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日常
第二百十三話 ポテトサラダ
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風通しもよく日当たりもいい窓際は絶好の昼寝スポットだ。
特に今日は一月だというのにポカポカと気持ちがいい。昼休み前にもなればもう机も椅子も温まって最高だ。
うっすらと目をつむってぼーっとしていたら、廊下から戻ってきた勇樹が前の席に座った。
「なんかお前、冷気まとってんな」
「廊下は日が当たらないから寒ぃんだよ」
「あーそう」
日の光の温かさを享受していたら、勇樹が言った。
「なんか縁側で日向ぼっこしてる犬みたいだ」
「あー?」
「四時間目寝るなよなー」
そう言いながら勇樹は前を向いた。
「次何だっけ」
「英語表現」
「げぇ」
「げぇってお前」
はー、こりゃ寝ないようにしないとなあ。
しかし一度やってきた眠気とは厄介なもので、チョークと黒板が触れる音、校庭から聞こえる体育の声、ノートのページをめくる音、そのすべてが子守歌となって増していく。
眉間を思いっきり押してみたり、目薬をさしてみたりするがどちらも気休め程度にしかならない。
咲良が授業中に寝ると言っていたが、なるほど、その気持ちがよく分かる。
気を抜けばいつでも手放せそうな意識の中、何とかしてノートをとる。時々、何書いてるか分からなくなるな。授業中、ここまで眠いのは初めてだ。
あくびを噛み殺し、ふと外に視線をやる。
なんとまあ穏やかな世界が広がっていることか。こんな日に窓辺で日向ぼっこをしながら昼寝ができたらどんなに気持ちいいだろう。きっとうめずは今頃、のんびりと野生を忘れて眠っていることだろう。
「ここまで板書したら顔上げて……ほれ、そこ」
こちらに声が飛んできてハッとする。先生の視線はこっちを向いていたが、見ているのは俺ではないらしい。
前の席では、勇樹が舟をこいでいた。
「気持ちいいのは分かるが、寝るのはせめて昼休みにしろ。もうちょっと頑張れ」
「はぇ。はい」
忠告したやつが寝ていては世話ないな。
「おーい、春都。おーい」
「……ん」
顔を上げれば、ぼやけた視界。目を凝らせばそこには顔をのぞき込んでくる咲良がいた。
「やべ、俺寝てた?」
「かなりぐっすり」
そう言いながら咲良はパイプ椅子をもってきて座ると、少しいたずらっぽく笑った。
「授業中も寝てたんだろ」
「寝てねー……と、思う」
「ありゃ、意外な返答」
「最後の方、覚えてない」
時間が余って「五分だけ自習」って言われたとこまでは覚えてんだよなあ……そこで気が抜けたか。
「めずらしー。春都が寝るとか」
「だってお前……これで寝るなっていう方が無理あるだろ」
弁当袋を取り出しながら言えば「言えてる」と咲良は笑った。
「いい天気だよなー。春みてぇ」
「このまま暖かくなってくれりゃあいいがな」
「でも大抵寒いのって二月だろ? 雪とか降るし」
その温度差が堪えるんだよなあ。
「そういやさ、春都。こないだのジャガイモ全部食った?」
「ん?」
バリッ、と咲良は菓子パンの袋を開けた。
自分も弁当の蓋を開く。野菜のふりかけがかかったご飯が目に鮮やかだ。おかずはいつも通り、ミートボール、卵焼き、プチトマトにたこさんウインナー。
「いや、まだだけど」
「ジャガバターにして食ったって言ってたっけ?」
「ああ。でもさすがにそれだけで消費はできねえよ」
ならよかった、と咲良は笑った。
「あとで思い出したんだけどさ、あれ、ポテトサラダにおすすめって書いてあったんだよね」
「そうなん」
まあ、確かにあのほくほく加減は、ポテサラにしたらうまそうだ。
「簡単な作り方もあったんだよな。レジの人にもらった」
「それを先に言え」
「わりーわりー。あとで渡すよ」
まだポテサラにできる分ぐらいジャガイモは残っている。
晩のおかず、決まりだな。
咲良からもらったレシピによると、なるほど、確かに簡単なようだ。
ジャガイモを洗って、ラップを巻いてレンジでチン。その間にキュウリと玉ねぎ、ハムを切っておく。
レンジでチンしたジャガイモは皮をむいて荒くつぶす。
そこにキュウリ、玉ねぎ、ハム、そしてマヨネーズを入れて混ぜる。塩コショウで味を調えたら完成だ。
ジャガイモ自体がうまいので、他の具材は少なめでもよさそうだ。
「いただきます」
ごろっと少し形が残った感じがいい。
トロトロのところはしっかり味がなじんでいる。ごろっとしたところはほくほくで、まだほんのり温かい。
キュウリも控えめながらいい風味だ。玉ねぎはちょっと辛いが、まったりした味の中にあると引き締まる。
たいてい魚肉ソーセージを使うが、ハムもまたいい。ささやかな塩気と肉っ気が程よく、ジャガイモとの相性はばっちりだ。
にしてもジャガイモって、普段食ってるのとこんなに違うもんなんだなあ。
いつものもうまいけど、これはさらにうまいというか。月並みな表現にしかならないが。でも、味が違うということはよく分かる。
あ、コロッケとかもいいかも。ほくほくしてうまいだろうなあ。
まあそれだけのジャガイモは残ってないけど。
父さんと母さん、今回どこに行ってるんだっけ。お土産にジャガイモ買ってこないかなあ。
「ごちそうさまでした」
特に今日は一月だというのにポカポカと気持ちがいい。昼休み前にもなればもう机も椅子も温まって最高だ。
うっすらと目をつむってぼーっとしていたら、廊下から戻ってきた勇樹が前の席に座った。
「なんかお前、冷気まとってんな」
「廊下は日が当たらないから寒ぃんだよ」
「あーそう」
日の光の温かさを享受していたら、勇樹が言った。
「なんか縁側で日向ぼっこしてる犬みたいだ」
「あー?」
「四時間目寝るなよなー」
そう言いながら勇樹は前を向いた。
「次何だっけ」
「英語表現」
「げぇ」
「げぇってお前」
はー、こりゃ寝ないようにしないとなあ。
しかし一度やってきた眠気とは厄介なもので、チョークと黒板が触れる音、校庭から聞こえる体育の声、ノートのページをめくる音、そのすべてが子守歌となって増していく。
眉間を思いっきり押してみたり、目薬をさしてみたりするがどちらも気休め程度にしかならない。
咲良が授業中に寝ると言っていたが、なるほど、その気持ちがよく分かる。
気を抜けばいつでも手放せそうな意識の中、何とかしてノートをとる。時々、何書いてるか分からなくなるな。授業中、ここまで眠いのは初めてだ。
あくびを噛み殺し、ふと外に視線をやる。
なんとまあ穏やかな世界が広がっていることか。こんな日に窓辺で日向ぼっこをしながら昼寝ができたらどんなに気持ちいいだろう。きっとうめずは今頃、のんびりと野生を忘れて眠っていることだろう。
「ここまで板書したら顔上げて……ほれ、そこ」
こちらに声が飛んできてハッとする。先生の視線はこっちを向いていたが、見ているのは俺ではないらしい。
前の席では、勇樹が舟をこいでいた。
「気持ちいいのは分かるが、寝るのはせめて昼休みにしろ。もうちょっと頑張れ」
「はぇ。はい」
忠告したやつが寝ていては世話ないな。
「おーい、春都。おーい」
「……ん」
顔を上げれば、ぼやけた視界。目を凝らせばそこには顔をのぞき込んでくる咲良がいた。
「やべ、俺寝てた?」
「かなりぐっすり」
そう言いながら咲良はパイプ椅子をもってきて座ると、少しいたずらっぽく笑った。
「授業中も寝てたんだろ」
「寝てねー……と、思う」
「ありゃ、意外な返答」
「最後の方、覚えてない」
時間が余って「五分だけ自習」って言われたとこまでは覚えてんだよなあ……そこで気が抜けたか。
「めずらしー。春都が寝るとか」
「だってお前……これで寝るなっていう方が無理あるだろ」
弁当袋を取り出しながら言えば「言えてる」と咲良は笑った。
「いい天気だよなー。春みてぇ」
「このまま暖かくなってくれりゃあいいがな」
「でも大抵寒いのって二月だろ? 雪とか降るし」
その温度差が堪えるんだよなあ。
「そういやさ、春都。こないだのジャガイモ全部食った?」
「ん?」
バリッ、と咲良は菓子パンの袋を開けた。
自分も弁当の蓋を開く。野菜のふりかけがかかったご飯が目に鮮やかだ。おかずはいつも通り、ミートボール、卵焼き、プチトマトにたこさんウインナー。
「いや、まだだけど」
「ジャガバターにして食ったって言ってたっけ?」
「ああ。でもさすがにそれだけで消費はできねえよ」
ならよかった、と咲良は笑った。
「あとで思い出したんだけどさ、あれ、ポテトサラダにおすすめって書いてあったんだよね」
「そうなん」
まあ、確かにあのほくほく加減は、ポテサラにしたらうまそうだ。
「簡単な作り方もあったんだよな。レジの人にもらった」
「それを先に言え」
「わりーわりー。あとで渡すよ」
まだポテサラにできる分ぐらいジャガイモは残っている。
晩のおかず、決まりだな。
咲良からもらったレシピによると、なるほど、確かに簡単なようだ。
ジャガイモを洗って、ラップを巻いてレンジでチン。その間にキュウリと玉ねぎ、ハムを切っておく。
レンジでチンしたジャガイモは皮をむいて荒くつぶす。
そこにキュウリ、玉ねぎ、ハム、そしてマヨネーズを入れて混ぜる。塩コショウで味を調えたら完成だ。
ジャガイモ自体がうまいので、他の具材は少なめでもよさそうだ。
「いただきます」
ごろっと少し形が残った感じがいい。
トロトロのところはしっかり味がなじんでいる。ごろっとしたところはほくほくで、まだほんのり温かい。
キュウリも控えめながらいい風味だ。玉ねぎはちょっと辛いが、まったりした味の中にあると引き締まる。
たいてい魚肉ソーセージを使うが、ハムもまたいい。ささやかな塩気と肉っ気が程よく、ジャガイモとの相性はばっちりだ。
にしてもジャガイモって、普段食ってるのとこんなに違うもんなんだなあ。
いつものもうまいけど、これはさらにうまいというか。月並みな表現にしかならないが。でも、味が違うということはよく分かる。
あ、コロッケとかもいいかも。ほくほくしてうまいだろうなあ。
まあそれだけのジャガイモは残ってないけど。
父さんと母さん、今回どこに行ってるんだっけ。お土産にジャガイモ買ってこないかなあ。
「ごちそうさまでした」
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