220 / 854
日常
第二百十八話 アジフライ
しおりを挟む
テスト前は朝がゆっくりだ。
ほくほくとした心持でソファにのんびりと座っていたらスマホが鳴った。
「母さんか」
通話ではなくメッセージだ。
『夕方楽しみにしてて!』
……どういうことだ。
とりあえず首を傾げたキャラクターのスタンプを送れば、少しして電話がかかってきた。母さんはメッセージを送るより電話の方が楽らしい。
「もしもーし」
『あら、まだ家?』
「んー。テスト前」
『なるほどね』
しかしこれならあのメッセージの真意がわかるというものだ。
「どういうこと?」
『ああ、実はね』
母さんは楽しげに笑った。
『いいものを送ってるの。今日の夕方には着くだろうから、楽しみにしてて』
「ああ、そういうこと。ありがとう」
『なに? 何だと思った?』
「いや……」
何だと思った、っていうか、なにも思いつかなかったというか。何をしでかすつもりだろうかとは思ったけど。
『まあ、夜ご飯にでも食べて』
「ということは食品か」
『内容はお楽しみ~』
そこを詳しく聞き出そうとしたが、そうこうしているうちに登校時間になった。
仕方ない。今日の夕方には明らかになることだ。楽しみにしておこう。
「なんかさー……」
昼休み。今日は勇樹も一緒に飯を食っていたのだが、咲良が俺の方を見て言った。
「春都、なんかいいことでもあった?」
「なんでだ?」
昼飯は食堂が作っている弁当だ。数量限定で内容は日替わりである。基本はご飯の上にどんとおかずがのっているもので、今日はキャベツとチキンカツだった。
「なんかそわそわしてるなーと思って」
「え、そうなんだ」
そう言って少し驚くのは勇樹だ。
「いつも通りに見える」
「いつも通りだぞ」
「えー? 絶対違うって」
食堂のチキンカツはなんと揚げたてで、サクサクと香ばしく、ソースも染みておいしい。付け合わせのキュウリの漬物はほんのりしそっぽい風味がする。ご飯に温められているのが弁当らしいなあ。
「なんか楽しいことがあったか、楽しいことがあるか!」
自信満々に言い、咲良はカツをほおばった。
「ま、たいてい飯関連だけどな」
その自信ありげな言い方に腹が立つが、あながち間違ってもいないので何も言い返せない。
実際、楽しみなのだからしょうがない。でも俺そんな顔に出てるかなあ。
「俺は分かんなかった」
勇樹は弁当を早々に食べ終わり、別に買っていたパンの袋を開けていた。
「咲良は分かりやすいけど」
「えー? 何だよそれー」
咲良はケタケタと笑った。
「俺そんな分かりやすい?」
「表情筋の可動域が広いと思う」
「それは分かる」
というか、俺の隣にいたら誰でも表情豊かに見えるものだと思うんだが。あ、でも朝比奈は似たり寄ったりだろうか。それは朝比奈に失礼か。
「俺、ポーカーフェイスじゃない? クールキャラっていうかさ」
そう決め顔をして咲良は言うが、なんか滑稽に見えて思わず笑ってしまった。
「笑うなよー」
「お前もうちょっと本気出せよ……できるだろ?」
「さっきの結構渾身の決め顔だったんだけど?」
本気で訳が分からないという顔をする咲良がさらにおかしくて、午後からの授業、たまに思い出して笑いをこらえるのに必死だった。
荷物は、帰り着いてから三十分ほどして届いた。
「これは……」
箱の中身は冷凍のアジフライだった。おお、このまま揚げればいいってことか。一袋にいくつも入っているんだな……って五袋も来てるし。しばらくアジフライには困らないなあ。
「ん?」
何か一緒に入っている。紙?
『来週には帰って来るよ!』
この筆跡は母さんのものだ。
そっか、来週帰ってくるのか。案外遅かったなあ。そうだ、何食いたいか聞いとかないと。どっか外食とか行くかな。
頬が緩むのを感じて、ぐにぐにともんで戻す。
さて、飯だ。
アジフライに添えるのはキャベツ。千切りにしてたっぷりと。
アジフライは衣がついていてそのまま揚げられるから、油をフライパンで温めて……
「うわ、でか」
思った倍はでかい。これは食べ応えがあるなあ。こりゃ二切れでいい。
こんがりきれいに揚がったら、皿に盛って完成だ。醤油とタルタルソースを準備しよう。
「いただきます」
しかも身が分厚い。ずっしりと箸から伝わる重さにわくわくする。
まずは醤油で。サクッと香ばしい衣、ふんわりとした身、かと思えばしっかりとした食感の部分もある。臭みもないし、魚のうま味があふれ出てくるようだ。
醤油の味がそのうま味を引き立てる。ここまでアジをしっかり楽しめるアジフライは初めてかもしれない。
キャベツはドレッシングでさっぱり。酸味が強めのドレッシングは揚げ物の時にいい。
タルタルソースをかけると一気にジャンクな感じになる。シャキッと玉ねぎにまろやかなマヨネーズ。やっぱフライとタルタルソースって合うなあ。
そしてこの組み合わせはご飯が進むんだ。
二枚目で幸せな満腹感を感じるころ、ふと手元に置いていた手紙に視線を落とす。
『来週には帰ってくるよ!』
たった一文、簡潔な言葉だけど俺の表情筋を緩めるには十分だ。
緩みすぎには、気を付けたいがな。
「ごちそうさまでした」
ほくほくとした心持でソファにのんびりと座っていたらスマホが鳴った。
「母さんか」
通話ではなくメッセージだ。
『夕方楽しみにしてて!』
……どういうことだ。
とりあえず首を傾げたキャラクターのスタンプを送れば、少しして電話がかかってきた。母さんはメッセージを送るより電話の方が楽らしい。
「もしもーし」
『あら、まだ家?』
「んー。テスト前」
『なるほどね』
しかしこれならあのメッセージの真意がわかるというものだ。
「どういうこと?」
『ああ、実はね』
母さんは楽しげに笑った。
『いいものを送ってるの。今日の夕方には着くだろうから、楽しみにしてて』
「ああ、そういうこと。ありがとう」
『なに? 何だと思った?』
「いや……」
何だと思った、っていうか、なにも思いつかなかったというか。何をしでかすつもりだろうかとは思ったけど。
『まあ、夜ご飯にでも食べて』
「ということは食品か」
『内容はお楽しみ~』
そこを詳しく聞き出そうとしたが、そうこうしているうちに登校時間になった。
仕方ない。今日の夕方には明らかになることだ。楽しみにしておこう。
「なんかさー……」
昼休み。今日は勇樹も一緒に飯を食っていたのだが、咲良が俺の方を見て言った。
「春都、なんかいいことでもあった?」
「なんでだ?」
昼飯は食堂が作っている弁当だ。数量限定で内容は日替わりである。基本はご飯の上にどんとおかずがのっているもので、今日はキャベツとチキンカツだった。
「なんかそわそわしてるなーと思って」
「え、そうなんだ」
そう言って少し驚くのは勇樹だ。
「いつも通りに見える」
「いつも通りだぞ」
「えー? 絶対違うって」
食堂のチキンカツはなんと揚げたてで、サクサクと香ばしく、ソースも染みておいしい。付け合わせのキュウリの漬物はほんのりしそっぽい風味がする。ご飯に温められているのが弁当らしいなあ。
「なんか楽しいことがあったか、楽しいことがあるか!」
自信満々に言い、咲良はカツをほおばった。
「ま、たいてい飯関連だけどな」
その自信ありげな言い方に腹が立つが、あながち間違ってもいないので何も言い返せない。
実際、楽しみなのだからしょうがない。でも俺そんな顔に出てるかなあ。
「俺は分かんなかった」
勇樹は弁当を早々に食べ終わり、別に買っていたパンの袋を開けていた。
「咲良は分かりやすいけど」
「えー? 何だよそれー」
咲良はケタケタと笑った。
「俺そんな分かりやすい?」
「表情筋の可動域が広いと思う」
「それは分かる」
というか、俺の隣にいたら誰でも表情豊かに見えるものだと思うんだが。あ、でも朝比奈は似たり寄ったりだろうか。それは朝比奈に失礼か。
「俺、ポーカーフェイスじゃない? クールキャラっていうかさ」
そう決め顔をして咲良は言うが、なんか滑稽に見えて思わず笑ってしまった。
「笑うなよー」
「お前もうちょっと本気出せよ……できるだろ?」
「さっきの結構渾身の決め顔だったんだけど?」
本気で訳が分からないという顔をする咲良がさらにおかしくて、午後からの授業、たまに思い出して笑いをこらえるのに必死だった。
荷物は、帰り着いてから三十分ほどして届いた。
「これは……」
箱の中身は冷凍のアジフライだった。おお、このまま揚げればいいってことか。一袋にいくつも入っているんだな……って五袋も来てるし。しばらくアジフライには困らないなあ。
「ん?」
何か一緒に入っている。紙?
『来週には帰って来るよ!』
この筆跡は母さんのものだ。
そっか、来週帰ってくるのか。案外遅かったなあ。そうだ、何食いたいか聞いとかないと。どっか外食とか行くかな。
頬が緩むのを感じて、ぐにぐにともんで戻す。
さて、飯だ。
アジフライに添えるのはキャベツ。千切りにしてたっぷりと。
アジフライは衣がついていてそのまま揚げられるから、油をフライパンで温めて……
「うわ、でか」
思った倍はでかい。これは食べ応えがあるなあ。こりゃ二切れでいい。
こんがりきれいに揚がったら、皿に盛って完成だ。醤油とタルタルソースを準備しよう。
「いただきます」
しかも身が分厚い。ずっしりと箸から伝わる重さにわくわくする。
まずは醤油で。サクッと香ばしい衣、ふんわりとした身、かと思えばしっかりとした食感の部分もある。臭みもないし、魚のうま味があふれ出てくるようだ。
醤油の味がそのうま味を引き立てる。ここまでアジをしっかり楽しめるアジフライは初めてかもしれない。
キャベツはドレッシングでさっぱり。酸味が強めのドレッシングは揚げ物の時にいい。
タルタルソースをかけると一気にジャンクな感じになる。シャキッと玉ねぎにまろやかなマヨネーズ。やっぱフライとタルタルソースって合うなあ。
そしてこの組み合わせはご飯が進むんだ。
二枚目で幸せな満腹感を感じるころ、ふと手元に置いていた手紙に視線を落とす。
『来週には帰ってくるよ!』
たった一文、簡潔な言葉だけど俺の表情筋を緩めるには十分だ。
緩みすぎには、気を付けたいがな。
「ごちそうさまでした」
13
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!


妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから
キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。
「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。
何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。
一話完結の読み切りです。
ご都合主義というか中身はありません。
軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。
誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる