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日常
第二百八十九話 もんじゃ焼き
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前方の黒板にでかでかと文字が書かれてあると、一瞬なんとなくそわっとしてしまう。非日常というか、なんというか。
「はよーっす……お、なんだこれ?」
教室に入ってきた勇樹が、出入り口近くの席にいる友人に声をかける。
黒板に書かれていたのは「午後放課」というシンプルな文字。
「なー、あれ何なの? 誰かのいたずら?」
自分の席にやってきた勇樹は、今度は俺にそう聞いてきた。
「何人かに聞いたけど、なんも知らねーって」
「俺も知らん」
「えー、春都ならなんか知ってそうじゃん」
「なんでだ。俺だってついさっき来たばかりだから、知らねーよ」
よそのクラスも騒がしいし、似たようなことになってんだろうなあ。ほら、案の定やつが来た。
「なあなあ、なんか黒板に書いてあんだけど!」
だからどうしてお前はすぐこっちに来る、咲良。クラスのやつに聞けよ。
「午後放課って何? 帰れんの?」
「知らんて」
「これがいたずらだったら俺は泣く。悪質過ぎる! 家帰る!」
「結局帰るんじゃねえか」
「でもさー、もしこれがほんとなら、もうちょっと詳しく書いてほしいよね」
と、勇樹がもう一度黒板に視線を戻す。
「あれ、それじゃあ昼飯どうしよう」
咲良は「うーん」とうなって考え込み始めてしまった。
騒いだり黙ったり、忙しいやつだな、こいつは。
「午後放課なら食堂も休みっしょ?」
「あー……大体そうなるよな」
「むうん……」
そういえば俺も今日は弁当じゃなかったな。まあ、うちにあるものでどうにかできるか、それかコンビニでなんか買って帰るか。
「まー、いいや。あとで考えよ」
と、咲良は思考を放棄したようで、時計を確認すると「じゃーな」と自分の教室まで帰って行ってしまった。
まったく、人騒がせなやつだな。
結局、黒板に書いてあったことは本当で、授業は三時間目までで終わり、帰れるらしい。掃除も帰りのホームルームもない。
大雑把な書き方になっていたのは「それで伝わる」と思ったからなんだとか。
「伝わんねーよな」
「伝わらんな」
昇降口で靴を履き替え、少し浮かれた空気の中を咲良と並んで帰る。
「で、昼飯のことは決まったのか?」
さっきから上機嫌でうきうき顔の咲良に聞けば「あ、そうそう」と何かを思い出したように言った。
「飯食いに行こうぜ」
「あ? どこに?」
「まだはっきり決めてはないけどさ、せっかく早いんだし、どっか行こう」
なんと無計画な……昼時の飯屋は人が多いというのに。いや、ファストフード店以外は、この辺はあんまり多くないか。ファミレスは夜の方が混む。
「まあ、いいけど」
「あの辺に結構飲食店あったよな? なんだっけ、ほら、プレジャスまでの道」
「色々ある、っつっても何軒かだけど。うどんとかピザとか、あとはお好み焼きとか」
「お好み焼き! いいね、それにしよう」
チェーン店のお好み焼き屋だが、確かもんじゃ焼きとか焼きそばも頼めるはずだ。座席ごとに鉄板があって、自分で焼くんだったか。頼めば焼いてくれるっぽいけど。あの店ができた当初に行ったっきりであんま覚えてないや。
「バスで行けっかな?」
「途中で降りて歩けば」
何食おうかなあ。焼きそばは最近食ったし、お好み焼きかもんじゃ焼きか……メニュー見て決めるかな。
店内はずいぶん空いていた。この時間帯に混む店はあらかた決まっているからなあ。まあ、落ち着いて食えそうだ。
窓際のボックス席に通される。
「何食おうかな」
咲良と揃ってメニューをのぞき込む。お好み焼きももんじゃ焼きも焼きそばも種類が豊富で、トッピングもいろいろ頼めるらしい。
「やっぱ豚玉かな? 海鮮もいいよなあ。もんじゃもいい」
「いいよな、もんじゃ焼き」
お好み焼きも捨てがたいが、もんじゃ焼き、かなり好きなんだよ。トッピングはしない、普通のやつ。キャベツ、イカ天砕いたの、コーン、ラーメンスナック。しかし今日はせっかく店に来てるんだし、なんか入れたい。
「俺、もんじゃ焼きにしよ。春都は?」
「俺も」
「じゃあ二人分だな。トッピング何にする?」
結局、トッピングはチーズと餅にした。いろいろ試してみてもよかったが、味の想像がついて値段控えめなやつである。
お店の人に焼いてもらってもいいが、せっかくだし、と自分たちで焼くことにした。
ああじゃない、こうじゃない、いや、やっぱこうだとすったもんだしながら、不格好ながらもなんとか焼けた。チーズの香りが香ばしい。
「いただきます」
小さな木べらみたいなので食べる。金属のやつかと思ってたけど、これなら火傷の心配が少ないな。
しかしもんじゃ焼きそのものは熱々だ。うちの味付けとはまた違う、濃い出汁の味にイカ天の魚介風味。ラーメンスナックはサクサクのところとふやふやのところとあっておいしい。
出汁一つでこんなに味わいが変わるものなんだなあ、と思いながら今度はチーズの部分を。もったりとまろやかで、風味が強い。もっちもちした食感もいい。
あ、チーズパリパリのせんべいみたいなところもある。これ、チーズ焼いた時の楽しみの一つだ。香ばしさが増してていい。
備え付けのソースで味変してみる。濃いソース味、やっぱり粉ものに合う。
「なんかさー」
と、咲良が言う。
「もんじゃ焼きって腹にたまるんかなー、お好み焼きも別に頼むかなーって思ってたけど、結構くるよね」
「ああ、キャベツ結構たっぷり入ってるしな」
みずみずしいキャベツにシャキッと甘いコーン。野菜は心地よく腹にたまっていく。
それに今日はそこに餅をトッピングしている。トロッと溶けている部分もあるが、もっちもっちと食感も結構あるし、なにより、満腹感がすごい。思ったより大量にトッピングされてきたんだよなあ。
でもうまいのでいい。じゅーっと押さえつけて焼けば、表面がパリサクッとしておいしい。
今度はお好み焼きも食ってみよう。ソースうまかったし。
それまでにうまく焼けるよう、練習しておかなきゃなあ。
「ごちそうさまでした」
「はよーっす……お、なんだこれ?」
教室に入ってきた勇樹が、出入り口近くの席にいる友人に声をかける。
黒板に書かれていたのは「午後放課」というシンプルな文字。
「なー、あれ何なの? 誰かのいたずら?」
自分の席にやってきた勇樹は、今度は俺にそう聞いてきた。
「何人かに聞いたけど、なんも知らねーって」
「俺も知らん」
「えー、春都ならなんか知ってそうじゃん」
「なんでだ。俺だってついさっき来たばかりだから、知らねーよ」
よそのクラスも騒がしいし、似たようなことになってんだろうなあ。ほら、案の定やつが来た。
「なあなあ、なんか黒板に書いてあんだけど!」
だからどうしてお前はすぐこっちに来る、咲良。クラスのやつに聞けよ。
「午後放課って何? 帰れんの?」
「知らんて」
「これがいたずらだったら俺は泣く。悪質過ぎる! 家帰る!」
「結局帰るんじゃねえか」
「でもさー、もしこれがほんとなら、もうちょっと詳しく書いてほしいよね」
と、勇樹がもう一度黒板に視線を戻す。
「あれ、それじゃあ昼飯どうしよう」
咲良は「うーん」とうなって考え込み始めてしまった。
騒いだり黙ったり、忙しいやつだな、こいつは。
「午後放課なら食堂も休みっしょ?」
「あー……大体そうなるよな」
「むうん……」
そういえば俺も今日は弁当じゃなかったな。まあ、うちにあるものでどうにかできるか、それかコンビニでなんか買って帰るか。
「まー、いいや。あとで考えよ」
と、咲良は思考を放棄したようで、時計を確認すると「じゃーな」と自分の教室まで帰って行ってしまった。
まったく、人騒がせなやつだな。
結局、黒板に書いてあったことは本当で、授業は三時間目までで終わり、帰れるらしい。掃除も帰りのホームルームもない。
大雑把な書き方になっていたのは「それで伝わる」と思ったからなんだとか。
「伝わんねーよな」
「伝わらんな」
昇降口で靴を履き替え、少し浮かれた空気の中を咲良と並んで帰る。
「で、昼飯のことは決まったのか?」
さっきから上機嫌でうきうき顔の咲良に聞けば「あ、そうそう」と何かを思い出したように言った。
「飯食いに行こうぜ」
「あ? どこに?」
「まだはっきり決めてはないけどさ、せっかく早いんだし、どっか行こう」
なんと無計画な……昼時の飯屋は人が多いというのに。いや、ファストフード店以外は、この辺はあんまり多くないか。ファミレスは夜の方が混む。
「まあ、いいけど」
「あの辺に結構飲食店あったよな? なんだっけ、ほら、プレジャスまでの道」
「色々ある、っつっても何軒かだけど。うどんとかピザとか、あとはお好み焼きとか」
「お好み焼き! いいね、それにしよう」
チェーン店のお好み焼き屋だが、確かもんじゃ焼きとか焼きそばも頼めるはずだ。座席ごとに鉄板があって、自分で焼くんだったか。頼めば焼いてくれるっぽいけど。あの店ができた当初に行ったっきりであんま覚えてないや。
「バスで行けっかな?」
「途中で降りて歩けば」
何食おうかなあ。焼きそばは最近食ったし、お好み焼きかもんじゃ焼きか……メニュー見て決めるかな。
店内はずいぶん空いていた。この時間帯に混む店はあらかた決まっているからなあ。まあ、落ち着いて食えそうだ。
窓際のボックス席に通される。
「何食おうかな」
咲良と揃ってメニューをのぞき込む。お好み焼きももんじゃ焼きも焼きそばも種類が豊富で、トッピングもいろいろ頼めるらしい。
「やっぱ豚玉かな? 海鮮もいいよなあ。もんじゃもいい」
「いいよな、もんじゃ焼き」
お好み焼きも捨てがたいが、もんじゃ焼き、かなり好きなんだよ。トッピングはしない、普通のやつ。キャベツ、イカ天砕いたの、コーン、ラーメンスナック。しかし今日はせっかく店に来てるんだし、なんか入れたい。
「俺、もんじゃ焼きにしよ。春都は?」
「俺も」
「じゃあ二人分だな。トッピング何にする?」
結局、トッピングはチーズと餅にした。いろいろ試してみてもよかったが、味の想像がついて値段控えめなやつである。
お店の人に焼いてもらってもいいが、せっかくだし、と自分たちで焼くことにした。
ああじゃない、こうじゃない、いや、やっぱこうだとすったもんだしながら、不格好ながらもなんとか焼けた。チーズの香りが香ばしい。
「いただきます」
小さな木べらみたいなので食べる。金属のやつかと思ってたけど、これなら火傷の心配が少ないな。
しかしもんじゃ焼きそのものは熱々だ。うちの味付けとはまた違う、濃い出汁の味にイカ天の魚介風味。ラーメンスナックはサクサクのところとふやふやのところとあっておいしい。
出汁一つでこんなに味わいが変わるものなんだなあ、と思いながら今度はチーズの部分を。もったりとまろやかで、風味が強い。もっちもちした食感もいい。
あ、チーズパリパリのせんべいみたいなところもある。これ、チーズ焼いた時の楽しみの一つだ。香ばしさが増してていい。
備え付けのソースで味変してみる。濃いソース味、やっぱり粉ものに合う。
「なんかさー」
と、咲良が言う。
「もんじゃ焼きって腹にたまるんかなー、お好み焼きも別に頼むかなーって思ってたけど、結構くるよね」
「ああ、キャベツ結構たっぷり入ってるしな」
みずみずしいキャベツにシャキッと甘いコーン。野菜は心地よく腹にたまっていく。
それに今日はそこに餅をトッピングしている。トロッと溶けている部分もあるが、もっちもっちと食感も結構あるし、なにより、満腹感がすごい。思ったより大量にトッピングされてきたんだよなあ。
でもうまいのでいい。じゅーっと押さえつけて焼けば、表面がパリサクッとしておいしい。
今度はお好み焼きも食ってみよう。ソースうまかったし。
それまでにうまく焼けるよう、練習しておかなきゃなあ。
「ごちそうさまでした」
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