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日常
第二百六十六話 ナポリタン
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「はー、重かった!」
「おーう。お疲れ」
帰り着くや否や、咲良は玄関に座り込んだ。
「おい」
「疲れたんだよぉ。ちょっとぐらい、いいだろ?」
「片付け、準備、昼飯」
「むぅん……」
がさっと袋を抱えて居間に向かえば、その後ろでのそのそと咲良が動く気配がした。
「わふっ」
「ただいま、うめず」
「お前のご主人は人使いが荒いなあ」
残っていた荷物を持ってついてきた咲良がうめずに話しかける。
「やかましいわ」
「冗談だって」
さて、今日は何を準備するかなあ。
からあげと豚の下味をつけて、ポテサラは作っておくとしよう。で、エビフライも入れるから、それの下処理。冷凍でもよかったけど、えびがせっかく安かったからな。
あとのおかずは明日の朝準備しなきゃいけない。何とかなるだろ。咲良もいるし。
「めっちゃ買ったなー」
買った材料を眺めながら、咲良が笑った。
「まあ、明日にはほとんどなくなる」
「な。すげーね。食いきれるかな?」
「俺は足りるか心配だ」
なにせ人数が多いからなあ。瞬く間になくなってしまうんじゃないかとも思うが、果たしてどうなることやら。
「あ、鶏と豚くれ。それとえびも」
「りょうかーい」
さて、咲良には何をしてもらうか。
「お前、えびの下処理は分かるか」
「やったことないけど教えてもらったら頑張る」
「よし」
じゃあ、やってもらうか。
「ほれ、ボウル。これにえび入れて、洗いながら殻むいてくれ」
「よしきた、任せろ」
意気揚々と腕まくりをし、咲良はボウルを受け取った。
こっちは肉の味付けをする。鶏肉はいつも通り、白だし、醤油、酒、にんにく、それに、レモン汁。
「レモン汁、今なんだ」
「ん? ああ、そっちの方がさっぱりするんだってさ」
「へえ」
豚の方はばあちゃんからもらったにんにく醤油を。にんにくと醤油、という味付けとはちょっと味わいが変わっていいんだよなあ。
「さて、そっちはどうだ」
「あとちょっと。むけたらどうすんの?」
「背ワタを取ってもらう。包丁でもいいけど……お前、危ないし。つまようじで」
「危ないってなんだよ。まあ、そうだけどさあ」
えびは下処理が結構大変だ。しかし、咲良は楽しそうにやっている。まあ背ワタを取るのは俺も嫌いじゃない。きれいに取れると気持ちがいいものである。
「おおー、結構取れる」
「な」
こっちはこっちでもう一つ。ポテサラを作る。
切り分けたジャガイモを茹でている間に、半月切りにしたキュウリの塩もみをして水気をしっかり切っておく。それとハムを細かく切って、玉ねぎは薄くスライス。
うーん、玉ねぎ余るなあ。そういや中途半端な野菜とかいくつか冷蔵庫にあったような。
あとでなんか使うとしよう。ジャガイモがいい感じに湯だったので、ポテサラづくりが優先だ。
たっぷりのマヨネーズを加えてなじませたら、キュウリ、ハム、玉ねぎを入れてさらに混ぜる。粗熱を取るためにしばらく外に置いておくとしよう。
「なー、背ワタ取ったー」
「おう。お疲れ」
なんだ、ずいぶん器用だな。もうちょっとボロボロになるかとも思ったが、こいつ、ほんとやればできるんだなあ。
それらをすべて伸ばしてもらう。切れ込みを入れてもいいが、包丁を使わせるのは不安なので手で。
「そしたら、臭み取るためにちょっと酒につけるぞ。少ししたら洗い流してくれ」
「酒使うんだな」
「少量だし、飛ぶし。ほれ、酒」
「はーい」
さて、それにしてもそろそろ……
「腹減ったあー」
えびをもみながら咲良が言った。だろうな、俺も腹減った。
「何でもいいか?」
「おう。任せた!」
それなら、余った玉ねぎ、ピーマン、ベーコンでナポリタンを作ろう。ケチャップは買い置きがあるからたっぷり使えるし。
麺を茹でながらソースの準備をする。
フライパンでベーコンと野菜を炒め、そこにケチャップを投入したらしっかり酸味を飛ばすためによく炒める。そこにバターを入れ、溶かしてなじませる。
麺が茹だったら、ソースに絡める。すでに茹でておいた麺が好みではあるが、茹でたては茹でたてでおいしいので良しである。
「え、何作ってんの?」
えびを洗い、追加で指示しておいたえびの水気を切るという作業を丁寧にやりながら咲良が聞いてくる。
「ナポリタン」
「おーいいねえ」
「今日はそれに……」
別に焼いた目玉焼きをのせる。うん、いい見た目だ。
「さ、食うぞー」
「こっちも終わった」
エビとポテサラは冷蔵庫にしまい、粉チーズとタバスコを持ってテーブルにつく。
「いただきます」
つるんとした見た目の麺をフォークで巻き、口に含む。
甘いケチャップの味わいとベーコンから染み出したうま味がいい感じだ。酸味もちゃんと飛んでいて、麺もモチモチだ。
それにしたって、バターのコクがいい。口にふうわりとなじむバターのうま味がたまらない。
「うまいな。あれ、ナポリタンってこんなうまいんだ」
「バターだろ、たぶん」
「はぁ~、正直バターって苦手かなって思ってたけど、こんなうまいんだな」
俺も前に同じようなことを思ったのだが、それは黙っておく。
いい感じに半熟の目玉焼きを割る。まぶしい黄色と、鮮やかなケチャップの赤のコントラストにワクワクする。
黄身のまろやかさが加わって食べ応えが増した。白身にもソースをしっかりつけて食う。淡白な白身とコク深いソースはよく合う。
玉ねぎはしっかり火が通って甘い。ナポリタンで一番好きな具材、ピーマンはほろ苦く、歯ごたえもいい。
これらを麺と一緒に食う。うん、やっぱ麺あってのナポリタンだな。
「今日の仕込みはこれだけ?」
「ああ。あとは明日の朝準備しないと」
「早起きだなー。起きれっかな?」
「いざとなればうめずが起こしに来てくれる」
そう言えばソファでくつろいでいたうめずが「わふっ」と返事をした。
明日は一緒に行けないから、うめずとはまた別に散歩がてら、花見をしよう。
「じゃ、昼から何すっかな」
「晩飯何食いたいか考えていてくれ」
二人分の飯を作るのは慣れていないが、考えながら作るのは楽しい。
明日の朝は、いつもよりずっと早起きして準備しないといけないだろうから、力がつく飯にしたいものだな。
「ごちそうさまでした」
「おーう。お疲れ」
帰り着くや否や、咲良は玄関に座り込んだ。
「おい」
「疲れたんだよぉ。ちょっとぐらい、いいだろ?」
「片付け、準備、昼飯」
「むぅん……」
がさっと袋を抱えて居間に向かえば、その後ろでのそのそと咲良が動く気配がした。
「わふっ」
「ただいま、うめず」
「お前のご主人は人使いが荒いなあ」
残っていた荷物を持ってついてきた咲良がうめずに話しかける。
「やかましいわ」
「冗談だって」
さて、今日は何を準備するかなあ。
からあげと豚の下味をつけて、ポテサラは作っておくとしよう。で、エビフライも入れるから、それの下処理。冷凍でもよかったけど、えびがせっかく安かったからな。
あとのおかずは明日の朝準備しなきゃいけない。何とかなるだろ。咲良もいるし。
「めっちゃ買ったなー」
買った材料を眺めながら、咲良が笑った。
「まあ、明日にはほとんどなくなる」
「な。すげーね。食いきれるかな?」
「俺は足りるか心配だ」
なにせ人数が多いからなあ。瞬く間になくなってしまうんじゃないかとも思うが、果たしてどうなることやら。
「あ、鶏と豚くれ。それとえびも」
「りょうかーい」
さて、咲良には何をしてもらうか。
「お前、えびの下処理は分かるか」
「やったことないけど教えてもらったら頑張る」
「よし」
じゃあ、やってもらうか。
「ほれ、ボウル。これにえび入れて、洗いながら殻むいてくれ」
「よしきた、任せろ」
意気揚々と腕まくりをし、咲良はボウルを受け取った。
こっちは肉の味付けをする。鶏肉はいつも通り、白だし、醤油、酒、にんにく、それに、レモン汁。
「レモン汁、今なんだ」
「ん? ああ、そっちの方がさっぱりするんだってさ」
「へえ」
豚の方はばあちゃんからもらったにんにく醤油を。にんにくと醤油、という味付けとはちょっと味わいが変わっていいんだよなあ。
「さて、そっちはどうだ」
「あとちょっと。むけたらどうすんの?」
「背ワタを取ってもらう。包丁でもいいけど……お前、危ないし。つまようじで」
「危ないってなんだよ。まあ、そうだけどさあ」
えびは下処理が結構大変だ。しかし、咲良は楽しそうにやっている。まあ背ワタを取るのは俺も嫌いじゃない。きれいに取れると気持ちがいいものである。
「おおー、結構取れる」
「な」
こっちはこっちでもう一つ。ポテサラを作る。
切り分けたジャガイモを茹でている間に、半月切りにしたキュウリの塩もみをして水気をしっかり切っておく。それとハムを細かく切って、玉ねぎは薄くスライス。
うーん、玉ねぎ余るなあ。そういや中途半端な野菜とかいくつか冷蔵庫にあったような。
あとでなんか使うとしよう。ジャガイモがいい感じに湯だったので、ポテサラづくりが優先だ。
たっぷりのマヨネーズを加えてなじませたら、キュウリ、ハム、玉ねぎを入れてさらに混ぜる。粗熱を取るためにしばらく外に置いておくとしよう。
「なー、背ワタ取ったー」
「おう。お疲れ」
なんだ、ずいぶん器用だな。もうちょっとボロボロになるかとも思ったが、こいつ、ほんとやればできるんだなあ。
それらをすべて伸ばしてもらう。切れ込みを入れてもいいが、包丁を使わせるのは不安なので手で。
「そしたら、臭み取るためにちょっと酒につけるぞ。少ししたら洗い流してくれ」
「酒使うんだな」
「少量だし、飛ぶし。ほれ、酒」
「はーい」
さて、それにしてもそろそろ……
「腹減ったあー」
えびをもみながら咲良が言った。だろうな、俺も腹減った。
「何でもいいか?」
「おう。任せた!」
それなら、余った玉ねぎ、ピーマン、ベーコンでナポリタンを作ろう。ケチャップは買い置きがあるからたっぷり使えるし。
麺を茹でながらソースの準備をする。
フライパンでベーコンと野菜を炒め、そこにケチャップを投入したらしっかり酸味を飛ばすためによく炒める。そこにバターを入れ、溶かしてなじませる。
麺が茹だったら、ソースに絡める。すでに茹でておいた麺が好みではあるが、茹でたては茹でたてでおいしいので良しである。
「え、何作ってんの?」
えびを洗い、追加で指示しておいたえびの水気を切るという作業を丁寧にやりながら咲良が聞いてくる。
「ナポリタン」
「おーいいねえ」
「今日はそれに……」
別に焼いた目玉焼きをのせる。うん、いい見た目だ。
「さ、食うぞー」
「こっちも終わった」
エビとポテサラは冷蔵庫にしまい、粉チーズとタバスコを持ってテーブルにつく。
「いただきます」
つるんとした見た目の麺をフォークで巻き、口に含む。
甘いケチャップの味わいとベーコンから染み出したうま味がいい感じだ。酸味もちゃんと飛んでいて、麺もモチモチだ。
それにしたって、バターのコクがいい。口にふうわりとなじむバターのうま味がたまらない。
「うまいな。あれ、ナポリタンってこんなうまいんだ」
「バターだろ、たぶん」
「はぁ~、正直バターって苦手かなって思ってたけど、こんなうまいんだな」
俺も前に同じようなことを思ったのだが、それは黙っておく。
いい感じに半熟の目玉焼きを割る。まぶしい黄色と、鮮やかなケチャップの赤のコントラストにワクワクする。
黄身のまろやかさが加わって食べ応えが増した。白身にもソースをしっかりつけて食う。淡白な白身とコク深いソースはよく合う。
玉ねぎはしっかり火が通って甘い。ナポリタンで一番好きな具材、ピーマンはほろ苦く、歯ごたえもいい。
これらを麺と一緒に食う。うん、やっぱ麺あってのナポリタンだな。
「今日の仕込みはこれだけ?」
「ああ。あとは明日の朝準備しないと」
「早起きだなー。起きれっかな?」
「いざとなればうめずが起こしに来てくれる」
そう言えばソファでくつろいでいたうめずが「わふっ」と返事をした。
明日は一緒に行けないから、うめずとはまた別に散歩がてら、花見をしよう。
「じゃ、昼から何すっかな」
「晩飯何食いたいか考えていてくれ」
二人分の飯を作るのは慣れていないが、考えながら作るのは楽しい。
明日の朝は、いつもよりずっと早起きして準備しないといけないだろうから、力がつく飯にしたいものだな。
「ごちそうさまでした」
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