一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第六十話 ホットドッグ

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「あ~、イベント始まった。いつまでだ?」

 布団に寝そべり、スマホゲームを開く。

 寝る前にスマホをしたら眠りの質が悪くなる、といわれているしそれも分かるのだが、なんとなくやってしまう。

「お、確定報酬なんだ。へー……周回どうしよ」

 アップデートを済ませ、ポチポチと進める。無課金でやっているのでちまちまとしか進まないが、楽しいのでいい。課金しないと進まないようなゲームもある中で、これは根気と時間さえあれば進めることができるので、良心的ではある、と、思う。

「……あ、そういや連絡してねえ」

 咲良が引越しの手伝いに来ると言っていたこと、親に聞いてなかった。というかあいつ、本気で来るつもりなんだろうか。暑さにやられたか、あるいはその場のノリ、ということではなかろうか。

 でも聞いといてくれって言われたし、一応聞いとくか。

 家族のグループチャットを開き、文字を打ち込む。

「友達が引越しの手伝いに来たいって言ってんだけど、どうしようか」

 うーん、やっぱなんか友達って表現、むずがゆいというか変な感じがする。でも他に表現のしようがないのでそれで送るしかない。

 すると以外にもすぐに返信が来た。

『お、いいじゃないか。その子がいいなら呼んでくれていいぞ』

『大歓迎!』

 父さんも母さんもすごく乗り気だ。

 思わず頭を抱える。知ってた。うちの両親はそういう性格だ。

「じゃあ、来てもらうようにする」

 そう送れば、了解を示す絵文字と楽しみだという絵文字がセットで送られてきた。

 咲良には明日言えばいいかな。

「……寝よ」



 誰かに用事があるとき、その人を探すのに手間取って結局用事を済ませられなかった、ということはざらにある。

 その点、咲良は楽だ。こっちが頼まずとも一日一回は顔を出す。

「あ、春都おはよー」

「おう。おはよう」

 夏休みの間は校門前で、生徒会や生徒指導部の先生が挨拶をしていないので少し気が楽だ。

「昨日聞いてみたぞ、引っ越しのこと」

「まじ? なんて?」

「ぜひどうぞ、だとよ」

 咲良はそれを聞くと「よっしゃ!」と手を叩いた。

「楽しみだなー!」

「人の引っ越しをイベントごとのように扱いやがって」

 しかしまあ、ここまでくるとあきれるというより逆に感心する。思わず笑ってしまうじゃないか。

「引っ越しなんてめったにしないでしょ。ある意味イベントだよ」

「まあ、そうとも言えるか」

「俺は引っ越し初心者だし」

「お前それでよく手伝うって言えたな」

 決定した日時を伝え、俺たちはそれぞれの教室へ向かう。

「あ、そうそう!」

 と、咲良がUターンしてきた。

 教室に入ろうとしていた足を止め、俺も振り返る。

「なんだ」

 咲良はにへらっと笑って言ったものだ。

「昼飯、楽しみにしてるからな!」

 なるほど、こいつは引っ越しの日の昼飯の心配をしているらしい。いや、心配というより、期待をしてる、という表現の方が適切か。

 ずいぶんのんきな笑顔に毒気を抜かれる。まったく、こちらも苦笑するしかない。

「当日は忙しいからな。俺が作れるか分からんぞ」

「えー、まあ、そっかー」

 咲良は少し残念そうだったが、まあ納得したらしい。

 そういえばそうだ。当日の昼飯、どうするんだろう。



 四人分の昼飯を作るだけでもなかなかの労力だろうに、ましてや引っ越しだもんなあ。

 階を移動するだけとはいえ、時間もかかるし体力もいる。まあ、きっかり昼飯を取る時間はないだろう。ましてや手の込んだものはできない。

 放課後、スーパーに寄って棚を見ながら考える。

 今日は缶詰とかが安かったので、いくつか買っておく。

 いつもは少し高い鯖缶が今日は超特価だ。味噌煮はそのまま食ってうまいし、水煮はスパゲッティとかに使える。トマトソースと煮るとうまいんだ。

 それに今日はパンも安い。菓子パンとか、小腹が空いたときにちょうどいい。

「ん、これも買っとくか」

 ホットドッグとかに使えるサイズのパンがある。五本入りで百円ちょっと。

 もし、昼飯を作るとしたら焼きそばパンとか、ホットドッグとか、そういうのが食べやすいよな。それともおにぎりとか米の方がいいか。鮭フレークも買ったし、あとは昆布とか、高菜とか。どっちの方が腹持ちいいかなあ。

「とりあえずウインナー買っとこ」

 今日はベビーハムも安いらしい。日持ちもするし、ご飯にもパンにも合うし、これも買っておくことにしよう。



 引っ越し当日の昼飯は父さんと母さんに相談することにした。

 とりあえず今日の昼飯だ。

 ウインナーと、パン、あとは野菜――キャベツとレタスにケチャップと粒マスタード。シンプルなものだ。

 レタスもキャベツも洗わなくていい、というかあらかじめ洗って袋詰めしてあるものを買ってきたので特にすることはない。ウインナーは炒めて、パンには切り込みを入れる。野菜とウインナーをそれに挟み込んで、ケチャップと粒マスタードをかけたら完成だ。粒マスタードは少し多めにする。

 いかにもなホットドッグの完成だ。

「いただきます」

 ウインナーは短いので、二本ずつ入れた。焦げた表面にケチャップの味がよく合う。プチプチとした粒マスタードの食感が好きだ。少し甘いパンとレタスのみずみずしさ、キャベツも相まって、おいしい。

 ちょっと焼き肉のたれもかけてみる。一気にバーベキューみたいな味になった。ホットドッグも味変できるんだよな。

 できればウインナーを最後まで残したい。そのバランスが難しいといつも思う。

 そういえばホットドッグ用のウインナーもあったし、今度買ってみようかな。



「ごちそうさまでした」

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