一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第二百四十八話 巻物

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 お昼から何もやることがない、というのは贅沢なことかもしれない。

 何もせずのんびり寝こけても漫画を読みふけっても文句を言われないし、準備も終わっているから明日の学校も困らない。ほんと、何してもいいんだよな。

 だったら何か充実したと思えることがしたいものだ。

「なにしよっかなー」

 ソファにゆったり座りながら考える。天気はいまいちだし、外には出たくないなあ。家でできること……あ、そうだ。明日の弁当の準備でもするか。

 前の日のうちに準備しとくと、朝が楽なんだ。まあ、普段は帰りが遅いしそんな暇ないからな。こういう日だからこそできるというものだ。

「何があったっけ」

 冷蔵庫にはあらかたのものがそろっている。野菜室も充実しているな。

「そうだ」

 普段できないことをするなら、あれを作るのがいいんじゃなかろうか。巻物系のおかず。巻物系は巻くというシンプルな作業だけで作れるものだが、普段はこれが何気に手間となって作らないのだ。こういうゆっくりあるときじゃないとなあ。

 使うのはベーコン、豚肉、野菜各種にチーズ。

 さて、まずはベーコン巻きから作ろうか。巻くのはチーズ、プチトマト、ヤングコーンとしよう。

 チーズはプロセスチーズ。巻きやすい大きさに切る。プチトマトは洗ってへたを取る。ヤングコーンはすでに茹でてあるので、水を切って皿に出しておく。

 チーズは結構巻きやすいかもしれない。ベーコンにうまいこと引っ付いてくれるからクルクルと……おっと、力が入り過ぎた。ちょっとつぶれたがまあ問題ないだろう。

 プチトマトが結構滑るんだよなあ。うまいんだけど。

 ヤングコーンはやりやすい。滑らないし、ころころやればうまいこと巻ける。

 豚肉の方には何を巻こう。ししとうやオクラは当然として、プチトマトはベーコン巻きにしたけど余ってるし、豚でも巻くか。あ、えのき。キノコ巻いてもうまいんだ。

 ししとうとオクラはへたを取って洗い、えのきは石づきを切り取って洗う。

 豚肉はベーコンよりしっとりしている気がする。生々しい触感はベーコンとは大違いだ。同じ豚肉でも加工次第でこうも変わるものなんだなあと実感する。

 ししとうもオクラも巻きやすい。えのきはばらばらにならないように気を付けながら巻く。オクラとえのき巻いたのは焼いてから切ろう。えのきとかのどつまるもんな。

 餅巻いてもいいけどなあ。うちの餅は巻物に向いていない。

 なんか準備してたら楽しくなってきた。他になんか巻くものねえかなあ。

「うーん……」

 とりあえず作った分はラップかけて冷蔵庫に入れておく。

 あ、そういやクリーム買ってたんだっけ。絞るだけのやつ。これ買っとくと便利なんだよ。巻くタイプのサンドイッチ作るとき、デザート系に活躍する。

 小腹空いたし、作るか。

 確か缶詰があったはず。ミックスフルーツ。

 みかんにパイナップル、白桃、黄桃。みかん多めだな。サクランボは入っていないタイプだ。あっちはちょっとお高い。

 サンドイッチ用のパンをアルミホイルの上にのせ、まずはクリームを絞る。そしたらその上にフルーツをのせていくのだが、ここは重要な作業だ。できればバランスよく並べなければ。

 お店に出すとかいうわけじゃないけど、できればベストな状態で食いたいし。

 たっぷりのせたらさらにクリームを絞り、もう一枚パンで包み込んで、巻く。シンプルだが難しい作業だ。

 力を入れすぎるとつぶれるし、緩くするとほどけてしまう。この力加減が難しい。

 もう一つ作れるぐらいはフルーツ、残ってんな。作っとこう。

「さて……紅茶でもいれよう」

 紅茶とフルーツサンドは合う。コーヒーでもいいんだけど、俺は紅茶派だ。朝比奈から紅茶をもらってからというもの、時々自分でも買うようになった。あんな高いのは買えないが、十分うまい。

 クリームも余ったし……なめるか。

「いただきます」

 もこもこした食感のパンにクリーム、そこからはみ出すのは甘いシロップ漬けのみかんだ。クリームとシロップの甘さ、みかんの酸味、パンのわずかな塩気。バランスがいい。

 パイナップルもみずみずしく甘い。白桃はとろけるような食感で、黄桃はしゃきっとしている。

 甘ったるい口の中に、少々渋い紅茶を流し入れる。じわあっと甘さがとろけていくのがいい。

 残った生クリームはなめる、というより飲む感じだな。絞り口から吸う。変な感じがするが、うまい。口の中に絞る感じにするの、楽しいんだよなあ。

「なんかやってるかな~」

 テレビをつけてみる。あ、韓ドラ。

 他にはバラエティとドラマの再放送、ニュース番組に教育番組、ワイドショー。ワイドショーでは芸能人のスキャンダルやらなにやらやっている。

 あんま興味ねえなあ。なんか録画してたっけ。

 DVDプレイヤーの電源をつけ録画リストを見てみる。何回も見まくって、セリフ暗記してるアニメとか、いつか見ようと思いながらいまだにNEWの文字がついた番組、予約していた番組が終わり録画予約を解除していなかったために録画された番組。

 ……いいや、いつも見てるやつにしよう。



「すげえ整然としてんな、今日の弁当」

 食堂で弁当の蓋を開けば、向かいに座った咲良が言った。今日も今日とて、かつ丼がうまそうに湯気を立てている。

「まあな」

 塩コショウでシンプルに焼いたそれらは、ずいぶんおさまりがよかった。色もなんかいい感じだ。

「いただきます」

 最初は豚肉とトマトのやつにしようか。

 焼いてしわっとなったトマトがなんだか愛おしい。豚のうま味と甘み、塩コショウ、そして噛むとはじけるトマトのさわやかさ。火が通ってやや甘くなっているが、酸味も程よく残っていていい。

 オクラ巻きはジャクッとした食感とねばねば感がたまらない。これは塩コショウに醤油を少し垂らしている。

 ベーコンとトマト。こっちはなんだか洋風だ。ベーコンのうま味がトマトに染みていておいしい。これ、チーズを一緒に巻いてもよさそうだな。

「それ、朝から作ったん?」

「昨日帰って作った」

「マジ? 俺夕方近くまで昼寝してたわ」

「よく眠れるな」

 ベーコンチーズは塩気とまろやかさのバランスが最高だ。モチッと、サクッとしたチーズの食感がいい。

 白米が進む。途中で卵焼きを挟むのもいい。甘さにほっとする。

 えのき。ジャキジャキした食感、鍋の時よりもキノコらしい香りが際立つ。豚肉の脂と合うなあ。

 ヤングコーンを巻いたやつはなんだかおしゃれな感じがする。シャキッといい食感でみずみずしい。甘みとほんの少し垂らした醤油の香ばしさ、ベーコンのうま味がいい塩梅だ。

 ししとうは辛くないだろうか。まあ、焼いてるときはあまり匂いを感じなかったから大丈夫か。

 うん、大丈夫そうだ。ピーマンにも似た青さと辛みのない唐辛子っぽい風味が豚肉とよく合う。

 今度はくしに刺して焼き鳥とかかしてみようか。それなら他にも準備しよう。もも肉、砂ずり、軟骨……

 なんか、父さんと母さんがいるときにした方がいい感じのラインナップだな。

 誕生日の時は作ってもらったんだし、今度は俺が作ってみようかな。



「ごちそうさまでした」

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