一条春都の料理帖

藤里 侑

文字の大きさ
上 下
225 / 854
日常

第二百二十二話 ピザトースト

しおりを挟む
「はーい、そこまでー。ペン置いて~」

 テスト最終日、最後の時間。終わりを告げるチャイムと先生の言葉が聞こえたとたん、教室の空気が緩む。

 自分の席に戻って廊下の人だかりが落ち着くのを待っていたら、前の席で勇樹が「はー、疲れた」と言ってため息をつき、俺の机にうなだれて来た。

「国語難しくなかった?」

「んー、どうかな」

「難しいっていうか、文章で答えなきゃいけないの多かったよな」

「まあ」

 勇樹は再び長いため息をつくと、ゆっくりと上体を起こす。

「今日は掃除ないんだっけ?」

「そうだったかな」

「理系があと一時間あるらしいからなあ」

 そういや咲良がそんなこと言ってたような。

「ま、だからといって帰れるわけじゃないけど」

 グーッと伸びをしながら勇樹は立ち上がった。そろそろ廊下も落ち着いてきたようだ。理系のテストが始まったら移動しづらいし、さっさと帰らないと。

「部活?」

「いつも通りな」

 勇樹は通学用の鞄とリュックサックの他に、有名スポーツブランドのエナメルバッグを抱える。

「じゃ、俺このまま行くわ。また来週なー」

「おう」

 さっそうと立ち去る勇樹を見送り、自分も帰り支度をする。置いて帰れる教科書類はロッカーにしまい、シャーペンを筆箱に戻したところで予鈴が鳴った。

「帰るやつはとっとと帰れよー。それ以外のやつらは教室入れー」

 試験監督の先生がやってきて声をかける。

 言われなくても帰りますよ。



 家に帰りつき、荷物を片付け部屋着に着替えたら、ゲームとスマホを持ってソファに座りクッションに埋もれる。こたつの上には漫画本が山積みだ。

「あー、疲れたー」

 今日は徹底的にのんびりしてやる。

「わふっ」

 のんびりしているというのが分かると、うめずはいそいそと近づいてくる。

「お、どしたー?」

「わう」

「お前ものんびりしな」

 そう言えばうめずはこたつ布団の上で丸くなった。

「さて」

 とりあえずスマホチェックして、そのあとゲームして、漫画も読んで。

 あー、こんなに時間があると逆にどうすればいいか分かんねえなあ。でも幸せだなあ。部屋は暖かいし、お菓子もあるし、食材の買い置きもしてあるし。

 昼飯は少し休んでからにしよう。

「お」

 スマホゲームの通知にまぎれて、母さんからのメッセージがあった。

「わう」

「明日帰ってくるってさ」

 冷蔵庫にあるもので明日は間に合うだろう。鍋でもなんでも、ある程度のものは作れるし。

 というわけでゲームだ。

「体験版配信されてんだよなー」

 買おうかどうしようか悩んでいるゲーム。体験版があるっていいよなあ。買ってみて思ってたのと違うってなるのはもったいないし。

「ふぁ……ふ」

 にしてもなんだか今日は眠気がすごい。

 ゲームしてたら目が覚めるかな。ま、別に寝てもいいんだけどさあ。なんかもったいない気がするんだよな。

 ダウンロードにはちょっと時間がかかるのでその間は本を読むことにする。

 買うだけ買って楽しみに取っておいた漫画が何冊もあるんだ。さー、読むぞ読むぞー。



「……ん、んん?」

 目を開けば部屋は薄暗く、読んでいたはずの漫画が下に落ちている。うめずは窓際でお気に入りのおもちゃを引っ張り出してきて遊んでいるし、ゲームはとうにダウンロードを終え画面が暗くなっている。

「寝てたか……」

 とりあえず部屋の明かりをつける。するとうめずはおもちゃを離し、大きくあくびをした。

「昼飯食いそびれた……」

 めっちゃ腹減ったなあ。でも、今からがっつり準備するのはしんどい。

 簡単にできて腹にたまるもの……うーん、腹が減ってたら考える気力もないな。こういう時は昼飯に何を食うはずだったか、というところから考えよう。

 分厚過ぎず薄すぎずといった具合の食パン。これを焼いてバターでも塗って食うかと思ってたんだよな。でも、それだけだと物足りないよなあ。冷蔵庫になんかあったっけ。

 ハム、ベーコン、ピーマン、玉ねぎ、チーズ……

「そうだ」

 ピザトーストにしよう。

 食パンにケチャップを塗って、薄くスライスした玉ねぎ、ピーマンをのせる。ハムかベーコンかで悩むところだが、今はベーコンの気分である。短冊切りにし、散らす。

 チーズをたっぷりトッピングしたら、あとは焼くだけだ。

「いい感じ」

 チーズがとろけて焼き目がついたら完成だ。

「いただきます」

 パンの耳は苦手だというやつも一定数いる。でも俺は結構好きだ。

 香ばしさもさることながら、カリッモチッとした食感。耳特有のこの感じが好きだ。

 当然、耳じゃない部分も好きである。ふわふわとした口当たりと穏やかな香ばしさがいい。そこにチーズとケチャップの濃い味が加われば最高だ。

 玉ねぎは加熱され甘く、ピーマンのほろ苦さと食感もおいしい。ベーコンはうま味たっぷりで、その塩気がチーズとよく合うのだ。

 二枚目はちょっと冷めて、チーズがサクッとした感じの食感になる。

 そんでここで味変、タバスコ。

 少しかけるだけでほんとのピザを食っている気分になる。ピリッと爽やかに味が引き締まるのだ。

 晩飯にトースト、とは何とも不思議な感じがするが、悪いもんじゃないな。

 むしろ新鮮で楽しめるというものだ。

 昼飯は食いそびれたが結果オーライ、うまいピザトーストが食えたので良しとしよう。

 ふと部屋を見渡す。すっかりご飯を食べ終えのんびりとくつろぐうめず、ほったらかしのゲーム機、数時間爆睡していたにもかかわらず通知の一つもないスマホ。ずいぶん静かだ。

 でも、これから二十四時間もしないうちに二人帰って来て賑やかになるのだから不思議なものだ。

 漫画もほぼ読んでいない。だがまあ、誰かがいる空間で本を読むというのは幸せなものだ。

 楽しみは長く続いた方がいい。テストも頑張ったことだし、良しとしよう。



「ごちそうさまでした」

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから

キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。 「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。 何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。 一話完結の読み切りです。 ご都合主義というか中身はありません。 軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。 誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

「今日でやめます」

悠里
ライト文芸
ウエブデザイン会社勤務。二十七才。 ある日突然届いた、祖母からのメッセージは。 「もうすぐ死ぬみたい」 ――――幼い頃に過ごした田舎に、戻ることを決めた。

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

処理中です...