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日常
第百九十九話 ミートソースグラタン
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三学期は、三年生の大学受験、高校の入学試験準備なんかで時間割が変則的であることが多い。
「おはよー春都」
校門に差し掛かったところ、咲良がほわほわと眠そうに笑いながら声をかけてきた。
「おはようございます!」
おっと、橘も一緒か。
「おはよう」
「いやー、聞いてよ春都。今日さあ、俺ら、数学二時間連続であるんだぜ? あり得無くね?」
「ははは、理系なんだから、それぐらい頑張れ」
「薄情かよ。てか何でこんな時間割り変わりまくってるわけ?」
咲良は橘に視線を向けた。
「一年もやっぱ変則的?」
「そうですね。僕のクラスじゃないですけど、数学四時間ぶっ通しとか」
「うは~、端的に言って地獄」
確かにそれはしんどそうだが、体育の代わりだと言われれば喜んで受けるな。
「やっぱ受験シーズンって、変な時間割りだよな~」
咲良のそのつぶやきを聞いて、橘は興味津々という様子で聞いてきた。
「先輩方は高校、どうしてここに決めたんですか?」
その問いに咲良と視線を合わせる。
「どうしてって……なんだろうな。考えたこともねーや」
「別に崇高な志もないしなあ」
橘の期待に応えられるような理由はなく、かといってごまかすのもめんどくさいので嘘偽りなく本当の理由を告げることにした。
「家から近かったんだよ」
あまり大きな声では言えないが、本当にそうなんだ。
「通学時間がもったいないっていうか、その時間に別のことしたかったっていうか」
「なるほど……なんかかっこいいですね、その理由!」
「そうかあ……?」
咲良は「俺も大した理由はないぞ」と笑った。
「大体うちの周りに学校がないだろ? あっても工業系とか農業系で、俺、そっち系の才能ねえし。で、西高かこっちかって選択肢しかなくて。で、こっちにしたってわけ」
「あー、僕もそんな感じで選びました」
なー? と咲良は笑い、頭の後ろで腕を組んだ。
「ほんとは推薦欲しかったけど、授業中の居眠りがたたって内申点足りなかった」
反応に困る橘を横目に「本当に居眠りだけが原因か?」と聞けば、咲良はちょっとむきになって、でも笑って答えた。
「中学の時は結構成績優秀だったんですー。高校に入ってなんか振るわないだけで、俺が本気出せばすごいんだぞ」
「あ、そう」
「信じてねえな?」
そうこうしているうちに靴箱に着いた。一年の教室は一階で、橘とはここで別れる。
「でさあ、春都」
階段をのぼりながら、咲良がこちらを見て聞いてくる。
「春都の成績なら文系専門の学科があるとこでもよかったんじゃねーの? そっち伸ばそうとか思わなかったのか?」
「あー……」
廊下の喧騒をどこか遠くに聞きながら答える。
「その考えに及ばなかったってのもあるし、何より、ゆっくり飯が食えねえだろ。それなら近くがいい」
俺にとって、飯というのは何より大切だ。それをしっかり楽しむためならどんな努力もいとわない。まあ、当然やる気――というか体力にむらがあることもあるのだが、飯を楽しむ、その一点においては妥協したくない。
「やっぱり」
咲良は楽しげに笑った。
「部活も入らず、放課後の特別講習も受けず……ほんと徹底してるよな」
「呆れたか?」
「まさか」
咲良は笑みを浮かべたまま言った。
「それでこそ春都だ」
「……ふん」
うまい飯のために労力は惜しまない。だからこそ、他に割く労力を節約したい。
そんなんじゃ物足りないって人は、それはそれでいいと思う。でも、これでいいんだ。俺はな。
平日、放課後、寒い中の登下校。
体力を消耗したときでも飯を楽しむために大事なことの一つに、手軽さというものがあると思う。手の込んだものじゃなくていい。楽の出来るメニュー。
まあ、これも俺一人分だから手軽といえるのだろうけど。
しかしレトルトのソース類は本当に手軽だ。それにおいしい。特によく使うのはミートソースだ。
パスタはもちろん、他にもいろいろと仕える逸品だ。
今日はグラタンを作る。こないだばあちゃんが来た時に大量に持って来てくれたジャガイモがあるので、それも使おう。
まずはジャガイモを切って茹でる。茹で上がったらつぶして、牛乳と塩コショウを入れて混ぜる。
グラタン皿に温めたミートソースを入れ、その上からジャガイモをのせ、そんでチーズ。
あとは焼いたら完成だ。パンも焼いとくか。
「お、いい感じ」
チーズに焦げ目がついて、香ばしい匂いが漂う。
「いただきます」
サクッとチーズの表面にスプーンを入れれば、もっちりした感触のあとしっかり目のジャガイモの感触が。結構重い。ミートソースまでちゃんとすくって、少し冷まして口に入れる。
もこもこ、とろりとした食感のジャガイモ。牛乳のコクとコショウの風味がいい。
そしてチーズの塩気がよく合う。チーズのとろけ具合とジャガイモの食感が口の中を占領して大変だ。
ミートソースのうま味も計り知れない。肉の味はもちろん、トマトのさわやかさがいい。
これをパンに塗って食べる。あ、おいしい。これ今度、グラタン皿じゃなくてパンに塗ってトーストしてもいいかもしれない。がっつり腹にたまりそうだし。
今度は卵を落としてもいいなあ。豆乳で作ってみたい気もする。
そうそう、こういうの。こういう楽しみをできる限り満喫したいから、家にいる時間が長い方を選択したんだ。
そんな選択を笑うやつがいるかもしれない。
でも、俺は後悔していない。むしろ良かったと思っている。それでいいんだ。
「ごちそうさまでした」
「おはよー春都」
校門に差し掛かったところ、咲良がほわほわと眠そうに笑いながら声をかけてきた。
「おはようございます!」
おっと、橘も一緒か。
「おはよう」
「いやー、聞いてよ春都。今日さあ、俺ら、数学二時間連続であるんだぜ? あり得無くね?」
「ははは、理系なんだから、それぐらい頑張れ」
「薄情かよ。てか何でこんな時間割り変わりまくってるわけ?」
咲良は橘に視線を向けた。
「一年もやっぱ変則的?」
「そうですね。僕のクラスじゃないですけど、数学四時間ぶっ通しとか」
「うは~、端的に言って地獄」
確かにそれはしんどそうだが、体育の代わりだと言われれば喜んで受けるな。
「やっぱ受験シーズンって、変な時間割りだよな~」
咲良のそのつぶやきを聞いて、橘は興味津々という様子で聞いてきた。
「先輩方は高校、どうしてここに決めたんですか?」
その問いに咲良と視線を合わせる。
「どうしてって……なんだろうな。考えたこともねーや」
「別に崇高な志もないしなあ」
橘の期待に応えられるような理由はなく、かといってごまかすのもめんどくさいので嘘偽りなく本当の理由を告げることにした。
「家から近かったんだよ」
あまり大きな声では言えないが、本当にそうなんだ。
「通学時間がもったいないっていうか、その時間に別のことしたかったっていうか」
「なるほど……なんかかっこいいですね、その理由!」
「そうかあ……?」
咲良は「俺も大した理由はないぞ」と笑った。
「大体うちの周りに学校がないだろ? あっても工業系とか農業系で、俺、そっち系の才能ねえし。で、西高かこっちかって選択肢しかなくて。で、こっちにしたってわけ」
「あー、僕もそんな感じで選びました」
なー? と咲良は笑い、頭の後ろで腕を組んだ。
「ほんとは推薦欲しかったけど、授業中の居眠りがたたって内申点足りなかった」
反応に困る橘を横目に「本当に居眠りだけが原因か?」と聞けば、咲良はちょっとむきになって、でも笑って答えた。
「中学の時は結構成績優秀だったんですー。高校に入ってなんか振るわないだけで、俺が本気出せばすごいんだぞ」
「あ、そう」
「信じてねえな?」
そうこうしているうちに靴箱に着いた。一年の教室は一階で、橘とはここで別れる。
「でさあ、春都」
階段をのぼりながら、咲良がこちらを見て聞いてくる。
「春都の成績なら文系専門の学科があるとこでもよかったんじゃねーの? そっち伸ばそうとか思わなかったのか?」
「あー……」
廊下の喧騒をどこか遠くに聞きながら答える。
「その考えに及ばなかったってのもあるし、何より、ゆっくり飯が食えねえだろ。それなら近くがいい」
俺にとって、飯というのは何より大切だ。それをしっかり楽しむためならどんな努力もいとわない。まあ、当然やる気――というか体力にむらがあることもあるのだが、飯を楽しむ、その一点においては妥協したくない。
「やっぱり」
咲良は楽しげに笑った。
「部活も入らず、放課後の特別講習も受けず……ほんと徹底してるよな」
「呆れたか?」
「まさか」
咲良は笑みを浮かべたまま言った。
「それでこそ春都だ」
「……ふん」
うまい飯のために労力は惜しまない。だからこそ、他に割く労力を節約したい。
そんなんじゃ物足りないって人は、それはそれでいいと思う。でも、これでいいんだ。俺はな。
平日、放課後、寒い中の登下校。
体力を消耗したときでも飯を楽しむために大事なことの一つに、手軽さというものがあると思う。手の込んだものじゃなくていい。楽の出来るメニュー。
まあ、これも俺一人分だから手軽といえるのだろうけど。
しかしレトルトのソース類は本当に手軽だ。それにおいしい。特によく使うのはミートソースだ。
パスタはもちろん、他にもいろいろと仕える逸品だ。
今日はグラタンを作る。こないだばあちゃんが来た時に大量に持って来てくれたジャガイモがあるので、それも使おう。
まずはジャガイモを切って茹でる。茹で上がったらつぶして、牛乳と塩コショウを入れて混ぜる。
グラタン皿に温めたミートソースを入れ、その上からジャガイモをのせ、そんでチーズ。
あとは焼いたら完成だ。パンも焼いとくか。
「お、いい感じ」
チーズに焦げ目がついて、香ばしい匂いが漂う。
「いただきます」
サクッとチーズの表面にスプーンを入れれば、もっちりした感触のあとしっかり目のジャガイモの感触が。結構重い。ミートソースまでちゃんとすくって、少し冷まして口に入れる。
もこもこ、とろりとした食感のジャガイモ。牛乳のコクとコショウの風味がいい。
そしてチーズの塩気がよく合う。チーズのとろけ具合とジャガイモの食感が口の中を占領して大変だ。
ミートソースのうま味も計り知れない。肉の味はもちろん、トマトのさわやかさがいい。
これをパンに塗って食べる。あ、おいしい。これ今度、グラタン皿じゃなくてパンに塗ってトーストしてもいいかもしれない。がっつり腹にたまりそうだし。
今度は卵を落としてもいいなあ。豆乳で作ってみたい気もする。
そうそう、こういうの。こういう楽しみをできる限り満喫したいから、家にいる時間が長い方を選択したんだ。
そんな選択を笑うやつがいるかもしれない。
でも、俺は後悔していない。むしろ良かったと思っている。それでいいんだ。
「ごちそうさまでした」
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