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日常
第百五十六話 ハムエッグ
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「う~、寒い……」
布団から出るのがつらい季節になった。
しんと冷たい板張りは靴下を履いていても触れるのをためらう。布団の中で上着を羽織り、覚悟を決めて立ち上がる。
ファンヒーターの電源をつけ、パパッと身支度を終わらせる。
朝飯の準備をする前にこたつのスイッチも入れておこう。冷えたこたつは外気温より冷たいように感じるときがあるのだ。
とりあえず弁当の準備だ。
卵焼き……は、今日は作る気力がないので目玉焼きを焼いて折り曲げる。間に塩コショウを振っておくとおいしい。
あとはハンバーグ温めて、昨日の晩にとっておいたブロッコリー茹でたのと冷凍のスパゲティナポリタン。こんなもんか。ふりかけは卵にしよ。
電気ケトルで湯を沸かし、今日の分の味噌玉を準備する。わかめでいいか。
それと今日は目玉焼きにしよう。がっちりかたいのもいいが半熟もいい。うーん、今日は半熟の気分だ。
油をひいて熱したフライパンに卵を二つ落とす。ジュワアァ……といい音がして、黄身がゆったりと動く。白身にある程度火が通ったら水をちょっと入れてふたをする。あー、ハムとかベーコン、買っときゃよかったなあ。
ま、いいや。
目玉焼きは塩コショウを振って、ご飯の上に直接のっけて、味噌玉に湯を注いだら朝飯完成。せっかくだし、漬物でも出すか。コンビニのたくあん。これが何気にうまい。
しっかり温まったであろうこたつにもぐりこんで、テレビをつけて、と。
「いただきます」
半熟の目玉焼きは余すことなく食べたいものだ。箸で穴開けて醤油を垂らす。切るようにして混ぜたら黄身がとろりとあふれ出す。
白身のプリッとした食感がかなり好きだ。黄身は端の方が少しかたまっていて、とろりとした部分と二つの食感を楽しめる。もうちょっと醤油かけよう。うん、やっぱ醤油ちょっと多めの方が好きだなあ。
みそ汁もほっとする。たくあんも程よい塩気と甘さがおいしい。
『今朝はずいぶんと冷え込みますが、お昼からはどうでしょう? それではお天気です』
朝のローカルなニュース番組。冒頭には天気予報があるんだ。
『昼は日差しが出ますが、風は冷たいでしょう。調節のきく服装で……』
まあ、そうだよな。この時期の天気予報はそれが決まり文句みたいなものだ。
『そろそろ防寒具が活躍しそうですね』
ネックウォーマー、そろそろはめてくかあ。風邪ひくのはやだもんなあ。
「ごちそうさまでした」
「春都はさー、朝飯何派?」
昼休み、向かいに座った咲良が、菓子パンを食べながら聞いてきた。
「何派って、何」
ハンバーグは冷えているがおいしい。オーロラソースがよく合う。目玉焼きの塩気もたまらない。朝の半熟とは違い、しっかり焼けているのもおいしい。
「米かパンか」
「ああ、そういうこと」
ブロッコリーもしんなりしているが、それがまたいい。小分けにしながら食うのが好きだ。
「米」
「迷いねえなあ」
「一時期パンにはまってたけど、基本米」
冷凍のナポリタンは甘い。具は彩りを重視してか、コーンや、赤や黄色のパプリカ。そして薄っぺらいウインナーが何枚か。その具材も甘い。
「咲良は?」
「俺も米」
「なんだそれ」
「でもたまに食うパンがうまい」
その気持ちは分からないでもない。咲良は「それがさあ」と一つ目のパンを食べ終え、袋を結んでぽいと俺の机の上に放り出した後、二つ目のパンの袋を開けながら言った。
「今日の朝飯、パンだったんだよね」
「そうか」
「それがめちゃくちゃうまくてさあ~」
思いっきりほおばったパンを咀嚼して飲み込み、咲良は目を輝かせながら続けた。
「食パンなんだけど、それにケチャップ塗って、たっぷりチーズのせて……」
「ピザトースト?」
「いや違う。似てるけど違う」
卵味のふりかけが甘くしっとりとしている。ピザトースト、最近食ってねえなあ。
「そんでさ、チーズとケチャップの間にはベーコンが挟まってて。しかもチーズのくぼみには卵が落とされてんの」
「ほう」
確かにそれはボリュームがありそうだ。咲良は心底それを気に入ったらしく、その気持ちがそのまま表情に出ているような感じだった。
「卵は半熟で、チーズもいい溶け具合で。あれはうまかった……」
「よっぽど気に入ったみたいだな」
「明日も食えたらいいなあ~」
でも冷蔵庫の中身次第なんだよな、と咲良は笑った。
「めっちゃ豪華かと思えば、めっちゃ質素ってこともあるし」
「明日はどの可能性が高いんだ」
「質素」
咲良はバナナオレを飲む。甘いものと甘いもの、よく合わせられるなあと感心しながら、誰かが朝飯を作ってくれるんだな、などとぼんやり思った。
相変わらず朝の空気は冷たい。布団の中はホカホカとしているが、頬がそれはもう冷えている。
さて、今日もいつも通り朝の準備だ。ファンヒーターの電源を入れ、身支度をさっと終わらせ、こたつの電源を入れてから台所に向かう。
今日は弁当休みの日なので、朝飯の準備に取り掛かる。
昨日買ってきておいた薄切りハム。これを三枚フライパンにのせて、その上に卵を落とす。脂がはじけるいい音がして、香ばしい香りが漂った。
電気ケトルでお湯が沸ける音が響く。今日はポタージュでも飲もう。
よし、いい感じに焼けたみたいだ。ハムエッグを皿に移してスープを作る。こぽこぽといい音がするなあ。この音、なんか好きだ。
「いただきます」
卵一つとハム一枚をうまいことすくってご飯にのせる。きれいにのったらちょっとうれしい。
箸を入れたらぷつりと音がするように黄身が割れ、半熟の中身があふれ出す。醤油を垂らし、ハムと一緒にご飯とかきこむ。
ハムの塩気に醤油の香ばしさ、卵のまろやかな口当たりのバランスがいい。ご飯とよくなじんでいいな。
ポタージュはまったりとイモの味。ほくほくだ。
そしてご飯とは合わせず、ハムと卵だけでも食べてみる。これもまたいい。ハムだけで食うのも好きだ。
でもやっぱご飯と一緒に食うのいいな。朝飯って感じする。
母さんが作る朝飯は、いつもこれだもんな。
決して豪華ではないけど、これがいい。これが、俺にとって一番力の出る朝飯だ。
「ごちそうさまでした」
布団から出るのがつらい季節になった。
しんと冷たい板張りは靴下を履いていても触れるのをためらう。布団の中で上着を羽織り、覚悟を決めて立ち上がる。
ファンヒーターの電源をつけ、パパッと身支度を終わらせる。
朝飯の準備をする前にこたつのスイッチも入れておこう。冷えたこたつは外気温より冷たいように感じるときがあるのだ。
とりあえず弁当の準備だ。
卵焼き……は、今日は作る気力がないので目玉焼きを焼いて折り曲げる。間に塩コショウを振っておくとおいしい。
あとはハンバーグ温めて、昨日の晩にとっておいたブロッコリー茹でたのと冷凍のスパゲティナポリタン。こんなもんか。ふりかけは卵にしよ。
電気ケトルで湯を沸かし、今日の分の味噌玉を準備する。わかめでいいか。
それと今日は目玉焼きにしよう。がっちりかたいのもいいが半熟もいい。うーん、今日は半熟の気分だ。
油をひいて熱したフライパンに卵を二つ落とす。ジュワアァ……といい音がして、黄身がゆったりと動く。白身にある程度火が通ったら水をちょっと入れてふたをする。あー、ハムとかベーコン、買っときゃよかったなあ。
ま、いいや。
目玉焼きは塩コショウを振って、ご飯の上に直接のっけて、味噌玉に湯を注いだら朝飯完成。せっかくだし、漬物でも出すか。コンビニのたくあん。これが何気にうまい。
しっかり温まったであろうこたつにもぐりこんで、テレビをつけて、と。
「いただきます」
半熟の目玉焼きは余すことなく食べたいものだ。箸で穴開けて醤油を垂らす。切るようにして混ぜたら黄身がとろりとあふれ出す。
白身のプリッとした食感がかなり好きだ。黄身は端の方が少しかたまっていて、とろりとした部分と二つの食感を楽しめる。もうちょっと醤油かけよう。うん、やっぱ醤油ちょっと多めの方が好きだなあ。
みそ汁もほっとする。たくあんも程よい塩気と甘さがおいしい。
『今朝はずいぶんと冷え込みますが、お昼からはどうでしょう? それではお天気です』
朝のローカルなニュース番組。冒頭には天気予報があるんだ。
『昼は日差しが出ますが、風は冷たいでしょう。調節のきく服装で……』
まあ、そうだよな。この時期の天気予報はそれが決まり文句みたいなものだ。
『そろそろ防寒具が活躍しそうですね』
ネックウォーマー、そろそろはめてくかあ。風邪ひくのはやだもんなあ。
「ごちそうさまでした」
「春都はさー、朝飯何派?」
昼休み、向かいに座った咲良が、菓子パンを食べながら聞いてきた。
「何派って、何」
ハンバーグは冷えているがおいしい。オーロラソースがよく合う。目玉焼きの塩気もたまらない。朝の半熟とは違い、しっかり焼けているのもおいしい。
「米かパンか」
「ああ、そういうこと」
ブロッコリーもしんなりしているが、それがまたいい。小分けにしながら食うのが好きだ。
「米」
「迷いねえなあ」
「一時期パンにはまってたけど、基本米」
冷凍のナポリタンは甘い。具は彩りを重視してか、コーンや、赤や黄色のパプリカ。そして薄っぺらいウインナーが何枚か。その具材も甘い。
「咲良は?」
「俺も米」
「なんだそれ」
「でもたまに食うパンがうまい」
その気持ちは分からないでもない。咲良は「それがさあ」と一つ目のパンを食べ終え、袋を結んでぽいと俺の机の上に放り出した後、二つ目のパンの袋を開けながら言った。
「今日の朝飯、パンだったんだよね」
「そうか」
「それがめちゃくちゃうまくてさあ~」
思いっきりほおばったパンを咀嚼して飲み込み、咲良は目を輝かせながら続けた。
「食パンなんだけど、それにケチャップ塗って、たっぷりチーズのせて……」
「ピザトースト?」
「いや違う。似てるけど違う」
卵味のふりかけが甘くしっとりとしている。ピザトースト、最近食ってねえなあ。
「そんでさ、チーズとケチャップの間にはベーコンが挟まってて。しかもチーズのくぼみには卵が落とされてんの」
「ほう」
確かにそれはボリュームがありそうだ。咲良は心底それを気に入ったらしく、その気持ちがそのまま表情に出ているような感じだった。
「卵は半熟で、チーズもいい溶け具合で。あれはうまかった……」
「よっぽど気に入ったみたいだな」
「明日も食えたらいいなあ~」
でも冷蔵庫の中身次第なんだよな、と咲良は笑った。
「めっちゃ豪華かと思えば、めっちゃ質素ってこともあるし」
「明日はどの可能性が高いんだ」
「質素」
咲良はバナナオレを飲む。甘いものと甘いもの、よく合わせられるなあと感心しながら、誰かが朝飯を作ってくれるんだな、などとぼんやり思った。
相変わらず朝の空気は冷たい。布団の中はホカホカとしているが、頬がそれはもう冷えている。
さて、今日もいつも通り朝の準備だ。ファンヒーターの電源を入れ、身支度をさっと終わらせ、こたつの電源を入れてから台所に向かう。
今日は弁当休みの日なので、朝飯の準備に取り掛かる。
昨日買ってきておいた薄切りハム。これを三枚フライパンにのせて、その上に卵を落とす。脂がはじけるいい音がして、香ばしい香りが漂った。
電気ケトルでお湯が沸ける音が響く。今日はポタージュでも飲もう。
よし、いい感じに焼けたみたいだ。ハムエッグを皿に移してスープを作る。こぽこぽといい音がするなあ。この音、なんか好きだ。
「いただきます」
卵一つとハム一枚をうまいことすくってご飯にのせる。きれいにのったらちょっとうれしい。
箸を入れたらぷつりと音がするように黄身が割れ、半熟の中身があふれ出す。醤油を垂らし、ハムと一緒にご飯とかきこむ。
ハムの塩気に醤油の香ばしさ、卵のまろやかな口当たりのバランスがいい。ご飯とよくなじんでいいな。
ポタージュはまったりとイモの味。ほくほくだ。
そしてご飯とは合わせず、ハムと卵だけでも食べてみる。これもまたいい。ハムだけで食うのも好きだ。
でもやっぱご飯と一緒に食うのいいな。朝飯って感じする。
母さんが作る朝飯は、いつもこれだもんな。
決して豪華ではないけど、これがいい。これが、俺にとって一番力の出る朝飯だ。
「ごちそうさまでした」
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