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日常
第二百六十二話 アスパラ巻き
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「みんなはさあ、どんなお菓子が好き?」
昼下がりの屋上で百瀬がそう聞いてくる。
俺と咲良、そして朝比奈は視線を交わす。
「どうした急に」
そう聞いたのは朝比奈だ。百瀬は「それがさあ」と腕を組んでうなる。
「花見の時に作るお菓子に悩んでて。本読んでたらどれもうまそうでさー」
「なるほど、そういう」
お菓子か。そうだなあ。
真っ先に思いつくのはこないだ食ったばかりのプリンアラモードだ。コクのあるプリンにほろ苦いカラメル。黄桃のさわやかな甘みに白桃のとろけるうまさ。生クリームのまろやかなミルク感もいい。シロップ染み染みのスポンジは食感のアクセントになる。
添えられたイチゴジャムもいい働きするんだよなあ。キウイやマンゴーのかけらもうまいんだ。そういやプリンとはまた違う感じだけどプリンに似たのが土台になっているんだよな。あれなんだろ。うまいからいいんだけど。
「やっぱ桜餅?」
と、百瀬は腕を組む。それを聞いて咲良が「そうだなあ」と首を傾げた。
「あれってさあ、葉っぱ食うべきか否か悩むんだよなー」
「好みだよ、好み」
「桜餅なあ……」
朝比奈は少し渋っているようだった。
「あの風味、ちょっと苦手……」
「あー、そうそう。桜餅は好み分かれるもんねえ。道明寺と長命寺で二種類あるし」
「どーみょーじ? なにそれ」
「ほら、桜餅って二種類あるだろ?」
この辺でよく見るのはもち米であんこをくるんだやつだよな。そっちが道明寺だったか。長命寺は平たい餅であんこくるんだみたいな。
咲良は初耳だったようで「へーっ」と感心したように頷いた。
「二種類あるのは知ってたけど、あれ、そんな名前だったんだ」
「たまにどっちがどっちか分かんなくなるけど。うーん、でもそっか。やっぱクッキーとかの方が無難かな~」
百瀬はうなりながらジュースをすする。でかいサイズのパックジュースで、白桃フレーバーらしい。ストローさして飲んでるけど、昼休み中に飲み終わるのだろうか。
「そうだなあ……」
足を延ばし、後ろに手をついて空を見上げながら考える。
薄い水色の空には飛行機雲が一本まっすぐ伸びているだけで、あとは遮るものがないすがすがしさである。風が吹いているので少々冷えるが、日差しは暖かい。
「ケーキとかどうよ」
咲良の提案に百瀬は「何ケーキ?」と聞き返す。
「あの、でっかい、誕生日とかの」
「ホールケーキかあ。いや、作るのは別にいいけど、うーん」
花見にホールケーキ。ずいぶんとまあ浮かれた景色になりそうだ。
「二段とかにできねえの?」
「持ってくるの大変でしょ」
「そっかー。それじゃあ、丸太のやつ」
「ブッシュドノエル? それクリスマスだし」
花見っつったら、俺としては洋菓子より和菓子のイメージなんだよなあ。それこそ桜餅とか三色団子とか。
「まんじゅう」
口をついて出た言葉に三人の視線が集まったのが分かった。
視線を空から三人に戻す。光の変化に視界が少し暗転する。瞬きで慣らしながら言葉を次いだ。
「黒糖饅頭とかうまいよな」
「あ、分かる。おいしいよねー」
饅頭いいかも、と百瀬が笑ったのがぼんやりと見えた。
「でも人数分用意するなら場所がなあ」
「俺の家でよければ貸すぞ」
「あホント? 貴志の家広いから助かる~」
そのやり取りを聞いていた咲良が、ハッとひらめいたようにこちらを向いた。
「なあ春都」
「どうした」
「俺もお前の家で弁当作り手伝うぞ」
うん、なんとなくそんな気がした。
「別に気ぃ使わなくていいんだぞ」
「いや、なんか楽しそう」
「でも前日から準備するもんとかもあるし……」
「泊まる」
「泊まる?」
そうきたかあ。えぇ、泊まるって、そんな軽い気持ちでするもんなのか? 俺がおかしいのか?
「……一日考えさせてくれ」
すぐに断らなかったのをどう解釈したのか、咲良ははじける笑顔で「前向きな検討、よろしく頼むぜ!」と背中を叩いてきたのだった。
いったん咲良の件は保留として、晩飯だ。
今日はもう準備をしてある。立派なアスパラガスを見つけたので、豚肉で巻いておいたのだ。
太いやつは半分にして、細いのは二本まとめて巻いている。
これを油をひいたフライパンで焼いていく。味付けは塩コショウ。
まっすぐには入らずアスパラがちょっと曲がるが、まあいい。豚肉がはがれないように気を付けながら焼いて、しっかり火が通ったら完成だ。
「いただきます」
まずはそのまま一本巻いたやつ。上から食うか。
シャキッといい食感に青い香り。豚肉はジューシーで、うま味がアスパラにも移っている。塩コショウだけのシンプルな味付けがぴったりだ。下にいくにつれてみずみずしさが増し、口いっぱいにさわやかなうまさが広がる。
半分に切ったやつは、なんだかみずみずしさが増している気がする。シャキッジャキッと小気味いい音がする。甘みも強く、あっという間に食べてしまう。
二本まとめて巻いたやつはなんだか贅沢な気分である。こちらは細めなので、シャキシャキというよりどちらかといえばゴリッとしっかり目の食感だ。ほくほくともいえる。青みも一番強いかもしれない。
これは充分おかずになるなあ。切って炒めたのもいいけど、巻いたのは肉のうま味もダイレクトに伝わってくる気がする。
巻いてるからバランスよく味わえるんだろうな。作るのはちょっと大変だけど、うまい。
またうまそうなアスパラあったら作ってみよう。フライも気になってんだよなあ。
それにしても、たくさんあったはずなのに気づけばもう食べ終わりそうだ。思わずサクサク食べてしまった。
うーん、今度は量も考えないとなあ。
「ごちそうさまでした」
昼下がりの屋上で百瀬がそう聞いてくる。
俺と咲良、そして朝比奈は視線を交わす。
「どうした急に」
そう聞いたのは朝比奈だ。百瀬は「それがさあ」と腕を組んでうなる。
「花見の時に作るお菓子に悩んでて。本読んでたらどれもうまそうでさー」
「なるほど、そういう」
お菓子か。そうだなあ。
真っ先に思いつくのはこないだ食ったばかりのプリンアラモードだ。コクのあるプリンにほろ苦いカラメル。黄桃のさわやかな甘みに白桃のとろけるうまさ。生クリームのまろやかなミルク感もいい。シロップ染み染みのスポンジは食感のアクセントになる。
添えられたイチゴジャムもいい働きするんだよなあ。キウイやマンゴーのかけらもうまいんだ。そういやプリンとはまた違う感じだけどプリンに似たのが土台になっているんだよな。あれなんだろ。うまいからいいんだけど。
「やっぱ桜餅?」
と、百瀬は腕を組む。それを聞いて咲良が「そうだなあ」と首を傾げた。
「あれってさあ、葉っぱ食うべきか否か悩むんだよなー」
「好みだよ、好み」
「桜餅なあ……」
朝比奈は少し渋っているようだった。
「あの風味、ちょっと苦手……」
「あー、そうそう。桜餅は好み分かれるもんねえ。道明寺と長命寺で二種類あるし」
「どーみょーじ? なにそれ」
「ほら、桜餅って二種類あるだろ?」
この辺でよく見るのはもち米であんこをくるんだやつだよな。そっちが道明寺だったか。長命寺は平たい餅であんこくるんだみたいな。
咲良は初耳だったようで「へーっ」と感心したように頷いた。
「二種類あるのは知ってたけど、あれ、そんな名前だったんだ」
「たまにどっちがどっちか分かんなくなるけど。うーん、でもそっか。やっぱクッキーとかの方が無難かな~」
百瀬はうなりながらジュースをすする。でかいサイズのパックジュースで、白桃フレーバーらしい。ストローさして飲んでるけど、昼休み中に飲み終わるのだろうか。
「そうだなあ……」
足を延ばし、後ろに手をついて空を見上げながら考える。
薄い水色の空には飛行機雲が一本まっすぐ伸びているだけで、あとは遮るものがないすがすがしさである。風が吹いているので少々冷えるが、日差しは暖かい。
「ケーキとかどうよ」
咲良の提案に百瀬は「何ケーキ?」と聞き返す。
「あの、でっかい、誕生日とかの」
「ホールケーキかあ。いや、作るのは別にいいけど、うーん」
花見にホールケーキ。ずいぶんとまあ浮かれた景色になりそうだ。
「二段とかにできねえの?」
「持ってくるの大変でしょ」
「そっかー。それじゃあ、丸太のやつ」
「ブッシュドノエル? それクリスマスだし」
花見っつったら、俺としては洋菓子より和菓子のイメージなんだよなあ。それこそ桜餅とか三色団子とか。
「まんじゅう」
口をついて出た言葉に三人の視線が集まったのが分かった。
視線を空から三人に戻す。光の変化に視界が少し暗転する。瞬きで慣らしながら言葉を次いだ。
「黒糖饅頭とかうまいよな」
「あ、分かる。おいしいよねー」
饅頭いいかも、と百瀬が笑ったのがぼんやりと見えた。
「でも人数分用意するなら場所がなあ」
「俺の家でよければ貸すぞ」
「あホント? 貴志の家広いから助かる~」
そのやり取りを聞いていた咲良が、ハッとひらめいたようにこちらを向いた。
「なあ春都」
「どうした」
「俺もお前の家で弁当作り手伝うぞ」
うん、なんとなくそんな気がした。
「別に気ぃ使わなくていいんだぞ」
「いや、なんか楽しそう」
「でも前日から準備するもんとかもあるし……」
「泊まる」
「泊まる?」
そうきたかあ。えぇ、泊まるって、そんな軽い気持ちでするもんなのか? 俺がおかしいのか?
「……一日考えさせてくれ」
すぐに断らなかったのをどう解釈したのか、咲良ははじける笑顔で「前向きな検討、よろしく頼むぜ!」と背中を叩いてきたのだった。
いったん咲良の件は保留として、晩飯だ。
今日はもう準備をしてある。立派なアスパラガスを見つけたので、豚肉で巻いておいたのだ。
太いやつは半分にして、細いのは二本まとめて巻いている。
これを油をひいたフライパンで焼いていく。味付けは塩コショウ。
まっすぐには入らずアスパラがちょっと曲がるが、まあいい。豚肉がはがれないように気を付けながら焼いて、しっかり火が通ったら完成だ。
「いただきます」
まずはそのまま一本巻いたやつ。上から食うか。
シャキッといい食感に青い香り。豚肉はジューシーで、うま味がアスパラにも移っている。塩コショウだけのシンプルな味付けがぴったりだ。下にいくにつれてみずみずしさが増し、口いっぱいにさわやかなうまさが広がる。
半分に切ったやつは、なんだかみずみずしさが増している気がする。シャキッジャキッと小気味いい音がする。甘みも強く、あっという間に食べてしまう。
二本まとめて巻いたやつはなんだか贅沢な気分である。こちらは細めなので、シャキシャキというよりどちらかといえばゴリッとしっかり目の食感だ。ほくほくともいえる。青みも一番強いかもしれない。
これは充分おかずになるなあ。切って炒めたのもいいけど、巻いたのは肉のうま味もダイレクトに伝わってくる気がする。
巻いてるからバランスよく味わえるんだろうな。作るのはちょっと大変だけど、うまい。
またうまそうなアスパラあったら作ってみよう。フライも気になってんだよなあ。
それにしても、たくさんあったはずなのに気づけばもう食べ終わりそうだ。思わずサクサク食べてしまった。
うーん、今度は量も考えないとなあ。
「ごちそうさまでした」
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