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日常
第二百六十一話 ガーリックトースト
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また急に寒くなった。
「なんだっけ、三寒四温?」
ひんやりと冷たいガラスに触れ、外を眺める。空はどんよりと重く、今にも雨が降りそうである。
「ああ、違う。春に三日の晴れ無し、か」
しんしんと伝わる冷気に身震いし、ソファに座ってブランケットを膝にかける。
こんなことならこたつまだ片付けるんじゃなかったなあ。いや、こたつは暑すぎるだろうか。
しかしこんなに寒いと動くのが億劫だ。昨日のうちに買い物行っといてよかった。
「はー、冷える冷える」
「わう」
「な、お前も寒いよな」
うめずはプルプルと首を振ると、軽やかにソファに飛び乗った。そしてブランケットにもぐりこむようにして俺の足にすり寄ってくる。
「お、お前あったかい。あったかいぞ。もうちょいこっち来い」
「わふっ」
少しブランケットをめくって、ひざの上にうめずを誘う。ぽふっと伏せをしたうめずはちょっと重いがいい湯たんぽだ。
ゆったりと背をなでる。つるっとした毛並みと温かい背中。なんだか落ち着く。
「なんか眠くなってきたなあ」
少しうとうとし始めた頃、スマホの通知音が鳴った。なんだ、電話か。
「誰だ……咲良か」
その音にびっくりしたうめずが上体を起こして顔を近づけてきたので、落ち着かせるように撫でてやるとまた元の体勢に戻った。
「もしもし?」
『あれー、春都。もしかして寝てた?』
「なんで」
『眠そうな声してる』
「眠くなってただけだ。それより何だ」
そうそう、と電話の向こうで咲良が楽しげに言う。
『花見の場所なんだけどさ、良さげなところいくつか決めたから春都の意見も聞きたいと思って』
なるほど、そういうことか。
「どこ?」
『えっとなー、まあ、あとで写真とかは送るけどー』
咲良が挙げた場所の名前は、どこかで聞いたことがあるような公園だった。
「それどこなん?」
『街までは行かないぐらい。レールバスで行ける』
「あー、それならいいんじゃないか」
『な。みんなで一緒に行けるなーと思って』
道中も楽しみだからさあ、と本当に咲良は楽しそうだ。
「まだ日程も決まってないだろうに」
『こういう時間が楽しいんだよ』
「まあ、分かるけど」
『晴れるといいよなー。そろそろ咲き始める頃かな』
その言葉に昨日の帰り道を思い出す。
「うちの近くの小学校前にある桜は咲いてたぞ。日当たりがいいとこだけ、いくつか」
『あ、ほんとに? うわー、すぐ満開になるかなー』
「いや、これからまた寒くなるらしいし、長いこと楽しめるんじゃないか」
そう言えば咲良は『それはいいな!』と嬉しそうに笑った。
『春都の飯も楽しみだな』
「手伝えよ」
『分かってるって。誰が何持ってくるか決めとかないと』
「お前は何持ってくんの」
『んー……』
しばらくの沈黙の後、咲良は溌溂と言い放った。
『シート!』
「……シート?」
『そ、下にひくシート。絶対いるっしょ?』
お菓子かジュースかどちらかを言うと思ったが、まさかのシート。思わず黙っているとうめずがスンスンと首元に鼻を近づけてくる。
『あ、お前。こいつ自分だけ金かけないつもりかって思ったろ?』
咲良のいたずらっぽい声に、ハッと我に返る。
「いや、そうじゃなくて。お菓子なりジュースなり持ってくるかと……」
『冗談だよ。そりゃお菓子とかも持ってくるけどさ、大人数が座れるシートって案外ないだろ? うち、ブルーシートいっぱいあるし、持ってくるよ』
「ああ、確かにそうか」
うちにあるのはせいぜい三人が座れる程度のシートしかない。
「てかその公園、シートとか敷いていいのか」
『ふっふっふ。そのあたりも調査済みだぜ?』
と、得意げに笑う咲良。ずいぶん気合入ってんな。
花見かあ。そういや、家族以外とするのは初めてだなあ。
咲良と通話を切った後、なんだか小腹が空いていることに気が付く。
昼飯にはまだ早いが何か食いたい。
「何にするかなー……」
うめずは膝の上から移動して、自分のベッドに丸まっていた。
台所の棚を眺める。あるのは食パンと、レトルト食品。うーん、あ、そうだ。
冷蔵庫からバターを取り出し、小さめの耐熱皿に一かけのせて少し加熱する。食パンは……一枚でいいか。
少し溶けたらパンに塗って、その上にチューブのニンニクを塗る。あんまり塗り過ぎないようにしないと。
そしたらトースターで焼く。ガーリックトーストだ。
「フランスパンで作りたいところだが……」
まあいい。食パンは食パンのうまさがある。
焦げすぎないように焼いたら完成だ。
「あちち……いただきます」
四等分に切ったので食べやすい。
あー、香ばしい匂い。にんにくは適量だとホントいい働きをする。
ジュワッとバターが染みた生地、香るにんにくは程よく塩気をはらんでいる。もっちもっちと噛めば噛むほどうま味が染み出す。
耳もカリカリだ。バターがついてない部分ではあるが、それがいい。濃すぎず、物足りなさ過ぎず。パンのうま味も分かっていい。
これに合わせるのは牛乳。
何気に合うんだ、これが。にんにくの風味と牛乳のまろやかさ。まあ、グラタンと思えばそうか。
ちょっと足りないかな、ぐらいの量がちょうどいい。
しかし、そろそろ本格的に花見メニュー考えないとなあ。何がいいだろう。いっそみんなのリクエスト聞いた方がいいか。
すっかり食べ終わって腹が落ち着いたころ、自分もなかなかに浮かれているということに気付く。
まあ、仕方ない。春だもんな。
「ごちそうさまでした」
「なんだっけ、三寒四温?」
ひんやりと冷たいガラスに触れ、外を眺める。空はどんよりと重く、今にも雨が降りそうである。
「ああ、違う。春に三日の晴れ無し、か」
しんしんと伝わる冷気に身震いし、ソファに座ってブランケットを膝にかける。
こんなことならこたつまだ片付けるんじゃなかったなあ。いや、こたつは暑すぎるだろうか。
しかしこんなに寒いと動くのが億劫だ。昨日のうちに買い物行っといてよかった。
「はー、冷える冷える」
「わう」
「な、お前も寒いよな」
うめずはプルプルと首を振ると、軽やかにソファに飛び乗った。そしてブランケットにもぐりこむようにして俺の足にすり寄ってくる。
「お、お前あったかい。あったかいぞ。もうちょいこっち来い」
「わふっ」
少しブランケットをめくって、ひざの上にうめずを誘う。ぽふっと伏せをしたうめずはちょっと重いがいい湯たんぽだ。
ゆったりと背をなでる。つるっとした毛並みと温かい背中。なんだか落ち着く。
「なんか眠くなってきたなあ」
少しうとうとし始めた頃、スマホの通知音が鳴った。なんだ、電話か。
「誰だ……咲良か」
その音にびっくりしたうめずが上体を起こして顔を近づけてきたので、落ち着かせるように撫でてやるとまた元の体勢に戻った。
「もしもし?」
『あれー、春都。もしかして寝てた?』
「なんで」
『眠そうな声してる』
「眠くなってただけだ。それより何だ」
そうそう、と電話の向こうで咲良が楽しげに言う。
『花見の場所なんだけどさ、良さげなところいくつか決めたから春都の意見も聞きたいと思って』
なるほど、そういうことか。
「どこ?」
『えっとなー、まあ、あとで写真とかは送るけどー』
咲良が挙げた場所の名前は、どこかで聞いたことがあるような公園だった。
「それどこなん?」
『街までは行かないぐらい。レールバスで行ける』
「あー、それならいいんじゃないか」
『な。みんなで一緒に行けるなーと思って』
道中も楽しみだからさあ、と本当に咲良は楽しそうだ。
「まだ日程も決まってないだろうに」
『こういう時間が楽しいんだよ』
「まあ、分かるけど」
『晴れるといいよなー。そろそろ咲き始める頃かな』
その言葉に昨日の帰り道を思い出す。
「うちの近くの小学校前にある桜は咲いてたぞ。日当たりがいいとこだけ、いくつか」
『あ、ほんとに? うわー、すぐ満開になるかなー』
「いや、これからまた寒くなるらしいし、長いこと楽しめるんじゃないか」
そう言えば咲良は『それはいいな!』と嬉しそうに笑った。
『春都の飯も楽しみだな』
「手伝えよ」
『分かってるって。誰が何持ってくるか決めとかないと』
「お前は何持ってくんの」
『んー……』
しばらくの沈黙の後、咲良は溌溂と言い放った。
『シート!』
「……シート?」
『そ、下にひくシート。絶対いるっしょ?』
お菓子かジュースかどちらかを言うと思ったが、まさかのシート。思わず黙っているとうめずがスンスンと首元に鼻を近づけてくる。
『あ、お前。こいつ自分だけ金かけないつもりかって思ったろ?』
咲良のいたずらっぽい声に、ハッと我に返る。
「いや、そうじゃなくて。お菓子なりジュースなり持ってくるかと……」
『冗談だよ。そりゃお菓子とかも持ってくるけどさ、大人数が座れるシートって案外ないだろ? うち、ブルーシートいっぱいあるし、持ってくるよ』
「ああ、確かにそうか」
うちにあるのはせいぜい三人が座れる程度のシートしかない。
「てかその公園、シートとか敷いていいのか」
『ふっふっふ。そのあたりも調査済みだぜ?』
と、得意げに笑う咲良。ずいぶん気合入ってんな。
花見かあ。そういや、家族以外とするのは初めてだなあ。
咲良と通話を切った後、なんだか小腹が空いていることに気が付く。
昼飯にはまだ早いが何か食いたい。
「何にするかなー……」
うめずは膝の上から移動して、自分のベッドに丸まっていた。
台所の棚を眺める。あるのは食パンと、レトルト食品。うーん、あ、そうだ。
冷蔵庫からバターを取り出し、小さめの耐熱皿に一かけのせて少し加熱する。食パンは……一枚でいいか。
少し溶けたらパンに塗って、その上にチューブのニンニクを塗る。あんまり塗り過ぎないようにしないと。
そしたらトースターで焼く。ガーリックトーストだ。
「フランスパンで作りたいところだが……」
まあいい。食パンは食パンのうまさがある。
焦げすぎないように焼いたら完成だ。
「あちち……いただきます」
四等分に切ったので食べやすい。
あー、香ばしい匂い。にんにくは適量だとホントいい働きをする。
ジュワッとバターが染みた生地、香るにんにくは程よく塩気をはらんでいる。もっちもっちと噛めば噛むほどうま味が染み出す。
耳もカリカリだ。バターがついてない部分ではあるが、それがいい。濃すぎず、物足りなさ過ぎず。パンのうま味も分かっていい。
これに合わせるのは牛乳。
何気に合うんだ、これが。にんにくの風味と牛乳のまろやかさ。まあ、グラタンと思えばそうか。
ちょっと足りないかな、ぐらいの量がちょうどいい。
しかし、そろそろ本格的に花見メニュー考えないとなあ。何がいいだろう。いっそみんなのリクエスト聞いた方がいいか。
すっかり食べ終わって腹が落ち着いたころ、自分もなかなかに浮かれているということに気付く。
まあ、仕方ない。春だもんな。
「ごちそうさまでした」
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