217 / 854
日常
第二百十五話 ごぼう天うどん
しおりを挟む
思いもよらないことが起きると、人は取り繕う暇がないものである。
休日、例のごとく図書館に行くために駅に降りたところだった。
「げっ」
「おぉ」
そこで鉢合わせたのは、咲良だった。
咲良は俺の反応にいたずらっぽく笑った。
「げっ、てなんだよ。なんか不都合でもあったか?」
「いや別に」
揃って階段を降り、改札に向かう。
「ただ、休日に知り合いに会うとなんとなくな」
「それは分からないでもない。しかし、同じ電車だとはなあ」
「案外、気づかないものだな」
「春都は何しに来たん?」
俺は暇だったから、と咲良は笑う。
「図書館に行こうと思ってな。よく来る」
「へー。じゃ、俺も行く」
「は?」
思わぬ返答に、思わず咲良を見つめる。
「普通の図書館だぞ?」
「おう」
「遊びまわるような場所じゃないからな?」
「分かってるよ。春都は俺を何だと思ってんの」
まあ、こいつがいいならいいんだけど。
まさかあの図書館に咲良と行くことになろうとはなあ。
「おや」
「あー、先生だ」
「えー……そんなことある?」
図書館に着くや否や、目に入ってきたのは漆原先生の姿だった。
「先生眼鏡だ」
「そう。似合うか?」
「似合いますね。なんか、タダものじゃないかん増し増しって感じっす」
咲良はひとしきり先生と話したところでやっと言った。
「先生何でここにいるんですか」
「今聞くか」
先生は笑って答えた。
「家が近所なのさ」
「へー。じゃあ遊びに行ってもいいですか」
「片付いているときにしてくれ」
先生の家に遊びに行かせろ、と難なく言ってのける咲良がすごいと思う。俺には絶対に無理だ。
「休みの日も仲がいいな」
「駅で偶然会ったんす」
「勝手についてきたんですよ」
「えー? ちゃんと許可取ったじゃんか」
なんだかここが学校の図書館だと錯覚してしまいそうだ。
しかしこれ以上長話するのもあれだし、会話を切り上げて本棚に向かう。
「先生って、この辺に住んでんだなー」
「ああ。何度か会ったことある」
そう言えば「へーそうなん?」と咲良は相槌を打って、話題を変えた。
「昼飯はどうするつもりだったんだ?」
「テキトーになんか買って食うか、どっか店入るか……」
「なんかおすすめの店とかねーの?」
なんて無茶振りを。
「なんか春都、おいしい店知ってそう」
「まあ知らんことはないが」
そう答えれば「だろー?」となぜか得意げに笑う咲良。
「うどん屋でいいなら」
「いーねえ。俺、うどん好き」
駅の中にはうまいうどん屋がいくつかある。今日はあっちの店に行ってみようかな。
「なに、このごぼう天」
テーブル席で向かい合って座り、メニュー表を見るなり、咲良はきょとんと目を丸くした。
「あー、それな」
この店のごぼう天は少々変わった形をしている。とにかく長いのだ。どれくらいかといえば、器からはみ出して、というか器の上に橋のようにまっすぐのっていて、もはや出汁に浸かってないくらいである。
「えー、おもしれー。でも俺はカレーうどんにする」
「頼まんのかい」
「で、トッピングにする」
なるほど。そういう手もあるか。人と飯を食いに行くと自分がしないような他の見方をするのが面白い。
俺はこのごぼう天が三本のってるやつにしよう。この店の名物なのだ。それと二人でかしわのおにぎりを一皿。
「俺、この店始めて来たなあ。春都はやっぱ来慣れてんの?」
「んー、まあ、じいちゃんばあちゃんと一緒には何回か来たなあ。親とも来たことある」
うどんもおにぎりも出てくるのが早い。日本のファストフードだ。
「いただきます」
ごぼうが場所をとっていてなんとも麺が食いづらいが、頑張って一口すする。
柔らかい麺は食べ応えもあっておいしい。出汁はうま味が濃く、ジュワッと口に温かさが広がり、腹に落ちていく。
「カレー、うまいなあ。あんまし辛くないし。出汁がうまいのかな?」
「ここのカレーうどん、結構人気らしい」
「やっぱり」
さて、ごぼうはどうだ。
サクッとした衣に歯ごたえのあるごぼう。薫り高く、食感もいい。少し短くなったら出汁につけてちょっとふやかして食べる。これはこれでおいしいんだよなあ。
ここのかしわのおにぎりはちょっと味が濃い。鶏肉も大きめで、皮の脂のうま味がよく染みだしている。
出汁にごぼうの風味が移るのが好きだ。麺と一緒に口に含めばうま味が桁違いである。
うどんは店ごとに味がだいぶ違う。その店にはその店の楽しみ方があるし、おいしさがあるというものだ。
ほんとは適当になんか買って帰るつもりだったけど、思わぬラッキーだったな。
肉うどんも気になってんだよなあ。今度はそれにしようか。もちろんごぼう天もトッピングしてな。
「ごちそうさまでした」
休日、例のごとく図書館に行くために駅に降りたところだった。
「げっ」
「おぉ」
そこで鉢合わせたのは、咲良だった。
咲良は俺の反応にいたずらっぽく笑った。
「げっ、てなんだよ。なんか不都合でもあったか?」
「いや別に」
揃って階段を降り、改札に向かう。
「ただ、休日に知り合いに会うとなんとなくな」
「それは分からないでもない。しかし、同じ電車だとはなあ」
「案外、気づかないものだな」
「春都は何しに来たん?」
俺は暇だったから、と咲良は笑う。
「図書館に行こうと思ってな。よく来る」
「へー。じゃ、俺も行く」
「は?」
思わぬ返答に、思わず咲良を見つめる。
「普通の図書館だぞ?」
「おう」
「遊びまわるような場所じゃないからな?」
「分かってるよ。春都は俺を何だと思ってんの」
まあ、こいつがいいならいいんだけど。
まさかあの図書館に咲良と行くことになろうとはなあ。
「おや」
「あー、先生だ」
「えー……そんなことある?」
図書館に着くや否や、目に入ってきたのは漆原先生の姿だった。
「先生眼鏡だ」
「そう。似合うか?」
「似合いますね。なんか、タダものじゃないかん増し増しって感じっす」
咲良はひとしきり先生と話したところでやっと言った。
「先生何でここにいるんですか」
「今聞くか」
先生は笑って答えた。
「家が近所なのさ」
「へー。じゃあ遊びに行ってもいいですか」
「片付いているときにしてくれ」
先生の家に遊びに行かせろ、と難なく言ってのける咲良がすごいと思う。俺には絶対に無理だ。
「休みの日も仲がいいな」
「駅で偶然会ったんす」
「勝手についてきたんですよ」
「えー? ちゃんと許可取ったじゃんか」
なんだかここが学校の図書館だと錯覚してしまいそうだ。
しかしこれ以上長話するのもあれだし、会話を切り上げて本棚に向かう。
「先生って、この辺に住んでんだなー」
「ああ。何度か会ったことある」
そう言えば「へーそうなん?」と咲良は相槌を打って、話題を変えた。
「昼飯はどうするつもりだったんだ?」
「テキトーになんか買って食うか、どっか店入るか……」
「なんかおすすめの店とかねーの?」
なんて無茶振りを。
「なんか春都、おいしい店知ってそう」
「まあ知らんことはないが」
そう答えれば「だろー?」となぜか得意げに笑う咲良。
「うどん屋でいいなら」
「いーねえ。俺、うどん好き」
駅の中にはうまいうどん屋がいくつかある。今日はあっちの店に行ってみようかな。
「なに、このごぼう天」
テーブル席で向かい合って座り、メニュー表を見るなり、咲良はきょとんと目を丸くした。
「あー、それな」
この店のごぼう天は少々変わった形をしている。とにかく長いのだ。どれくらいかといえば、器からはみ出して、というか器の上に橋のようにまっすぐのっていて、もはや出汁に浸かってないくらいである。
「えー、おもしれー。でも俺はカレーうどんにする」
「頼まんのかい」
「で、トッピングにする」
なるほど。そういう手もあるか。人と飯を食いに行くと自分がしないような他の見方をするのが面白い。
俺はこのごぼう天が三本のってるやつにしよう。この店の名物なのだ。それと二人でかしわのおにぎりを一皿。
「俺、この店始めて来たなあ。春都はやっぱ来慣れてんの?」
「んー、まあ、じいちゃんばあちゃんと一緒には何回か来たなあ。親とも来たことある」
うどんもおにぎりも出てくるのが早い。日本のファストフードだ。
「いただきます」
ごぼうが場所をとっていてなんとも麺が食いづらいが、頑張って一口すする。
柔らかい麺は食べ応えもあっておいしい。出汁はうま味が濃く、ジュワッと口に温かさが広がり、腹に落ちていく。
「カレー、うまいなあ。あんまし辛くないし。出汁がうまいのかな?」
「ここのカレーうどん、結構人気らしい」
「やっぱり」
さて、ごぼうはどうだ。
サクッとした衣に歯ごたえのあるごぼう。薫り高く、食感もいい。少し短くなったら出汁につけてちょっとふやかして食べる。これはこれでおいしいんだよなあ。
ここのかしわのおにぎりはちょっと味が濃い。鶏肉も大きめで、皮の脂のうま味がよく染みだしている。
出汁にごぼうの風味が移るのが好きだ。麺と一緒に口に含めばうま味が桁違いである。
うどんは店ごとに味がだいぶ違う。その店にはその店の楽しみ方があるし、おいしさがあるというものだ。
ほんとは適当になんか買って帰るつもりだったけど、思わぬラッキーだったな。
肉うどんも気になってんだよなあ。今度はそれにしようか。もちろんごぼう天もトッピングしてな。
「ごちそうさまでした」
13
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!


妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから
キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。
「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。
何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。
一話完結の読み切りです。
ご都合主義というか中身はありません。
軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。
誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる