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日常
第二百十五話 ごぼう天うどん
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思いもよらないことが起きると、人は取り繕う暇がないものである。
休日、例のごとく図書館に行くために駅に降りたところだった。
「げっ」
「おぉ」
そこで鉢合わせたのは、咲良だった。
咲良は俺の反応にいたずらっぽく笑った。
「げっ、てなんだよ。なんか不都合でもあったか?」
「いや別に」
揃って階段を降り、改札に向かう。
「ただ、休日に知り合いに会うとなんとなくな」
「それは分からないでもない。しかし、同じ電車だとはなあ」
「案外、気づかないものだな」
「春都は何しに来たん?」
俺は暇だったから、と咲良は笑う。
「図書館に行こうと思ってな。よく来る」
「へー。じゃ、俺も行く」
「は?」
思わぬ返答に、思わず咲良を見つめる。
「普通の図書館だぞ?」
「おう」
「遊びまわるような場所じゃないからな?」
「分かってるよ。春都は俺を何だと思ってんの」
まあ、こいつがいいならいいんだけど。
まさかあの図書館に咲良と行くことになろうとはなあ。
「おや」
「あー、先生だ」
「えー……そんなことある?」
図書館に着くや否や、目に入ってきたのは漆原先生の姿だった。
「先生眼鏡だ」
「そう。似合うか?」
「似合いますね。なんか、タダものじゃないかん増し増しって感じっす」
咲良はひとしきり先生と話したところでやっと言った。
「先生何でここにいるんですか」
「今聞くか」
先生は笑って答えた。
「家が近所なのさ」
「へー。じゃあ遊びに行ってもいいですか」
「片付いているときにしてくれ」
先生の家に遊びに行かせろ、と難なく言ってのける咲良がすごいと思う。俺には絶対に無理だ。
「休みの日も仲がいいな」
「駅で偶然会ったんす」
「勝手についてきたんですよ」
「えー? ちゃんと許可取ったじゃんか」
なんだかここが学校の図書館だと錯覚してしまいそうだ。
しかしこれ以上長話するのもあれだし、会話を切り上げて本棚に向かう。
「先生って、この辺に住んでんだなー」
「ああ。何度か会ったことある」
そう言えば「へーそうなん?」と咲良は相槌を打って、話題を変えた。
「昼飯はどうするつもりだったんだ?」
「テキトーになんか買って食うか、どっか店入るか……」
「なんかおすすめの店とかねーの?」
なんて無茶振りを。
「なんか春都、おいしい店知ってそう」
「まあ知らんことはないが」
そう答えれば「だろー?」となぜか得意げに笑う咲良。
「うどん屋でいいなら」
「いーねえ。俺、うどん好き」
駅の中にはうまいうどん屋がいくつかある。今日はあっちの店に行ってみようかな。
「なに、このごぼう天」
テーブル席で向かい合って座り、メニュー表を見るなり、咲良はきょとんと目を丸くした。
「あー、それな」
この店のごぼう天は少々変わった形をしている。とにかく長いのだ。どれくらいかといえば、器からはみ出して、というか器の上に橋のようにまっすぐのっていて、もはや出汁に浸かってないくらいである。
「えー、おもしれー。でも俺はカレーうどんにする」
「頼まんのかい」
「で、トッピングにする」
なるほど。そういう手もあるか。人と飯を食いに行くと自分がしないような他の見方をするのが面白い。
俺はこのごぼう天が三本のってるやつにしよう。この店の名物なのだ。それと二人でかしわのおにぎりを一皿。
「俺、この店始めて来たなあ。春都はやっぱ来慣れてんの?」
「んー、まあ、じいちゃんばあちゃんと一緒には何回か来たなあ。親とも来たことある」
うどんもおにぎりも出てくるのが早い。日本のファストフードだ。
「いただきます」
ごぼうが場所をとっていてなんとも麺が食いづらいが、頑張って一口すする。
柔らかい麺は食べ応えもあっておいしい。出汁はうま味が濃く、ジュワッと口に温かさが広がり、腹に落ちていく。
「カレー、うまいなあ。あんまし辛くないし。出汁がうまいのかな?」
「ここのカレーうどん、結構人気らしい」
「やっぱり」
さて、ごぼうはどうだ。
サクッとした衣に歯ごたえのあるごぼう。薫り高く、食感もいい。少し短くなったら出汁につけてちょっとふやかして食べる。これはこれでおいしいんだよなあ。
ここのかしわのおにぎりはちょっと味が濃い。鶏肉も大きめで、皮の脂のうま味がよく染みだしている。
出汁にごぼうの風味が移るのが好きだ。麺と一緒に口に含めばうま味が桁違いである。
うどんは店ごとに味がだいぶ違う。その店にはその店の楽しみ方があるし、おいしさがあるというものだ。
ほんとは適当になんか買って帰るつもりだったけど、思わぬラッキーだったな。
肉うどんも気になってんだよなあ。今度はそれにしようか。もちろんごぼう天もトッピングしてな。
「ごちそうさまでした」
休日、例のごとく図書館に行くために駅に降りたところだった。
「げっ」
「おぉ」
そこで鉢合わせたのは、咲良だった。
咲良は俺の反応にいたずらっぽく笑った。
「げっ、てなんだよ。なんか不都合でもあったか?」
「いや別に」
揃って階段を降り、改札に向かう。
「ただ、休日に知り合いに会うとなんとなくな」
「それは分からないでもない。しかし、同じ電車だとはなあ」
「案外、気づかないものだな」
「春都は何しに来たん?」
俺は暇だったから、と咲良は笑う。
「図書館に行こうと思ってな。よく来る」
「へー。じゃ、俺も行く」
「は?」
思わぬ返答に、思わず咲良を見つめる。
「普通の図書館だぞ?」
「おう」
「遊びまわるような場所じゃないからな?」
「分かってるよ。春都は俺を何だと思ってんの」
まあ、こいつがいいならいいんだけど。
まさかあの図書館に咲良と行くことになろうとはなあ。
「おや」
「あー、先生だ」
「えー……そんなことある?」
図書館に着くや否や、目に入ってきたのは漆原先生の姿だった。
「先生眼鏡だ」
「そう。似合うか?」
「似合いますね。なんか、タダものじゃないかん増し増しって感じっす」
咲良はひとしきり先生と話したところでやっと言った。
「先生何でここにいるんですか」
「今聞くか」
先生は笑って答えた。
「家が近所なのさ」
「へー。じゃあ遊びに行ってもいいですか」
「片付いているときにしてくれ」
先生の家に遊びに行かせろ、と難なく言ってのける咲良がすごいと思う。俺には絶対に無理だ。
「休みの日も仲がいいな」
「駅で偶然会ったんす」
「勝手についてきたんですよ」
「えー? ちゃんと許可取ったじゃんか」
なんだかここが学校の図書館だと錯覚してしまいそうだ。
しかしこれ以上長話するのもあれだし、会話を切り上げて本棚に向かう。
「先生って、この辺に住んでんだなー」
「ああ。何度か会ったことある」
そう言えば「へーそうなん?」と咲良は相槌を打って、話題を変えた。
「昼飯はどうするつもりだったんだ?」
「テキトーになんか買って食うか、どっか店入るか……」
「なんかおすすめの店とかねーの?」
なんて無茶振りを。
「なんか春都、おいしい店知ってそう」
「まあ知らんことはないが」
そう答えれば「だろー?」となぜか得意げに笑う咲良。
「うどん屋でいいなら」
「いーねえ。俺、うどん好き」
駅の中にはうまいうどん屋がいくつかある。今日はあっちの店に行ってみようかな。
「なに、このごぼう天」
テーブル席で向かい合って座り、メニュー表を見るなり、咲良はきょとんと目を丸くした。
「あー、それな」
この店のごぼう天は少々変わった形をしている。とにかく長いのだ。どれくらいかといえば、器からはみ出して、というか器の上に橋のようにまっすぐのっていて、もはや出汁に浸かってないくらいである。
「えー、おもしれー。でも俺はカレーうどんにする」
「頼まんのかい」
「で、トッピングにする」
なるほど。そういう手もあるか。人と飯を食いに行くと自分がしないような他の見方をするのが面白い。
俺はこのごぼう天が三本のってるやつにしよう。この店の名物なのだ。それと二人でかしわのおにぎりを一皿。
「俺、この店始めて来たなあ。春都はやっぱ来慣れてんの?」
「んー、まあ、じいちゃんばあちゃんと一緒には何回か来たなあ。親とも来たことある」
うどんもおにぎりも出てくるのが早い。日本のファストフードだ。
「いただきます」
ごぼうが場所をとっていてなんとも麺が食いづらいが、頑張って一口すする。
柔らかい麺は食べ応えもあっておいしい。出汁はうま味が濃く、ジュワッと口に温かさが広がり、腹に落ちていく。
「カレー、うまいなあ。あんまし辛くないし。出汁がうまいのかな?」
「ここのカレーうどん、結構人気らしい」
「やっぱり」
さて、ごぼうはどうだ。
サクッとした衣に歯ごたえのあるごぼう。薫り高く、食感もいい。少し短くなったら出汁につけてちょっとふやかして食べる。これはこれでおいしいんだよなあ。
ここのかしわのおにぎりはちょっと味が濃い。鶏肉も大きめで、皮の脂のうま味がよく染みだしている。
出汁にごぼうの風味が移るのが好きだ。麺と一緒に口に含めばうま味が桁違いである。
うどんは店ごとに味がだいぶ違う。その店にはその店の楽しみ方があるし、おいしさがあるというものだ。
ほんとは適当になんか買って帰るつもりだったけど、思わぬラッキーだったな。
肉うどんも気になってんだよなあ。今度はそれにしようか。もちろんごぼう天もトッピングしてな。
「ごちそうさまでした」
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