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日常
第百八十三話 皿うどん
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遠出をした翌日の、この何ともいえない脱力感は何だろうか。脱力感、というより虚無感に近いか。
「疲れたぁ……」
ベッドにだらりと横たわれば、接地しているところから体力を吸われていくようだ。
「あぁ~……」
「ねえ、春都」
枕元のぬいぐるみを背中にひいて伸びをしていたら母さんが部屋の扉を開けた。
「……何してんの? 大丈夫?」
「大丈夫~、何?」
「アイス食べない? カップアイス」
「食べる~」
反動をつけて起き上がり、ベッドからずり落ちる。
「よっこいしょ」
のっそりと立ち上がれば、母さんは笑った。
「疲れてるね」
「んー」
「アイスは何味がいい? バニラ、チョコ、抹茶」
「チョコ」
こたつにもぐりこんで息をつく。うめずはソファで横になっていた。
「あれ? 父さんは?」
「買い物行ってる」
テレビをつけたタイミングで目の前にアイスとスプーンが置かれた。
「ありがとう。いただきまーす」
丸いカップのふたを開けるのは結構力がいる。内蓋をはがし、濃い茶色のひんやりとした表面にスプーンを入れれば、細かく砕かれたクッキーの感触が伝わってくる。
ひんやりと甘く、濃いチョコの味とほろ苦いクッキーがよく合う。昨日のクレープにアイストッピングしなかったもんなあ。今日食えて満足だ。
「さー、私も食べよう」
母さんも嬉々としてこたつにもぐりこみ、バニラのアイスをほおばった。
「テレビ何やってる?」
「なんかもう特番ばっかり」
「あ、ほんと。何もないねえ」
何か録画してたかな~、と母さんがレコーダーの電源をつけたところで玄関のドアが開く音がした。
「ただいま~」
「おかえり」
「寒かった~」
父さんは俺を見るや否や、パッといたずらっぽい表情を浮かべてにじり寄ってきた。それを見たうめずがそそくさとこたつに逃げ込む。
「ちょ、待って」
「おりゃ!」
父さんの手が首に触れ、氷のような冷たさが全身を駆け巡った。
「冷たい!」
「ははは。仕返しだ」
「いつのことを根に持ってんだよー」
父さんもアイスを食べるかと聞かれていたが「寒いからあとで」と言っていた。
「うー寒い」
さっきまで程よく感じていたアイスが、途端に冷たくなったようだ。
「あ、こないだの映画、録画してたの」
「んー、面白そうだったから」
「見ていい?」
「いいよ」
アイスを食べ終え、ぼんやりとしながらテレビの画面に目を向ける。
腰を据えて見るのもいいが、少々疲れる。スマホと交互に見たり、何かしら作業をするときにBGM代わりに流したり、家で見る映画はそれぐらいがちょうどいいと最近は思う。
「あ、咲良」
ぶぶっとスマホが震え、咲良から何か送られてきた。
「写真か」
昨日、あっちこっちで咲良が撮りまくっていたやつだ。ほとんど自撮りだが、こいつ、器用だよなあ。俺が撮ったら、まず誰か一人フレームアウトする。
「そうだ」
浮かれまくった格好の咲良の写真、送っとこ。
「なにそれ?」
ソファに座っていた父さんがスマホをのぞき込んで来た。アイスを食べ終えた母さんも横からのぞき込む。
「昨日撮った写真」
「何その恰好。にぎやかだね」
「俺がさせた」
「しっかり楽しんでるなあ」
遊びに行った俺より、父さんと母さんの方がなんか楽しそうだ。
「春都もこれ着たら?」
「え、俺はいい」
「楽しそうじゃないの」
ノリノリの母さんに、苦笑してはっと気が付く。
下手したら来年の誕生日、咲良にこれを着せられるかもしれない。というか、こういうのが売ってるって知った母さんが買ってくるかもしれない。
……せめて傷が浅くなる方法を考えておかないとなあ。
落ち着く料理、というのがある。
テンション上がるとか、めったに食べられないとか、そういうワクワクもいいけど、どこかに出かけたり変わったものばかり食べたりした後には、そういう落ち着く料理というのが恋しくなる。
そんな料理の一つが今日の晩飯でもある皿うどんだ。なんとなく、皿うどんは落ち着く。
「いただきます」
皿うどんの醍醐味といったらこのたっぷり具材の餡だ。キャベツにニンジン、もやし、コーン。かまぼこもいいよな。お店だと海鮮もちょっと入ってるけど、おうち皿うどんにはなくてもいい。
餡をかけたばかりであれば、パリパリとした麺の香ばしさを楽しめる。とろみのある優しい出汁の味がする餡と、カリポリッ、サクッとした食感の麺の相性は最高だ。
キャベツの甘味、ニンジンのほくほく感、もやしのみずみずしさにコーンのはじける甘さがおいしい。
かまぼこの食感と魚の風味もいい。
ちょっと時間が経ったらふにゃっとした麺の食感が楽しい。餡となじんでうま味を増し、ほんの少しだけもちっとした感じのしっかりした食感があるのがおいしい。
「春都、味変する?」
「する」
皿うどんの味変は酢が気に入っている。
程よくかければさっぱりとして、ただでさえ箸が進む皿うどんがさらにパクパク食べられてしまう。
皿の上のコーンをかき集めていたら、気分が落ち着いているのに気付いた。
やっぱ気分も体力も、取り戻すには飯が一番だな。
「ごちそうさまでした」
「疲れたぁ……」
ベッドにだらりと横たわれば、接地しているところから体力を吸われていくようだ。
「あぁ~……」
「ねえ、春都」
枕元のぬいぐるみを背中にひいて伸びをしていたら母さんが部屋の扉を開けた。
「……何してんの? 大丈夫?」
「大丈夫~、何?」
「アイス食べない? カップアイス」
「食べる~」
反動をつけて起き上がり、ベッドからずり落ちる。
「よっこいしょ」
のっそりと立ち上がれば、母さんは笑った。
「疲れてるね」
「んー」
「アイスは何味がいい? バニラ、チョコ、抹茶」
「チョコ」
こたつにもぐりこんで息をつく。うめずはソファで横になっていた。
「あれ? 父さんは?」
「買い物行ってる」
テレビをつけたタイミングで目の前にアイスとスプーンが置かれた。
「ありがとう。いただきまーす」
丸いカップのふたを開けるのは結構力がいる。内蓋をはがし、濃い茶色のひんやりとした表面にスプーンを入れれば、細かく砕かれたクッキーの感触が伝わってくる。
ひんやりと甘く、濃いチョコの味とほろ苦いクッキーがよく合う。昨日のクレープにアイストッピングしなかったもんなあ。今日食えて満足だ。
「さー、私も食べよう」
母さんも嬉々としてこたつにもぐりこみ、バニラのアイスをほおばった。
「テレビ何やってる?」
「なんかもう特番ばっかり」
「あ、ほんと。何もないねえ」
何か録画してたかな~、と母さんがレコーダーの電源をつけたところで玄関のドアが開く音がした。
「ただいま~」
「おかえり」
「寒かった~」
父さんは俺を見るや否や、パッといたずらっぽい表情を浮かべてにじり寄ってきた。それを見たうめずがそそくさとこたつに逃げ込む。
「ちょ、待って」
「おりゃ!」
父さんの手が首に触れ、氷のような冷たさが全身を駆け巡った。
「冷たい!」
「ははは。仕返しだ」
「いつのことを根に持ってんだよー」
父さんもアイスを食べるかと聞かれていたが「寒いからあとで」と言っていた。
「うー寒い」
さっきまで程よく感じていたアイスが、途端に冷たくなったようだ。
「あ、こないだの映画、録画してたの」
「んー、面白そうだったから」
「見ていい?」
「いいよ」
アイスを食べ終え、ぼんやりとしながらテレビの画面に目を向ける。
腰を据えて見るのもいいが、少々疲れる。スマホと交互に見たり、何かしら作業をするときにBGM代わりに流したり、家で見る映画はそれぐらいがちょうどいいと最近は思う。
「あ、咲良」
ぶぶっとスマホが震え、咲良から何か送られてきた。
「写真か」
昨日、あっちこっちで咲良が撮りまくっていたやつだ。ほとんど自撮りだが、こいつ、器用だよなあ。俺が撮ったら、まず誰か一人フレームアウトする。
「そうだ」
浮かれまくった格好の咲良の写真、送っとこ。
「なにそれ?」
ソファに座っていた父さんがスマホをのぞき込んで来た。アイスを食べ終えた母さんも横からのぞき込む。
「昨日撮った写真」
「何その恰好。にぎやかだね」
「俺がさせた」
「しっかり楽しんでるなあ」
遊びに行った俺より、父さんと母さんの方がなんか楽しそうだ。
「春都もこれ着たら?」
「え、俺はいい」
「楽しそうじゃないの」
ノリノリの母さんに、苦笑してはっと気が付く。
下手したら来年の誕生日、咲良にこれを着せられるかもしれない。というか、こういうのが売ってるって知った母さんが買ってくるかもしれない。
……せめて傷が浅くなる方法を考えておかないとなあ。
落ち着く料理、というのがある。
テンション上がるとか、めったに食べられないとか、そういうワクワクもいいけど、どこかに出かけたり変わったものばかり食べたりした後には、そういう落ち着く料理というのが恋しくなる。
そんな料理の一つが今日の晩飯でもある皿うどんだ。なんとなく、皿うどんは落ち着く。
「いただきます」
皿うどんの醍醐味といったらこのたっぷり具材の餡だ。キャベツにニンジン、もやし、コーン。かまぼこもいいよな。お店だと海鮮もちょっと入ってるけど、おうち皿うどんにはなくてもいい。
餡をかけたばかりであれば、パリパリとした麺の香ばしさを楽しめる。とろみのある優しい出汁の味がする餡と、カリポリッ、サクッとした食感の麺の相性は最高だ。
キャベツの甘味、ニンジンのほくほく感、もやしのみずみずしさにコーンのはじける甘さがおいしい。
かまぼこの食感と魚の風味もいい。
ちょっと時間が経ったらふにゃっとした麺の食感が楽しい。餡となじんでうま味を増し、ほんの少しだけもちっとした感じのしっかりした食感があるのがおいしい。
「春都、味変する?」
「する」
皿うどんの味変は酢が気に入っている。
程よくかければさっぱりとして、ただでさえ箸が進む皿うどんがさらにパクパク食べられてしまう。
皿の上のコーンをかき集めていたら、気分が落ち着いているのに気付いた。
やっぱ気分も体力も、取り戻すには飯が一番だな。
「ごちそうさまでした」
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