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日常
第四十二話 かつ丼
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「映画?」
課外が休みになるまで一週間を切ったころ。咲良は俺と朝比奈と百瀬をファストフード店まで連行した。早く帰りてえのに。……まあ、別に大した用事もないのでいいのだが。
昼時ということもあってか店内は結構混んでいた。俺たちは壁際の四人席に座る。
「そ、映画。見に行かね?」
俺の隣でジュース片手に、咲良はそう提案した。俺は黙々とポテトを食う。こういうとこのポテトってラードで揚げてあるから、家では味わえないカリカリ感があるんだよな。あと、ハンバーガーによく合う。
「いいねー、最近映画見に行ってないし、楽しそう」
咲良の正面に座る百瀬が無邪気に笑ってシェイクをすする。
「それ期間限定だっけ」
「うん、桃。結構いけるよー」
百瀬の隣に座った朝比奈はこういう店に行き慣れていないらしい。興味深そうに、なおかつ慎重にハンバーガーの包みを開いていた。
「で、いつ行くの? できるなら予約しておきたいよね」
「おう。だからさ、お前らの予定を聞きたくて」
「俺はたいてい暇だよ~」
「春都と朝比奈は?」
父さんと母さんが帰ってくるの、確か盆ぐらいだったよな。
「盆以外なら大丈夫だ」
「そっか、朝比奈は?」
「俺も一条と同じ感じだ」
じゃあ、盆以外ならいいってことだな! と咲良が意気込む。
「課外休みっていつからいつまでだっけ?」
「確か……十二日から、二十二日?」
俺はスマホのカレンダーで確認をする。
「うん、そうだ」
「じゃ、盆明けに行こうぜ。二十日とか、そんくらい」
「いいねえ。てか、何見るん?」
シェイクを飲み終わったらしい百瀬がスマホを取り出した。
「えーっと、上映スケジュール……っと。あ、どこの映画館?」
「リニューアルしたショッピングモール」
咲良の返事に「オッケー」と言うと、百瀬は映画の上映スケジュールを表示したスマホをテーブルに置いた。
「盆明けのスケジュールはこんな感じ。何見る?」
俺たちはそろってその画面をのぞき込んだ。
「やっぱアニメ多いな」
「夏休みだもんね」
「うーん、洋画は前作見とかないと分かんなさそうなのばっかりだ」
「なんだよー。なんか恋愛もの多くねえ?」
公開されている作品はかなりの数あるが、ピンとくるものはこれといってない。
これならDVD借りて見た方がいいんじゃないかと思うが……。
「あ、これ。これどう?」
咲良が示したのは、最近テレビCMとかバラエティー番組での番宣でよく見る映画のタイトルだった。
「あー、いいんじゃね? これ、面白そうだったし」
「うん。いいと思う」
「コメディだし、楽しそうでいいじゃん!」
「じゃ、これでけってーい」
確か漫画が原作で、読んだことはないけど予告を見る限り結構ぶっ飛んだ内容だった気がする。
「映画は何時の?」
「昼ぐらい? 飯の前がいいな」
「じゃ、朝一かその次ぐらいだねー」
そういえば、そのショッピングモールにはあまり行ったことがないな。俺は咲良に聞いてみる。
「なんか飯屋あったか?」
「色々あるぞ。和、洋、中なんでもござれって感じ。フードコートにはタピオカやらクレープの店もあるぜ」
咲良は結構一人で遊びに行っているらしいから、さすがに詳しい。
「でかい本屋もある」
「それは知ってる。漫画やら参考書やら買いに行ったことがある」
「参考書。まあ、確かにこの辺よりは品ぞろえいいか」
朝比奈と百瀬の方から「席は通路側がいいよねー」「ああ」などと話を進めているのが聞こえてきて、俺と咲良もそれに加わる。
「後ろの方も結構いいぜ。一番後ろか、その前か」
「確かに。周りに人がいないからよさそうだな」
映画も楽しみだが、昼飯は何が食いたいだろうか。
なんでもありって言ってたし、後でどんな店があるか調べてみよう。
「そろそろ晩飯作るかー」
夕暮れ時。大して面白い番組もなかったが惰性でつけていたテレビを消し立ち上がる。もう六時半を過ぎているが、外は明るい。
映画の日の飯も気になるが、まずは今日の晩飯だ。
昼、帰る途中で肉屋に寄ってみたら、メンチカツは残っていなかったがとんかつが売っていた。いい色に揚がったそれを見て、俺は思わず買ってしまった。
そのままソースで食うのもいいが、今日はひと工夫する。
まずは玉ねぎを切る。そしてフライパンに入れ、水、酒、みりん、醤油、砂糖、顆粒だしを入れて、玉ねぎが少ししんなりするまで煮る。
そこにあらかじめ切っておいたとんかつを入れ、さらに溶き卵。ふたをして少ししたら完成だ。それをどんぶりに持ったご飯の上に慎重によそう。
かつ丼の完成だ。味噌玉があるので、それでみそ汁を作る。完璧だ。
「いただきます」
やっぱりカツを最初に食べたい。ふやけていながらもサクッとした触感の残った衣、ロース肉はとてもジューシーだ。甘い味が染み染みでおいしい。卵もいい感じにトロっとしている。
ご飯もつゆだくでたまらない。カツと一緒に食べればもう口の中が幸せだ。
箸休めにみそ汁を一口。わかめの味噌汁はかすかな磯の風味が心地よい。
そして再びとんかつ。ちょうど脂身の部分だったらしい。つゆとは違う肉の甘味がおいしいな。
結構とんかつ分厚いし、すごく食べ応えがある。ソースかつ丼とかもあるみたいだし、今度はそれで作ってみようかな。千切りキャベツを一緒にしてもおいしいだろう。
でも、甘辛い卵とじのかつ丼、好きなんだよな。カリカリとジュワッとが一緒に味わえるの、たまんないんだよ。
「ごちそうさまでした」
課外が休みになるまで一週間を切ったころ。咲良は俺と朝比奈と百瀬をファストフード店まで連行した。早く帰りてえのに。……まあ、別に大した用事もないのでいいのだが。
昼時ということもあってか店内は結構混んでいた。俺たちは壁際の四人席に座る。
「そ、映画。見に行かね?」
俺の隣でジュース片手に、咲良はそう提案した。俺は黙々とポテトを食う。こういうとこのポテトってラードで揚げてあるから、家では味わえないカリカリ感があるんだよな。あと、ハンバーガーによく合う。
「いいねー、最近映画見に行ってないし、楽しそう」
咲良の正面に座る百瀬が無邪気に笑ってシェイクをすする。
「それ期間限定だっけ」
「うん、桃。結構いけるよー」
百瀬の隣に座った朝比奈はこういう店に行き慣れていないらしい。興味深そうに、なおかつ慎重にハンバーガーの包みを開いていた。
「で、いつ行くの? できるなら予約しておきたいよね」
「おう。だからさ、お前らの予定を聞きたくて」
「俺はたいてい暇だよ~」
「春都と朝比奈は?」
父さんと母さんが帰ってくるの、確か盆ぐらいだったよな。
「盆以外なら大丈夫だ」
「そっか、朝比奈は?」
「俺も一条と同じ感じだ」
じゃあ、盆以外ならいいってことだな! と咲良が意気込む。
「課外休みっていつからいつまでだっけ?」
「確か……十二日から、二十二日?」
俺はスマホのカレンダーで確認をする。
「うん、そうだ」
「じゃ、盆明けに行こうぜ。二十日とか、そんくらい」
「いいねえ。てか、何見るん?」
シェイクを飲み終わったらしい百瀬がスマホを取り出した。
「えーっと、上映スケジュール……っと。あ、どこの映画館?」
「リニューアルしたショッピングモール」
咲良の返事に「オッケー」と言うと、百瀬は映画の上映スケジュールを表示したスマホをテーブルに置いた。
「盆明けのスケジュールはこんな感じ。何見る?」
俺たちはそろってその画面をのぞき込んだ。
「やっぱアニメ多いな」
「夏休みだもんね」
「うーん、洋画は前作見とかないと分かんなさそうなのばっかりだ」
「なんだよー。なんか恋愛もの多くねえ?」
公開されている作品はかなりの数あるが、ピンとくるものはこれといってない。
これならDVD借りて見た方がいいんじゃないかと思うが……。
「あ、これ。これどう?」
咲良が示したのは、最近テレビCMとかバラエティー番組での番宣でよく見る映画のタイトルだった。
「あー、いいんじゃね? これ、面白そうだったし」
「うん。いいと思う」
「コメディだし、楽しそうでいいじゃん!」
「じゃ、これでけってーい」
確か漫画が原作で、読んだことはないけど予告を見る限り結構ぶっ飛んだ内容だった気がする。
「映画は何時の?」
「昼ぐらい? 飯の前がいいな」
「じゃ、朝一かその次ぐらいだねー」
そういえば、そのショッピングモールにはあまり行ったことがないな。俺は咲良に聞いてみる。
「なんか飯屋あったか?」
「色々あるぞ。和、洋、中なんでもござれって感じ。フードコートにはタピオカやらクレープの店もあるぜ」
咲良は結構一人で遊びに行っているらしいから、さすがに詳しい。
「でかい本屋もある」
「それは知ってる。漫画やら参考書やら買いに行ったことがある」
「参考書。まあ、確かにこの辺よりは品ぞろえいいか」
朝比奈と百瀬の方から「席は通路側がいいよねー」「ああ」などと話を進めているのが聞こえてきて、俺と咲良もそれに加わる。
「後ろの方も結構いいぜ。一番後ろか、その前か」
「確かに。周りに人がいないからよさそうだな」
映画も楽しみだが、昼飯は何が食いたいだろうか。
なんでもありって言ってたし、後でどんな店があるか調べてみよう。
「そろそろ晩飯作るかー」
夕暮れ時。大して面白い番組もなかったが惰性でつけていたテレビを消し立ち上がる。もう六時半を過ぎているが、外は明るい。
映画の日の飯も気になるが、まずは今日の晩飯だ。
昼、帰る途中で肉屋に寄ってみたら、メンチカツは残っていなかったがとんかつが売っていた。いい色に揚がったそれを見て、俺は思わず買ってしまった。
そのままソースで食うのもいいが、今日はひと工夫する。
まずは玉ねぎを切る。そしてフライパンに入れ、水、酒、みりん、醤油、砂糖、顆粒だしを入れて、玉ねぎが少ししんなりするまで煮る。
そこにあらかじめ切っておいたとんかつを入れ、さらに溶き卵。ふたをして少ししたら完成だ。それをどんぶりに持ったご飯の上に慎重によそう。
かつ丼の完成だ。味噌玉があるので、それでみそ汁を作る。完璧だ。
「いただきます」
やっぱりカツを最初に食べたい。ふやけていながらもサクッとした触感の残った衣、ロース肉はとてもジューシーだ。甘い味が染み染みでおいしい。卵もいい感じにトロっとしている。
ご飯もつゆだくでたまらない。カツと一緒に食べればもう口の中が幸せだ。
箸休めにみそ汁を一口。わかめの味噌汁はかすかな磯の風味が心地よい。
そして再びとんかつ。ちょうど脂身の部分だったらしい。つゆとは違う肉の甘味がおいしいな。
結構とんかつ分厚いし、すごく食べ応えがある。ソースかつ丼とかもあるみたいだし、今度はそれで作ってみようかな。千切りキャベツを一緒にしてもおいしいだろう。
でも、甘辛い卵とじのかつ丼、好きなんだよな。カリカリとジュワッとが一緒に味わえるの、たまんないんだよ。
「ごちそうさまでした」
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