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日常
第百四十五話 ミートソーススパゲティ
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今日は絶対に外に出ない、という気分の日がある。それが平日だったら当然我慢して学校に行くわけだが、休日はもうよっぽどの用事がない限り絶対に家から出ない。
幸い食材もあるし、買い物には行かなくていい。
「ふー……」
いつもはじっくりできない掃除を一通り終え、ソファに座って足だけこたつに入れる。
換気のために薄く開けた窓から風が吹き込んでくる。今日は日も差して心地いい天気だ。いつもならこういう天気の日は外に出ないともったいないと思うが、今日は部屋の中から穏やかに雲が流れる様子を見たいと思う。
「わふっ」
うめずが足元にすり寄ってきたので、頭をなでてやる。目を細めてゆったりと呼吸する様子は、とても気持ちよさそうだ。
せっかくのんびりするなら、何か飲み物とお菓子でも持ってこよう。
「何があったかなあ」
そうだ。確かピーナッツクリームのサンドイッチがあったはず。それをトースターで少し焼こう。
飲み物は……牛乳にするか。ホットミルク。はちみつとか入れるレシピを見たことがあるけど、そこまで甘党じゃないので入れない。ピーナッツクリームが甘いもんなあ。
トースターの中をのぞき込む。オレンジ色の光の中でチリチリと焼き色がついていくパンを見るのは面白い。あまり見とれすぎていたら焦げ焦げになるので気を付けないと。何回かやらかしたもんな。
「こんなもんか」
熱々のサンドイッチを皿に移す。ホットミルクもいい感じに温まった。
これはこたつに入って食べずにどうする。
そうだ、せっかくだし普段は見ないDVDでもつけよう。どれにしようかな、なんて、決まってる。例の劇場版ノベライズのテレビシリーズ。俺的にはこのシリーズは初期が一番気に入っている。
「さて、いただきます」
DVDの準備をしている間にちょっと冷えてしまったかもしれないがこれでいい。焼きたては熱すぎて味わうどころじゃない。それと、牛乳は膜張っているのがいい。湯葉っぽく食べるのがひそかに好きだ。
ざくっとやや香ばしいパンの中から、とろりとピーナッツクリームがあふれてくる。焼く前はねっとりしているが、温めるとさらさらになる。食べ進めていくほどに皿にこぼれていくけど、あとで拭えばよしだ。
「わふっ」
「ん? ああ、お前もおやつな」
ふんふんと鼻を鳴らしてうめずが近寄ってきたので、いつもの器にクッキーを入れる。
「よし、いいぞ」
うめずが嬉々として食べ始めたのを見て、台所に手を洗いに行く。と、パステルカラーの袋が見えた気がした。
「あ、マシュマロ」
ココアに浮かべるつもりで買ってきといて、肝心のココアを買い忘れたんだった。いくつか焼いて食ったけど、持て余してたんだ。なんだっけ、スモア? 甘くていくつも食べられなかった。
もういっそこのまま食うか。
「ちょっと巻き戻そ」
こたつにもぐりこみ、早戻しする。うめずはおやつを食べ終え、日向ぼっこをしながらまどろんでいた。
マシュマロ、ちょっとしわくちゃになってる。しゅわっとしたあともちっとする。この食感、悪くないな。焼いたら焼いたでサクッとトロッとしていていいけど、このまま食ってもなかなかいける。
牛乳も程よい温度で、口当たりがまろやかだ。
「冷えてきたな」
窓を閉めて、ふと外を眺める。
走る車も少ない道路、人のいない短い横断歩道、ちらちらときらめく木漏れ日。なんとも穏やかで、何とも田舎らしい日曜の昼下がり。
「わうぅん……」
うめずが眠ったまま小さくうなる。
「寝言か」
「あう……」
いったいどんな夢を見ているんだか。
うめずのあくびにつられて、俺も眠くなってきた。食器を片付けたら俺もひと眠りしよう。晩飯の準備は、それからだ。
母さんが買ってきた入浴剤は多種多様。どれがどれか、よく分からん。
「うーん、これか?」
粉タイプのやつを選ぶ。一番数が多いし、有名な温泉の名前がついてるし、たぶん間違いないだろう。
髪や体を洗うのにそれほど時間はかからない。湯船につかって、入浴剤を入れる。
「おお、白い」
湯船が一気に乳白色に染まっていく。香りは柔らかく、袋を見たところ「森林の香り」だそうだ。森林って、こんな匂いがするんだ。へえ。
なんかちょっととろみがついた感じがする。
「美肌の湯」
俺とは縁遠い単語だ。でもいつもより体が温まる気がするから、まあいい。
ぷかぷかと浮かぶ小さなアヒルのおもちゃは、この間なぜか母さんから送られてきたものだ。食材に隠れて、気づかなかった。
つぶらな瞳のアヒルを沈めたり回したり、両手を合わせて噴水を作って狙い撃ちしようとしたが、結構難しかった。
「いかん、のぼせる」
熱中していたらすっかり体も温まった。
晩飯はもう準備してある。あとはスパゲティを茹でるだけだ。
野菜がたっぷりあったし、冷凍のひき肉もあったのでミートソースを作った。片付けをするのは大変だが、今日は時間に余裕もあったので作ってみた。
それにしてもスパゲティは久しぶりな気がする。基本米で、時々パンって感じだもんなあ。
ソースはたっぷり作ったので納得いくまでかけよう。
「いただきます」
つるんとしたスパゲティにソースをしっかり絡めて食べる。これこれ、この食感。ひき肉と野菜のうま味がいい感じに染み出す。ミートソースとはいうけれど、これ、野菜も主役って感じする。
そして今日は味変するぞ。まずは粉チーズ。トマトの酸味が少し抑えられてまろやかになる。
タバスコはピリッとしつつ、トマトの酸味とはまた違った酸味が爽やかだ。
チーズとタバスコ、両方かけるとどうなるだろう。……うん、これ、一番おいしいんじゃないか。まろやかさとさわやかさ、そして程よい辛さのバランスがいい。
今日はのんびり過ごした一日だった。特にこれといって何もしていないけど、こんな日もたまにはいいな。
頑張る日があるのなら、頑張らない日があってもいいというものだ。
「ごちそうさまでした」
幸い食材もあるし、買い物には行かなくていい。
「ふー……」
いつもはじっくりできない掃除を一通り終え、ソファに座って足だけこたつに入れる。
換気のために薄く開けた窓から風が吹き込んでくる。今日は日も差して心地いい天気だ。いつもならこういう天気の日は外に出ないともったいないと思うが、今日は部屋の中から穏やかに雲が流れる様子を見たいと思う。
「わふっ」
うめずが足元にすり寄ってきたので、頭をなでてやる。目を細めてゆったりと呼吸する様子は、とても気持ちよさそうだ。
せっかくのんびりするなら、何か飲み物とお菓子でも持ってこよう。
「何があったかなあ」
そうだ。確かピーナッツクリームのサンドイッチがあったはず。それをトースターで少し焼こう。
飲み物は……牛乳にするか。ホットミルク。はちみつとか入れるレシピを見たことがあるけど、そこまで甘党じゃないので入れない。ピーナッツクリームが甘いもんなあ。
トースターの中をのぞき込む。オレンジ色の光の中でチリチリと焼き色がついていくパンを見るのは面白い。あまり見とれすぎていたら焦げ焦げになるので気を付けないと。何回かやらかしたもんな。
「こんなもんか」
熱々のサンドイッチを皿に移す。ホットミルクもいい感じに温まった。
これはこたつに入って食べずにどうする。
そうだ、せっかくだし普段は見ないDVDでもつけよう。どれにしようかな、なんて、決まってる。例の劇場版ノベライズのテレビシリーズ。俺的にはこのシリーズは初期が一番気に入っている。
「さて、いただきます」
DVDの準備をしている間にちょっと冷えてしまったかもしれないがこれでいい。焼きたては熱すぎて味わうどころじゃない。それと、牛乳は膜張っているのがいい。湯葉っぽく食べるのがひそかに好きだ。
ざくっとやや香ばしいパンの中から、とろりとピーナッツクリームがあふれてくる。焼く前はねっとりしているが、温めるとさらさらになる。食べ進めていくほどに皿にこぼれていくけど、あとで拭えばよしだ。
「わふっ」
「ん? ああ、お前もおやつな」
ふんふんと鼻を鳴らしてうめずが近寄ってきたので、いつもの器にクッキーを入れる。
「よし、いいぞ」
うめずが嬉々として食べ始めたのを見て、台所に手を洗いに行く。と、パステルカラーの袋が見えた気がした。
「あ、マシュマロ」
ココアに浮かべるつもりで買ってきといて、肝心のココアを買い忘れたんだった。いくつか焼いて食ったけど、持て余してたんだ。なんだっけ、スモア? 甘くていくつも食べられなかった。
もういっそこのまま食うか。
「ちょっと巻き戻そ」
こたつにもぐりこみ、早戻しする。うめずはおやつを食べ終え、日向ぼっこをしながらまどろんでいた。
マシュマロ、ちょっとしわくちゃになってる。しゅわっとしたあともちっとする。この食感、悪くないな。焼いたら焼いたでサクッとトロッとしていていいけど、このまま食ってもなかなかいける。
牛乳も程よい温度で、口当たりがまろやかだ。
「冷えてきたな」
窓を閉めて、ふと外を眺める。
走る車も少ない道路、人のいない短い横断歩道、ちらちらときらめく木漏れ日。なんとも穏やかで、何とも田舎らしい日曜の昼下がり。
「わうぅん……」
うめずが眠ったまま小さくうなる。
「寝言か」
「あう……」
いったいどんな夢を見ているんだか。
うめずのあくびにつられて、俺も眠くなってきた。食器を片付けたら俺もひと眠りしよう。晩飯の準備は、それからだ。
母さんが買ってきた入浴剤は多種多様。どれがどれか、よく分からん。
「うーん、これか?」
粉タイプのやつを選ぶ。一番数が多いし、有名な温泉の名前がついてるし、たぶん間違いないだろう。
髪や体を洗うのにそれほど時間はかからない。湯船につかって、入浴剤を入れる。
「おお、白い」
湯船が一気に乳白色に染まっていく。香りは柔らかく、袋を見たところ「森林の香り」だそうだ。森林って、こんな匂いがするんだ。へえ。
なんかちょっととろみがついた感じがする。
「美肌の湯」
俺とは縁遠い単語だ。でもいつもより体が温まる気がするから、まあいい。
ぷかぷかと浮かぶ小さなアヒルのおもちゃは、この間なぜか母さんから送られてきたものだ。食材に隠れて、気づかなかった。
つぶらな瞳のアヒルを沈めたり回したり、両手を合わせて噴水を作って狙い撃ちしようとしたが、結構難しかった。
「いかん、のぼせる」
熱中していたらすっかり体も温まった。
晩飯はもう準備してある。あとはスパゲティを茹でるだけだ。
野菜がたっぷりあったし、冷凍のひき肉もあったのでミートソースを作った。片付けをするのは大変だが、今日は時間に余裕もあったので作ってみた。
それにしてもスパゲティは久しぶりな気がする。基本米で、時々パンって感じだもんなあ。
ソースはたっぷり作ったので納得いくまでかけよう。
「いただきます」
つるんとしたスパゲティにソースをしっかり絡めて食べる。これこれ、この食感。ひき肉と野菜のうま味がいい感じに染み出す。ミートソースとはいうけれど、これ、野菜も主役って感じする。
そして今日は味変するぞ。まずは粉チーズ。トマトの酸味が少し抑えられてまろやかになる。
タバスコはピリッとしつつ、トマトの酸味とはまた違った酸味が爽やかだ。
チーズとタバスコ、両方かけるとどうなるだろう。……うん、これ、一番おいしいんじゃないか。まろやかさとさわやかさ、そして程よい辛さのバランスがいい。
今日はのんびり過ごした一日だった。特にこれといって何もしていないけど、こんな日もたまにはいいな。
頑張る日があるのなら、頑張らない日があってもいいというものだ。
「ごちそうさまでした」
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