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日常
第二百十二話 具だくさんみそ汁
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アクティブラーニングだか何だか知らないが、最近はやたらと会話形式の授業が多い。
特に三学期。受験やら高校入試やらで授業が削られ、先生たちも忙しい。特に高校入試の一般試験とか推薦とかの評価をつける日は、大方の先生たちが駆り出される。そこで、生徒たちだけでなんとか運営できる研究発表みたいなのがあるわけで。
「これってさー、どう書けばいいわけ?」
「文字数やば。こんなに書けねーよ」
「そもそも話題が思いつかないっての」
今日はその班決めともに、自分たちが何を題材に発表を行うのかを決めなければならなかった。
英文で書いて英語で発表というやつで、正直乗り気じゃない。
クラスを六班に分け、まずはクラス内で発表をする。それで代表が二班選ばれ、あとはクラスマッチ形式だ。
なんかもう有志だけでやればいいのにと思ってしまうんだが。
しかし決まっていることは変えられない。せめて目立たない係になろう。発表以外のやつ。去年は咲良と英文作ったんだっけ。あいつあんま戦力にならなくて、ほとんど俺が作ったんだよなあ……
今年もそれでいいや。
「じゃあ、係決めようぜ」
一班六人で、うちの班のリーダーは勇樹だった。
「なんかやりたいのあるやついる?」
「英文作る」
「春都は英文作成ね。他にやりたいやついる?」
英文作成は案外骨が折れる作業だ。率先してやりたいというやつはいない。というかどういうわけか、俺にはほとほと理解できないが、発表係希望者が結構多い。
「じゃ、とりあえず春都は決定な」
ひそかに安堵の息をつく。
間違ってるかどうかは先生も確認してくれるし、英文を考えるのは手間だがなんてことない。
それからはとんとん拍子で係も決まり、結局、俺は勇樹とともに英文を製作することとなった。
今日は六、七時間目とぶっ続けでホームルームの時間がとられている。十分休憩の間、係を記入する用紙に全員の名前を書いている勇樹に言ってみる。
「てっきり発表したいのかと思ってた」
すると勇樹は「んー」と用紙から視線を離さないまま答えた。
「俺リーダーだし、おいしいとこ全取りは気が引けるでしょ」
「おいしいとこ……?」
「だってさ、リーダーとか発表係ってわかりやすく目立つし、評価されやすそうじゃん?」
なるほど、そういう考え方もあるのか。
「それに正直」記入を終えた勇樹は顔を上げ、こちらを向いて声を潜めて言ったものだ。
「発表したくないから、リーダーになったようなもんだし?」
「え、そうなん」
むしろ率先して発表したがりそうなものだが。
勇樹は苦笑して続けた。
「発表自体は別にいいんだよ。ただなんていうか『なんかしなきゃ!』ってプレッシャーがな……」
「あー」
確かに、こいつが発表すると聞いたら、何かしてくれるんじゃないかってちょっと思ってしまう。
好きでやってるものだと思っていたが、なんだ。
「人並みに緊張するんだな、お前」
そう言えば勇樹は笑った。
「当たり前だ。俺だって人間だからな」
頬杖をつき、もう一方の手で器用にペン回しをしながら勇樹は言う。
「まあ、最近じゃ周りからの期待に応える気は失せてんだけど」
「じゃあいいじゃん」
「それとこれとは別」
そうこうしているうちにチャイムが鳴った。まあ、前の時間からの続きなのでだらだらと始まる。
「じゃーあとは何について書くかだな」
その辺について俺は意見などない。
やる気のあるやつらが勝手に決めてくれれば、俺は黙って英文に起こすだけだ。
会
やっと放課後だ。机にだらりとうなだれる。
グループで授業があると、いつもの倍、いやそれ以上に疲れる。
もう普通でいいんだけどなあ。研究発表とかしなくて自習で。
それに、会話し慣れないやつらと話すのが疲れるんだよ。まあ、生活してる限り全く話さない、ってわけにはいかないんだけどさ。
「はー……」
こんな日はうまいものを食うに限る。そうと決まればさっさと帰り支度をしなければ。
リュックサックに教科書を詰め、忘れ物がないかを確認していたら咲良がやってきた。
「春都ー帰ろうぜー」
こいつもグループワークがあったろうに、いつもと変わらないのんきな笑顔だ。
「……どしたー?」
「まさかお前を見てほっとするとはな」
「あれ? 俺バカにされてる?」
きょとんと首をかしげる咲良に言ってやる。
「褒めてんだよ」
手軽にできるうまい飯とはなんだ。
冷凍食品、インスタント、チルド……しかし今日はそのどれでも違う。
みそ汁だ。
「野菜は……っと」
具材をたっぷり入れれば十分なおかずになる。
キャベツ、ニンジン、しいたけ、それと、鶏のつみれと豆腐。もはや鍋ともいえるラインナップだがこれはれっきとしたみそ汁だ。鶏のつみれは手作りする。手間だが、これがうまいんだ。
まずは鍋で湯を沸かし、出汁を入れたらつくねを入れる。そして火が通ってきたら、薄く切ったキャベツ、ニンジン、しいたけを入れて、味噌を溶き、最後に豆腐を入れたら完成だ。
あ、そうだ。卵も落とすか。
「いい感じだな。――いただきます」
まずは卵を破らずに一口すする。あ~、身に染みる温かさと出汁のうま味、味噌の香ばしさ。やっぱみそ汁って落ち着く。
キャベツも甘く、ニンジンもほくほくだ。そしてしいたけ。
みそ汁のしいたけ、めっちゃ好きなんだよな。程よい弾力とあふれ出るうま味。軸の所もきれいなら入れる。ここがまた食感も風味もいいんだ。
つみれもほろほろで、食べ応えがあっておいしい。豆腐もしみじみとするような大豆のうま味がいい。
そして、卵。
半熟なのでとろりとあふれ出る黄色がまぶしい。卵のコクとまろやかさが加わったみそ汁はまた風味が変わっていい。
つみれを卵につけるとき、なんだかワクワクする。すげー豪華な食事って感じだ。
「はー……おいしい」
こぼすようにつぶやけば、一気に体が緩んだ。知らぬうちに力が入ってるもんだなあ。
ご飯のおかずは星の数ほどある。しかし、なんだかんだいって、みそ汁が一番なんじゃないかと思ってしまう。
みそ汁とご飯。最高のコンビだ。
「ごちそうさまでした」
特に三学期。受験やら高校入試やらで授業が削られ、先生たちも忙しい。特に高校入試の一般試験とか推薦とかの評価をつける日は、大方の先生たちが駆り出される。そこで、生徒たちだけでなんとか運営できる研究発表みたいなのがあるわけで。
「これってさー、どう書けばいいわけ?」
「文字数やば。こんなに書けねーよ」
「そもそも話題が思いつかないっての」
今日はその班決めともに、自分たちが何を題材に発表を行うのかを決めなければならなかった。
英文で書いて英語で発表というやつで、正直乗り気じゃない。
クラスを六班に分け、まずはクラス内で発表をする。それで代表が二班選ばれ、あとはクラスマッチ形式だ。
なんかもう有志だけでやればいいのにと思ってしまうんだが。
しかし決まっていることは変えられない。せめて目立たない係になろう。発表以外のやつ。去年は咲良と英文作ったんだっけ。あいつあんま戦力にならなくて、ほとんど俺が作ったんだよなあ……
今年もそれでいいや。
「じゃあ、係決めようぜ」
一班六人で、うちの班のリーダーは勇樹だった。
「なんかやりたいのあるやついる?」
「英文作る」
「春都は英文作成ね。他にやりたいやついる?」
英文作成は案外骨が折れる作業だ。率先してやりたいというやつはいない。というかどういうわけか、俺にはほとほと理解できないが、発表係希望者が結構多い。
「じゃ、とりあえず春都は決定な」
ひそかに安堵の息をつく。
間違ってるかどうかは先生も確認してくれるし、英文を考えるのは手間だがなんてことない。
それからはとんとん拍子で係も決まり、結局、俺は勇樹とともに英文を製作することとなった。
今日は六、七時間目とぶっ続けでホームルームの時間がとられている。十分休憩の間、係を記入する用紙に全員の名前を書いている勇樹に言ってみる。
「てっきり発表したいのかと思ってた」
すると勇樹は「んー」と用紙から視線を離さないまま答えた。
「俺リーダーだし、おいしいとこ全取りは気が引けるでしょ」
「おいしいとこ……?」
「だってさ、リーダーとか発表係ってわかりやすく目立つし、評価されやすそうじゃん?」
なるほど、そういう考え方もあるのか。
「それに正直」記入を終えた勇樹は顔を上げ、こちらを向いて声を潜めて言ったものだ。
「発表したくないから、リーダーになったようなもんだし?」
「え、そうなん」
むしろ率先して発表したがりそうなものだが。
勇樹は苦笑して続けた。
「発表自体は別にいいんだよ。ただなんていうか『なんかしなきゃ!』ってプレッシャーがな……」
「あー」
確かに、こいつが発表すると聞いたら、何かしてくれるんじゃないかってちょっと思ってしまう。
好きでやってるものだと思っていたが、なんだ。
「人並みに緊張するんだな、お前」
そう言えば勇樹は笑った。
「当たり前だ。俺だって人間だからな」
頬杖をつき、もう一方の手で器用にペン回しをしながら勇樹は言う。
「まあ、最近じゃ周りからの期待に応える気は失せてんだけど」
「じゃあいいじゃん」
「それとこれとは別」
そうこうしているうちにチャイムが鳴った。まあ、前の時間からの続きなのでだらだらと始まる。
「じゃーあとは何について書くかだな」
その辺について俺は意見などない。
やる気のあるやつらが勝手に決めてくれれば、俺は黙って英文に起こすだけだ。
会
やっと放課後だ。机にだらりとうなだれる。
グループで授業があると、いつもの倍、いやそれ以上に疲れる。
もう普通でいいんだけどなあ。研究発表とかしなくて自習で。
それに、会話し慣れないやつらと話すのが疲れるんだよ。まあ、生活してる限り全く話さない、ってわけにはいかないんだけどさ。
「はー……」
こんな日はうまいものを食うに限る。そうと決まればさっさと帰り支度をしなければ。
リュックサックに教科書を詰め、忘れ物がないかを確認していたら咲良がやってきた。
「春都ー帰ろうぜー」
こいつもグループワークがあったろうに、いつもと変わらないのんきな笑顔だ。
「……どしたー?」
「まさかお前を見てほっとするとはな」
「あれ? 俺バカにされてる?」
きょとんと首をかしげる咲良に言ってやる。
「褒めてんだよ」
手軽にできるうまい飯とはなんだ。
冷凍食品、インスタント、チルド……しかし今日はそのどれでも違う。
みそ汁だ。
「野菜は……っと」
具材をたっぷり入れれば十分なおかずになる。
キャベツ、ニンジン、しいたけ、それと、鶏のつみれと豆腐。もはや鍋ともいえるラインナップだがこれはれっきとしたみそ汁だ。鶏のつみれは手作りする。手間だが、これがうまいんだ。
まずは鍋で湯を沸かし、出汁を入れたらつくねを入れる。そして火が通ってきたら、薄く切ったキャベツ、ニンジン、しいたけを入れて、味噌を溶き、最後に豆腐を入れたら完成だ。
あ、そうだ。卵も落とすか。
「いい感じだな。――いただきます」
まずは卵を破らずに一口すする。あ~、身に染みる温かさと出汁のうま味、味噌の香ばしさ。やっぱみそ汁って落ち着く。
キャベツも甘く、ニンジンもほくほくだ。そしてしいたけ。
みそ汁のしいたけ、めっちゃ好きなんだよな。程よい弾力とあふれ出るうま味。軸の所もきれいなら入れる。ここがまた食感も風味もいいんだ。
つみれもほろほろで、食べ応えがあっておいしい。豆腐もしみじみとするような大豆のうま味がいい。
そして、卵。
半熟なのでとろりとあふれ出る黄色がまぶしい。卵のコクとまろやかさが加わったみそ汁はまた風味が変わっていい。
つみれを卵につけるとき、なんだかワクワクする。すげー豪華な食事って感じだ。
「はー……おいしい」
こぼすようにつぶやけば、一気に体が緩んだ。知らぬうちに力が入ってるもんだなあ。
ご飯のおかずは星の数ほどある。しかし、なんだかんだいって、みそ汁が一番なんじゃないかと思ってしまう。
みそ汁とご飯。最高のコンビだ。
「ごちそうさまでした」
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