117 / 854
日常
第百十七話 親子丼
しおりを挟む
今日は朝から天気がいい。
薄い色の空には淡い雲が浮かび、太陽の光は穏やかだ。吹く風は冷たいが、とても気持ちがいい。すがすがしい気分とはまさにこのことだろう。
まあ一番はクラスマッチが終わったから、こんな気分になったんだろうけど。
「よっしゃ」
今日はやることが山ほどある。
この間冬服を出した時に思ったのだが、物置が散らかっている。
とりあえず突っ込んだというような本の山にへしゃげた段ボール。引っ越した時に片付くかとも思ったが、なんかただ移動させただけになってしまった。
まあそうだよな。持ち主が片付けないと散らかったままだよな。
「えーっと……」
一気に片付けるとたぶん俺はキャパオーバーになってしまい、午後からの用事がこなせない。
とりあえずボロボロの段ボールから片づけていくか。
「中は何だ?」
段ボールの裂け目から見えるのは、ノートや紙の束。
うっ、重い。なんか関節がパキッていった。どこの関節だ。
「いてて……えーっと?」
どうやら小さいころの落書き帳らしい。なんかとりあえず線を引きましたーって感じのやつが多いな。捨てられるものは捨てるとしよう。
お、この自由帳、なんか覚えてるぞ。小学生のころいろいろ書きなぐったやつだ。中身を見ると、その時々で何にはまっていたかよく分かる。あんときはめちゃくちゃうまく描けてると思ってたけど、線ぐっちゃぐちゃ。
でもなんか全部まとめて捨てるのも胸が痛い。
「あ、そうだ」
きれいな箱を一つ用意する。
これに入る分だけ取っておくことにしよう。
「これはまた文字が大量に……」
何が書きたかったんだろう、俺。読解不可能だ。
こっちはやたらめったら迷路が描いてある。そしてこれは……円と、その中に幾何学模様。魔法陣のつもりで描いたんだったか。
ん? なんか既製品じゃない、自分で作ったような、不格好な冊子が出てきた。
「おしながき」
ああー、そういやしょっちゅう書いてたなあ、お品書き。
ランチAとか定食Bとか、内容のよく分からないものの羅列が主だが、中には結構具体的にメニューを考えているやつもあった。
「親子丼、卵焼き、目玉焼き……見事に卵料理だな」
うわ、目玉焼き高いな。値段設定どうなってんだ。
で、こっちはお子様ランチ。ご丁寧に絵まで描いている。オムライス、ハンバーグ、からあげにナポリタン。デザートはプリンか。
見事に食いたいもん全のっけって感じだな。でも、うまそう。
「今度作ってみるか」
これは机に置いとくとして……
さて、ちゃっちゃと終わらせてしまおう。
何とか区切りのいいところまで片づけた。さて、午後からは行くところがある。
うめずとともに向かったのは店だ。
「来たよー」
「いらっしゃーい」
店で仕事をしていたのはばあちゃんだった。
「じいちゃんは?」
「配達」
「なるほど」
今日もどうやら忙しいらしい。
まあ、だからこそ俺が来たわけだが。
「じゃあ台所借りるね」
「どうぞどうぞ。ありがとうね」
そうだ。今日は昼飯を作りに来たのだ。
材料はあるものを使う。何でも使っていいと言われているが、何を作ろうか。
「うーん、鶏肉が結構あるな。……よし」
親子丼にしよう。それとみそ汁。みそ汁の具はなめこにするか。
まずは親子丼から作っていくことにしよう。
玉ねぎを半分に切って程よい薄さに切っていく。テレビなんかでは一人前ずつちっちゃい鍋みたいなので作っていくが、俺はフライパンを使う。
フライパンに水、醤油、砂糖、みりん、酒を入れて煮立たせ、玉ねぎと鶏を入れる。
鶏肉に火が通ったら、あとは卵を溶いたのを入れれば完成だ。それはじいちゃんが帰ってきて、ばあちゃんの仕事が一段落してからでいいか。
みそ汁は顆粒出汁を使う。味噌を溶いて、さっと洗ったなめこを入れ、ねぎを散らせばよし。
「あら、いい匂い」
片づけをしていたらばあちゃんが上がってきた。すかさずうめずが駆け寄る。
「何作ってくれるの?」
「親子丼」
「お~、いいねえ」
と、その時、チャイムが鳴った。お客さんが来た時に鳴るやつで、コンビニのチャイムみたいなものだ。
「あ、ちょうど帰ってきたみたいね」
じいちゃんが帰ってきたらしい。
「おかえりー」
「おお、春都。もう来てたか」
「ご飯作ってくれてるの」
さて、それじゃあ仕上げようかね。
「はい、お待たせ」
ふんわり卵のつゆだく親子丼、完成だ。
「いただきます」
とりあえずみそ汁を一口すする。とろりとした舌触りと、プチっとした歯ごたえのなめこ。なめこって意外と主張がないんだ。
さて、親子丼はうまくできたかな。
じゅわっと汁に浸された卵、程よく食感の残る玉ねぎ、ほろっと崩れるごはん。おいしい。鶏肉はもちもちで、味がちゃんと染みてる。
「うん、うまいな」
じいちゃんが豪快にごはんをかきこむ。結構ご飯は盛ってたけど、もう半分近く食っている。
「おいしい。上手になったねえ」
ばあちゃんも嬉しそうに笑ってほおばる。
「誰かがご飯を作ってくれるのは、うれしいものね。上がってきたらいい匂いがする、すごくいい」
「そっか」
「また作りに来てくれていいよ」
誰かが作ってくれるご飯のありがたみはよく分かる。でも、誰かのために作るご飯というのもいいものだ。
こんなに喜んでくれるなら、また、作りにこよう。
今度はちょっと手の込んだものも作れるようにしておこうかな。
「ごちそうさまでした」
薄い色の空には淡い雲が浮かび、太陽の光は穏やかだ。吹く風は冷たいが、とても気持ちがいい。すがすがしい気分とはまさにこのことだろう。
まあ一番はクラスマッチが終わったから、こんな気分になったんだろうけど。
「よっしゃ」
今日はやることが山ほどある。
この間冬服を出した時に思ったのだが、物置が散らかっている。
とりあえず突っ込んだというような本の山にへしゃげた段ボール。引っ越した時に片付くかとも思ったが、なんかただ移動させただけになってしまった。
まあそうだよな。持ち主が片付けないと散らかったままだよな。
「えーっと……」
一気に片付けるとたぶん俺はキャパオーバーになってしまい、午後からの用事がこなせない。
とりあえずボロボロの段ボールから片づけていくか。
「中は何だ?」
段ボールの裂け目から見えるのは、ノートや紙の束。
うっ、重い。なんか関節がパキッていった。どこの関節だ。
「いてて……えーっと?」
どうやら小さいころの落書き帳らしい。なんかとりあえず線を引きましたーって感じのやつが多いな。捨てられるものは捨てるとしよう。
お、この自由帳、なんか覚えてるぞ。小学生のころいろいろ書きなぐったやつだ。中身を見ると、その時々で何にはまっていたかよく分かる。あんときはめちゃくちゃうまく描けてると思ってたけど、線ぐっちゃぐちゃ。
でもなんか全部まとめて捨てるのも胸が痛い。
「あ、そうだ」
きれいな箱を一つ用意する。
これに入る分だけ取っておくことにしよう。
「これはまた文字が大量に……」
何が書きたかったんだろう、俺。読解不可能だ。
こっちはやたらめったら迷路が描いてある。そしてこれは……円と、その中に幾何学模様。魔法陣のつもりで描いたんだったか。
ん? なんか既製品じゃない、自分で作ったような、不格好な冊子が出てきた。
「おしながき」
ああー、そういやしょっちゅう書いてたなあ、お品書き。
ランチAとか定食Bとか、内容のよく分からないものの羅列が主だが、中には結構具体的にメニューを考えているやつもあった。
「親子丼、卵焼き、目玉焼き……見事に卵料理だな」
うわ、目玉焼き高いな。値段設定どうなってんだ。
で、こっちはお子様ランチ。ご丁寧に絵まで描いている。オムライス、ハンバーグ、からあげにナポリタン。デザートはプリンか。
見事に食いたいもん全のっけって感じだな。でも、うまそう。
「今度作ってみるか」
これは机に置いとくとして……
さて、ちゃっちゃと終わらせてしまおう。
何とか区切りのいいところまで片づけた。さて、午後からは行くところがある。
うめずとともに向かったのは店だ。
「来たよー」
「いらっしゃーい」
店で仕事をしていたのはばあちゃんだった。
「じいちゃんは?」
「配達」
「なるほど」
今日もどうやら忙しいらしい。
まあ、だからこそ俺が来たわけだが。
「じゃあ台所借りるね」
「どうぞどうぞ。ありがとうね」
そうだ。今日は昼飯を作りに来たのだ。
材料はあるものを使う。何でも使っていいと言われているが、何を作ろうか。
「うーん、鶏肉が結構あるな。……よし」
親子丼にしよう。それとみそ汁。みそ汁の具はなめこにするか。
まずは親子丼から作っていくことにしよう。
玉ねぎを半分に切って程よい薄さに切っていく。テレビなんかでは一人前ずつちっちゃい鍋みたいなので作っていくが、俺はフライパンを使う。
フライパンに水、醤油、砂糖、みりん、酒を入れて煮立たせ、玉ねぎと鶏を入れる。
鶏肉に火が通ったら、あとは卵を溶いたのを入れれば完成だ。それはじいちゃんが帰ってきて、ばあちゃんの仕事が一段落してからでいいか。
みそ汁は顆粒出汁を使う。味噌を溶いて、さっと洗ったなめこを入れ、ねぎを散らせばよし。
「あら、いい匂い」
片づけをしていたらばあちゃんが上がってきた。すかさずうめずが駆け寄る。
「何作ってくれるの?」
「親子丼」
「お~、いいねえ」
と、その時、チャイムが鳴った。お客さんが来た時に鳴るやつで、コンビニのチャイムみたいなものだ。
「あ、ちょうど帰ってきたみたいね」
じいちゃんが帰ってきたらしい。
「おかえりー」
「おお、春都。もう来てたか」
「ご飯作ってくれてるの」
さて、それじゃあ仕上げようかね。
「はい、お待たせ」
ふんわり卵のつゆだく親子丼、完成だ。
「いただきます」
とりあえずみそ汁を一口すする。とろりとした舌触りと、プチっとした歯ごたえのなめこ。なめこって意外と主張がないんだ。
さて、親子丼はうまくできたかな。
じゅわっと汁に浸された卵、程よく食感の残る玉ねぎ、ほろっと崩れるごはん。おいしい。鶏肉はもちもちで、味がちゃんと染みてる。
「うん、うまいな」
じいちゃんが豪快にごはんをかきこむ。結構ご飯は盛ってたけど、もう半分近く食っている。
「おいしい。上手になったねえ」
ばあちゃんも嬉しそうに笑ってほおばる。
「誰かがご飯を作ってくれるのは、うれしいものね。上がってきたらいい匂いがする、すごくいい」
「そっか」
「また作りに来てくれていいよ」
誰かが作ってくれるご飯のありがたみはよく分かる。でも、誰かのために作るご飯というのもいいものだ。
こんなに喜んでくれるなら、また、作りにこよう。
今度はちょっと手の込んだものも作れるようにしておこうかな。
「ごちそうさまでした」
13
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!


妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから
キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。
「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。
何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。
一話完結の読み切りです。
ご都合主義というか中身はありません。
軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。
誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる