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日常
第二百四十一話 たこ焼き
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出がけに父さんと母さんから飴を持たされた。
「なんか鼻声じゃない? 大丈夫?」
母さんは玄関まで見送りに来て言った。どうやら俺の体調を案じて渡してきたらしい。透明のビニール製のポーチには、のど飴とカンロ飴、それにべっこう飴まで入っている。
「んー? 大丈夫」
「ほんとに?」
「乾燥してるだけだって」
そう言えば母さんはいぶかしげな視線を向けた。本当に大丈夫だと思うんだけどなあ。
「父さんも母さんも今日から仕事だろ。大丈夫だって。心配しなくても」
「じゃあせめて、これ」
「ん?」
「マスク、はめていきなさい」
父さんは小分け包装のマスクを何枚か差し出した。
「ん、分かった」
そのうちの一枚を開けて身につけ、残りは鞄に入れておく。
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい、気を付けて」
「父さんと母さんも」
まあ、体調はいいに越したことはないので気をつけとくか。特に、今の時季は風邪ひきやすいし。
……今日の晩飯、何にしようかなあ。
朝課外が終わってすることもないので、今朝持たされた飴を食べようかとポーチを取り出す。
べっこう飴は透明なビニールで包装されている。日に透かしてみればきらきらと金色に輝いてきれいだ。
「ありゃ、春都、風邪?」
口の中で飴をころころと転がしていたら、咲良が来た。
「なんで?」
「マスクしてるし」
「あー、これ。なんかつけてけって言われた」
「なんか食ってんの?」
と、咲良はポーチを持ち上げた。
「飴」
「ちょうだいよ」
「一個な」
そう言えば「わーい」と咲良は嬉々としてポーチを開ける。なんとまあ遠慮のないやつだ。どれがいいかなあ、と三種類、机に出して悩んでいる。
「お、飴じゃん。一個もーらい」
そう言ってカンロ飴をかっさらって席に着いたのは勇樹だ。
「あー、俺選んでたのにー」
「こういうのは早いもん勝ちだって習わなかったか?」
「学校でくらいゆっくり選ばせろよ~」
こいつら二人で盛り上がってるけど、その飴、俺のなんだよなあ。指摘するのも面倒で、頬杖をついて眺める。
「てか、その飴俺のじゃねーし」
「え、そうなの」
すでに飴を口に含んだ勇樹が、咲良の言葉を聞いて驚いたようにこちらに視線を向ける。
「うん。俺の」
「言えよ。てか勝手に食って悪ぃな。今更だけどもらっていい?」
「どーぞ」
今更返せっつって、どうやって返すよ。
「あ、じゃあお詫びというか、お礼というか」
そう言いながら勇樹は鞄を漁りだす。
「これやる。飴」
「飴に飴のお返しか」
と、咲良が笑った。勇樹が渡してきた飴は棒付きのやつで、これはグレープ味だという。包装紙の隅の方には「キシリトール入り」と書いてある。
「他の味がよかったか?」
「いや、これでいい。ありがとう」
とりあえずポーチに入れて、口の中で小さくなり始めた飴をかみ砕いた。歯に引っ付いてちょっと痛い。
「で、結局、咲良はどの飴にするんだ」
一向に飴を口に含まない咲良に聞けば、咲良は「んー」と曖昧な返事をした。と、その時チャイムが鳴る。
「片づけるぞ」
「待って待って。これにする」
急いで帰る間際、咲良が手に取ったのはべっこう飴だった。
今日はなんだか寒さが身に染みる。本格的に体調不良になる前に早く休んでおこう。
となると晩飯はササッと済ませよう。
「なにがあったかなー……っと」
冷蔵庫、野菜室、冷凍庫と中身を確認していく。
「お、これがあったか」
冷凍たこ焼き。皿に移してチンすればいい。
でもこれだけだとなんとなく物足りない。野菜食いたいなあ。キャベツでも切るか。千切りにして、余ったら明日の朝、スープかみそ汁に入れてもいい。
ソースとマヨもある。かつお節も振りかけようか。ご飯も食おう。
「お、うまそう。いただきます」
鼻腔をくすぐるソースの酸味ある香り。まずはたこ焼きだけで。
もちぷわっとした食感がいい。カリカリしたたこ焼きも魅力的だが、これはこれで味がある。出汁の香りとソースの濃い風味、かつお節のうま味にマヨネーズのまろやかさがよく合う。たこも小さいながら味がいい。
これをおかずにご飯。最初こそ、えーって感じだったけど、一度やってみたらうまくてなあ。
ご飯となじむ生地とソース味。たこに当たるとなんだかうれしい。
箸休めにキャベツ。たこ焼きの皿にあるソースとマヨをぬぐって食べる。シャキシャキとみずみずしい食感にキャベツの青い香り、ソースとキャベツがよく合う。
なんか全部同じ味みたいな感じだけど、うまいことバランスが取れてて飽きないんだよなあ。
ちょっとやってみたかった、たこ焼き丼を作ってみる。と言ってもご飯にたこ焼きのっけただけだが。
ソースがしっかり染みたたこ焼きってうまいよなあ。ご飯にもよく合う。
そういやたこ焼きパーティとかもやったな。手作りのたこ焼きも味があるんだよなあ。
また作ってみるか。
「ごちそうさまでした」
「なんか鼻声じゃない? 大丈夫?」
母さんは玄関まで見送りに来て言った。どうやら俺の体調を案じて渡してきたらしい。透明のビニール製のポーチには、のど飴とカンロ飴、それにべっこう飴まで入っている。
「んー? 大丈夫」
「ほんとに?」
「乾燥してるだけだって」
そう言えば母さんはいぶかしげな視線を向けた。本当に大丈夫だと思うんだけどなあ。
「父さんも母さんも今日から仕事だろ。大丈夫だって。心配しなくても」
「じゃあせめて、これ」
「ん?」
「マスク、はめていきなさい」
父さんは小分け包装のマスクを何枚か差し出した。
「ん、分かった」
そのうちの一枚を開けて身につけ、残りは鞄に入れておく。
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい、気を付けて」
「父さんと母さんも」
まあ、体調はいいに越したことはないので気をつけとくか。特に、今の時季は風邪ひきやすいし。
……今日の晩飯、何にしようかなあ。
朝課外が終わってすることもないので、今朝持たされた飴を食べようかとポーチを取り出す。
べっこう飴は透明なビニールで包装されている。日に透かしてみればきらきらと金色に輝いてきれいだ。
「ありゃ、春都、風邪?」
口の中で飴をころころと転がしていたら、咲良が来た。
「なんで?」
「マスクしてるし」
「あー、これ。なんかつけてけって言われた」
「なんか食ってんの?」
と、咲良はポーチを持ち上げた。
「飴」
「ちょうだいよ」
「一個な」
そう言えば「わーい」と咲良は嬉々としてポーチを開ける。なんとまあ遠慮のないやつだ。どれがいいかなあ、と三種類、机に出して悩んでいる。
「お、飴じゃん。一個もーらい」
そう言ってカンロ飴をかっさらって席に着いたのは勇樹だ。
「あー、俺選んでたのにー」
「こういうのは早いもん勝ちだって習わなかったか?」
「学校でくらいゆっくり選ばせろよ~」
こいつら二人で盛り上がってるけど、その飴、俺のなんだよなあ。指摘するのも面倒で、頬杖をついて眺める。
「てか、その飴俺のじゃねーし」
「え、そうなの」
すでに飴を口に含んだ勇樹が、咲良の言葉を聞いて驚いたようにこちらに視線を向ける。
「うん。俺の」
「言えよ。てか勝手に食って悪ぃな。今更だけどもらっていい?」
「どーぞ」
今更返せっつって、どうやって返すよ。
「あ、じゃあお詫びというか、お礼というか」
そう言いながら勇樹は鞄を漁りだす。
「これやる。飴」
「飴に飴のお返しか」
と、咲良が笑った。勇樹が渡してきた飴は棒付きのやつで、これはグレープ味だという。包装紙の隅の方には「キシリトール入り」と書いてある。
「他の味がよかったか?」
「いや、これでいい。ありがとう」
とりあえずポーチに入れて、口の中で小さくなり始めた飴をかみ砕いた。歯に引っ付いてちょっと痛い。
「で、結局、咲良はどの飴にするんだ」
一向に飴を口に含まない咲良に聞けば、咲良は「んー」と曖昧な返事をした。と、その時チャイムが鳴る。
「片づけるぞ」
「待って待って。これにする」
急いで帰る間際、咲良が手に取ったのはべっこう飴だった。
今日はなんだか寒さが身に染みる。本格的に体調不良になる前に早く休んでおこう。
となると晩飯はササッと済ませよう。
「なにがあったかなー……っと」
冷蔵庫、野菜室、冷凍庫と中身を確認していく。
「お、これがあったか」
冷凍たこ焼き。皿に移してチンすればいい。
でもこれだけだとなんとなく物足りない。野菜食いたいなあ。キャベツでも切るか。千切りにして、余ったら明日の朝、スープかみそ汁に入れてもいい。
ソースとマヨもある。かつお節も振りかけようか。ご飯も食おう。
「お、うまそう。いただきます」
鼻腔をくすぐるソースの酸味ある香り。まずはたこ焼きだけで。
もちぷわっとした食感がいい。カリカリしたたこ焼きも魅力的だが、これはこれで味がある。出汁の香りとソースの濃い風味、かつお節のうま味にマヨネーズのまろやかさがよく合う。たこも小さいながら味がいい。
これをおかずにご飯。最初こそ、えーって感じだったけど、一度やってみたらうまくてなあ。
ご飯となじむ生地とソース味。たこに当たるとなんだかうれしい。
箸休めにキャベツ。たこ焼きの皿にあるソースとマヨをぬぐって食べる。シャキシャキとみずみずしい食感にキャベツの青い香り、ソースとキャベツがよく合う。
なんか全部同じ味みたいな感じだけど、うまいことバランスが取れてて飽きないんだよなあ。
ちょっとやってみたかった、たこ焼き丼を作ってみる。と言ってもご飯にたこ焼きのっけただけだが。
ソースがしっかり染みたたこ焼きってうまいよなあ。ご飯にもよく合う。
そういやたこ焼きパーティとかもやったな。手作りのたこ焼きも味があるんだよなあ。
また作ってみるか。
「ごちそうさまでした」
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