一条春都の料理帖

藤里 侑

文字の大きさ
上 下
252 / 854
日常

第二百四十七話 焼きそば

しおりを挟む
「いいなーそれ、かっけー」

 今日も半日で帰れると、いそいそと帰り支度をしていたら、いつものごとくやってきた咲良がピンバッチを見て言った。どこにつけようかと考えた結果、ポケットに入れっぱなしになってしまっていた。それにさっき気付いたところである。

「ガシャポンの割にはレベル高いよなー」

「……お前今なんて言った?」

「へ? レベル高いよなーって」

「その前だ」

 咲良はきょとんと首をかしげる。

「ガシャポン?」

「それだ。ガチャポンじゃねえのか」

 そう言えば咲良は「えー?」と納得いかないというように声を上げた。

「ガシャポンだろ?」

「え、ガチャポンじゃないのか」

「えー? ……ちょっと待て」

 咲良はそそくさと教室を出て行くと、間もなくしてある二人を連れてやってきた。朝比奈と百瀬だ。

「えっ、なに井上。急に何」

「また居残りか……?」

 百瀬は本気で訳が分からないという表情をしているし、朝比奈はうんざりした表情をしている。

「お前らさ、これなんだけど」

 咲良は俺の手からピンバッチを取り上げると、先ほどまでの会話を繰り返した。

「これ、どこにあったんだ? 欲しかったけど見つけられなくてな」

 朝比奈はピンバッジを丁寧に眺めながら聞いてきた。

「プレジャスの二階」

「へー、まさかあそこに」

「結構穴場だぞ」

「いや、そこじゃなくて」

 咲良が話を戻す。

「お前ら、ガチャポン派? それともガシャポン派?」

 その問いに二人は視線を合わせると、百瀬が先に答えた。

「俺はガチャガチャかなあ」

「え、マジで?」

 その答えに今度は俺が咲良と目を見合わせた。

「第三の勢力だ」

「ガチャガチャか……」

 ふと気になって、なんとなく聞いてみる。

「それ、出てきてなくね?」

 すると咲良が盛大に吹き出し、朝比奈も肩を震わせ、百瀬は「あ、それ言っちゃう?」と笑った。

「でもさー、ガチャポンもそうじゃん? ガチャッて回してポンッとは出てこんでしょ。せめて二回は回さないと」

 それを聞いた咲良は笑いながら言った。

「それなら、ガチャガチャポンになっちまうなあ」

「教育番組みたいな名前だな」

「ガシャポンはどうなの? なんか壊れてない? 大丈夫?」

「なんでだよ、壊れてねえよ」

 百瀬理論でいくなら、ガシャガシャポンになるな。なんかいくつか出てきそうだ。

「で、朝比奈は?」

 咲良が聞くと、朝比奈は顎に手を当てて少し考えこむと「……ガチャ」とつぶやいた。

「ガチャかあー」

 それもあったか、と咲良が頷く。

「でもガチャっつったらソシャゲ感出るよな」

 俺の中ではガチャといえばスマホゲームだなあ。あ、そういやそろそろ推しの誕生日記念ガチャがあるんだっけ。

「それはそう。てか、ガチャポンとか言うのがだるい。長い」

「ポンぐらい許してやってくれ」

 そうこうしているうちにもう一人やってきた。

「何話してんの」

「勇樹。それがな……」

 事の顛末を話せば、勇樹は「なるほどなあ」と笑って頷いた。

「確かに、いろんな言い方あるよな」

「お前はなんて言うんだ?」

 興味津々というように咲良が聞けば、勇樹は平然とこう答えた。

「ガシャガシャ」

「おっとぉ、これまた新勢力が」

「なんか激しいな」

 ほんと、人によって違うもんだなあ。

 結局、誰一人として意見が合わぬまま解散となった。まあ、通じりゃそれでいいんだけど。



 とりあえずピンバッチは自分の机の上に置いて、腹ごしらえとしよう。

 半日休みの日の昼飯はなんだか手軽に済ませたい。というわけで買い置きのカップ麺を作ろうと思う。

 ラーメンやうどん、そばも捨てがたいが、今日は焼きそばの気分である。

 お湯を沸かす間にふたを開ける。パックを取り出して、お湯を入れる前に開けるべきものがないかを確認していたら湯が沸けた。

 容器にそっとお湯を注ぎ入れ、もう一度ふたをする。上でソースを温めるんだったかな。

 これだけじゃ足りないかもしれないのでご飯も食おう。炊いた分はないので冷凍している分をレンジでチンする。

「んー……このままでいいか」

 茶碗を出すのも億劫なのでラップのまま。まあ、おにぎりみたいなもんだ。

 時間が経ったらお湯を捨て、ふたについているであろうキャベツを落とすために軽くたたいてからふたを開け、ソースとかやくを混ぜる。香ばしい、いい香りだ。

 マヨネーズが合うんだなあ、これが。

 箸は割りばし、そして食う場所は最近電源が入ることの少なくなったこたつ。テレビをつけたら準備万端だ。

「いただきます」

 まずはソースたっぷりの麺から。インスタントの焼そばは具材が少ないのがいい。

 もっちもちの麺に香ばしく甘辛いソース。間違いなくおいしい。たまに感じるキャベツの甘味とかやくのうま味がいい感じだ。口いっぱいにほおばれば芳醇な香りが口元を包み込むようだ。

 これにマヨネーズを和える。ちょっと混ざりにくいな。

 一気にまろやかな風味になっておいしい。

 ご飯が欲しくなるなあ、やっぱ。冷凍したご飯はなんかもちもちしている。焼きそばと一緒に食うのがいい。濃い味に白米がよく合うんだ。

 焼きそばパンもいいけど、最近はご飯、好きだなあ。紅しょうががあってもいいけど今日はこれで。

 塩焼そばとかもあったな。今度食ってみよう。

 それにしたって今日は片付けも少ない。楽って、いいなあ。



「ごちそうさまでした」

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから

キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。 「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。 何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。 一話完結の読み切りです。 ご都合主義というか中身はありません。 軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。 誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

「今日でやめます」

悠里
ライト文芸
ウエブデザイン会社勤務。二十七才。 ある日突然届いた、祖母からのメッセージは。 「もうすぐ死ぬみたい」 ――――幼い頃に過ごした田舎に、戻ることを決めた。

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

処理中です...