83 / 854
日常
第八十三話 野球飯
しおりを挟む
試合が始まる、まだずっと前。ドーム周辺の人影はまばらだ。
空は抜けるように青く、海辺ということもあって風が冷たい。上着もってきて正解だった。
「さて、まずはどこに行く?」
「グッズ売り場だな」
百瀬の問いに間髪入れず答えたのは咲良だった。
「えらく食い気味だな」
「いやだってそうでしょ」
そう言って咲良は俺と百瀬を指さした。
「お前らだけなに完全装備してんの」
「は?」
「ユニフォーム、帽子、果ては応援グッズまで! 俺も欲しい!」
確かに、俺と百瀬は咲良の言う通りのものを装備していた。白地に黄色のラインが入ったホーム使用のユニフォーム。帽子は黒と黄色で、チームのロゴが刺繍されている。
「あ、百瀬のユニフォーム、もしかして去年の?」
「そ~、実はチケット取れてさー」
「毎年激戦だろ、よく取れたな」
百瀬が来ているユニフォームは毎年一定期間行われているチームのイベントデー限定のものだった。一見すると俺が持っているものと変わらないように見えるが、ラインが黄色ではなく金だ。百瀬はくるりと回って見せる。
「来場者特典ももらったんだぞ」
「それなら俺も、日本シリーズ優勝した次の年の開幕戦の一試合目行ったぜ」
「えー! じゃあ優勝リングのレプリカもらったのか!」
「お前らだけで盛り上がるなよ~」
と、咲良の情けない声にハッと我に返る。見れば朝比奈も少しうずうずしているようだった。
「ああ、悪いな」
「で、なんだっけ。グッズ? じゃああっちだ」
グッズ売り場は結構でかい建物だ。今はまだ店内も空いているが、もう少しするとえげつない人数がすし詰め状態になる。
「俺、朝比奈とユニフォーム見てくる!」
そう言って咲良はにこにこしながら朝比奈とともにユニフォームエリアに行ってしまった。
「じゃ、俺たちはそれぞれでほしいもの探すか」
「そうだな」
前に行った時と比べて多少内装は変わっているが、勝手は分かっている。えーっと、風船は確か百瀬が持ってきたって言ってたし、買わなくていいか。
なんだこれ。ペンライトとかあるのか。あ、タオル。めっちゃカラフルだ。一枚買おう。えーっと、あ、そうか。俺が好きな選手、コーチになったからグッズはないのか。うーん、じゃあ今年の限定デザインのタオルにしよう。
「あ、そうだ」
今度父さんと母さんが帰ってくるって言ってたし、なんかお菓子でも買おう。せっかくだから野球場に行ったってわかるやつを……。うん、このクッキーにしよう。選手のデフォルメイラストがプリントされたクッキー。いいじゃん。じいちゃんとばあちゃんにも買おう。
「なんかあった~?」
百瀬は百瀬でかごいっぱいにグッズを抱えている。どうやら弟妹に頼まれたらしい。軍資金は親からもらってきたのだとか。
「コーチのグッズとかないのかね」
「あ、向こうにあったぞ」
「まじかよ、どこ」
選手のグッズほど展開はないが充分だ。下敷きと、キーホルダーを買おう。
会計を終えて外で待っていると、さっそくユニフォームを身に着けた咲良と朝比奈が来た。帽子もちゃっかりかぶってるし。
「高いなー、一式。ワッペンまでは余裕ねえわ」
「まあな」
「二人とも似合ってる」
そろそろ周辺もにぎわってきた。
なんかだんだん実感わいてきたぞ。
ドーム内には様々な店がある。どっしりと設備を構えている店からワゴンまで。売られているものもバラエティ豊かで、がっつりご飯もスイーツもある。
それにしても、俺たちの席、めっちゃいいな? すげー選手が近い。
いろいろ話した結果、みんなでいろんなものを食べようということになった。なんとなく勝手の分かる俺と百瀬が買いに行く。通路ですれ違う、ビールや酎ハイの売り子に、グッズの売り子、アイスやクレープ、ポップコーンの売り子まで。野球場ならではって感じだ。
まずはそうだな、キュウリの一本漬け。それに地鶏の炭火焼き。あとはなんだ。ああ、たこ焼きいいな。焼き鳥の詰め合わせも買っとこう。
なんか、ものの見事におつまみ系になってしまった。
ま、腹減ったらまた買いに行けばいいだろ。あとでおやつ買いに行こう。
球場内で流れる音楽って、すげーワクワクするんだよなあ。今から祭りが始まるぜー! って感じがたまらん。
「よう、買ってきたぞ」
「ありがとな!」
百瀬はカツサンドとかポテトとかを買ってきていた。
「キュウリの一本漬けだ~」
「これ何? 鶏肉? 黒い」
ジュースはせっかくなので、チームとのコラボメニューのサイダーにした。爽やかな水色。味はレモンっぽい酸味がある。おいしいな。
「じゃ、いただきます」
地鶏の炭火焼きって、確か父さんがビールのつまみに買ってきたのをもらったのが最初だったような。こりっこりの食感がいい。鶏の風味が強く、付属の柚子胡椒をつけるのが最高だ。
キュウリの一本漬けはいい感じの塩加減。あっという間に食べてしまう。
「カツサンド、初めて食うな」
「ここのは食べ応えもあっていいんだ」
確かに、カツが分厚いし、濃いソースがたっぷりとかかっている。キャベツもあるのか。からしをつけて食べるのがいい。
たこ焼きはほぼ揚げたこって感じだ。サクサクした表面とトロッとした中身がたまらん。紅しょうがの風味が効いてる。たこもごろってしていていいな。
「焼き鳥でっかいなー!」
モチモチとした食感のもも肉、皮もおいしい。コクのあるたれがうまい。
「あ、客席映されてんね」
咲良が指さしたのは巨大ビジョン。試合前には音楽に合わせて客席が映されるのだ。めっちゃ今ポテト食ってるから、映されるのはちょっと。ん、塩が濃い。これぞ球場って感じだ。
「こっち来ないかなー」
「試合開始まであと何分かね」
スクリーンの時計を見れば、あと一時間弱で試合開始時刻であることが分かった。
「あー、もうすぐスタメン発表だな」
スタメン発表の雰囲気って最高に盛り上がるんだよな~。
しっかり見たいし、準備はちゃんとしないと。
さあ、お楽しみはまだまだこれからだ。
「ごちそうさまでした」
空は抜けるように青く、海辺ということもあって風が冷たい。上着もってきて正解だった。
「さて、まずはどこに行く?」
「グッズ売り場だな」
百瀬の問いに間髪入れず答えたのは咲良だった。
「えらく食い気味だな」
「いやだってそうでしょ」
そう言って咲良は俺と百瀬を指さした。
「お前らだけなに完全装備してんの」
「は?」
「ユニフォーム、帽子、果ては応援グッズまで! 俺も欲しい!」
確かに、俺と百瀬は咲良の言う通りのものを装備していた。白地に黄色のラインが入ったホーム使用のユニフォーム。帽子は黒と黄色で、チームのロゴが刺繍されている。
「あ、百瀬のユニフォーム、もしかして去年の?」
「そ~、実はチケット取れてさー」
「毎年激戦だろ、よく取れたな」
百瀬が来ているユニフォームは毎年一定期間行われているチームのイベントデー限定のものだった。一見すると俺が持っているものと変わらないように見えるが、ラインが黄色ではなく金だ。百瀬はくるりと回って見せる。
「来場者特典ももらったんだぞ」
「それなら俺も、日本シリーズ優勝した次の年の開幕戦の一試合目行ったぜ」
「えー! じゃあ優勝リングのレプリカもらったのか!」
「お前らだけで盛り上がるなよ~」
と、咲良の情けない声にハッと我に返る。見れば朝比奈も少しうずうずしているようだった。
「ああ、悪いな」
「で、なんだっけ。グッズ? じゃああっちだ」
グッズ売り場は結構でかい建物だ。今はまだ店内も空いているが、もう少しするとえげつない人数がすし詰め状態になる。
「俺、朝比奈とユニフォーム見てくる!」
そう言って咲良はにこにこしながら朝比奈とともにユニフォームエリアに行ってしまった。
「じゃ、俺たちはそれぞれでほしいもの探すか」
「そうだな」
前に行った時と比べて多少内装は変わっているが、勝手は分かっている。えーっと、風船は確か百瀬が持ってきたって言ってたし、買わなくていいか。
なんだこれ。ペンライトとかあるのか。あ、タオル。めっちゃカラフルだ。一枚買おう。えーっと、あ、そうか。俺が好きな選手、コーチになったからグッズはないのか。うーん、じゃあ今年の限定デザインのタオルにしよう。
「あ、そうだ」
今度父さんと母さんが帰ってくるって言ってたし、なんかお菓子でも買おう。せっかくだから野球場に行ったってわかるやつを……。うん、このクッキーにしよう。選手のデフォルメイラストがプリントされたクッキー。いいじゃん。じいちゃんとばあちゃんにも買おう。
「なんかあった~?」
百瀬は百瀬でかごいっぱいにグッズを抱えている。どうやら弟妹に頼まれたらしい。軍資金は親からもらってきたのだとか。
「コーチのグッズとかないのかね」
「あ、向こうにあったぞ」
「まじかよ、どこ」
選手のグッズほど展開はないが充分だ。下敷きと、キーホルダーを買おう。
会計を終えて外で待っていると、さっそくユニフォームを身に着けた咲良と朝比奈が来た。帽子もちゃっかりかぶってるし。
「高いなー、一式。ワッペンまでは余裕ねえわ」
「まあな」
「二人とも似合ってる」
そろそろ周辺もにぎわってきた。
なんかだんだん実感わいてきたぞ。
ドーム内には様々な店がある。どっしりと設備を構えている店からワゴンまで。売られているものもバラエティ豊かで、がっつりご飯もスイーツもある。
それにしても、俺たちの席、めっちゃいいな? すげー選手が近い。
いろいろ話した結果、みんなでいろんなものを食べようということになった。なんとなく勝手の分かる俺と百瀬が買いに行く。通路ですれ違う、ビールや酎ハイの売り子に、グッズの売り子、アイスやクレープ、ポップコーンの売り子まで。野球場ならではって感じだ。
まずはそうだな、キュウリの一本漬け。それに地鶏の炭火焼き。あとはなんだ。ああ、たこ焼きいいな。焼き鳥の詰め合わせも買っとこう。
なんか、ものの見事におつまみ系になってしまった。
ま、腹減ったらまた買いに行けばいいだろ。あとでおやつ買いに行こう。
球場内で流れる音楽って、すげーワクワクするんだよなあ。今から祭りが始まるぜー! って感じがたまらん。
「よう、買ってきたぞ」
「ありがとな!」
百瀬はカツサンドとかポテトとかを買ってきていた。
「キュウリの一本漬けだ~」
「これ何? 鶏肉? 黒い」
ジュースはせっかくなので、チームとのコラボメニューのサイダーにした。爽やかな水色。味はレモンっぽい酸味がある。おいしいな。
「じゃ、いただきます」
地鶏の炭火焼きって、確か父さんがビールのつまみに買ってきたのをもらったのが最初だったような。こりっこりの食感がいい。鶏の風味が強く、付属の柚子胡椒をつけるのが最高だ。
キュウリの一本漬けはいい感じの塩加減。あっという間に食べてしまう。
「カツサンド、初めて食うな」
「ここのは食べ応えもあっていいんだ」
確かに、カツが分厚いし、濃いソースがたっぷりとかかっている。キャベツもあるのか。からしをつけて食べるのがいい。
たこ焼きはほぼ揚げたこって感じだ。サクサクした表面とトロッとした中身がたまらん。紅しょうがの風味が効いてる。たこもごろってしていていいな。
「焼き鳥でっかいなー!」
モチモチとした食感のもも肉、皮もおいしい。コクのあるたれがうまい。
「あ、客席映されてんね」
咲良が指さしたのは巨大ビジョン。試合前には音楽に合わせて客席が映されるのだ。めっちゃ今ポテト食ってるから、映されるのはちょっと。ん、塩が濃い。これぞ球場って感じだ。
「こっち来ないかなー」
「試合開始まであと何分かね」
スクリーンの時計を見れば、あと一時間弱で試合開始時刻であることが分かった。
「あー、もうすぐスタメン発表だな」
スタメン発表の雰囲気って最高に盛り上がるんだよな~。
しっかり見たいし、準備はちゃんとしないと。
さあ、お楽しみはまだまだこれからだ。
「ごちそうさまでした」
14
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。

娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる