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日常
第三十九話 ピーマンの肉詰め
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ばあちゃんから大量に野菜をもらった。
最近は忙しいのでなかなかうちに料理を作りに来れないという。そのため、作り置きに適した料理をタッパーに詰めて持ってきてくれたり、野菜をしこたま持ってきてくれたり、としてくれた。ありがたいことである。もちろんあのたくあん炒めもあったので、おいしくいただいている。
ビニール袋に詰まっているのは、まさしく夏野菜の代表格。
ピーマン、キュウリ、ナス、トマト、そしてゴーヤ。全部畑で作っているものだ。うちで食べる分ぐらいの野菜は、自分たちで育てているという。俺も小さいころは一緒について行って雑草抜いてたなあ。
「どうやって食べよう……」
どの野菜も決して日持ちがするものではない。なるべく早く、おいしいうちに食べきりたいものだ。
さて、どうしようかな。
午後三時の図書館。俺はなぜか咲良と一緒にカウンターの内側にいた。
読み終わった本を返しに来たのだが、この日はどうも人が多かった。どうやら、休みの前に本を借りておこうという生徒が大勢いたらしい。
夏休み中はカウンター当番がない。すなわち、漆原先生一人がカウンター対応も書架整理もしなければいけないわけで。俺が来た時にはもうてんやわんやだった。俺を見つけた先生は、渡りに船、地獄に仏といわんばかりの表情を浮かべ、手招きしてきたのである。
ちなみに、咲良を巻き込んだのは俺だ。
「なんか本借りようかと、軽い気持ちで来るんじゃなかった……」
咲良は椅子の背もたれにうなだれる。
「おい、まだ本棚に戻すの、残ってるぞ」
かくいう俺も立ち上がる気力はない。
貸出業務に、書架整理。しかも普段図書館を利用しない生徒もたくさんだったので、どこに何があるのかを説明しなければならなかった。いや、それは別に構わないのだが、そういうやつらが見た後の本棚がまあ、ざまぁないわけで。それも片づけなければならなかったのが、一番しんどかった。
しかも片づけた端からまた散らかしていくし。
「うえ~、俺もう疲れた~」
「俺だって疲れたわ……」
何とか落ち着いたのは図書館の利用時間を大幅に過ぎた頃だった。
「いやあ、助かったよ! まさかこんなことになるとはねえ」
漆原先生は生徒たちが散らかしていった雑誌類を整理しながら笑った。
「去年はそうでもなかったんだが……あー、これ破れているな。まったく」
「延滞の人が多かったんですよ、今年は」
咲良より先に再起動した俺は、返却手続き済みの本が並ぶ棚から何冊か手に取って中身を見ながら元の本棚に戻していくことにした。
「しおり見っけ」
「はー……俺も片づける~」
のそのそと咲良も動き出す。
それにしてもしおりの忘れ物が多い。いくつか束ねて先生に渡し、俺は再び返却された本を取りに向かう。
「悪いな。それが終わったら帰ってもらっていいぞ」
先生の言葉に、二人そろって「はーい」と返事をする。
「ハードカバー多いなあ」
「ああ」
確かに、貸出した本も、返却された本もハードカバーのものが多い。
「あ、これさあ、ずっと前に映画化したよな」
「どれ……ああ、そうだな。俺らが小学生ぐらいの頃だったか」
「そうそう。なんか予告が怖かった記憶あるもん。予告っつーか、CM?」
すっ、と本を所定の位置に差し込む。ずいぶん前に蔵書されたそれは色褪せていた。図書館の中にはたぶん、長いこと貸し出されていない本もあるのだろう。確かそういった本は別の書架にあると聞いたような。
「これはー……どこだ、こっちか」
「ばらばらだな……ま、返すときにラベルは見ねえか」
それにしても今日は無性に疲れている。いや、疲れているというか、力が入らないというか。
「……そういや昼飯食ってねえ」
そうだ。本を返してとっとと帰るつもりだったから、昼飯を食っていなかった。道理で力が入らないわけだ。昼飯は……作る気力もねえし、帰りにパンでも買うか。
晩飯はちゃんと作ることにしよう。せっかく野菜がいっぱいあるしなあ……。
「おい、咲良」
「んー?」
「お前、ピーマンなら何が食いたい?」
「ピーマン? ピーマンかあ」
ちょうど本棚を挟んで向かい側に立っていた咲良は本のラベルを見ながら、むう、と考えこむ。
「そもそも俺、ピーマンを好んで食わねえもんなあ」
咲良はそう言いながら俺の隣に来て、その本を棚に戻す。
「あ、でも、あれは好きだ。肉詰め」
「なるほど、ピーマンの肉詰めか」
思いつかなかった。そうだ、ピーマンの肉詰め、いいな。
それじゃあパン買うついでに、ひき肉を買って帰ることにしよう。
「まあ、小さいころはピーマンはがして食って、怒られてたけど」
「今でもやってそうだな」
「さすがにしねえよ」
ホントか? とからかうように聞くと、咲良は「ちゃんと食ってるって!」と必死になって言い返してきた。それがなんかおかしくて、思わず笑ってしまったのだった。
ピーマンの肉詰めに使うタネは、ハンバーグとほぼ一緒だ。合いびき肉にパン粉、卵、豆乳、塩コショウを入れてよく混ぜる。違うのは玉ねぎを入れないことだろうか。
半分に切ったピーマンのタネを取って洗い、小麦粉をふる。そうしないと肉とピーマンが分裂して、なんか悲しいことになる。
昼飯がパンだけだったので、とても腹が減っている。なるべく早く作ってしまおう。
ピーマンに肉を詰めたら、後はフライパンで焼いていく。はじめは肉の面から焼く。焦げすぎないぐらいに火をしっかり通したら、ひっくり返す。
よし、完成だ。醤油をかけて食うのがうまい。
「いただきます」
思い切りかぶりつけば、ピーマンから水分がにじみ出る。肉の味とピーマンのほんの少しの苦みがおいしい。肉には醤油がいい感じに染みて、焼き目が香ばしい。
これ、弁当のおかずにもなりそうだ。今度入れてみよう。
少しだけピーマンの食感が残ってるっていうのもまたいい。でも、しんなりして肉と一体化したのも好きだ。
この調子なら、あっという間に野菜を消費してしまえそうだな。
「ごちそうさまでした」
最近は忙しいのでなかなかうちに料理を作りに来れないという。そのため、作り置きに適した料理をタッパーに詰めて持ってきてくれたり、野菜をしこたま持ってきてくれたり、としてくれた。ありがたいことである。もちろんあのたくあん炒めもあったので、おいしくいただいている。
ビニール袋に詰まっているのは、まさしく夏野菜の代表格。
ピーマン、キュウリ、ナス、トマト、そしてゴーヤ。全部畑で作っているものだ。うちで食べる分ぐらいの野菜は、自分たちで育てているという。俺も小さいころは一緒について行って雑草抜いてたなあ。
「どうやって食べよう……」
どの野菜も決して日持ちがするものではない。なるべく早く、おいしいうちに食べきりたいものだ。
さて、どうしようかな。
午後三時の図書館。俺はなぜか咲良と一緒にカウンターの内側にいた。
読み終わった本を返しに来たのだが、この日はどうも人が多かった。どうやら、休みの前に本を借りておこうという生徒が大勢いたらしい。
夏休み中はカウンター当番がない。すなわち、漆原先生一人がカウンター対応も書架整理もしなければいけないわけで。俺が来た時にはもうてんやわんやだった。俺を見つけた先生は、渡りに船、地獄に仏といわんばかりの表情を浮かべ、手招きしてきたのである。
ちなみに、咲良を巻き込んだのは俺だ。
「なんか本借りようかと、軽い気持ちで来るんじゃなかった……」
咲良は椅子の背もたれにうなだれる。
「おい、まだ本棚に戻すの、残ってるぞ」
かくいう俺も立ち上がる気力はない。
貸出業務に、書架整理。しかも普段図書館を利用しない生徒もたくさんだったので、どこに何があるのかを説明しなければならなかった。いや、それは別に構わないのだが、そういうやつらが見た後の本棚がまあ、ざまぁないわけで。それも片づけなければならなかったのが、一番しんどかった。
しかも片づけた端からまた散らかしていくし。
「うえ~、俺もう疲れた~」
「俺だって疲れたわ……」
何とか落ち着いたのは図書館の利用時間を大幅に過ぎた頃だった。
「いやあ、助かったよ! まさかこんなことになるとはねえ」
漆原先生は生徒たちが散らかしていった雑誌類を整理しながら笑った。
「去年はそうでもなかったんだが……あー、これ破れているな。まったく」
「延滞の人が多かったんですよ、今年は」
咲良より先に再起動した俺は、返却手続き済みの本が並ぶ棚から何冊か手に取って中身を見ながら元の本棚に戻していくことにした。
「しおり見っけ」
「はー……俺も片づける~」
のそのそと咲良も動き出す。
それにしてもしおりの忘れ物が多い。いくつか束ねて先生に渡し、俺は再び返却された本を取りに向かう。
「悪いな。それが終わったら帰ってもらっていいぞ」
先生の言葉に、二人そろって「はーい」と返事をする。
「ハードカバー多いなあ」
「ああ」
確かに、貸出した本も、返却された本もハードカバーのものが多い。
「あ、これさあ、ずっと前に映画化したよな」
「どれ……ああ、そうだな。俺らが小学生ぐらいの頃だったか」
「そうそう。なんか予告が怖かった記憶あるもん。予告っつーか、CM?」
すっ、と本を所定の位置に差し込む。ずいぶん前に蔵書されたそれは色褪せていた。図書館の中にはたぶん、長いこと貸し出されていない本もあるのだろう。確かそういった本は別の書架にあると聞いたような。
「これはー……どこだ、こっちか」
「ばらばらだな……ま、返すときにラベルは見ねえか」
それにしても今日は無性に疲れている。いや、疲れているというか、力が入らないというか。
「……そういや昼飯食ってねえ」
そうだ。本を返してとっとと帰るつもりだったから、昼飯を食っていなかった。道理で力が入らないわけだ。昼飯は……作る気力もねえし、帰りにパンでも買うか。
晩飯はちゃんと作ることにしよう。せっかく野菜がいっぱいあるしなあ……。
「おい、咲良」
「んー?」
「お前、ピーマンなら何が食いたい?」
「ピーマン? ピーマンかあ」
ちょうど本棚を挟んで向かい側に立っていた咲良は本のラベルを見ながら、むう、と考えこむ。
「そもそも俺、ピーマンを好んで食わねえもんなあ」
咲良はそう言いながら俺の隣に来て、その本を棚に戻す。
「あ、でも、あれは好きだ。肉詰め」
「なるほど、ピーマンの肉詰めか」
思いつかなかった。そうだ、ピーマンの肉詰め、いいな。
それじゃあパン買うついでに、ひき肉を買って帰ることにしよう。
「まあ、小さいころはピーマンはがして食って、怒られてたけど」
「今でもやってそうだな」
「さすがにしねえよ」
ホントか? とからかうように聞くと、咲良は「ちゃんと食ってるって!」と必死になって言い返してきた。それがなんかおかしくて、思わず笑ってしまったのだった。
ピーマンの肉詰めに使うタネは、ハンバーグとほぼ一緒だ。合いびき肉にパン粉、卵、豆乳、塩コショウを入れてよく混ぜる。違うのは玉ねぎを入れないことだろうか。
半分に切ったピーマンのタネを取って洗い、小麦粉をふる。そうしないと肉とピーマンが分裂して、なんか悲しいことになる。
昼飯がパンだけだったので、とても腹が減っている。なるべく早く作ってしまおう。
ピーマンに肉を詰めたら、後はフライパンで焼いていく。はじめは肉の面から焼く。焦げすぎないぐらいに火をしっかり通したら、ひっくり返す。
よし、完成だ。醤油をかけて食うのがうまい。
「いただきます」
思い切りかぶりつけば、ピーマンから水分がにじみ出る。肉の味とピーマンのほんの少しの苦みがおいしい。肉には醤油がいい感じに染みて、焼き目が香ばしい。
これ、弁当のおかずにもなりそうだ。今度入れてみよう。
少しだけピーマンの食感が残ってるっていうのもまたいい。でも、しんなりして肉と一体化したのも好きだ。
この調子なら、あっという間に野菜を消費してしまえそうだな。
「ごちそうさまでした」
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