一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第二百四十六話 ファストフード

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 卒業式も終わって、授業も一段落し、早めに帰ることのできる日も増えた。卒業式に出席したのは三年生と先生、保護者と来賓だ。あとは吹奏楽部とか合唱部とかもちょっとだけ参加したんだっけか。

 下校が早いのであれば、とっとと帰りたいものである。しかし部活動が休みとなっているところもあるので昇降口は混む。出入り口付近でたむろするの、やめていただきたい。

「あ、春都」

 のろのろ進行の人垣を抜けたところで咲良と鉢合わせた。

「おう」

「ね、春都さあ、今から暇? ゲーセン行かねえ?」

「ゲーセン? プレジャスの?」

 プレジャス、とは地元のショッピングセンターのことである。いろいろなテナントが入ってはいるが、街のショッピングモールとは比べ物にならないほど客の入りが少ない。まあ、安売りの日とかは何気に多いけど。

「そー。暇だし、一人じゃさみしいし」

「えー……早く帰りたい」

「そこを何とか、な?」

「うーん……」

 俺としてはさっさと帰って昼飯食ってのんびりしたいのだがなあ。あ、でも待てよ。あそこって確かあの店あったよなあ。いつも行ってるとことはまた別のファストフード店。そういやなんか今だけ割引とかで、平日ランチセットワンコインだったな。

「行くか」

「お、その心は?」

「昼飯」

 そう答えれば「やっぱり」と咲良は笑ったのだった。



 プレジャスまでのバスは出ていないが、近くまでは行ける。そこから歩いて数分だ。

 相変わらず平日の昼間は人が少ない。広い駐車場も、今はほとんどが空車だ。

「どーする? 先に昼飯食う?」

「どっちでも」

「じゃ、ゲーセン行こ」

 ゲームセンターは二階の隅にある。あまり広くないし、ユーフォ―キャッチャーの景品は種類が偏っているし、入れ替わりも少ないし、メダルゲームの機械ももう何年も前から変わっていない。でも、なんとなく楽しいんだよなあ。

 人影はないものの、音量だけは街のゲームセンターと変わらない中を歩く。

「何か目当てのものでもあるのか」

「んー、これといってないけど、なんかしたいなーって」

 最近はやっているアニメのキャラクターを模したぬいぐるみ、同じアニメのブランケット、キーホルダー、劇中グッズ。それにお菓子や調味料なんかのユーフォ―キャッチャーもある。

「あ、なにこれ! これ欲しい!」

 咲良が飛びついたのは糸を切るタイプのクレーンゲームだった。ぶら下がっているのは最近単行本も入手困難なアニメに出てくる、キャラクターたちが使っている武器のレプリカだ。

「おい、これ結構でかいぞ。取れたとして持って帰るのか」

「持って帰る!」

 この手のクレーンゲーム、俺は苦手だが咲良は案外そつなくこなす。しかし余りあるテンションのせいか今日は照準が定まらないらしい。

「もっかい」

「いくら使う気だ」

「買うと思えば安い!」

 そんなもんだろうか。相場が分からないので何とも言えない。

 しかし暇だなあ。そういや近くにガチャポンのコーナーあったな。あっち行こう。

「俺向こうの方いるから」

「おー」

 プレイの間を狙って咲良に一言声をかけ、ゲームセンターを出る。小さい子ども連れと何組かすれ違う。俺もこんなふうにしてよく遊びに来てたっけ。

 ガチャポンは意外と充実してんだよなー。なんかあるかな。

 最近は百円のガチャポンをあまり見ない気もする。二百円とか三百円とか、中には五百円のとかもある。何が出るか分からないやつも多いよなあ。あれって在庫処分か何かなのか。

「お、発見」

 最近完結したばかりの漫画のガチャポンだ。ちなみに漫画もアニメも制覇している。なるほど、校章モチーフのピンバッチ、一回三百円。小銭あったかな。

 あるある。一回やってみよう。

 これは正直何が出てもうれしい。お金を入れて、回す。この重みのある感覚がたまらない。出てきたのはオレンジ色のカプセルだった。

「おおー」

 どうやら主人公たちの学校の校章が出て来たみたいだ。かっこいい。

 ピンバッチってなんかうれしいんだよなー。落とさないように鞄に入れておく。

「春都~、昼飯食いに行こうぜー」

 そう言いながらやってきた咲良の声はずいぶん上機嫌だ。

 それもそうか。やつの背には大きな獲物があった。



 目的の店は一階にある。食事スペースは通路から隔離されているので落ち着く。

 まばゆいメニューの電光掲示板や、カウンターに張り付けられたメニューを交互に見ながらなんとか注文する。といっても、五百円のランチセットなので選択肢は限られる。

 でもどれもうまそうなんだよなあ。チキンのハンバーガーにトルティーヤ、チキンのセットもあるが、俺はトルティーヤにした。

「お待たせしましたー」

 注文した後、横にはけて待っていたら間もなくして声をかけられた。

「壁際と通路際、どっちがいい?」

「壁」

 賞品をのせた盆を持ち、二人連れ立って、壁際の二人席に向かい合って座る。案外広々していていい。

「いただきます」

 セットメニューはメインの他に、ポテトとちょっとしたデザート、それにドリンクだ。ドリンクは当然オレンジジュースを選んだ。

 トルティーヤの生地はもちもちともサクサクとも言えない、不思議な触感だ。香りもいいし、食べ応えもある。中にはたっぷりの野菜と骨なしのフライドチキンが入っていて、ソースはオリジナルのものらしい。

 オーロラソースをピリ辛にしたような、チキンにも野菜にも合う味だ。刻まれた玉ねぎやピクルスも混ざっていておいしい。チキンはサクふわっとしていて、濃い目の味付けがいい。

「ね、ポテト一本ちょうだい」

 チキンのハンバーガーに、サイドメニューをチキンナゲットにした咲良が聞いてくる。

「ああ」

「サンキュー、チキンナゲット一個食っていいぞ」

 では遠慮なく。

 バーベキューソースはどの店も同じかと思ったがずいぶん違う。こっちのは甘めだ。これはこれでうまい。衣はしっとり系でスパイスがよくきいているのでソースとの相性がいいのか。

 ポテトはホックホクの太めである。塩がきいていてうまい。

 デザートは小さなスコーンだ。メープルシロップかはちみつか選べたので俺はメープルシロップにした。

 甘ったるい香りのソースに生地。いかにもジャンクフードって感じだ。でもそれがいい。

「にしても、存在感あるな」

 甘いはずのジュースを酸っぱく感じながら咲良に言う。壁に立てかけられた戦利品は、なんというか、物騒な雰囲気だ。

「満足だ」

「結局いくら使った」

「……ゲームセンターは娯楽を買いに来ているようなものだからな!」

 答えになっていないが、なんとなく言いたいことは伝わる。これは相当使い込んだな。

 今度は俺もチャレンジしてみるか。でも、こいつほどは執着できないだろうなあ。



「ごちそうさまでした」

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