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日常
第百十四話 うどん
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中庭はとても風通しがいい。
夏場は気持ちがいいのだが、この季節にもなるととても寒いのだ。
そして落ち葉の季節になると、中庭には枯葉が散らばるもので。
「寒い~」
俺と咲良は掃除を命じられた。
放課後、図書館に寄って帰ろうとしたら、中庭を掃除していた先生に見つかり、帰宅部で何も用事がない俺たちは半ば強引にほうきを渡された。
「なんで俺たちがやんなきゃいけねえんだよ~」
「さっさと終わらせて帰るぞ」
ほうきの柄に顎をのせ、むうとむくれていた咲良だが、のそのそと掃除を再開し始めた。
「じゃあさー、帰りにコンビニ寄って帰ろうぜ。あったかいもの食べたい」
「おー、いいぞ」
「っしゃ、じゃー頑張ろう」
そう言って咲良は、外廊下を挟んで俺のいる場所とは反対の中庭の掃除へ向かった。
びゅう、と音を立てて風が吹く。こまめに回収していかないと、せっかく集めた枯葉がまき散らされてしまう。風に舞う葉っぱも嫌いじゃないが、掃除のときは勘弁してほしい。木枯らし、とはよく言ったものだなあ。
そういえば小学校の裏庭には、どんぐりが落ちていたような。
ちょっとした森みたいになっていて、ずいぶん古びた通路があった。明るい色で塗装されていたであろう通路はすっかり色あせて、集合住宅の駐車場がすぐ近くに見えた。
そこにはきんもくせいの他にも季節の花がいろいろ咲いていて、時々バカでかいハチも飛んでいたっけ。鬼ごっこやかくれんぼには最適の場所だったけど、本を読むにはちょっと虫が多すぎた。
秋になるとそこにどんぐりが落ち始めた。振ってカラカラ音が鳴るのは虫がいるとか言ってたけど、結局のところあんまり関係ないって聞いたことがある。
コマにして遊んだこともある。けどうまく回せなかった。なんていうか俺としては集めることが楽しかったんだよな。
そういや、どんぐりって食えるんだっけ。
めちゃくちゃ手間がかかるって本で読んだ記憶がある。やっぱえぐいのかな。どんぐりの味って想像つかない。
「こっち終わったぞ~」
「おう」
なんか、集めた葉っぱを見ると、焼きいもがしたくなる。
実際、落ち葉集めて焼きいもって、本ではよく見るけどやったことは少ないよな。
「まあ、コンビニ行くといっても、そういや俺、金ないんだった」
コンビニについて早々、咲良はそう言って笑った。
「お前が来たいっつったんだろ」
「あったかいもん食べた過ぎて忘れてた」
「なんだそれは……」
咲良は財布を取り出し、所持金を確認し始めた。
「うーん……なんか一つ買えるかなあ」
いやでも……と悩む咲良の腹の虫が鳴く。
「……割り勘にするか」
あきれてそう提案すると、咲良は目を輝かせた。
「お、まじ? やった~」
「おごりじゃねえぞ」
「分かってる分かってる。じゃあ、あんまん半分こしようぜ!」
「あ、買うもんは決まってんのか。まあいいけど」
まん丸つやつやのあんまん。なんか割るのが惜しくなってくる。
こういうのは均等に割るのが結構難しい。もちっとした生地にほこほこの餡、ほわあっと湯気が立つ様子がたまらない。
「ほれ」
「サンキュー!」
半分でも結構ずっしりしている。これは食べ応えがありそうだ。
生地自体はそんなに甘くない。あんこがほろっとしていておいしい。しっとりとした甘さのこしあんは舌触りもよくて、もちもちの生地とよく合う。
「なんで金ないんだ? なんか買ったか」
「あーまあ、例のクリアファイルがついてくるチョコでも散財したのはもちろんだけど……」
咲良はがふっと思いっきりあんまんにかぶりつく。
「ほら、野球見に入ったろ。あんときに小遣い前借りしててさ」
「あーあのユニフォーム買った時の」
「そ。で、毎月のこづかいがないのもしんどいから、その代わり月に千円ずつ徴収されてんの。徴収っつーか、天引き?」
なるほどそういうことか。確かに、ユニフォームと帽子一式そろえるなら結構な金額になるもんな。
「それ、払い終わるのいつになるんだ」
そう聞けば咲良は眉を下げた。
「いつになるんだろうなあ……」
「貯金とかはしてないのか」
「基本、もらった分は使い切る主義なので」
「なぜ得意げなんだ……」
すっかり楽し気に笑っている咲良は、あんまんをぺろりと平らげてしまった。
今度は期間限定のチョコまんやカスタードまんに挑戦してみたいものだ。
こうも寒いと食べたくなるものがある。
肉うどん。しかしそれは牛肉を煮たものがのっているのではなく、豚肉と長ネギが入っているものだ。
まずは鍋に張った水に白だしを入れ火にかける。長ネギは斜めに切り、肉は豚バラの薄いやつ。鍋に肉と長ネギを入れ、肉に火が通ってきたら冷凍うどんを入れる。くったりと煮込めたら、水で溶いた片栗粉でとろみをつける。
最後に一味を少し振ったら完成だ。これが結構体が温まっていい。
「いただきます」
冷凍うどんの麺は細めだ。とろみがついて余計に熱いので、少し冷ましながらすする。んん、これこれ。あったまるなあ。
汁はトロッとしていておいしい。肉は柔らかく、脂身の部分は甘い。長ネギも特徴的なツンとした風味はないものの、トロンとした甘さの中にさわやかな風味とうま味がある。一味が結構いい感じに味を引き締めている。
うどんではなくそばにしてもうまい。何なら米にかけてもいい。
体調悪くてもこれは入るんだよ。寒いとなかなか食欲わかないけど、これは食べたいって思えるんだ。
熱々もうまいが、少し冷めてきてからの方が食べやすい。汁も思いっきり飲める。ホワンとした温かさがじんわりと胃に落ちて広がっていく感じ。たまらないな。
あー、こういう温かいものがおいしい季節になったんだなあ。湯気がなんかうれしい。
……肉も半分残っていることだし、明日の夜はそばで作ろうかな。
「ごちそうさまでした」
夏場は気持ちがいいのだが、この季節にもなるととても寒いのだ。
そして落ち葉の季節になると、中庭には枯葉が散らばるもので。
「寒い~」
俺と咲良は掃除を命じられた。
放課後、図書館に寄って帰ろうとしたら、中庭を掃除していた先生に見つかり、帰宅部で何も用事がない俺たちは半ば強引にほうきを渡された。
「なんで俺たちがやんなきゃいけねえんだよ~」
「さっさと終わらせて帰るぞ」
ほうきの柄に顎をのせ、むうとむくれていた咲良だが、のそのそと掃除を再開し始めた。
「じゃあさー、帰りにコンビニ寄って帰ろうぜ。あったかいもの食べたい」
「おー、いいぞ」
「っしゃ、じゃー頑張ろう」
そう言って咲良は、外廊下を挟んで俺のいる場所とは反対の中庭の掃除へ向かった。
びゅう、と音を立てて風が吹く。こまめに回収していかないと、せっかく集めた枯葉がまき散らされてしまう。風に舞う葉っぱも嫌いじゃないが、掃除のときは勘弁してほしい。木枯らし、とはよく言ったものだなあ。
そういえば小学校の裏庭には、どんぐりが落ちていたような。
ちょっとした森みたいになっていて、ずいぶん古びた通路があった。明るい色で塗装されていたであろう通路はすっかり色あせて、集合住宅の駐車場がすぐ近くに見えた。
そこにはきんもくせいの他にも季節の花がいろいろ咲いていて、時々バカでかいハチも飛んでいたっけ。鬼ごっこやかくれんぼには最適の場所だったけど、本を読むにはちょっと虫が多すぎた。
秋になるとそこにどんぐりが落ち始めた。振ってカラカラ音が鳴るのは虫がいるとか言ってたけど、結局のところあんまり関係ないって聞いたことがある。
コマにして遊んだこともある。けどうまく回せなかった。なんていうか俺としては集めることが楽しかったんだよな。
そういや、どんぐりって食えるんだっけ。
めちゃくちゃ手間がかかるって本で読んだ記憶がある。やっぱえぐいのかな。どんぐりの味って想像つかない。
「こっち終わったぞ~」
「おう」
なんか、集めた葉っぱを見ると、焼きいもがしたくなる。
実際、落ち葉集めて焼きいもって、本ではよく見るけどやったことは少ないよな。
「まあ、コンビニ行くといっても、そういや俺、金ないんだった」
コンビニについて早々、咲良はそう言って笑った。
「お前が来たいっつったんだろ」
「あったかいもん食べた過ぎて忘れてた」
「なんだそれは……」
咲良は財布を取り出し、所持金を確認し始めた。
「うーん……なんか一つ買えるかなあ」
いやでも……と悩む咲良の腹の虫が鳴く。
「……割り勘にするか」
あきれてそう提案すると、咲良は目を輝かせた。
「お、まじ? やった~」
「おごりじゃねえぞ」
「分かってる分かってる。じゃあ、あんまん半分こしようぜ!」
「あ、買うもんは決まってんのか。まあいいけど」
まん丸つやつやのあんまん。なんか割るのが惜しくなってくる。
こういうのは均等に割るのが結構難しい。もちっとした生地にほこほこの餡、ほわあっと湯気が立つ様子がたまらない。
「ほれ」
「サンキュー!」
半分でも結構ずっしりしている。これは食べ応えがありそうだ。
生地自体はそんなに甘くない。あんこがほろっとしていておいしい。しっとりとした甘さのこしあんは舌触りもよくて、もちもちの生地とよく合う。
「なんで金ないんだ? なんか買ったか」
「あーまあ、例のクリアファイルがついてくるチョコでも散財したのはもちろんだけど……」
咲良はがふっと思いっきりあんまんにかぶりつく。
「ほら、野球見に入ったろ。あんときに小遣い前借りしててさ」
「あーあのユニフォーム買った時の」
「そ。で、毎月のこづかいがないのもしんどいから、その代わり月に千円ずつ徴収されてんの。徴収っつーか、天引き?」
なるほどそういうことか。確かに、ユニフォームと帽子一式そろえるなら結構な金額になるもんな。
「それ、払い終わるのいつになるんだ」
そう聞けば咲良は眉を下げた。
「いつになるんだろうなあ……」
「貯金とかはしてないのか」
「基本、もらった分は使い切る主義なので」
「なぜ得意げなんだ……」
すっかり楽し気に笑っている咲良は、あんまんをぺろりと平らげてしまった。
今度は期間限定のチョコまんやカスタードまんに挑戦してみたいものだ。
こうも寒いと食べたくなるものがある。
肉うどん。しかしそれは牛肉を煮たものがのっているのではなく、豚肉と長ネギが入っているものだ。
まずは鍋に張った水に白だしを入れ火にかける。長ネギは斜めに切り、肉は豚バラの薄いやつ。鍋に肉と長ネギを入れ、肉に火が通ってきたら冷凍うどんを入れる。くったりと煮込めたら、水で溶いた片栗粉でとろみをつける。
最後に一味を少し振ったら完成だ。これが結構体が温まっていい。
「いただきます」
冷凍うどんの麺は細めだ。とろみがついて余計に熱いので、少し冷ましながらすする。んん、これこれ。あったまるなあ。
汁はトロッとしていておいしい。肉は柔らかく、脂身の部分は甘い。長ネギも特徴的なツンとした風味はないものの、トロンとした甘さの中にさわやかな風味とうま味がある。一味が結構いい感じに味を引き締めている。
うどんではなくそばにしてもうまい。何なら米にかけてもいい。
体調悪くてもこれは入るんだよ。寒いとなかなか食欲わかないけど、これは食べたいって思えるんだ。
熱々もうまいが、少し冷めてきてからの方が食べやすい。汁も思いっきり飲める。ホワンとした温かさがじんわりと胃に落ちて広がっていく感じ。たまらないな。
あー、こういう温かいものがおいしい季節になったんだなあ。湯気がなんかうれしい。
……肉も半分残っていることだし、明日の夜はそばで作ろうかな。
「ごちそうさまでした」
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