゲティかな。

 ミートソースか、たらこか、あるいはそれ以外か。なんか今日は違ったものが食べたい。

「ん、あれ作ってみるか」

 食べたいと思いながらなかなか作らなかったあれ。

 パンにも合うぞ、きっと。

「ごちそうさまでした」



 用意するのは豆乳、にんにく、ベーコン、白だし、粉チーズ、黒コショウ。

 カルボナーラ、初めて作るなあ。

 牛乳で作るのが本当なんだろうけど、豆乳の方があっさりしていていいのだとか。

 ベーコンは短冊切りにして、フライパンでオリーブオイルとニンニクと一緒に炒める。豆乳、白だし、粉チーズ、黒コショウは別に、ボウルに一緒にしておいて、ベーコンがいい感じに色づいたところで入れる。

 あとは沸騰する直前まで火を通せばよし、と。

「生卵トッピングすんだよな……」

 麺を茹でながら考える。先にソースに入れたらやっぱかたまるかな。火が通った卵の方が好きなんだよなあ。

 よし、入れてみるか。

 黄身だけを溶いて、火を消して、回し入れてみる。ぐるぐるかき混ぜて……お、いい感じじゃね? あ、いや、すごいかき玉みたいになってきた。まあ麺入れたら何とかなるだろ。

 しっかり絡めて……と。

「いただきます」

 ずいぶんトロッとした感じになった。

 麺にソースをしっかりとまとわせて食べてみる。お、いいじゃん、上出来。おいしい。まろやかな豆乳のコクにチーズの風味がよく合ってる。黒コショウが味を引き締め、白だしでうま味が倍増する。

 和風のカルボナーラ、いいな、これ。

 ソースがずいぶんとろとろで、ポタージュのようでもある。パンを浸して食べるとうまい。ジャガイモも合うだろうなあ。それこそつぶしたジャガイモ混ぜたらポタージュになるのでは? 今度やってみよう。

 きっとリゾットでもいいな。うん、うまいだろうな。作ってみよう。マカロニもありか。

 これなら余しがちな豆乳も消費できるし、いいな。

 なんだか落ち着かない一日の出だしだったが、まあ、こんな晩飯が食えたので良しとしよう。終わり良ければすべて良し、だ。

 ……でも一応、今日やったところ、見直しておこうかな。



「ごちそうさまでした」

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

(完結)私より妹を優先する夫

青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。 ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。 ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

処理中です...