一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第百二十二話 中華丼

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 結局、観月も参加するというメッセージを送ってきた。

「これはやかましくなりそうだな……」

「あらー、賑やかでいいじゃない」

 と、母さんは朗らかに笑う。

 タコパ前日の土曜日、父さんと母さんと三人で買い出しに来ていた。参加者全員で都合を付き合わせた結果、日曜日がいいということになった。

「春都が友達を連れてくるなんていつぶりだ?」

 父さんも楽しそうにニコニコ笑っている。

「小学生ぶりかな?」

「そんなにもなるかあ、ああ、でも引っ越しの手伝いには来てくれたよね」

 なんだか二人で楽しそうに話をしているが、そんな一大イベントみたいにしなくても……と思いながらカートを押す。

「あ、そういえば春都」

 母さんは嬉しそうな表情で振り返った。

「何」

「じいちゃんとばあちゃんにご飯作ってくれたんでしょ」

「ああ、そういえば」

「すごく喜んでたよー。わざわざ電話してくるぐらい!」

 え、あの二人、いつの間に。

「ありがとね」

「いや、別に……いつも世話してもらってるし」

 そう言うと、父さんが俺の頭をポンポンとたたいた。あったかい。

「……父さん。店ではちょっと」

「あはは。そうかそうか」

 ……なんか面白がってるな。こっちが嫌で拒否してるってわけじゃないことを分かってる。母さんも微笑ましくこちらを見ていた。父さんは楽しそうに笑いながらわしゃわしゃと頭をなでてくる。

 こういう時、いつまでたっても親には敵わないんだろうなあ、と実感するのだ。



「お昼はどうする~?」

 買い出しを終え、運転をする父さんがのんびりと聞く。

「あー、そうねえ。春都、何がいい」

 と、母さんが後部座席から、助手席に座る俺の頭をつついてくる。

「んん~? 何がいいかな」

 あ、そういえば。

「これ、どう」

 財布から取り出したのはクーポン券。ファストフード店のもので、新聞の広告に入っていたやつをじいちゃんがくれた。

「いいね。持ち帰り?」

「どっちでもいいよ」

「じゃあ持ち帰りにしよう」

 お昼のピークになると店内はおろか、ドライブスルーも大変な込み具合になる。今はちょうど朝のメニューが終わったころなので、ちょうどいい。

「何にする?」

「んー……」

 期間限定メニューもそそられるが、定番メニューも捨てがたい。チキンナゲットは外せないし、ソースもどれにしようか迷う。

 うん、この定番メニューのセットにしよう。サイドメニューはポテト、ジュースはオレンジ。

「決めた?」

「決めた」

 ドライブスルーで買って帰る、というのはなんとなく特別な感じがする。ちょっとワクワクするというか、週末だなあ、と思う。

「えーっと……」

 まだ行列ができる前だったから、あっという間に順番は回ってきた。ここって、注文を受ける側からも見えているらしい。

 手際よく渡された、紙製の取っ手のない袋。いかにもジャンクフードって感じの匂いにわくわくした。



 俺が頼んだのは結構でかくて野菜もたっぷりなやつだ。これは紙で包まれておらず、箱に入っている。

「いただきます」

 ゴマが振られたバンズは香ばしく、肉はジューシーだ。野菜は熱でほんのりしなっとしているが、よくなじんでいい。企業秘密の製法だとテレビの特集で見たソースは何味だろう。玉ねぎが入ったオーロラソースみたいな。ピクルスは二枚。バランスよく食べたいな。

 ポテトの塩気がいかにもジャンキーだ。チキンナゲットはカリッと揚がっている。バーベキューソースはなんだかフルーティー。やっぱ焼き肉のたれとは違うな。

 そしてこういう食べ物にはジュースがよく合う。

 はじめは「食いきれるのか?」というボリュームでも、案外食べきってしまえるものだ。

「ごちそうさまでした」

「片付けも楽ね」

 たまにはこういうのもいいわ~、と母さんはゆったりとする。

「たこ焼き機出しとかないと……」

 確か、台所の棚にあったな。結構重いんだよなあ、あれ。

「卵焼きのフライパンで作りたい」

「え、なにそれ」

「あれ、言ってなかったっけ」

 簡単たこ焼きの作り方を説明すると、母さんはいたく気に入ったようで「今度作ってね!」と笑った。

 それからは、普段俺が何を食べているかの話になったのだった。



 晩飯は母さんが作ってくれる。外から帰ってきてご飯の匂いがする温かさもいいが、誰かがご飯を作っているのを待つのも楽しい。

 今日は中華丼にするのだとか。

 白菜、チンゲン菜、ニンジンを切って、ウズラの卵の水煮は水を捨てておく。本来なら海鮮も入れるのだろうが、今日は入れない。というか滅多に入れないというか。その代わり、豚バラ肉とウズラの卵を増し増しで。

 ゴマ油をひいたフライパンで豚バラ肉を炒め、火が通ってきたら野菜類を入れて炒め、ある程度炒めたら、ウズラの卵、水、酒、醤油、砂糖、鶏ガラスープの素、塩コショウを入れてひと煮立ちさせる。

 仕上げに水溶き片栗粉でとろみをつけたら完成だ。どんぶりに盛ったご飯にとろりとかければ、寒い季節にありがたい、ホカホカ中華丼のできあがりだ。

 ホカホカというより、熱々か。

「いただきます」

 中華丼は一気に具材を食いたくなる。でも気を付けないとめっちゃ熱い。

 とろっとしたうま味に野菜のシャキッとした歯ごたえ。白菜がとてもジューシーだ。チンゲン菜の程よい苦みが好きだ。肉も脂身は甘く、ゴマ油の風味が香ばしい。ニンジンもほろっとおいしい。

 ウズラの卵はプチッとはじけ、濃い味が中華丼らしさを引き立てる。

「あー、おいしい」

「よかった」

 目分量だったからねえ、と母さんは笑った。

 ご飯ととろみを一緒に食べるのが好きだ。いろんなうま味が染み出したとろみは最高にうまい。

「かた焼きそばにかけてもおいしそうだね」

 父さんの言葉になるほどと頷く。

 ちゃんぽん麺を買ってきて、今度やってみるか。ああ、おこげにかけてもよさそうだ。

 でもやっぱ中華丼には中華丼のおいしさがある。明日の喧騒に備えて、今はゆっくりまったり、楽しむとするか。



「ごちそうさまでした」

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