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日常
第百話 グラタン
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「うわ」
昼休みに図書館に行けば、テーブルの上に雑誌がてんこ盛りになっていた。
「やあ一条君」
漆原先生はさらに雑誌を抱えて部屋から出てきた。
「うそでしょ、まだあるんですか」
「半年分ぐらいかな」
「あー……」
うちの学校の図書館には色々な種類の雑誌が閲覧可能だ。貸し出しはやっておらず図書館内での閲覧のみだが、暇つぶしにはもってこいで結構人気である。
で、それらは半年に一度処分されるのだが、その前にこうやってテーブルに出される。整理のためもあるのだが、希望する生徒は自由に持ち帰ってもいいことになっているのだ。
「何か気になるものがあれば持って帰ってもいいぞ」
「そうですね……」
書店でもよく見るファッション誌や、最近活躍中の野球選手が表紙になっているスポーツ雑誌、訳の分からん単語が並ぶ科学雑誌……。
こうやって見るといろいろあるんだなあ。
「ふーっ、これで終わり」
先生が「あたた」と腰に手をやる。
「お疲れっす」
「ああ、何か気に入ったものはあったかい?」
「そうですねえ」
ファッション誌は読まないし、スポーツ雑誌も読むところばっかりじゃないし、科学雑誌は、まあ、あれだし。
「うーん、なかなか」
「君はこういうのがいいんじゃないか」
そう言って先生が持ってきたのは料理雑誌だった。
「本格的なものから簡単なものまで。こっちは作り置き特集だと」
なるほど、これは料理番組のテキストというやつか。
見た目も涼しい料理特集……これは夏号。朝晩はもうすっかり寒いからなあ、活躍するとするなら来年か。
「あ、お菓子も載ってんだ」
「そういえば一条君はお菓子も作るのかい?」
「あー、そうですねえ」
先生は椅子に座って、近くにあった雑誌をめくった。
「アップルパイとクッキーぐらいなら作りますけど」
「ほう」
でも、お菓子作りなら百瀬の方が上手だよなあ。
「ケーキとかは作らないのか?」
先生が読んでいる雑誌には、人気のカフェ特集が掲載されていた。
「例えば、こんなのとか」
そう言って見せてきたのはアフタヌーンティーセットだ。その隣のページにはホールケーキの写真が載っている。
「いや、難易度高いでしょう」
「そうか。まあ、そうだな」
俺も作れる気がしない、と先生は笑った。
「おお、これはまたにぎやかな菓子だ。カップケーキに、マカロン。最近の綿あめは虹色なのだなあ」
「何をぶつぶつ言っとるんだ。喧しい」
「あいたっ」
バインダーで漆原先生をはたいたのは石上先生だ。
「あ、石上先生。こんにちは」
「こんにちは、一条君。いつもこいつが世話になっているな」
「俺は世話をしている方だぞ、石上。何しに来たんだ」
漆原先生がむっとしながら頭をさする。石上先生はバインダーを持ち直した。
「設備点検だ。どこか不具合はないか」
「お前の俺に対する態度」
「あいにくそれは管轄外だ」
「職務怠慢だな」
仲いいなあ、この二人。
あ、この本あれだ。一時期テレビでめっちゃ特集組まれてた作り置きレシピ。やったことないけど、実際のところどうなんだろう。
夏場ってちょっと抵抗あるんだよなあ。でも今から涼しいし、やってみてもいいかな。
「う~ん」
「お、作り置きか」
石上先生が雑誌をのぞき込んでくる。
「あー、はい。これ、週末にまとめて作れば平日楽かなーって」
「それは確かに。でも、食べたいものってその時々で違うもんな」
石上先生のその言葉には同意しかない。
「そう、そうなんですよ。今日食べたいものと明日食べたいものって違うんです」
でも作り置きは作り置きでうまそうなレシピがある。
メインにしなくても、付け合わせとかは作っていてもいいかもしれない。
「これもらっていきますね」
「おお、持ってけ持ってけ。石上も一冊どうだ」
「どんな雑誌があるんだ」
「これとかどうだ」
さっきまで軽口を叩いてはいたが、いざ本を薦めるとなるとちゃんと相手に合ったものを選ぶあたり、漆原先生も一応司書なんだなあと思うのだ。
作り置きは週末にやるとして、とりあえず今日の晩飯だ。
図書館でちらっと見た本に載っていたグラタンの写真。なんかそれが頭から離れなくてなあ。うちに鶏肉もあるし、作ることにした。
今日はマカロニを入れよう。いろいろ種類はあるが、細くて長い一般的な形のやつにする。そういや昔、教育番組か何かで見たマカロニはアルファベットの形をしていたような。色付きそうめんみたく、カラフルだった記憶がある。ああいうのってどこに売ってんのかな。
マカロニを茹でて、グラタン皿に入れる。ホワイトソースを作るのも手慣れたものだ。
チーズをたっぷりかけて、あとはオーブンで焼く。今日はパンじゃなくてご飯にしよう。
「さーて、焼けたかな」
お店のように見栄えよくはいかないかもしれないが、おいしそうな見た目では引けを取らない。
「いただきます」
モチッと、プルンとしたマカロニ。しっかりソースやチーズと絡めて食べる。ん、おいしい。牛乳のまろやかさとよく合う。マカロニの中にソースが入っていて、油断するとやけどしてしまいそうだな。
鶏のうま味が染み出したソースもいい。鶏自体もほろっとうまいことやわらかくなっている。
ちょっとそこにご飯を入れてみる。マカロニではなくご飯で作るとドリアになるんだったか。ドリアはなんかミートソースのイメージが強い。
なんだかシチューをかけたご飯にも似ている。シチューより汁気は少ないが、これはこれでうまいな。
さて、食い終わったら今日もらってきた雑誌でも読むか。
グラタンとかも作り置きできないかなあ。
「ごちそうさまでした」
昼休みに図書館に行けば、テーブルの上に雑誌がてんこ盛りになっていた。
「やあ一条君」
漆原先生はさらに雑誌を抱えて部屋から出てきた。
「うそでしょ、まだあるんですか」
「半年分ぐらいかな」
「あー……」
うちの学校の図書館には色々な種類の雑誌が閲覧可能だ。貸し出しはやっておらず図書館内での閲覧のみだが、暇つぶしにはもってこいで結構人気である。
で、それらは半年に一度処分されるのだが、その前にこうやってテーブルに出される。整理のためもあるのだが、希望する生徒は自由に持ち帰ってもいいことになっているのだ。
「何か気になるものがあれば持って帰ってもいいぞ」
「そうですね……」
書店でもよく見るファッション誌や、最近活躍中の野球選手が表紙になっているスポーツ雑誌、訳の分からん単語が並ぶ科学雑誌……。
こうやって見るといろいろあるんだなあ。
「ふーっ、これで終わり」
先生が「あたた」と腰に手をやる。
「お疲れっす」
「ああ、何か気に入ったものはあったかい?」
「そうですねえ」
ファッション誌は読まないし、スポーツ雑誌も読むところばっかりじゃないし、科学雑誌は、まあ、あれだし。
「うーん、なかなか」
「君はこういうのがいいんじゃないか」
そう言って先生が持ってきたのは料理雑誌だった。
「本格的なものから簡単なものまで。こっちは作り置き特集だと」
なるほど、これは料理番組のテキストというやつか。
見た目も涼しい料理特集……これは夏号。朝晩はもうすっかり寒いからなあ、活躍するとするなら来年か。
「あ、お菓子も載ってんだ」
「そういえば一条君はお菓子も作るのかい?」
「あー、そうですねえ」
先生は椅子に座って、近くにあった雑誌をめくった。
「アップルパイとクッキーぐらいなら作りますけど」
「ほう」
でも、お菓子作りなら百瀬の方が上手だよなあ。
「ケーキとかは作らないのか?」
先生が読んでいる雑誌には、人気のカフェ特集が掲載されていた。
「例えば、こんなのとか」
そう言って見せてきたのはアフタヌーンティーセットだ。その隣のページにはホールケーキの写真が載っている。
「いや、難易度高いでしょう」
「そうか。まあ、そうだな」
俺も作れる気がしない、と先生は笑った。
「おお、これはまたにぎやかな菓子だ。カップケーキに、マカロン。最近の綿あめは虹色なのだなあ」
「何をぶつぶつ言っとるんだ。喧しい」
「あいたっ」
バインダーで漆原先生をはたいたのは石上先生だ。
「あ、石上先生。こんにちは」
「こんにちは、一条君。いつもこいつが世話になっているな」
「俺は世話をしている方だぞ、石上。何しに来たんだ」
漆原先生がむっとしながら頭をさする。石上先生はバインダーを持ち直した。
「設備点検だ。どこか不具合はないか」
「お前の俺に対する態度」
「あいにくそれは管轄外だ」
「職務怠慢だな」
仲いいなあ、この二人。
あ、この本あれだ。一時期テレビでめっちゃ特集組まれてた作り置きレシピ。やったことないけど、実際のところどうなんだろう。
夏場ってちょっと抵抗あるんだよなあ。でも今から涼しいし、やってみてもいいかな。
「う~ん」
「お、作り置きか」
石上先生が雑誌をのぞき込んでくる。
「あー、はい。これ、週末にまとめて作れば平日楽かなーって」
「それは確かに。でも、食べたいものってその時々で違うもんな」
石上先生のその言葉には同意しかない。
「そう、そうなんですよ。今日食べたいものと明日食べたいものって違うんです」
でも作り置きは作り置きでうまそうなレシピがある。
メインにしなくても、付け合わせとかは作っていてもいいかもしれない。
「これもらっていきますね」
「おお、持ってけ持ってけ。石上も一冊どうだ」
「どんな雑誌があるんだ」
「これとかどうだ」
さっきまで軽口を叩いてはいたが、いざ本を薦めるとなるとちゃんと相手に合ったものを選ぶあたり、漆原先生も一応司書なんだなあと思うのだ。
作り置きは週末にやるとして、とりあえず今日の晩飯だ。
図書館でちらっと見た本に載っていたグラタンの写真。なんかそれが頭から離れなくてなあ。うちに鶏肉もあるし、作ることにした。
今日はマカロニを入れよう。いろいろ種類はあるが、細くて長い一般的な形のやつにする。そういや昔、教育番組か何かで見たマカロニはアルファベットの形をしていたような。色付きそうめんみたく、カラフルだった記憶がある。ああいうのってどこに売ってんのかな。
マカロニを茹でて、グラタン皿に入れる。ホワイトソースを作るのも手慣れたものだ。
チーズをたっぷりかけて、あとはオーブンで焼く。今日はパンじゃなくてご飯にしよう。
「さーて、焼けたかな」
お店のように見栄えよくはいかないかもしれないが、おいしそうな見た目では引けを取らない。
「いただきます」
モチッと、プルンとしたマカロニ。しっかりソースやチーズと絡めて食べる。ん、おいしい。牛乳のまろやかさとよく合う。マカロニの中にソースが入っていて、油断するとやけどしてしまいそうだな。
鶏のうま味が染み出したソースもいい。鶏自体もほろっとうまいことやわらかくなっている。
ちょっとそこにご飯を入れてみる。マカロニではなくご飯で作るとドリアになるんだったか。ドリアはなんかミートソースのイメージが強い。
なんだかシチューをかけたご飯にも似ている。シチューより汁気は少ないが、これはこれでうまいな。
さて、食い終わったら今日もらってきた雑誌でも読むか。
グラタンとかも作り置きできないかなあ。
「ごちそうさまでした」
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