151 / 854
日常
第百五十一話 たこ焼き
しおりを挟む
人と会うのは嫌いじゃない。
ただ、次の日がとても疲れるだけだ。だから山下さんに来てもらうの、次の日が休める土曜日にした。
昔から人と話すよりも一人遊びが多かった俺は、人とコミュニケーションをとるのに結構な体力を必要とするらしい。
まあ、この時代、誰ともかかわらずに生きていくのは難しいことだ。
というわけで、一人の時間を満喫する日を作ることにしている。その日は自分のやりたいことをやって、食べたいものを食べて、好きな時に寝て、テレビ見て、ゲームして、と、とにかく自分優先の一日を作るのだ。
今日はなんだか映画が見たかったので、何本かうちにあるのを厳選した。休日の映画館は人が多い。うちで見るのもまた乙なものだ。
さて、映画を見ている間につまめるものを準備しよう。
「何があったかな~……」
台所の戸棚には、まだ開けていないチョコ菓子の袋があった。甘いものは確保できたので、何かしょっぱいものも準備したいところだが。
お、いいもの発見。
ポップコーン、の、はじける前のやつ。これなんていえばいいんだろう。種?
フライパンに油をひいて種を入れ、塩も振りかけてふたをしてから、火にかける。しばらくはじっとしていていいが、ある程度したら焦げ付かないようにくるくるとうまいこと回す。
ぽこん、ぽこん、と音がしだせば、一気にはじけていく。たまに暴力的なほどの音が鳴ると、ちょっとびくっとする。
はじけ終わらないと蓋を開けた瞬間飛び出してくるので、火を消して、しばらくたって器に移す。仕上げにちょっとまた塩を振りかければいい。
せっかくだしもう一つ味を作る。今度は塩を少なめに。仕上げの味付けはカレー粉だ。
おお、いい香りだ。
「ジュースは……コーラでいいか」
こたつの準備が整ったところで再生ボタンを押す。映画はディスクの入れ替えを頻繁にしなくていいのがいい。ただ、総集編とかだとカットされている場面があるのでちょっと寂しい気もする。
「……いただきます」
まずは塩味から。うん、安定の味。しょっぱくてサクッとした軽い食感がおいしい。
カレーは……結構ピリッと来る。コーラが進む味だな。クレープでいったらおかず系、みたいな感じか。初めてにしてはおいしくできた。
で、口の中しょっぱくなってきたなー、甘いの食べたいなー、ってとこでチョコレートだ。コーラも甘いが、また違う甘さが欲しくなることってあるよな。
ココア生地のクッキーをミルクチョコでコーティングしたもので、ちょっとかためだがおいしい。ほろ苦いクッキーと甘いチョコレートのバランスがいい。
「なんかお茶飲みたくなってきた」
一旦停止をして、麦茶を取りにいく。やっぱどうしてもお茶がいるんだよなあ。
「わふっ」
「お、なんだ。うめずもなんか食いたいか」
台所から出てくると、さっきまでぼうっと窓の外を眺めていたうめずが足元にすり寄ってきた。
「お前も昨日、頑張ってたもんなあ」
「わう」
結局昨日はあれから一時間ちょっと話してたんだっけ。山下さん、ずっとうめずを構い倒してたんだよな。田中さんと山下さん二人が帰った後も咲良はしばらく家にいたし、うめずも疲れただろう。
「じゃあ今日はこれにしようか」
骨の形をしたクッキー。ひとつひとつが小さいので皿に入れてやる。
カリカリとうまそうな音を立ててうめずは尻尾を振りながら食べていく。ほんとこいつ、うまそうに食うよなあ。
ていうか、犬のおやつってうまそうに見えるんだよ。
「うまいか?」
そう聞けばうめずは、こちらを一瞬だけ一瞥してまた食べ始めた。
「そりゃよかった」
にしても今日は天気がいい。雲一つない、澄み渡る青空だ。朝も夜も寒いし、昼間も嘘みたいに寒い日もあるが、たまにこうやって暖かい日があるのはうれしいものだ。
「さて、と」
これ見終わったら次、どれ見よう。
そういや先週、映画館に身に行きそびれたやつの地上波放送があったんだっけ。確かノーカット版で、録画していたはずだ。それを見よう。
ちょっと暑くなってきたのでこたつの電源を切る。薄く窓を開ければ心地よい風が入ってきて眠気を誘った。
「ふあ~ぁ……」
こたつに座り、再生ボタンを押す。
昼飯、何にしようかなあ。
「ん、やべ」
重いまぶたを開ければ、視界の高さがずいぶん低いことに気付く。目の前にあるのはテレビ画面――ではなく、こたつ布団の柄だった。
「寝てたか……」
一作目を見終わってDVDを取り出し、録画リストから録画した分を再生したところまでは覚えている。
それから少しして寝落ちたか。
テレビからは映画の音声が聞こえてくる。中盤か、終盤か。とりあえずストーリーが分からないことは確かだ。
「もっかい見直すか」
最初まで巻き戻して停止ボタンを押す。
先に昼飯の準備をしよう。
冷凍庫にあるでかい袋を取り出す。徳用のたこ焼きだ。皿に並べてレンジで温めるだけで食べられる。
温めている間にもう一品。ジャガイモの皮をむいて、程よい太さのスティック状にする。
フライパンに張った油を温め、そこに片栗粉をまぶしたジャガイモを投入する。ジュワアッと景気のいい音がして、細かい泡が湧いた。
たこ焼きにはソース、マヨネーズ、そしてかつお節。ポテトはケチャップとマヨネーズ。
これ食いながらテレビ見よう。
「いただきます」
たこ焼きはフォークで食う。パリッとしてはいない、ぷわぷわの生地がいい。中はトロッとしていて暴力的なまでに熱いので、ちゃんと冷まさなければやけどしてしまう。
たっぷりソースとまろやかなマヨネーズ味だが、鼻に抜ける香りは出汁のいい匂い。
たこがめっちゃ小さいのとかもあるが、それもよし。生地にたこ味が染みているのでおいしい。冷凍のたこ焼きは揚げてもうまいんだ。今度やろう。
ポテトはサクサク、ほくっとした食感。マヨネーズが好きだが、ケチャップもいい。
塩だけのシンプルな食べ方はイモの味がしっかり分かっていい。延々と食べ続けていられそうだ。
あ、これたこ二個入ってるラッキー。まあ、その分入ってないのもできるんだろうけど。
にしても食ったら眠くなってきた。また途中から見逃してしまいそうだ。でも、テレビの音声がある中で昼寝するって最高に気持ちがいいんだよな。
ま、いいや。時間はあるし、眠い時に寝よう。
「ごちそうさまでした」
ただ、次の日がとても疲れるだけだ。だから山下さんに来てもらうの、次の日が休める土曜日にした。
昔から人と話すよりも一人遊びが多かった俺は、人とコミュニケーションをとるのに結構な体力を必要とするらしい。
まあ、この時代、誰ともかかわらずに生きていくのは難しいことだ。
というわけで、一人の時間を満喫する日を作ることにしている。その日は自分のやりたいことをやって、食べたいものを食べて、好きな時に寝て、テレビ見て、ゲームして、と、とにかく自分優先の一日を作るのだ。
今日はなんだか映画が見たかったので、何本かうちにあるのを厳選した。休日の映画館は人が多い。うちで見るのもまた乙なものだ。
さて、映画を見ている間につまめるものを準備しよう。
「何があったかな~……」
台所の戸棚には、まだ開けていないチョコ菓子の袋があった。甘いものは確保できたので、何かしょっぱいものも準備したいところだが。
お、いいもの発見。
ポップコーン、の、はじける前のやつ。これなんていえばいいんだろう。種?
フライパンに油をひいて種を入れ、塩も振りかけてふたをしてから、火にかける。しばらくはじっとしていていいが、ある程度したら焦げ付かないようにくるくるとうまいこと回す。
ぽこん、ぽこん、と音がしだせば、一気にはじけていく。たまに暴力的なほどの音が鳴ると、ちょっとびくっとする。
はじけ終わらないと蓋を開けた瞬間飛び出してくるので、火を消して、しばらくたって器に移す。仕上げにちょっとまた塩を振りかければいい。
せっかくだしもう一つ味を作る。今度は塩を少なめに。仕上げの味付けはカレー粉だ。
おお、いい香りだ。
「ジュースは……コーラでいいか」
こたつの準備が整ったところで再生ボタンを押す。映画はディスクの入れ替えを頻繁にしなくていいのがいい。ただ、総集編とかだとカットされている場面があるのでちょっと寂しい気もする。
「……いただきます」
まずは塩味から。うん、安定の味。しょっぱくてサクッとした軽い食感がおいしい。
カレーは……結構ピリッと来る。コーラが進む味だな。クレープでいったらおかず系、みたいな感じか。初めてにしてはおいしくできた。
で、口の中しょっぱくなってきたなー、甘いの食べたいなー、ってとこでチョコレートだ。コーラも甘いが、また違う甘さが欲しくなることってあるよな。
ココア生地のクッキーをミルクチョコでコーティングしたもので、ちょっとかためだがおいしい。ほろ苦いクッキーと甘いチョコレートのバランスがいい。
「なんかお茶飲みたくなってきた」
一旦停止をして、麦茶を取りにいく。やっぱどうしてもお茶がいるんだよなあ。
「わふっ」
「お、なんだ。うめずもなんか食いたいか」
台所から出てくると、さっきまでぼうっと窓の外を眺めていたうめずが足元にすり寄ってきた。
「お前も昨日、頑張ってたもんなあ」
「わう」
結局昨日はあれから一時間ちょっと話してたんだっけ。山下さん、ずっとうめずを構い倒してたんだよな。田中さんと山下さん二人が帰った後も咲良はしばらく家にいたし、うめずも疲れただろう。
「じゃあ今日はこれにしようか」
骨の形をしたクッキー。ひとつひとつが小さいので皿に入れてやる。
カリカリとうまそうな音を立ててうめずは尻尾を振りながら食べていく。ほんとこいつ、うまそうに食うよなあ。
ていうか、犬のおやつってうまそうに見えるんだよ。
「うまいか?」
そう聞けばうめずは、こちらを一瞬だけ一瞥してまた食べ始めた。
「そりゃよかった」
にしても今日は天気がいい。雲一つない、澄み渡る青空だ。朝も夜も寒いし、昼間も嘘みたいに寒い日もあるが、たまにこうやって暖かい日があるのはうれしいものだ。
「さて、と」
これ見終わったら次、どれ見よう。
そういや先週、映画館に身に行きそびれたやつの地上波放送があったんだっけ。確かノーカット版で、録画していたはずだ。それを見よう。
ちょっと暑くなってきたのでこたつの電源を切る。薄く窓を開ければ心地よい風が入ってきて眠気を誘った。
「ふあ~ぁ……」
こたつに座り、再生ボタンを押す。
昼飯、何にしようかなあ。
「ん、やべ」
重いまぶたを開ければ、視界の高さがずいぶん低いことに気付く。目の前にあるのはテレビ画面――ではなく、こたつ布団の柄だった。
「寝てたか……」
一作目を見終わってDVDを取り出し、録画リストから録画した分を再生したところまでは覚えている。
それから少しして寝落ちたか。
テレビからは映画の音声が聞こえてくる。中盤か、終盤か。とりあえずストーリーが分からないことは確かだ。
「もっかい見直すか」
最初まで巻き戻して停止ボタンを押す。
先に昼飯の準備をしよう。
冷凍庫にあるでかい袋を取り出す。徳用のたこ焼きだ。皿に並べてレンジで温めるだけで食べられる。
温めている間にもう一品。ジャガイモの皮をむいて、程よい太さのスティック状にする。
フライパンに張った油を温め、そこに片栗粉をまぶしたジャガイモを投入する。ジュワアッと景気のいい音がして、細かい泡が湧いた。
たこ焼きにはソース、マヨネーズ、そしてかつお節。ポテトはケチャップとマヨネーズ。
これ食いながらテレビ見よう。
「いただきます」
たこ焼きはフォークで食う。パリッとしてはいない、ぷわぷわの生地がいい。中はトロッとしていて暴力的なまでに熱いので、ちゃんと冷まさなければやけどしてしまう。
たっぷりソースとまろやかなマヨネーズ味だが、鼻に抜ける香りは出汁のいい匂い。
たこがめっちゃ小さいのとかもあるが、それもよし。生地にたこ味が染みているのでおいしい。冷凍のたこ焼きは揚げてもうまいんだ。今度やろう。
ポテトはサクサク、ほくっとした食感。マヨネーズが好きだが、ケチャップもいい。
塩だけのシンプルな食べ方はイモの味がしっかり分かっていい。延々と食べ続けていられそうだ。
あ、これたこ二個入ってるラッキー。まあ、その分入ってないのもできるんだろうけど。
にしても食ったら眠くなってきた。また途中から見逃してしまいそうだ。でも、テレビの音声がある中で昼寝するって最高に気持ちがいいんだよな。
ま、いいや。時間はあるし、眠い時に寝よう。
「ごちそうさまでした」
13
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる