一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第百四十三話 キムチ鍋

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 授業中の先生の雑談は、咲良いわく、ボーナスタイムらしい。

 終わっていない課題をこっそりやったり、嫌いな授業がつぶれたり。その気持ちは分からなくもない。

 正直俺も、授業とかかわりのない雑談は聞き流している。なんというか、ほとんどのやつが笑ってるけど、笑いのポイントがよく分からない。これも人付き合いが下手だからか。でもまあ、盛り上がりたいやつらだけで盛り上がってくれればそれでいいが。

 三時間目。今日の昼飯は食堂だし、何食べようかなあ、などと考えながら教科書をめくる。英語の教科書って、結構攻めてる内容のコラムとかがあって面白いんだ。

 日本文化の紹介とかでアニメが特集されていると、ちょっとそわそわする。

 先生はかれこれ十分近く雑談を続けている。相槌を打つ生徒がノリノリだからだろうか。このテンションについていけない。

「じゃあ三学期に映画二本見るってことですか」

「いや、二学期末と、三学期末だな」

「どっち先に見るんですかー?」

「それねー、先生も悩んでんのよ」

 黒板とチョークがこすれる音がして、ぼんやりと視線を上げる。書かれていたのは授業の内容ではなく、映画のタイトルらしい。

 名前ぐらいは聞いたことあるけど、内容はよく知らないな。

「みんなはどっちから見たい?」

 途端に教室がざわつきだす。えー、どっちから見たいとか、別にどっちでもいいんだけど。

「こっちは有名なミュージシャンの話で、こっちは世界的名作だよね」

 だから当然内容は知ってるだろうけど、と先生は言う。知らなくてすいませんね。

「ちなみに、どっちも字幕で見るぞ」

「ええー、日本語吹き替えで見ましょうよー」

「それだとただの映画鑑賞になるだろ」

 先生は苦笑する。

「これも授業の一環だ」

 授業の一環で映画を見る、それ自体は楽しそうだな。

 絶対ポップコーンとかほしくなるだろうけど。



 昼休み、飯を食ったあと教室に戻ろうとしたら百瀬に引き留められた。

 カツカレーうまかったなあ、なんて頭の片隅で思いながら、咲良とともに立ち止まる。

「ね、今から暇?」

「まあ、暇だな」

「じゃ付き合って」

 そう言って引っ張られて行った先は美術室だった。

「なにすんの」

「オセロ」

「オセロ?」

 冷え切った美術室には机と、向かい合うように置かれた椅子、そして確かにオセロがセッティングされていた。

「いやなんで」

「こないだちょっとここの片付けしてたら、棚の奥で見つけて。先生に持って行ったらくれるっていうから」

 多分それは処分が面倒で押し付けたのだろう。しかし百瀬は楽しげだ。

「貴志は寒いから来ないっていうし、クラスに相手してくれるやついないし、だったら二人しかいないなあと」

「いいじゃん、オセロ」

 おっとここにも若干一名、ワクワクしているやつがいる。咲良はそそくさといすに座った。その向かいに百瀬が座る。

「あ、春都もやりたい?」

「いや、見てるだけでいい」

「あとで交代しようよ、楽しいぞ、オセロ!」

 百瀬の言葉にとりあえず頷いておく。

 どっちが白か黒か二人が言い合っている間に、もう一脚椅子を持ってくる。二人の間、審判のようにして座ることにした。

「じゃあ、じゃんけんだ」

 咲良が白、百瀬が黒でゲームは始まった。

「えーっと、まずは、こうだろ」

 先攻は咲良だ。コトン、コトンと小さな音が教室に響く。

「オセロって、やる人がやったら真っ黒とか真っ白にできるんだろ」

 机の隅にこびりついた絵の具をはがしながら言う。

「あー、それ動画で見たことある。すごいよねー、俺には無理だ」

「お、なあなあ、これ、いい感じじゃない? 俺、センスあるんじゃない?」

 と、咲良は楽しげに言う。しかしそれもつかの間、盤面は黒く染められていく。

「あれ?」

「あはは、残念~」

 その後は一進一退、という様子だったが、ふと違和感に気づく。

「ん?」

「どうした、春都」

「いや、なんか違和感が……あ、やっぱり」

 残りの盤面と石の数が合っていない。圧倒的に石の数が足りない。

 結局勝敗がつかないまま、ゲームは終わった。

 どこか遠くで、烏が鳴いていたのが聞こえた。



 今度授業で見る映画は結構古いものらしい。一度見てみようかとも思ったけど、レンタルDVDであるかなあ。

 さて、今日は一人鍋だ。

 無地の一人鍋用の土鍋がやっと使える。今日はキムチ鍋にしよう。

 最近は一人鍋用の鍋の素が売られていて、そのラインナップは目を見張るものがある。いろいろストックしておけば、違う料理にも応用できるのでいい。

 鍋に水を入れ、そこにキムチ鍋の素を入れる。具材は、白菜、豆腐、豚肉、えのきといったところか。あとはふたをしてことこと煮込めば完成だ。

 温めながら食べてもいいが、今日はこのままでいいや。

「いただきます」

 ふたを開ければまず香ってくるキムチの匂い。ほんのり酸味を感じる香りだ。

 しんなりと味が染みた白菜から食べてみる。シャキシャキでピリ辛だ。豆腐は程よく味が染みている。白菜と一緒に食べるのがいい。えのきもいい食感だ。

 豚肉は噛み応えがあっておいしい。キムチ鍋にはやっぱ豚肉だなあ。脂もうまい。

 半分ぐらい食べたらご飯を入れてみる。雑炊っぽい。スプーンですくって食べれば、野菜や肉のうま味が染み出した汁とご飯のほのかな甘みがいっぺんに楽しめていい。

 キムチ鍋はポカポカと体が温まっていい。鍋の素をゆでたもやしと和えてもいいんだよなあ。

 さてこの冬はどれぐらい鍋を楽しめるかな。



「ごちそうさまでした」

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