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日常
第五十一話 お好み焼き
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昨日は食い過ぎた。
体調にはまったくもって影響はないが、気分的に、ちょっとな。
「よーっしゃ、うめず。運動しに行くぞ」
運動、と言ってもただの散歩だ。河川敷を何回か往復するか、遠回りしていくか……。
もしかしたら田中さんに会うかもしれないし、そん時は一緒に走ってもらおう。あ、でもそしたら俺の運動になんねえか。
いつもの散歩ルートではなく、ちょっと遠回りして河川敷に向かう。なんか知らないうちに畑がなくなっていたり、そこに新しい建物が建っていたり。知らないうちに無くなったものやできたものがあるんだな。
「おー、また新しい家が建ってるぞ、うめず」
「わふっ」
「こっちはすっからかんになってるなあ」
「わうぅ」
会話が成り立ってるんだか成り立っていないんだか分からないまま、河川敷を目指す。この時間は結構好きだ。
朝露に濡れた葉の香りを感じながら、河川敷を歩く。
そういえば、月末には花火大会があるな。毎年八月の末にはここで花火大会がある。そこそこ大きな花火大会で、仕掛け花火なんかも見ることができる。河川敷をはじめ、道路も一部通行止めになり、出店がずらりと並ぶ。橋には提灯が飾られ、それはもういつもとは比べ物にならないぐらいにきらびやかな世界になる。もちろん、人出も多い。
「雨が降らないといいな」
人込みは苦手だ。けど、祭りの雰囲気は好きなので、いつも花火が始まる前にちょっとだけ出店を見て回っている。今年も楽しみだ。
「あ、あれは……」
見たことのあるオレンジ色のジャージ姿。
「おはようございます、田中さん」
「おはよう、一条君。うめずも」
「わふっ」
田中さんだ。うめずは尻尾をちぎれんばかりに振り回して、田中さんにじゃれつこうとする。引っ張る力が年々強くなっている気がする。
「こら、落ち着け、うめず」
「あっはは。元気そうだね」
快活に笑う田中さんは、うめずをしかと受け止めると撫で繰り回した。
「最近運動不足だなーと思って。俺もうめずも」
田中さんはうめずの相手をしながら顔を上げた。
「お、そうなのか」
「はい。なので散歩しようかなーと」
「じゃあ、一緒に走るか」
ん?
「……はい?」
「運動不足なんだろ? じゃあ、うめずも一緒に走ろうか!」
「わうっ!」
田中さんの明るい笑みと、うめずの期待に満ち溢れたまなざしには、俺が首を横に振ることを許さない何かを感じた。その圧に思わず、顔が引きつったのが分かった。
「ちょ……運動神経最底辺のやつに……これは、きついっす……」
河川敷の端から端まで全力疾走――いや、全力疾走ではないけど、淡々とそこそこのスピードで走るのは、結構、きつい。ていうか、慣れてないし。
「お、そんなとこに座ったら洋服が濡れるぞ」
「いや、そんなこと、気にしてる場合じゃないです……」
田中さんは息一つ乱れていないし、うめずはテンションマックスだ。え、なに。俺がおかしいの、これ。
「あはは。ほら、うめず。ご主人がばててるぞ」
「わふっ」
「おあーっ」
うめずに飛びつかれ、俺はひっくり返る。
草がもしゃもしゃするし、露は冷たい。でもなんか、気持ちがいい。
息を整えながら見上げた空は、抜けるように青かった。
「あー、体痛い」
夕暮れ時、ソファに横たわって呻いていると、うめずが腹に前足をのせてきた。
「うぐっ」
あの後家に帰って、簡単に朝飯を食べた。お茶漬けと、買い置きしておいた漬物。お茶漬けはお湯をかける前に一通りおかきとか海苔とか、緑色の粉――抹茶パウダー? をそのまま食べたくなる。しょっぱいの、おいしい。
お茶漬けの素は買っておくと便利だ。何もしたくないときとかにぶっかければいいから。あとおいしいし。鮭とか梅とか、ワサビとかいろいろ種類はあるけど、俺は海苔が好きだ。
昼は食パンを買っておいたのでそれをトーストして食べた。熱々のトースト、その上にバターをのっける。とろぉっと溶けたバターを塗り広げてパンをかじれば、ジュワッとうま味が口いっぱいに広がってうまい。耳の部分も噛み応えがあって好きだ。ラスクにしてもうまいんだよなー。
コーンスープの素も買っておいたので、それも飲んだ。クルトンがいいよな。で、食パンをつけて食べるのが好きだ。染み染みになったパンは、体調が悪い時でも食べられる。高確率でやけどするけど。
しかしまあ、朝昼と質素な食事内容だったわけなのだが、当然腹が減る。満足感と満腹感は比例しないのだと思い知る。
さて、晩飯はがっつり食うぞ。
「よし、うめず。ちょっと失礼」
うめずと入れ替わりにソファから立ち上がる。
今日の晩飯はお好み焼きだ。しかも、山芋とかを入れたちょっとリッチなやつだ。
薄力粉に顆粒だし、卵、水を入れて混ぜ、そこにすり下ろした山芋を入れてさらに混ぜる。ねっとりしているのがちょっと大変だけど、楽しい。キャベツの千切りも混ぜなきゃいけないが、大変さが増す。
で、本日は豚バラ肉も準備している。これをフライパンにひいて、さらにその上にさっき混ぜたものをのせる。で、焼けた頃を見計らって……
「よいしょっ」
……おし、上手にひっくり返った。フライ返しとか使うとあとの洗い物が大変だからとフライパンを振ってひっくり返すのだが、これが結構至難の業なのだ。
それにしてもいい焼き色だ。カリッカリの豚肉……辛抱たまらん。
「そろそろいいか」
皿に移し、ソース、マヨネーズ、かつお節に青のりをかけて完成だ。あーうまそう。早く食べたい。
「いただきます」
山芋を入れた生地はもっちもちでフワッフワだ。キャベツのザクッとした食感がまたいい。青のりの風味とかつお節のうま味がソース味を引き立たせる。マヨネーズのしょっぱさもいい。
で、豚肉。カリッと香ばしく、ジュワッと脂が染み出しておいしい。生地と一緒に食べるのがやっぱりベストだが、豚肉だけでも食べたくなってしまう。ちょっとスナック菓子っぽい。
すきっ腹に心地よい重さがたまっていく。そういえばお好み焼きっておかずになるんだっけか。
試しにご飯と食ってみる。おぉ、結構いける。ソース味のモチッと生地が意外にもおかずになるものだ。次からはちゃんと飯も準備しよう。
今度は海鮮お好み焼き、やってみようかなあ。
お好み焼きだし、好きに焼いていいだろうからな。
「ごちそうさまでした」
体調にはまったくもって影響はないが、気分的に、ちょっとな。
「よーっしゃ、うめず。運動しに行くぞ」
運動、と言ってもただの散歩だ。河川敷を何回か往復するか、遠回りしていくか……。
もしかしたら田中さんに会うかもしれないし、そん時は一緒に走ってもらおう。あ、でもそしたら俺の運動になんねえか。
いつもの散歩ルートではなく、ちょっと遠回りして河川敷に向かう。なんか知らないうちに畑がなくなっていたり、そこに新しい建物が建っていたり。知らないうちに無くなったものやできたものがあるんだな。
「おー、また新しい家が建ってるぞ、うめず」
「わふっ」
「こっちはすっからかんになってるなあ」
「わうぅ」
会話が成り立ってるんだか成り立っていないんだか分からないまま、河川敷を目指す。この時間は結構好きだ。
朝露に濡れた葉の香りを感じながら、河川敷を歩く。
そういえば、月末には花火大会があるな。毎年八月の末にはここで花火大会がある。そこそこ大きな花火大会で、仕掛け花火なんかも見ることができる。河川敷をはじめ、道路も一部通行止めになり、出店がずらりと並ぶ。橋には提灯が飾られ、それはもういつもとは比べ物にならないぐらいにきらびやかな世界になる。もちろん、人出も多い。
「雨が降らないといいな」
人込みは苦手だ。けど、祭りの雰囲気は好きなので、いつも花火が始まる前にちょっとだけ出店を見て回っている。今年も楽しみだ。
「あ、あれは……」
見たことのあるオレンジ色のジャージ姿。
「おはようございます、田中さん」
「おはよう、一条君。うめずも」
「わふっ」
田中さんだ。うめずは尻尾をちぎれんばかりに振り回して、田中さんにじゃれつこうとする。引っ張る力が年々強くなっている気がする。
「こら、落ち着け、うめず」
「あっはは。元気そうだね」
快活に笑う田中さんは、うめずをしかと受け止めると撫で繰り回した。
「最近運動不足だなーと思って。俺もうめずも」
田中さんはうめずの相手をしながら顔を上げた。
「お、そうなのか」
「はい。なので散歩しようかなーと」
「じゃあ、一緒に走るか」
ん?
「……はい?」
「運動不足なんだろ? じゃあ、うめずも一緒に走ろうか!」
「わうっ!」
田中さんの明るい笑みと、うめずの期待に満ち溢れたまなざしには、俺が首を横に振ることを許さない何かを感じた。その圧に思わず、顔が引きつったのが分かった。
「ちょ……運動神経最底辺のやつに……これは、きついっす……」
河川敷の端から端まで全力疾走――いや、全力疾走ではないけど、淡々とそこそこのスピードで走るのは、結構、きつい。ていうか、慣れてないし。
「お、そんなとこに座ったら洋服が濡れるぞ」
「いや、そんなこと、気にしてる場合じゃないです……」
田中さんは息一つ乱れていないし、うめずはテンションマックスだ。え、なに。俺がおかしいの、これ。
「あはは。ほら、うめず。ご主人がばててるぞ」
「わふっ」
「おあーっ」
うめずに飛びつかれ、俺はひっくり返る。
草がもしゃもしゃするし、露は冷たい。でもなんか、気持ちがいい。
息を整えながら見上げた空は、抜けるように青かった。
「あー、体痛い」
夕暮れ時、ソファに横たわって呻いていると、うめずが腹に前足をのせてきた。
「うぐっ」
あの後家に帰って、簡単に朝飯を食べた。お茶漬けと、買い置きしておいた漬物。お茶漬けはお湯をかける前に一通りおかきとか海苔とか、緑色の粉――抹茶パウダー? をそのまま食べたくなる。しょっぱいの、おいしい。
お茶漬けの素は買っておくと便利だ。何もしたくないときとかにぶっかければいいから。あとおいしいし。鮭とか梅とか、ワサビとかいろいろ種類はあるけど、俺は海苔が好きだ。
昼は食パンを買っておいたのでそれをトーストして食べた。熱々のトースト、その上にバターをのっける。とろぉっと溶けたバターを塗り広げてパンをかじれば、ジュワッとうま味が口いっぱいに広がってうまい。耳の部分も噛み応えがあって好きだ。ラスクにしてもうまいんだよなー。
コーンスープの素も買っておいたので、それも飲んだ。クルトンがいいよな。で、食パンをつけて食べるのが好きだ。染み染みになったパンは、体調が悪い時でも食べられる。高確率でやけどするけど。
しかしまあ、朝昼と質素な食事内容だったわけなのだが、当然腹が減る。満足感と満腹感は比例しないのだと思い知る。
さて、晩飯はがっつり食うぞ。
「よし、うめず。ちょっと失礼」
うめずと入れ替わりにソファから立ち上がる。
今日の晩飯はお好み焼きだ。しかも、山芋とかを入れたちょっとリッチなやつだ。
薄力粉に顆粒だし、卵、水を入れて混ぜ、そこにすり下ろした山芋を入れてさらに混ぜる。ねっとりしているのがちょっと大変だけど、楽しい。キャベツの千切りも混ぜなきゃいけないが、大変さが増す。
で、本日は豚バラ肉も準備している。これをフライパンにひいて、さらにその上にさっき混ぜたものをのせる。で、焼けた頃を見計らって……
「よいしょっ」
……おし、上手にひっくり返った。フライ返しとか使うとあとの洗い物が大変だからとフライパンを振ってひっくり返すのだが、これが結構至難の業なのだ。
それにしてもいい焼き色だ。カリッカリの豚肉……辛抱たまらん。
「そろそろいいか」
皿に移し、ソース、マヨネーズ、かつお節に青のりをかけて完成だ。あーうまそう。早く食べたい。
「いただきます」
山芋を入れた生地はもっちもちでフワッフワだ。キャベツのザクッとした食感がまたいい。青のりの風味とかつお節のうま味がソース味を引き立たせる。マヨネーズのしょっぱさもいい。
で、豚肉。カリッと香ばしく、ジュワッと脂が染み出しておいしい。生地と一緒に食べるのがやっぱりベストだが、豚肉だけでも食べたくなってしまう。ちょっとスナック菓子っぽい。
すきっ腹に心地よい重さがたまっていく。そういえばお好み焼きっておかずになるんだっけか。
試しにご飯と食ってみる。おぉ、結構いける。ソース味のモチッと生地が意外にもおかずになるものだ。次からはちゃんと飯も準備しよう。
今度は海鮮お好み焼き、やってみようかなあ。
お好み焼きだし、好きに焼いていいだろうからな。
「ごちそうさまでした」
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