一条春都の料理帖

藤里 侑

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第二百一話 ビーフシチュー

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 晩飯も食い終わってあとは寝るだけ、ではあるがまだ眠気もないのでソファに座ってテレビを見る。

「お、新番組」

 それはバラエティの類で、いろいろな飲食チェーン店のメニューを紹介したり、コンビニ各社のおすすめラインナップを見せたりするやつだった。

 こういうのは結構好きだ。この辺にないような店も紹介されるが、それはそれで珍しくて楽しい。

 今日はいろんなファミレスの人気グランドメニューが紹介されていた。

『見てください、この肉汁! こんなにジューシーなのには秘密があるんです』

「ハンバーグか……」

 ファミレスのハンバーグって、妙にうまそうに見えるときがあるんだよなあ。ハンバーグだけじゃない、バラエティプレートも魅力的だ。ソーセージとエビフライがのったやつ。クリームコロッケのやつもあったっけ。食べたくてもなかなか手が出せないのはサイコロステーキが添えられているやつだ。

『洋風メニューに目が行きがちですが、和食、中華も魅力的ですよね』

 それは分かる。

 みそ汁とかうまいんだよな。何気にお新香とかもいい味なんだ。だからいつもセットメニューは和風セットか洋風セットか迷う。

 中華は……あんま頼んだことないなあ。

『こちらのエビチリは辛さをマイルドにしてあるので、お子様から楽しめます。辛いのがお好みの方は特製のラー油を後がけすれば大人の味に。ビールにもよく合うと、おつまみメニューとしても人気です』

 俺は米で食いたいな。そういや、ちらっとだけ見たことあるけど、お酒の種類もいっぱいあったよなあ。ファミレスって、何でもありって感じだ。

『そして豊富なサイドメニュー』

 そうそう。フライドポテトとかファミレスごとに特徴あるよな。どっかはクリスピータイプも選べるらしい。それこそおつまみメニューもある。何気にこれがご飯のお供になりそうなんだよ。からあげとかポテトとかの盛り合わせもいい。

 ピザも結構種類が豊富だ。クリスピー生地からもちもちの生地まで、トッピングも選択肢が多い。

『デザートも人気ですよね~』

 パフェやケーキ、意外と頼んだことがない。

 食べてみたいのも結構ある。パンケーキとかうまそうなんだよな。たっぷりの生クリーム、追加料金を払えばアイスまで添えてくれる。

 なかなか一人じゃファミレスには行かないがなあ。

『数あるメニューの中でも一番人気は……こちら!』

「……ビーフシチューか」

 サイコロステーキとかに使うような肉が入った、焦げ茶色がまぶしいビーフシチュー。

 ごろっとした肉はパッと見、弾力がありそうではあるがスプーンを入れればホロホロッと崩れてしまう。ジャガイモやニンジンもしっかり煮込まれていて、店で焼いているらしいパンとの相性がよさそうだ。

「うまそうだなあ」

 ファミレスのパン、結構うまいんだよな。ちゃんと他のメニューに合うようになってんだ。

 ていうか、ビーフシチュー。最近食ってないし、めっちゃうまそう。

「明日の晩飯にするか」

 こんなもん見せられたら、食べたくなるに決まってるじゃないか。いや、勝手に俺が見ただけなんだけど。

 とにかく。明日はビーフシチューだ。もう決めた。

 テレビの電源を切る。これ以上見たらまた腹が減ってしまいそうだ。

 あー、何なら今すぐにでも食いてえなあ。



 いつもであれば、ビーフシチューとは名ばかりの、豚肉や鶏肉シチューになるのだが、どうしても今日は牛肉で食いたかった。

 高額なものは買えない。でも、できれば大きめのがいい。薄切りじゃなくて、大きめの。

「安くなってるといいなあ……」

 運が良ければ、夕暮れ時のスーパーの精肉コーナーには割引シールが張られた肉のパックが並んでいるのだ。普段はあまり買わないのでよく見ないのだが、今日ばかりは店に入る前からそわそわしっぱなしだった。

 ルーや野菜も買わなければいけないのだが、とりあえず精肉コーナーに向かう。

「……お、よっしゃ」

 今日は運がいい日のようだった。

 ごろっと切り分けられた牛肉のパック、そこには三割引きのシールが貼ってあった。これを買わずしてどうする。

 ジャガイモはうちにあるし、買う野菜はニンジンと玉ねぎとサラダ用の葉物野菜だ。

 ビーフシチューのルーはいつもの。そうそう、パンも忘れちゃいけない。

「ありゃ、いつものがない」

 いつも買っているフランスパンが売り切れだ。ビーフシチューにはフランスパンが合うと思ったんだけどなあ……ん?

 これはどうだろう。丸いパン。ブール? うん、なんかよさそう。

 よし、役者はそろった。あとは俺が頑張って作るだけだな。



 ビーフシチューを作るのはいつぶりだろうか。食いたいと思いながら、なかなか作らなかったもんなあ。

 牛肉はすでに一口大に切ってあるのでそのままでよし。玉ねぎはちょっと厚めにスライスして、ニンジン、ジャガイモも一口大に切る。

 厚手の鍋でまずはジャガイモ以外を炒めていく。

 玉ねぎがしんなりしてきたら水を入れて煮る。灰汁が出てきたらその都度とっていく。だんだん鍋の中身がきれいになっていくのを見るのが好きで、徹底的に灰汁をとってしまうが、うま味まで一緒にすくっては意味がないので気を付けなければ。

 肉が柔らかくなったらジャガイモを入れさらに少し煮込む。

 煮込んだらいったん火を止めてルーを溶かす。とかしたら再び火をつけて、とろみがつくまで少しかき混ぜながら煮込んだら完成だ。

 パンは少しトーストした方がおいしいと袋に書いてあったので、二つほど焼く。

 よし、できた。

「いただきます」

 コクのある香りをいっぱいに吸い込んで、まずはスープを一口。

 肉のうま味と野菜のうま味、その両方が染み出したトロトロのスープがたまらない。ホワイトシチューとはまた違った香ばしさのようなものも楽しめておいしい。

 ジャガイモもいい感じに煮込めたようでとろける食感がいい。ニンジンもいい感じに甘い。

 そして大本命、肉。

 お店のものほどではないが、それでもかなり柔らかく煮込めている。味もしっかり染みているし、肉自体の味もおいしい。臭みもなく、うま味がジュワッと染みだしてくる。

 パンは、表面はカリッと、中はもっちりしっとりとした食感でシチューによく合う。

 今度からフランスパンと迷いそうだなあ。

 サラダはキャベツの千切りにオニオンスライスを少々と、ピーマンも添えた。オリーブたっぷりのドレッシングとよく合う青々しさとさわやかさだ。

 パンをしっかりスープに浸して、肉と一緒に食べる。うん、最高にうまい。パンがしっとりとしているから、スープも肉もよくなじむんだ。

 明日はご飯にかけて食う。

 結構たっぷりできたけど、この調子なら、しっかり食べきれそうだな。満足満足。



「ごちそうさまでした」
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