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日常
第二百三十五話 焼豚煮卵丼
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昨日の昼過ぎから降り出した雨は、小休止を挟みながら翌日まで続いた。
「あ、春都来た。おはよー」
「おう、今日は早いな」
いつも朝課外ギリギリにやってくる勇樹がすでにいる。
「まあねー」
「で、今食ってんのは何だ」
「おにぎり」
ずいぶんとでかいおにぎりだ。半分ほど食べられているのだろうが、それでも十分なボリュームである。
「朝ごはんってわけじゃねえんだろ」
「早弁その一」
「その一」
「だって腹減るぜ? 二時間目と三時間目の間に食うのがその二」
俺も早弁するにはするが、そこまでの量はない。
やっぱ運動部すげえなあ、と思いながらおにぎりの中身を覗き見る。
「それなに」
「高菜。好きなんだよね」
「俺も。高菜で巻いたのも好き」
「あー、うまいよね。のどつまりそうになるけど」
ばあちゃんがしょっちゅう作ってくれる、高菜で巻いたおにぎり。ピリッとした辛さと高菜の風味がたまらないんだ。
「コンビニで買うのも基本高菜だなー。他のも買うには買うけど、高菜率高い」
勇樹は水筒の茶をあおった。
「店舗によって結構味が違うんだぜ? それ食べ比べるだけでも楽しい」
「あ、それは分かる気がする」
そう話しているうちに、勇樹の手元にあったおにぎりは着々と減っていく。見ていて気持ちがいい。
「なー? おにぎりって結構特徴出るよなー。のりとか米とか、気にしだすときりがない」
「混ぜご飯系もある」
「あれも店舗で違うよな! あ、高菜以外にあったわ、気に入ったやつ」
すっかり食べ終わって、勇樹はラップを片付けた。所要時間五分弱といったところか。
「鮭わかめだっけ? あれ好きだなー。のりついてないの、食べやすい」
「あー……」
なんとなくうどんと一緒に食べたくなるやつだ。俺だけだろうか。
「俺は煮卵のが好き」
「あれもいいよなー。半熟で」
「ちょっと高いのだとごろっと角切りの焼豚入ってる」
「そうそう。あれってボリュームあるし、いいよな」
焼豚と煮卵が合わないわけがないんだよな。ラーメンの上にのっかってるもの同士なんだし。
「やべー、そんな話してたら腹減ってきた」
「まだ入るのか……さっき食っただろ」
「俺の胃袋なめんなよ?」
と、その時予鈴が鳴って、勇樹は「あ、予鈴鳴った」と会話を切り上げて前を向いた。
腹が減る、ほどではないが頭に飯のことがこびりついて離れなくなってしまったのは確かだ。授業に集中できるかどうか。
……まあ、飯に心奪われるのはいつものことか。
焼豚と煮卵はラーメンのトッピングというイメージである。といいながら、トッピングとして選んだことはあまりないのだが。
しかしおにぎりにしてうまいのであれば、丼みたいにして食ってもうまいのではなかろうか。いや、絶対うまいに決まってる。たれは甘辛くして、ごまとかも合うかもしれない。ネギもいいなあ。
焼豚は薄いのをたくさんか、分厚いのを何切れかで悩むところだ。
分厚いのを何枚も、という選択もできるがちょっと飽きてしまいそうなのも確かである。薄いのを何切れかだったら物足りない。
だから結局この二択になるわけで。
究極の二択だよなあ。食べ応えを重視するか、数を重視するか、はたまた肉を楽しむか肉と米を一緒に楽しむという食べ方をとるか。悩ましい。
卵の固さも重要だよなあ。半熟か、かためか、その中間か。
問題を考えるふりをしながら思案する。授業の問いの答えはすぐに分かるのだが、飯の方の答えが出ていない。
まあ、今日食べる予定じゃないんだけどさあ。一回考え出すとなあ。
結局放課後までぼんやり考えてしまった。一度考え出すと――特に飯のことになるとあきらめが悪くなってしまう。
まあいいや。それも俺の個性ということで。
帰路に着きながら今日の晩飯について考える。買い物に行くって言ってたよな、そういや。何買ってくるんだろ。今日卵安いし、なくなりかけてたしそれは確実に買ってくるはずだ。
卵を買ってきたときは高確率でゆで卵を作る。
「ただいまー」
「おかえり」
やっぱり。台所にはぐつぐつと音を立てる鍋があり、そこでは卵が茹でられていた。ゆで卵には塩、と思っていたが最近はマヨネーズも捨てがたい。
あ。ゆで卵、ということは、味玉を作ることができるのか?
「あのさ、母さん」
「どうしたー?」
朝からずっと考えていたことを言ってみれば、母さんは笑った。
「あら、いいじゃない。何なら明日の朝ご飯にどう? 焼豚も買ってきてるよ。薄切りだけど」
お、ラッキー。薄切り焼豚はハムエッグと並んでうちの朝飯によく登場するものだ。
茹で上がった卵をいくつか拝借して、丁寧に殻をむいていく。むきづらいところを何とかきれいにむけると嬉しい。
味付けは麺つゆ。こういう時、麺つゆは何かと便利だ。袋に麺つゆと卵を入れて、空気を抜いてしばる。冷蔵庫に入れておこう。
よし、これでいい。明日が楽しみだ。
今日食べる分のゆで卵は、マヨネーズと紅しょうがをのせて食おうかな。
さて、朝飯の準備をしよう。卵はいい感じの色に染まっている。これを半分に切ってご飯にのせる。焼豚は少しフライパンであぶって……ああ、いい香りだ。
最後にねぎを散らしたら完成である。
「あら、豪華」
「朝からうまそうだな」
「麺つゆだし、間違いはないはず……いただきます」
半熟ではないがかたすぎるほどでもない、ちょっと半熟といった具合の黄身がきれいだ。プリプリの白身は甘い味に染まって、黄身も心なしか出汁のうま味がある。
焼豚はほんのり温かくてやわらかい。甘辛い味でご飯がすすむ。
ご飯を焼豚で巻いて、黄身をちょっとつけて食べてみる。うん、これこれ、食べたかった味だ。香ばしさとまろやかさ、米のうま味がいっぺんに味わえておいしい。
やっぱ煮卵と焼豚って合うなあ。
今度は焼豚も自分で作ってみるか。あ、角煮でもいいな。紅しょうがとかをのせてもうまいかな。半熟卵にするのもいいかも。
「また焼豚買ってきとこうね」
母さんの言葉に深く頷く。
こうやって食べたいものを食べられるって、やっぱ幸せだ。
「ごちそうさまでした」
「あ、春都来た。おはよー」
「おう、今日は早いな」
いつも朝課外ギリギリにやってくる勇樹がすでにいる。
「まあねー」
「で、今食ってんのは何だ」
「おにぎり」
ずいぶんとでかいおにぎりだ。半分ほど食べられているのだろうが、それでも十分なボリュームである。
「朝ごはんってわけじゃねえんだろ」
「早弁その一」
「その一」
「だって腹減るぜ? 二時間目と三時間目の間に食うのがその二」
俺も早弁するにはするが、そこまでの量はない。
やっぱ運動部すげえなあ、と思いながらおにぎりの中身を覗き見る。
「それなに」
「高菜。好きなんだよね」
「俺も。高菜で巻いたのも好き」
「あー、うまいよね。のどつまりそうになるけど」
ばあちゃんがしょっちゅう作ってくれる、高菜で巻いたおにぎり。ピリッとした辛さと高菜の風味がたまらないんだ。
「コンビニで買うのも基本高菜だなー。他のも買うには買うけど、高菜率高い」
勇樹は水筒の茶をあおった。
「店舗によって結構味が違うんだぜ? それ食べ比べるだけでも楽しい」
「あ、それは分かる気がする」
そう話しているうちに、勇樹の手元にあったおにぎりは着々と減っていく。見ていて気持ちがいい。
「なー? おにぎりって結構特徴出るよなー。のりとか米とか、気にしだすときりがない」
「混ぜご飯系もある」
「あれも店舗で違うよな! あ、高菜以外にあったわ、気に入ったやつ」
すっかり食べ終わって、勇樹はラップを片付けた。所要時間五分弱といったところか。
「鮭わかめだっけ? あれ好きだなー。のりついてないの、食べやすい」
「あー……」
なんとなくうどんと一緒に食べたくなるやつだ。俺だけだろうか。
「俺は煮卵のが好き」
「あれもいいよなー。半熟で」
「ちょっと高いのだとごろっと角切りの焼豚入ってる」
「そうそう。あれってボリュームあるし、いいよな」
焼豚と煮卵が合わないわけがないんだよな。ラーメンの上にのっかってるもの同士なんだし。
「やべー、そんな話してたら腹減ってきた」
「まだ入るのか……さっき食っただろ」
「俺の胃袋なめんなよ?」
と、その時予鈴が鳴って、勇樹は「あ、予鈴鳴った」と会話を切り上げて前を向いた。
腹が減る、ほどではないが頭に飯のことがこびりついて離れなくなってしまったのは確かだ。授業に集中できるかどうか。
……まあ、飯に心奪われるのはいつものことか。
焼豚と煮卵はラーメンのトッピングというイメージである。といいながら、トッピングとして選んだことはあまりないのだが。
しかしおにぎりにしてうまいのであれば、丼みたいにして食ってもうまいのではなかろうか。いや、絶対うまいに決まってる。たれは甘辛くして、ごまとかも合うかもしれない。ネギもいいなあ。
焼豚は薄いのをたくさんか、分厚いのを何切れかで悩むところだ。
分厚いのを何枚も、という選択もできるがちょっと飽きてしまいそうなのも確かである。薄いのを何切れかだったら物足りない。
だから結局この二択になるわけで。
究極の二択だよなあ。食べ応えを重視するか、数を重視するか、はたまた肉を楽しむか肉と米を一緒に楽しむという食べ方をとるか。悩ましい。
卵の固さも重要だよなあ。半熟か、かためか、その中間か。
問題を考えるふりをしながら思案する。授業の問いの答えはすぐに分かるのだが、飯の方の答えが出ていない。
まあ、今日食べる予定じゃないんだけどさあ。一回考え出すとなあ。
結局放課後までぼんやり考えてしまった。一度考え出すと――特に飯のことになるとあきらめが悪くなってしまう。
まあいいや。それも俺の個性ということで。
帰路に着きながら今日の晩飯について考える。買い物に行くって言ってたよな、そういや。何買ってくるんだろ。今日卵安いし、なくなりかけてたしそれは確実に買ってくるはずだ。
卵を買ってきたときは高確率でゆで卵を作る。
「ただいまー」
「おかえり」
やっぱり。台所にはぐつぐつと音を立てる鍋があり、そこでは卵が茹でられていた。ゆで卵には塩、と思っていたが最近はマヨネーズも捨てがたい。
あ。ゆで卵、ということは、味玉を作ることができるのか?
「あのさ、母さん」
「どうしたー?」
朝からずっと考えていたことを言ってみれば、母さんは笑った。
「あら、いいじゃない。何なら明日の朝ご飯にどう? 焼豚も買ってきてるよ。薄切りだけど」
お、ラッキー。薄切り焼豚はハムエッグと並んでうちの朝飯によく登場するものだ。
茹で上がった卵をいくつか拝借して、丁寧に殻をむいていく。むきづらいところを何とかきれいにむけると嬉しい。
味付けは麺つゆ。こういう時、麺つゆは何かと便利だ。袋に麺つゆと卵を入れて、空気を抜いてしばる。冷蔵庫に入れておこう。
よし、これでいい。明日が楽しみだ。
今日食べる分のゆで卵は、マヨネーズと紅しょうがをのせて食おうかな。
さて、朝飯の準備をしよう。卵はいい感じの色に染まっている。これを半分に切ってご飯にのせる。焼豚は少しフライパンであぶって……ああ、いい香りだ。
最後にねぎを散らしたら完成である。
「あら、豪華」
「朝からうまそうだな」
「麺つゆだし、間違いはないはず……いただきます」
半熟ではないがかたすぎるほどでもない、ちょっと半熟といった具合の黄身がきれいだ。プリプリの白身は甘い味に染まって、黄身も心なしか出汁のうま味がある。
焼豚はほんのり温かくてやわらかい。甘辛い味でご飯がすすむ。
ご飯を焼豚で巻いて、黄身をちょっとつけて食べてみる。うん、これこれ、食べたかった味だ。香ばしさとまろやかさ、米のうま味がいっぺんに味わえておいしい。
やっぱ煮卵と焼豚って合うなあ。
今度は焼豚も自分で作ってみるか。あ、角煮でもいいな。紅しょうがとかをのせてもうまいかな。半熟卵にするのもいいかも。
「また焼豚買ってきとこうね」
母さんの言葉に深く頷く。
こうやって食べたいものを食べられるって、やっぱ幸せだ。
「ごちそうさまでした」
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