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日常
第二百七十一話 駄菓子
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「ただいまー」
「おう、おかえり」
シートの所で待っていたのは守本だけだった。
守本は紙コップ片手に、ずいぶんくつろいで桜を眺めていた。
「あれ? 朝比奈と百瀬は?」
守本の隣に座りながら咲良が聞けば、守本は「んー」とジュースを一口飲んでから答えた。
「屋台見に行った」
「あ、そう。会わなかったな」
「そりゃこの人混みだしな」
自分の紙コップの中に桜の花びらが入っていたので、新しいものと取り換える。百瀬も同様だったようだ。
「お前は行かなくてよかったのか、菜々世」
「人混みは苦手だ。ゆっくり桜を見るだけで十分だよ」
「チューリップとか咲いてたぞ」
「あー、なんか入り口のとこに書いてあったもんな」
え、そうなのか。気づかなかった。
のんびりとしばらく待っていたら、朝比奈と百瀬が戦利品片手に戻ってきた。
「たっだいまー。見て見て、これ、射的でゲットした」
そう言って百瀬が掲げるのは、デフォルメされたまん丸い狸のぬいぐるみだった。
「なんかよさげじゃない?」
「あはは、かわいいね」
観月は「僕もやりたかったなー、射的」と続けて、俺の方をちらっと見た。
「なんだ」
「いや、別に」
「やればよかったのに。そんじゃこれはお前にやろう」
と、朝比奈が観月に渡したのはポケットティッシュだった。
「なにこれ」
「残念賞」
「こいつ全然当たんなくてさー。屋台の人が同情するぐらいノーコン」
ケラケラと笑う百瀬の頭を朝比奈が軽く小突いた。
「なー。早くお菓子開けようぜー」
と声をかけるのは咲良だ。
全員がそろったところで、大人買いしたという駄菓子を開封した。真っ白な無地のビニール袋に詰まったお菓子は、否応にもテンション上がる。
糸付きの飴は箱買いだし、スルメとかの珍味が串にささったやつも容器ごと買ってきている。小分けにされたラーメンスナック、グミ数種、チューイングキャンディにフルーツ味の餅。なんかこれで駄菓子屋開けるんじゃなかろうか。
「すげー、スルメめっちゃあるー!」
と、咲良が容器を手に取る。
「こんなに食うか?」
「ま、余れば各々で持って帰れば良し」
守本はそう言って自分の持って来ていたバッグから食品オッケーのビニール袋を取り出した。なんとまあ準備がいいことで。
「そんじゃ、遠慮なく。いただきます」
まず食いたいのはスルメ。口ん中が甘くてしょうがなかったんだ。まあ、その余韻を楽しむのもいいんだけど、塩辛いの食いたい。
濃いイカゲソの味。到底おやつとはいえそうにないお味ではあるが、うまい。ぶちっとかみ切ると歯が気持ちいい。
「こっちなに? 辛い?」
百瀬が確認するのは平たい短冊のようなものにたれとごまがまぶされ、串にささったものだった。
「辛くない。甘め」
それをかじる守本はなんだか同い年に見えないというかなんというか。
なるほど、これはホタテの貝柱をどうにかしたものだな。甘辛く、ゴマの風味もいい。
さて、今度は甘いものが欲しくなってくるというものだ。何にしようかな。ああ、これいいな。フルーツ餅。
フルーツといいながら、ソーダやコーラ味もある。
サクランボはちょっと梅っぽい。俺は青リンゴが一番好きだな。なんとなく爽やかだ。ソーダは甘く、コーラはちょっと濃い。表面は少しかたく、もちもちした食感がいい。いくつか楊枝に刺してまとめて食うのも楽しいな。
チューイングキャンディはぶどう味を。うーん、香料らしいぶどう味。いいね。
「クリームソーダ味のグミ? ……うわ、あっま!」
「ははは、だろうな。歯が溶けそうだろ」
「菜々世お前、知ってたなら言えよー。一口で食っちまった。うーわ、甘い……」
と、咲良は急いでスルメをかじる。
「クリームソーダとスルメ……変な味」
「やっぱこういうグミって、コーラが外れないよねー」
「え? ソーダの方がうまいだろ?」
「うそ」
百瀬と観月がやいのやいの言っている横で、朝比奈がうきうきとした様子でひも付き飴の箱を眺めている。
「気に入ったのか、それ」
そう聞けば朝比奈はパッとこちらに顔を向け、そして少しきまり悪そうに視線をそらして「まあ、うん」とつぶやいた。
「開けるか?」
その問いに朝比奈は分かりやすく表情を明るくして頷いた。
「よっしゃ」
「あ、なになに。開けるのか?」
どうやら強烈な甘さとスルメの総攻撃から復活した咲良が、嬉々としてこちらにやってくる。
「ズルはなしだぜ。ちゃんと紐を引っ張れよ。飴の方から取るなよー」
「なんだそのこだわりは……」
とりあえず一人ずつ順番にひいていく。案外、当たりは出ないものだなあ。
さて、どれにしようか。まあどれが当たってもうれしいわけだけど、どうせなら大当たりを引きたい。
「じゃ、これ」
「さーて、どうだ……あ、イチゴ」
小さい方のイチゴか。ま、いいけど。
これだけはちゃんとイチゴの形してるんだよなあ。ちゃんと、といっても小さな三角錐なんだが。
砂糖の味とイチゴ香料のわざとらしいイチゴ味。でも、それがいい。
着色料が入ってるから舌が赤くなるんだよな。表面にはザラメもついてるし、甘くておいしい。紐ごと口の中で舐めるのは妙な感じだ。
「当たり出なかったなー」
最後に引いた咲良もイチゴのようだ。みんな同じ味だった、というわけか。
「ま、もう何回かやるだろ」
「無理して食わなくていいんだからな?」
と、守本は言うが、咲良は「食える食える!」と調子がいい。
小さいのも食いやすくていいんだけどな。
次は当たりを引きたいところだが、いったん休憩したい。お茶をちびちび飲みながら、桜を眺めるとしようかな。
「ごちそうさまでした」
「おう、おかえり」
シートの所で待っていたのは守本だけだった。
守本は紙コップ片手に、ずいぶんくつろいで桜を眺めていた。
「あれ? 朝比奈と百瀬は?」
守本の隣に座りながら咲良が聞けば、守本は「んー」とジュースを一口飲んでから答えた。
「屋台見に行った」
「あ、そう。会わなかったな」
「そりゃこの人混みだしな」
自分の紙コップの中に桜の花びらが入っていたので、新しいものと取り換える。百瀬も同様だったようだ。
「お前は行かなくてよかったのか、菜々世」
「人混みは苦手だ。ゆっくり桜を見るだけで十分だよ」
「チューリップとか咲いてたぞ」
「あー、なんか入り口のとこに書いてあったもんな」
え、そうなのか。気づかなかった。
のんびりとしばらく待っていたら、朝比奈と百瀬が戦利品片手に戻ってきた。
「たっだいまー。見て見て、これ、射的でゲットした」
そう言って百瀬が掲げるのは、デフォルメされたまん丸い狸のぬいぐるみだった。
「なんかよさげじゃない?」
「あはは、かわいいね」
観月は「僕もやりたかったなー、射的」と続けて、俺の方をちらっと見た。
「なんだ」
「いや、別に」
「やればよかったのに。そんじゃこれはお前にやろう」
と、朝比奈が観月に渡したのはポケットティッシュだった。
「なにこれ」
「残念賞」
「こいつ全然当たんなくてさー。屋台の人が同情するぐらいノーコン」
ケラケラと笑う百瀬の頭を朝比奈が軽く小突いた。
「なー。早くお菓子開けようぜー」
と声をかけるのは咲良だ。
全員がそろったところで、大人買いしたという駄菓子を開封した。真っ白な無地のビニール袋に詰まったお菓子は、否応にもテンション上がる。
糸付きの飴は箱買いだし、スルメとかの珍味が串にささったやつも容器ごと買ってきている。小分けにされたラーメンスナック、グミ数種、チューイングキャンディにフルーツ味の餅。なんかこれで駄菓子屋開けるんじゃなかろうか。
「すげー、スルメめっちゃあるー!」
と、咲良が容器を手に取る。
「こんなに食うか?」
「ま、余れば各々で持って帰れば良し」
守本はそう言って自分の持って来ていたバッグから食品オッケーのビニール袋を取り出した。なんとまあ準備がいいことで。
「そんじゃ、遠慮なく。いただきます」
まず食いたいのはスルメ。口ん中が甘くてしょうがなかったんだ。まあ、その余韻を楽しむのもいいんだけど、塩辛いの食いたい。
濃いイカゲソの味。到底おやつとはいえそうにないお味ではあるが、うまい。ぶちっとかみ切ると歯が気持ちいい。
「こっちなに? 辛い?」
百瀬が確認するのは平たい短冊のようなものにたれとごまがまぶされ、串にささったものだった。
「辛くない。甘め」
それをかじる守本はなんだか同い年に見えないというかなんというか。
なるほど、これはホタテの貝柱をどうにかしたものだな。甘辛く、ゴマの風味もいい。
さて、今度は甘いものが欲しくなってくるというものだ。何にしようかな。ああ、これいいな。フルーツ餅。
フルーツといいながら、ソーダやコーラ味もある。
サクランボはちょっと梅っぽい。俺は青リンゴが一番好きだな。なんとなく爽やかだ。ソーダは甘く、コーラはちょっと濃い。表面は少しかたく、もちもちした食感がいい。いくつか楊枝に刺してまとめて食うのも楽しいな。
チューイングキャンディはぶどう味を。うーん、香料らしいぶどう味。いいね。
「クリームソーダ味のグミ? ……うわ、あっま!」
「ははは、だろうな。歯が溶けそうだろ」
「菜々世お前、知ってたなら言えよー。一口で食っちまった。うーわ、甘い……」
と、咲良は急いでスルメをかじる。
「クリームソーダとスルメ……変な味」
「やっぱこういうグミって、コーラが外れないよねー」
「え? ソーダの方がうまいだろ?」
「うそ」
百瀬と観月がやいのやいの言っている横で、朝比奈がうきうきとした様子でひも付き飴の箱を眺めている。
「気に入ったのか、それ」
そう聞けば朝比奈はパッとこちらに顔を向け、そして少しきまり悪そうに視線をそらして「まあ、うん」とつぶやいた。
「開けるか?」
その問いに朝比奈は分かりやすく表情を明るくして頷いた。
「よっしゃ」
「あ、なになに。開けるのか?」
どうやら強烈な甘さとスルメの総攻撃から復活した咲良が、嬉々としてこちらにやってくる。
「ズルはなしだぜ。ちゃんと紐を引っ張れよ。飴の方から取るなよー」
「なんだそのこだわりは……」
とりあえず一人ずつ順番にひいていく。案外、当たりは出ないものだなあ。
さて、どれにしようか。まあどれが当たってもうれしいわけだけど、どうせなら大当たりを引きたい。
「じゃ、これ」
「さーて、どうだ……あ、イチゴ」
小さい方のイチゴか。ま、いいけど。
これだけはちゃんとイチゴの形してるんだよなあ。ちゃんと、といっても小さな三角錐なんだが。
砂糖の味とイチゴ香料のわざとらしいイチゴ味。でも、それがいい。
着色料が入ってるから舌が赤くなるんだよな。表面にはザラメもついてるし、甘くておいしい。紐ごと口の中で舐めるのは妙な感じだ。
「当たり出なかったなー」
最後に引いた咲良もイチゴのようだ。みんな同じ味だった、というわけか。
「ま、もう何回かやるだろ」
「無理して食わなくていいんだからな?」
と、守本は言うが、咲良は「食える食える!」と調子がいい。
小さいのも食いやすくていいんだけどな。
次は当たりを引きたいところだが、いったん休憩したい。お茶をちびちび飲みながら、桜を眺めるとしようかな。
「ごちそうさまでした」
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