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日常
第二百九十一話 チキン南蛮
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「うぅ~ん……」
目を覚ませばまだ外は暗い。視界の端にうめずが映り、一瞬自分の家だと錯覚するが、窓の大きさと部屋の雰囲気をぼんやりと認識して、ここがじいちゃんとばあちゃんの家だと思い出す。
うめずは昼飯食った後に迎えに行ったんだっけ。月曜の準備も済ませてきたから、もう一晩泊れるんだよなあ。なんかうれしい。
スマホで確認すれば、十二時ちょっと過ぎ。……うん、もう一回寝よう。
「……はぁ」
寝ようと思うと眠れないのは何なんだろう。眠いのに眠れない。そういう時ってなんだか気持ちが悪い。
無理して寝ない方がいいか、いやでも寝ないとしんどいし、でも眠れないし。
などと考えながら布団の中でゴロゴロする。こうなってくると布団の肌触りすらめちゃくちゃ気になってくる。
「眠れねえ」
上体を起こして外を見る。さっきは気づかなかったが、月が明るい。くっきり影ができるほどだ。
「ふぁう」
「ん?」
気持ちよさそうにうめずはあくびをし、おもむろに起き上がる。そしてこちらを向くと、もう一つあくびをしてプルプルと体を揺らした。
「起こしたか」
「わう……」
「おお、なんだなんだ」
うめずは俺にすり寄ってきたかと思えば、ゆっくりと伏せの体勢になり、そしてまた横になって眠りについた。
「なんだそれは……」
半身に触れる心地良い温度に、ゆったりと眠気の波が押し寄せてくるのを感じた。
再び枕に頭をのせる。気持ちよさそうなうめずの寝息を聞くうちに、やがて、眠りに落ちていた。
もう一度目を覚ました時にはもう、空は白み始めていた。うめずはどんな寝相をしていたのか分からないが、俺の隣から足元まで移動している。
身支度を済ませ居間に行けば、朝飯の準備がされていた。
「おはよう、春都」
「おはよう」
ご飯にお吸い物、卵焼きと焼き鮭。写真撮って父さんと母さんに送っておこう。
「いただきます」
炊き立てご飯の温かさがうれしい。卵焼きはほろっと甘い。
鮭をほぐし、白米にのせ、一緒に食べる。このしょぱさと鮭のうま味がたまらなくおいしい。皮にはマヨネーズをつけて食べる。生臭さが軽減されておいしさが前面にでてくるんだ。
「ねえ、朝ごはん食べてる途中にあれだけど」
と、ばあちゃんがお茶をすすりながら聞く。じいちゃんは黙々とご飯を食べているが、その声に少しだけ視線を上げた。
「夜は何食べたい?」
「夜? 昼じゃなくて?」
「お昼はトースト」
なるほど、もう決まってるんだ。じいちゃんはそれになにも文句を言わない。
「夜かあ……」
お吸い物を飲みながらぼんやりと考える。白だしのうま味がほっとする。
そういえば寝なおした時、なんか夢見た気がするんだよなあ。なんだっけ。すげえ楽しかった気もするし、目が覚めた時、無性にさみしくなった気もする。
遊んでたんだったか、いや違う。断片的に覚えていることをつなげていく。
何かを食べていたことは思い出した。茶色くて、サクサクで、からあげっぽいけどからあげじゃないもの。
酸味のある香りが特徴的で、でもそれは揚げたそれそのものから香ってくるのではなく、上にかけられたソースのようなものから香ってきていた。あ、分かった。
「チキン南蛮食べたい」
「お、いいよ」
ばあちゃんは快く笑い、じいちゃんの方を見れば、小さくながら首を縦に振っている。
「それじゃあ手伝ってもらおうね」
「うん。何すればいい?」
「タルタルソース作って」
「分かった」
ばあちゃんちで食うと、たいていのものが手作りなんだよなあ。すげえや。
さ、玉ねぎ刻むなら、覚悟しとかないとなあ。
「うぅ……」
玉ねぎのみじん切りには、いまだに慣れない。
「大丈夫?」
「大丈夫……」
しかし、うまいタルタルソース、ひいてはチキン南蛮のためである。頑張る以外の選択肢はないだろう。
玉ねぎの他にもゆで卵を刻む。すべて刻み終わったらマヨネーズで和える。
そうしている間にも、隣のコンロではばあちゃんが鶏を揚げている。ジュワア、パチチッといい音だ。甘酢は昼のうちにばあちゃんが作っていて、冷蔵庫に入っている。
「春都、ご飯は?」
「大盛りで」
「さすが、よく食べるね」
手作りのチキン南蛮を前にして、ご飯が小盛で足りようか。
すっかりいい色に揚がったチキン南蛮。甘酢とタルタルソースは各々で掛ける。付け合わせはキャベツの千切りだ。
「いただきます」
まずは、揚げたてを一つ。
甘酢をかけ、タルタルソースをたっぷりと。衣のザクッとした食感に、ふわっとした鶏の口当たり。ほのかに甘く、香ばしい。シャキシャキとみずみずしいのは玉ねぎ。すうっとさわやかな味わいである。
甘酢は酸味が控えめで、それでいてうま味がある。タルタルにも負けない風味で、鶏の味を邪魔しない。タルタルソースの卵がそのすべてをまろやかに包み込んだ。
「あー、おいしい」
「そう、よかった」
「たまにはいいな」
と、じいちゃんもしっかりがっつり食べている。
キャベツにもタルタルをつけて食べてみる。ん、なんとなくコールスローっぽい気がする。
少し冷えたチキン南蛮をおかわりした炊き立てご飯の上にのせ、甘酢とタルタルをたっぷりかける。キャベツも一緒にいただこうか。
ホカホカのご飯にギュっとうま味が凝縮したチキン南蛮。温度と食感の差がいい感じである。キャベツも甘酢を吸ってうま味が増し、少ししんなりした衣がジュワッとおいしさを口の中に染み出させる。
余ったら明日に、とばあちゃんは言っていたが、これは余りそうにないな。
甘酢が染みたご飯をかきこむ。この瞬間、チキン南蛮食ってんなあと実感するんだ。
食いたいものを一番うまい状態で食えるって、いいなあ。あ、そういや明日の弁当、ばあちゃんが作ってくれんだっけ。楽しみだなあ。
「ごちそうさまでした」
目を覚ませばまだ外は暗い。視界の端にうめずが映り、一瞬自分の家だと錯覚するが、窓の大きさと部屋の雰囲気をぼんやりと認識して、ここがじいちゃんとばあちゃんの家だと思い出す。
うめずは昼飯食った後に迎えに行ったんだっけ。月曜の準備も済ませてきたから、もう一晩泊れるんだよなあ。なんかうれしい。
スマホで確認すれば、十二時ちょっと過ぎ。……うん、もう一回寝よう。
「……はぁ」
寝ようと思うと眠れないのは何なんだろう。眠いのに眠れない。そういう時ってなんだか気持ちが悪い。
無理して寝ない方がいいか、いやでも寝ないとしんどいし、でも眠れないし。
などと考えながら布団の中でゴロゴロする。こうなってくると布団の肌触りすらめちゃくちゃ気になってくる。
「眠れねえ」
上体を起こして外を見る。さっきは気づかなかったが、月が明るい。くっきり影ができるほどだ。
「ふぁう」
「ん?」
気持ちよさそうにうめずはあくびをし、おもむろに起き上がる。そしてこちらを向くと、もう一つあくびをしてプルプルと体を揺らした。
「起こしたか」
「わう……」
「おお、なんだなんだ」
うめずは俺にすり寄ってきたかと思えば、ゆっくりと伏せの体勢になり、そしてまた横になって眠りについた。
「なんだそれは……」
半身に触れる心地良い温度に、ゆったりと眠気の波が押し寄せてくるのを感じた。
再び枕に頭をのせる。気持ちよさそうなうめずの寝息を聞くうちに、やがて、眠りに落ちていた。
もう一度目を覚ました時にはもう、空は白み始めていた。うめずはどんな寝相をしていたのか分からないが、俺の隣から足元まで移動している。
身支度を済ませ居間に行けば、朝飯の準備がされていた。
「おはよう、春都」
「おはよう」
ご飯にお吸い物、卵焼きと焼き鮭。写真撮って父さんと母さんに送っておこう。
「いただきます」
炊き立てご飯の温かさがうれしい。卵焼きはほろっと甘い。
鮭をほぐし、白米にのせ、一緒に食べる。このしょぱさと鮭のうま味がたまらなくおいしい。皮にはマヨネーズをつけて食べる。生臭さが軽減されておいしさが前面にでてくるんだ。
「ねえ、朝ごはん食べてる途中にあれだけど」
と、ばあちゃんがお茶をすすりながら聞く。じいちゃんは黙々とご飯を食べているが、その声に少しだけ視線を上げた。
「夜は何食べたい?」
「夜? 昼じゃなくて?」
「お昼はトースト」
なるほど、もう決まってるんだ。じいちゃんはそれになにも文句を言わない。
「夜かあ……」
お吸い物を飲みながらぼんやりと考える。白だしのうま味がほっとする。
そういえば寝なおした時、なんか夢見た気がするんだよなあ。なんだっけ。すげえ楽しかった気もするし、目が覚めた時、無性にさみしくなった気もする。
遊んでたんだったか、いや違う。断片的に覚えていることをつなげていく。
何かを食べていたことは思い出した。茶色くて、サクサクで、からあげっぽいけどからあげじゃないもの。
酸味のある香りが特徴的で、でもそれは揚げたそれそのものから香ってくるのではなく、上にかけられたソースのようなものから香ってきていた。あ、分かった。
「チキン南蛮食べたい」
「お、いいよ」
ばあちゃんは快く笑い、じいちゃんの方を見れば、小さくながら首を縦に振っている。
「それじゃあ手伝ってもらおうね」
「うん。何すればいい?」
「タルタルソース作って」
「分かった」
ばあちゃんちで食うと、たいていのものが手作りなんだよなあ。すげえや。
さ、玉ねぎ刻むなら、覚悟しとかないとなあ。
「うぅ……」
玉ねぎのみじん切りには、いまだに慣れない。
「大丈夫?」
「大丈夫……」
しかし、うまいタルタルソース、ひいてはチキン南蛮のためである。頑張る以外の選択肢はないだろう。
玉ねぎの他にもゆで卵を刻む。すべて刻み終わったらマヨネーズで和える。
そうしている間にも、隣のコンロではばあちゃんが鶏を揚げている。ジュワア、パチチッといい音だ。甘酢は昼のうちにばあちゃんが作っていて、冷蔵庫に入っている。
「春都、ご飯は?」
「大盛りで」
「さすが、よく食べるね」
手作りのチキン南蛮を前にして、ご飯が小盛で足りようか。
すっかりいい色に揚がったチキン南蛮。甘酢とタルタルソースは各々で掛ける。付け合わせはキャベツの千切りだ。
「いただきます」
まずは、揚げたてを一つ。
甘酢をかけ、タルタルソースをたっぷりと。衣のザクッとした食感に、ふわっとした鶏の口当たり。ほのかに甘く、香ばしい。シャキシャキとみずみずしいのは玉ねぎ。すうっとさわやかな味わいである。
甘酢は酸味が控えめで、それでいてうま味がある。タルタルにも負けない風味で、鶏の味を邪魔しない。タルタルソースの卵がそのすべてをまろやかに包み込んだ。
「あー、おいしい」
「そう、よかった」
「たまにはいいな」
と、じいちゃんもしっかりがっつり食べている。
キャベツにもタルタルをつけて食べてみる。ん、なんとなくコールスローっぽい気がする。
少し冷えたチキン南蛮をおかわりした炊き立てご飯の上にのせ、甘酢とタルタルをたっぷりかける。キャベツも一緒にいただこうか。
ホカホカのご飯にギュっとうま味が凝縮したチキン南蛮。温度と食感の差がいい感じである。キャベツも甘酢を吸ってうま味が増し、少ししんなりした衣がジュワッとおいしさを口の中に染み出させる。
余ったら明日に、とばあちゃんは言っていたが、これは余りそうにないな。
甘酢が染みたご飯をかきこむ。この瞬間、チキン南蛮食ってんなあと実感するんだ。
食いたいものを一番うまい状態で食えるって、いいなあ。あ、そういや明日の弁当、ばあちゃんが作ってくれんだっけ。楽しみだなあ。
「ごちそうさまでした」
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