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日常
第百六十八話 ワンタンメン
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日曜の朝、父さんと母さんを見送るために玄関にいた。
足元ではうめずが二人を見上げている。
「ま、来週の月曜には帰ってくるけど」
「今度は早いね」
「うれしい?」
「ん、まあ」
曖昧に答えると、母さんは荒く頭をなでてきた。
「クリスマスの料理は一緒に作るからね」
「分かった」
父さんは微笑んで母さんと俺のやり取りを見ていた。
「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい。気を付けて」
二人がエレベーターに乗って降りる所まで見送った後、ベランダに出る。
今日は日差しがあまりなく、曇っていてなんだか寒い。
「高いな……お、出てきた」
他に人通りもないので、父さんと母さんはすぐに分かった。
二人の姿が見えなくなったところで部屋に入る。
相変わらず、二人が出て行った後の部屋は妙に静かに感じる。まあ、明日にもなれば慣れるんだろうけど。
ソファに横になり、先日買った本を読むことにする。
クリスマスに作る料理、何にしよう。
ローストビーフは作るつもりだけど、他に何を作ろうかなあ。
「ケーキとかいいよなあ」
生クリームにイチゴたっぷりのホールケーキも定番って感じでいいけど、ブッシュドノエルも魅力的だ。いっそ大量のカップケーキとか。そういやこないだ、やたらカラフルなカップケーキがテレビで紹介されてたなあ。
お、これは何だ。シュトーレン? ……作り方を見る限り、ものすごくカロリーが高そうだ。
ケーキは種類があり過ぎて悩むなあ。楽しい悩みだからいいけど。
とりあえず保留にして、ローストビーフの作り方をしっかり勉強しておくとしよう。
「……ん」
ばさっ、と何かが落ちた音で目が覚める。
「寝落ちたか」
本を拾って、時計に視線を向ける。ずいぶん眠ってしまっていたようだ。もう昼か。
昼飯はトーストにしよう。昨日のサンドイッチのために買ってきておいた食パンが何枚か残っていたはずだ。
それと、目玉焼きでも焼こう。お、ベーコン発見。
野菜もなんか食いたいなあ。……って、こんな時のために買ってあるのが袋入りのカットレタス。最近はコンビニでも買えるし、ちょっと野菜食いたいなってときにちょうどいいサイズだ。
「よし、いただきます」
トーストにはバターを塗る。ザクッとした食感に、もっちりした部分がおいしい。バターは薫り高く、コクがある。
野菜にはマヨネーズ。ドレッシングもいいのだが、たまにマヨネーズだけで食いたくなる時がある。たまにまぎれている薄切りのパプリカもうすら甘くておいしいんだ。ちょっと野菜があるだけで豪華な気分になるのは何だろう。
ベーコンエッグは香ばしい。今日はちょっとかために卵を焼いた。
半熟ではないがガチガチでもない卵の黄身。独特な触感で結構好きだ。ベーコンのカリカリしたところがちょっとテンション上がる。
「ごちそうさまでした」
皿を洗い終えソファに座ったとき、スマホが鳴った。
「あ? 咲良か」
こいつたまに電話かけてくんだよなあ。十中八九、愚痴か嘆きかだが、果たして今日はどうだ。
「もしもし?」
『あ、春都~? 今暇?』
「用件次第だ」
『そこまではっきり言われると逆に好感持てるよなー』
咲良は笑い『花火大会のことなんだけど』と続けた。
『当日はさ、春都の家の前で待ち合せってことでいい?』
「あー、いいぞ」
『よっしゃ。まあ、用件らしい用件はそれだけなんだけど』
何だ、それならメッセージで送ればいいのに。
『なんか暇でさー。暇つぶしに付き合ってよ』
「別にいいけど。面白い話は何もないぞ」
『いいよ、俺が話したいことあるから』
「あ、そう」
これは長くなりそうだなあ。
すり寄ってきたうめずを撫でながら苦笑する。
まあ、口調からして愚痴を聞かされるようなことはなさそうだから、それだけは良しとするか。
結局一時間近く話して、俺が発言するタイミングはほとんどなかった。ずっと耳にスマホをあてていたので、耳もスマホも熱かった。
通話を切った後はなんとなくテレビをつけて、ぼーっとして時間をつぶした。
「さて、そろそろ」
日が沈み暗くなった空をカーテンで隠して、台所に向かう。
今日の晩飯は温かいものを食べよう。中華麺とワンタンスープがあるから、ワンタンメン。
鍋に水を張って、スープの素とワンタンを入れる。かやくには卵とネギが入っている。これがうまいことかき玉みたいになるからすごいよなあ。
茹でておいた中華麺をどんぶりにいれ、そこにワンタンスープをかけたら完成だ。
餃子はちょくちょく作るけど、ワンタンはあまり作った記憶がない。今度作ってみようかな。
「いただきます」
ほんの少しとろみのあるスープは熱い。少し冷まして一口すすれば、うま味あふれる温かさがじんわりと口に広がる。ゴマ油の香ばしい風味もあっていいな。
麺にもスープがよく絡んでおいしい。お店で食った麺は卵の味が結構したけど、市販のやつはそこまで癖がない。
ワンタンは熱々で、つるんと口当たりがいい。スープと卵、ネギと一緒に食べると、口の中でうまいこと合わさり、ほろほろとした肉からうま味があふれる。
麺も一緒に食えるようになるのは、食べ終わるちょっと前のちょうどよく冷めた頃だ。これがまたおいしい。
寒いと余計に温かいものが恋しくなるというものだ。
花火大会の時も、なんかあったかいものがあるといいなあ。
「ごちそうさまでした」
足元ではうめずが二人を見上げている。
「ま、来週の月曜には帰ってくるけど」
「今度は早いね」
「うれしい?」
「ん、まあ」
曖昧に答えると、母さんは荒く頭をなでてきた。
「クリスマスの料理は一緒に作るからね」
「分かった」
父さんは微笑んで母さんと俺のやり取りを見ていた。
「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい。気を付けて」
二人がエレベーターに乗って降りる所まで見送った後、ベランダに出る。
今日は日差しがあまりなく、曇っていてなんだか寒い。
「高いな……お、出てきた」
他に人通りもないので、父さんと母さんはすぐに分かった。
二人の姿が見えなくなったところで部屋に入る。
相変わらず、二人が出て行った後の部屋は妙に静かに感じる。まあ、明日にもなれば慣れるんだろうけど。
ソファに横になり、先日買った本を読むことにする。
クリスマスに作る料理、何にしよう。
ローストビーフは作るつもりだけど、他に何を作ろうかなあ。
「ケーキとかいいよなあ」
生クリームにイチゴたっぷりのホールケーキも定番って感じでいいけど、ブッシュドノエルも魅力的だ。いっそ大量のカップケーキとか。そういやこないだ、やたらカラフルなカップケーキがテレビで紹介されてたなあ。
お、これは何だ。シュトーレン? ……作り方を見る限り、ものすごくカロリーが高そうだ。
ケーキは種類があり過ぎて悩むなあ。楽しい悩みだからいいけど。
とりあえず保留にして、ローストビーフの作り方をしっかり勉強しておくとしよう。
「……ん」
ばさっ、と何かが落ちた音で目が覚める。
「寝落ちたか」
本を拾って、時計に視線を向ける。ずいぶん眠ってしまっていたようだ。もう昼か。
昼飯はトーストにしよう。昨日のサンドイッチのために買ってきておいた食パンが何枚か残っていたはずだ。
それと、目玉焼きでも焼こう。お、ベーコン発見。
野菜もなんか食いたいなあ。……って、こんな時のために買ってあるのが袋入りのカットレタス。最近はコンビニでも買えるし、ちょっと野菜食いたいなってときにちょうどいいサイズだ。
「よし、いただきます」
トーストにはバターを塗る。ザクッとした食感に、もっちりした部分がおいしい。バターは薫り高く、コクがある。
野菜にはマヨネーズ。ドレッシングもいいのだが、たまにマヨネーズだけで食いたくなる時がある。たまにまぎれている薄切りのパプリカもうすら甘くておいしいんだ。ちょっと野菜があるだけで豪華な気分になるのは何だろう。
ベーコンエッグは香ばしい。今日はちょっとかために卵を焼いた。
半熟ではないがガチガチでもない卵の黄身。独特な触感で結構好きだ。ベーコンのカリカリしたところがちょっとテンション上がる。
「ごちそうさまでした」
皿を洗い終えソファに座ったとき、スマホが鳴った。
「あ? 咲良か」
こいつたまに電話かけてくんだよなあ。十中八九、愚痴か嘆きかだが、果たして今日はどうだ。
「もしもし?」
『あ、春都~? 今暇?』
「用件次第だ」
『そこまではっきり言われると逆に好感持てるよなー』
咲良は笑い『花火大会のことなんだけど』と続けた。
『当日はさ、春都の家の前で待ち合せってことでいい?』
「あー、いいぞ」
『よっしゃ。まあ、用件らしい用件はそれだけなんだけど』
何だ、それならメッセージで送ればいいのに。
『なんか暇でさー。暇つぶしに付き合ってよ』
「別にいいけど。面白い話は何もないぞ」
『いいよ、俺が話したいことあるから』
「あ、そう」
これは長くなりそうだなあ。
すり寄ってきたうめずを撫でながら苦笑する。
まあ、口調からして愚痴を聞かされるようなことはなさそうだから、それだけは良しとするか。
結局一時間近く話して、俺が発言するタイミングはほとんどなかった。ずっと耳にスマホをあてていたので、耳もスマホも熱かった。
通話を切った後はなんとなくテレビをつけて、ぼーっとして時間をつぶした。
「さて、そろそろ」
日が沈み暗くなった空をカーテンで隠して、台所に向かう。
今日の晩飯は温かいものを食べよう。中華麺とワンタンスープがあるから、ワンタンメン。
鍋に水を張って、スープの素とワンタンを入れる。かやくには卵とネギが入っている。これがうまいことかき玉みたいになるからすごいよなあ。
茹でておいた中華麺をどんぶりにいれ、そこにワンタンスープをかけたら完成だ。
餃子はちょくちょく作るけど、ワンタンはあまり作った記憶がない。今度作ってみようかな。
「いただきます」
ほんの少しとろみのあるスープは熱い。少し冷まして一口すすれば、うま味あふれる温かさがじんわりと口に広がる。ゴマ油の香ばしい風味もあっていいな。
麺にもスープがよく絡んでおいしい。お店で食った麺は卵の味が結構したけど、市販のやつはそこまで癖がない。
ワンタンは熱々で、つるんと口当たりがいい。スープと卵、ネギと一緒に食べると、口の中でうまいこと合わさり、ほろほろとした肉からうま味があふれる。
麺も一緒に食えるようになるのは、食べ終わるちょっと前のちょうどよく冷めた頃だ。これがまたおいしい。
寒いと余計に温かいものが恋しくなるというものだ。
花火大会の時も、なんかあったかいものがあるといいなあ。
「ごちそうさまでした」
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