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日常
第五十五話 ハンバーガー
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もうすぐ夏休みが終わる。というか、課外が始まる。
なーんかあっという間だったなぁ。去年よりもずいぶん騒がしい休みだったというか、よく外に出た。
お盆を過ぎ、後期課外が始まると、もう夏も終わりって感じがする。
あと、夏らしいイベントといえば、花火大会か。
予報では雨になっていたけど、どうなるだろうな。少なくとも今日は抜けるような青空が広がり、雨の気配はどこにもない。寝転がった状態のまま外を見る。うーん、まぶしい。
「今日はのんびりするか」
セミの鳴き声に、ふと、昨日の喧騒を思い出す。
昨日は昼飯を食った後、治樹が昼寝をしている間に、庭をちょっとぶらついた。一人では迷いそうだったので、百瀬と一緒にだ。
「広いなぁ……」
「ねー、広いよねー。俺、何回か迷子になったもん」
でかい松の木、手入れの行き届いた生垣、なんかちょっとしたひまわり畑もあった。
「ひまわり……」
「ここは季節の花が植えられてるんだってさ」
勝手知ったる他人の家、というやつだろうか。百瀬は広大な庭を迷うことなく突き進む。
「百瀬はよく来てるのか?」
「んー、まあ、昔はね。最近はなかなか来れてないから、ちょっと楽しい」
「ふーん」
時間をかけて一周回り、池がある所まで来た。
あ、やっぱ錦鯉泳いでる。錦鯉だけじゃなくて白やら黒やら金色やらもいる。真ん中の方に置かれた石の上では、亀が甲羅干しをしていた。今日は暑いから、干からびるんじゃないか。
「たまに餌やってたんだよね~」
麩とか食べるんだよ、と百瀬はしゃがんで池をのぞき込んだ。鯉は俺たちの視線にかまうことなく、優雅にゆったりと泳いでいる。
「近所の公園の鯉には餌やってたな。餌は食パンの耳だったけど」
「あー、それもあるねー」
確か、ばあちゃんとか母さんとよく一緒に行ってたっけ。あ、そういや鯉だけじゃなくて鴨もいたな。
トプンッと音がしたので、見れば亀が池の中にいた。
「パンを狙って鴨に追いかけられた。集団で」
「何それ怖い」
「で、パニックになった俺はギャン泣きして母さんに抱きかかえられて逃げた」
「あはは」
俺たちもそろそろ暑くなってきたので、屋敷の中に戻ることにした。
「春ちゃん、かわいいとこあるじゃん」
ニコーッといたずらっぽく笑って百瀬が顔をのぞき込んでくるので、思わず眉間にしわが寄った。
「その呼び方やめろ」
「えー、いいじゃん。春ちゃん。似合ってるよー」
「似合ってない」
玄関を開けると、そこにはすっかり覚醒した治樹と、咲良、朝比奈がいた。
「あ! いた! 優太と春ちゃん! 早く来て!」
「なんだなんだ、どうしたー?」
百瀬がにこにこ笑って治樹のもとへ行く。
「ゲームしよ! ゲーム!」
こないだ買ってもらったんだ! と治樹は飛び跳ねる。
「お、いいなあ。ゲームかあ」
治樹の言うゲームの名前は、うちにあるゲームと同じものだった。
「そのゲームなら春ちゃんが強いぞ~」
と、咲良がにやにやしながらこちらを向く。それに合わせて他の三人の視線もこちらに向けられた。
「春ちゃんゲーム強いんだ」
「そうなのか、春ちゃん」
「お前ら呼びたいだけだろ……!」
思わずため息をつくと、治樹が「え~?」と疑うような声を上げた。
「春ちゃんよわっちいだろ! あのさー、このゲーム難しいんだよ? パズルだよ? スピードも結構速いし、できるのぉ?」
その瞬間、俺の中で何かが切れる音がした。
しかし俺は大人なので、こんなちびっこ相手に感情をあらわにするようなことはしない。
「……とりあえずやってみようか」
努めて穏やかに、努めて冷静にそう告げる。
子どもだからって、手加減はしてやらないぞ。
なんてったって、俺はそうやって育てられてきたからな。
結局あの後、コテンパンに叩きのめしてやった。治樹からは「大人げない!」と言われたが、勝負とはそういうものなのだよ、少年。
あ、なんかさっきの言葉、漆原先生っぽかった。
「さて、昼飯にすっか」
今日の昼飯の献立はもう決めてある。
ハンバーガー。こないだ買い物に行ったら、ハンバーガーのバンズが売っていた。めったに見ないものだったので、思わず買ってしまったのだ。
挟むものは、レトルトのハンバーグ、ベーコン、レタスにサラダほうれん草。
サラダほうれん草も初めて見た。生で食べられるらしい。見た目はベビーリーフみたいだ。あく抜きしなくていいのだとか。
ベーコンはカリッと焼いて、ハンバーグは温める。レタスとサラダほうれん草は洗っておく。
挟むのは食べる直前にしよう。
「いただきます」
まずはレタスとベーコンとサラダほうれん草。ソースは焼き肉のたれにケチャップとタバスコを混ぜたものだ。
バクッと豪快にいくのがハンバーガーの作法というものだろう。みずみずしいレタスの味とシャキッと食感。ほうれん草は少し苦みがあるが、それがおいしい。ベーコンの味も滲み出し、ソースもよく合う。
次はハンバーグ。照り焼きだ。
うんうん、濃い味はハンバーガーに向いている。野菜のさっぱり感がいい感じで、あっという間に食べてしまえる。
そこにコーラを流し込むのがいい。シュワシュワの甘さがたまらないのだ。
ちょっと野菜だけで食べてみようかな。……めっちゃさっぱりだ。これはこれでおいしい。でもやっぱり肉っ気を求めてしまう。
これ、チキンナゲットでもうまそうだな。今度買ってきてみよう。
ハンバーグも手作りにして、いつか、バカでかいよくばりハンバーガー、作ってみたいな。野菜の種類も増やそう。もちろん、サラダほうれん草も。トマトがあってもいいかもな。
弁当にポテトとセットで持って行ってみようかな。
学校行くのは、まあ、だるいけど。運動会の練習も始まるし。
ほどほどに手を抜いて、でも、飯がうまいと思えるぐらいに頑張れたらいいかな。
「ごちそうさまでした」
なーんかあっという間だったなぁ。去年よりもずいぶん騒がしい休みだったというか、よく外に出た。
お盆を過ぎ、後期課外が始まると、もう夏も終わりって感じがする。
あと、夏らしいイベントといえば、花火大会か。
予報では雨になっていたけど、どうなるだろうな。少なくとも今日は抜けるような青空が広がり、雨の気配はどこにもない。寝転がった状態のまま外を見る。うーん、まぶしい。
「今日はのんびりするか」
セミの鳴き声に、ふと、昨日の喧騒を思い出す。
昨日は昼飯を食った後、治樹が昼寝をしている間に、庭をちょっとぶらついた。一人では迷いそうだったので、百瀬と一緒にだ。
「広いなぁ……」
「ねー、広いよねー。俺、何回か迷子になったもん」
でかい松の木、手入れの行き届いた生垣、なんかちょっとしたひまわり畑もあった。
「ひまわり……」
「ここは季節の花が植えられてるんだってさ」
勝手知ったる他人の家、というやつだろうか。百瀬は広大な庭を迷うことなく突き進む。
「百瀬はよく来てるのか?」
「んー、まあ、昔はね。最近はなかなか来れてないから、ちょっと楽しい」
「ふーん」
時間をかけて一周回り、池がある所まで来た。
あ、やっぱ錦鯉泳いでる。錦鯉だけじゃなくて白やら黒やら金色やらもいる。真ん中の方に置かれた石の上では、亀が甲羅干しをしていた。今日は暑いから、干からびるんじゃないか。
「たまに餌やってたんだよね~」
麩とか食べるんだよ、と百瀬はしゃがんで池をのぞき込んだ。鯉は俺たちの視線にかまうことなく、優雅にゆったりと泳いでいる。
「近所の公園の鯉には餌やってたな。餌は食パンの耳だったけど」
「あー、それもあるねー」
確か、ばあちゃんとか母さんとよく一緒に行ってたっけ。あ、そういや鯉だけじゃなくて鴨もいたな。
トプンッと音がしたので、見れば亀が池の中にいた。
「パンを狙って鴨に追いかけられた。集団で」
「何それ怖い」
「で、パニックになった俺はギャン泣きして母さんに抱きかかえられて逃げた」
「あはは」
俺たちもそろそろ暑くなってきたので、屋敷の中に戻ることにした。
「春ちゃん、かわいいとこあるじゃん」
ニコーッといたずらっぽく笑って百瀬が顔をのぞき込んでくるので、思わず眉間にしわが寄った。
「その呼び方やめろ」
「えー、いいじゃん。春ちゃん。似合ってるよー」
「似合ってない」
玄関を開けると、そこにはすっかり覚醒した治樹と、咲良、朝比奈がいた。
「あ! いた! 優太と春ちゃん! 早く来て!」
「なんだなんだ、どうしたー?」
百瀬がにこにこ笑って治樹のもとへ行く。
「ゲームしよ! ゲーム!」
こないだ買ってもらったんだ! と治樹は飛び跳ねる。
「お、いいなあ。ゲームかあ」
治樹の言うゲームの名前は、うちにあるゲームと同じものだった。
「そのゲームなら春ちゃんが強いぞ~」
と、咲良がにやにやしながらこちらを向く。それに合わせて他の三人の視線もこちらに向けられた。
「春ちゃんゲーム強いんだ」
「そうなのか、春ちゃん」
「お前ら呼びたいだけだろ……!」
思わずため息をつくと、治樹が「え~?」と疑うような声を上げた。
「春ちゃんよわっちいだろ! あのさー、このゲーム難しいんだよ? パズルだよ? スピードも結構速いし、できるのぉ?」
その瞬間、俺の中で何かが切れる音がした。
しかし俺は大人なので、こんなちびっこ相手に感情をあらわにするようなことはしない。
「……とりあえずやってみようか」
努めて穏やかに、努めて冷静にそう告げる。
子どもだからって、手加減はしてやらないぞ。
なんてったって、俺はそうやって育てられてきたからな。
結局あの後、コテンパンに叩きのめしてやった。治樹からは「大人げない!」と言われたが、勝負とはそういうものなのだよ、少年。
あ、なんかさっきの言葉、漆原先生っぽかった。
「さて、昼飯にすっか」
今日の昼飯の献立はもう決めてある。
ハンバーガー。こないだ買い物に行ったら、ハンバーガーのバンズが売っていた。めったに見ないものだったので、思わず買ってしまったのだ。
挟むものは、レトルトのハンバーグ、ベーコン、レタスにサラダほうれん草。
サラダほうれん草も初めて見た。生で食べられるらしい。見た目はベビーリーフみたいだ。あく抜きしなくていいのだとか。
ベーコンはカリッと焼いて、ハンバーグは温める。レタスとサラダほうれん草は洗っておく。
挟むのは食べる直前にしよう。
「いただきます」
まずはレタスとベーコンとサラダほうれん草。ソースは焼き肉のたれにケチャップとタバスコを混ぜたものだ。
バクッと豪快にいくのがハンバーガーの作法というものだろう。みずみずしいレタスの味とシャキッと食感。ほうれん草は少し苦みがあるが、それがおいしい。ベーコンの味も滲み出し、ソースもよく合う。
次はハンバーグ。照り焼きだ。
うんうん、濃い味はハンバーガーに向いている。野菜のさっぱり感がいい感じで、あっという間に食べてしまえる。
そこにコーラを流し込むのがいい。シュワシュワの甘さがたまらないのだ。
ちょっと野菜だけで食べてみようかな。……めっちゃさっぱりだ。これはこれでおいしい。でもやっぱり肉っ気を求めてしまう。
これ、チキンナゲットでもうまそうだな。今度買ってきてみよう。
ハンバーグも手作りにして、いつか、バカでかいよくばりハンバーガー、作ってみたいな。野菜の種類も増やそう。もちろん、サラダほうれん草も。トマトがあってもいいかもな。
弁当にポテトとセットで持って行ってみようかな。
学校行くのは、まあ、だるいけど。運動会の練習も始まるし。
ほどほどに手を抜いて、でも、飯がうまいと思えるぐらいに頑張れたらいいかな。
「ごちそうさまでした」
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