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日常
第二十七話 ナポリタン
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弁当作りもだいぶ慣れたものだ。
今日はミートボール、ウインナー、コロッケ、そしてスパゲッティを塩コショウで炒めたの。コロッケはでかいので半分にして入れる。
「……今日の晩飯はナポリタンだな」
スパゲッティを茹でたはいいが、弁当に入れる分はわずかだ。当然余る。
そうなれば必然的に晩飯はスパゲッティを使った料理になるわけで。そんでもって、時間が経った麺を使った料理として最適なのはナポリタンというわけだ。むしろちょっとのびた麺の方がナポリタンはおいしい――とばあちゃんにならった。
じいちゃんがナポリタン好きなんだよなあ。
「もうすぐ夏休みだな」
「ああ、そうだな」
昼休み。今日は咲良も弁当持参だったので、俺の教室で飯を食う。
つい最近席替えをしたのだが、窓際の一番後ろの席になった。横が窓なのはとてもいいが、この時期はめちゃくちゃ暑い。せっかく外が見えるのだがカーテンは閉めっぱなしである。
「この席、体の半分だけ焼けそう」
「そう、それ」
「あ、それで夏休みのことだけど」
と、咲良は海老を口に入れる。こいつの弁当、なぜか絶対、茹で海老が入ってんだよな。
「どっか遊びに行かね? 朝比奈とか百瀬誘って」
「どこに」
「適当に、こう、買い物とか、カラオケとか」
「カラオケか……」
ミートボールはケチャップっぽいソースの味。昔から食べ慣れている味で、結構好きだ。
「行ったことねえな」
「うっそ、まじ?」
弁当のコロッケは揚げたてとは違い少ししっとりしている。イモの味と塩コショウの風味が一段と際立つ気がする。ソースが染み染みでうまい。
「ショッピングモールが改装されたらしいし、そこ行きゃ何でもあるんじゃねーかなあ。映画館もできたって聞いたぜ」
「なんかあるかな、映画」
「夏休みの小学生が狂喜乱舞するタイトルがずらりって感じ?」
塩コショウで炒めたスパゲッティにミートボールのソースをつけて食べるのが好きだ。ウインナーはもともとからたこの形をしているやつで、赤色がまぶしい。
「あ、そうだ。春都、俺お前んち行きたい」
「はあ?」
突然の咲良の言葉に俺は思わず箸を止める。
「なんで」
「お前んちゲームあるだろ? ゲームしたい」
「自分ちでしろよ……」
「うちにないゲームもあるじゃん。俺あのパズルゲームしたい」
確かにうちにはゲームが結構ある。結構昔のゲーム機から最新のものまで。父さんがもともとゲーム好きで、母さんも結構なゲーマーだ。俺も一緒にやることが多いが、結構大人げないというか、小さいころから対戦ゲームでは容赦なく叩きのめされた記憶がある。
「な、いいだろ~?」
「お前、どうせだめっつっても来るだろ」
俺が言うと、咲良は悪びれもせずに笑って「まあな!」と、それはもう元気よく答えた。
そうだよ。こいつはそういうやつだよ。
俺は半ば呆れながら、食べ終わった弁当を片付ける。
「別にいいけど、来るときは前もって言えよ。……ごちそうさまでした」
「やった!」
「ったく……」
つくづくこいつは遠慮がない。まあ、だからこっちも変に遠慮せず言いたいこと言えるんだけどな。
「ちゃんとお菓子は持ってくるよ」
そう言って咲良は少し大きめの弁当袋から何かを取り出した。折り紙を切り貼りして描いたような、デフォルメされた人の姿や風景が印刷されているビニールの袋だ。中にはカラフルなパッケージで個包装された、小さな筒状のお菓子が入っている。
「なに、買ったん?」
「貰い物。いっぱいあるから持ってけってさ。ばあちゃんが」
そのお菓子はいわゆる、ご当地お菓子というようなものだ。
クッキー生地が筒状に焼かれていて、その中にちょっと固めのクリームが入っている。味はコーヒー、ストロベリー、抹茶、バニラとあり、期間限定の味もあるらしい。俺はコーヒーが好きだ。お徳用の袋もある。
「これさー、中身を押し出して食べて、怒られたことがある」
「分かる。一回はやるよな」
サクッとした甘い生地、次いで、クリーム。コーヒーの風味が結構する。
「映画とか見るか。DVD借りてさ」
「あー、いいな。ポテチとコーラ買っとこうか」
「俺が買ってくるよ」
今年の夏は、一段と騒がしくなりそうだ。
ナポリタンはばあちゃん直伝のレシピがある。
油をひいたフライパンでまずウインナーを炒める。ベーコンでもいいが、今日は薄く切ったウインナーだ。そしてピーマン、玉ねぎも一緒に炒め、ケチャップを入れてさらに炒める。酸味がちゃんと飛ぶようにしっかり炒めるのがポイントだ。
そして、バターを適量。今日はひとかけ入れる。じいちゃんがバター好きなので入れると聞いた。
そして麺を入れてよく絡ませたら、真っ赤なナポリタンの完成だ。
「いただきます」
麺を何とかフォークに巻き付け、まずは麺だけで一口。トマトの風味と甘さ、そしてバターのコクとうまみが口にまったりと広がる。濃厚、というほどではないが、鼻に抜ける香りの余韻がすごい。
ウインナーもプリッとしている。普通に炒めるよりジューシーに感じるのはなんでだろう。
ピーマンは程よくシャキッと歯ごたえが残っている。ナポリタンのピーマンが無性に好きだ。ケチャップ味に隠れたピーマンのわずかな苦みがおいしい。
玉ねぎはほとんど赤に染まって、味も消えたかのように思えるが、玉ねぎ特有の食感、香り、そして甘みもちゃんと感じられる。
このレシピのナポリタンを初めて食べたときは、その風味に驚いたものだ。
バターを入れるだけでこれほど風味が増し、コクが生まれるとは。正直バターの風味は苦手だと思っていたのがうそのようだ。使い方次第でここまでうま味を引き出すのだな、と感心する。
今度はマッシュルームも入れてみようかな。ちょっとリッチになるんだ。
それと、ナポリタンを食べ終わった後はちゃんと口を拭かないと。真っ赤っかで大変なことになるからな。
「ごちそうさまでした」
今日はミートボール、ウインナー、コロッケ、そしてスパゲッティを塩コショウで炒めたの。コロッケはでかいので半分にして入れる。
「……今日の晩飯はナポリタンだな」
スパゲッティを茹でたはいいが、弁当に入れる分はわずかだ。当然余る。
そうなれば必然的に晩飯はスパゲッティを使った料理になるわけで。そんでもって、時間が経った麺を使った料理として最適なのはナポリタンというわけだ。むしろちょっとのびた麺の方がナポリタンはおいしい――とばあちゃんにならった。
じいちゃんがナポリタン好きなんだよなあ。
「もうすぐ夏休みだな」
「ああ、そうだな」
昼休み。今日は咲良も弁当持参だったので、俺の教室で飯を食う。
つい最近席替えをしたのだが、窓際の一番後ろの席になった。横が窓なのはとてもいいが、この時期はめちゃくちゃ暑い。せっかく外が見えるのだがカーテンは閉めっぱなしである。
「この席、体の半分だけ焼けそう」
「そう、それ」
「あ、それで夏休みのことだけど」
と、咲良は海老を口に入れる。こいつの弁当、なぜか絶対、茹で海老が入ってんだよな。
「どっか遊びに行かね? 朝比奈とか百瀬誘って」
「どこに」
「適当に、こう、買い物とか、カラオケとか」
「カラオケか……」
ミートボールはケチャップっぽいソースの味。昔から食べ慣れている味で、結構好きだ。
「行ったことねえな」
「うっそ、まじ?」
弁当のコロッケは揚げたてとは違い少ししっとりしている。イモの味と塩コショウの風味が一段と際立つ気がする。ソースが染み染みでうまい。
「ショッピングモールが改装されたらしいし、そこ行きゃ何でもあるんじゃねーかなあ。映画館もできたって聞いたぜ」
「なんかあるかな、映画」
「夏休みの小学生が狂喜乱舞するタイトルがずらりって感じ?」
塩コショウで炒めたスパゲッティにミートボールのソースをつけて食べるのが好きだ。ウインナーはもともとからたこの形をしているやつで、赤色がまぶしい。
「あ、そうだ。春都、俺お前んち行きたい」
「はあ?」
突然の咲良の言葉に俺は思わず箸を止める。
「なんで」
「お前んちゲームあるだろ? ゲームしたい」
「自分ちでしろよ……」
「うちにないゲームもあるじゃん。俺あのパズルゲームしたい」
確かにうちにはゲームが結構ある。結構昔のゲーム機から最新のものまで。父さんがもともとゲーム好きで、母さんも結構なゲーマーだ。俺も一緒にやることが多いが、結構大人げないというか、小さいころから対戦ゲームでは容赦なく叩きのめされた記憶がある。
「な、いいだろ~?」
「お前、どうせだめっつっても来るだろ」
俺が言うと、咲良は悪びれもせずに笑って「まあな!」と、それはもう元気よく答えた。
そうだよ。こいつはそういうやつだよ。
俺は半ば呆れながら、食べ終わった弁当を片付ける。
「別にいいけど、来るときは前もって言えよ。……ごちそうさまでした」
「やった!」
「ったく……」
つくづくこいつは遠慮がない。まあ、だからこっちも変に遠慮せず言いたいこと言えるんだけどな。
「ちゃんとお菓子は持ってくるよ」
そう言って咲良は少し大きめの弁当袋から何かを取り出した。折り紙を切り貼りして描いたような、デフォルメされた人の姿や風景が印刷されているビニールの袋だ。中にはカラフルなパッケージで個包装された、小さな筒状のお菓子が入っている。
「なに、買ったん?」
「貰い物。いっぱいあるから持ってけってさ。ばあちゃんが」
そのお菓子はいわゆる、ご当地お菓子というようなものだ。
クッキー生地が筒状に焼かれていて、その中にちょっと固めのクリームが入っている。味はコーヒー、ストロベリー、抹茶、バニラとあり、期間限定の味もあるらしい。俺はコーヒーが好きだ。お徳用の袋もある。
「これさー、中身を押し出して食べて、怒られたことがある」
「分かる。一回はやるよな」
サクッとした甘い生地、次いで、クリーム。コーヒーの風味が結構する。
「映画とか見るか。DVD借りてさ」
「あー、いいな。ポテチとコーラ買っとこうか」
「俺が買ってくるよ」
今年の夏は、一段と騒がしくなりそうだ。
ナポリタンはばあちゃん直伝のレシピがある。
油をひいたフライパンでまずウインナーを炒める。ベーコンでもいいが、今日は薄く切ったウインナーだ。そしてピーマン、玉ねぎも一緒に炒め、ケチャップを入れてさらに炒める。酸味がちゃんと飛ぶようにしっかり炒めるのがポイントだ。
そして、バターを適量。今日はひとかけ入れる。じいちゃんがバター好きなので入れると聞いた。
そして麺を入れてよく絡ませたら、真っ赤なナポリタンの完成だ。
「いただきます」
麺を何とかフォークに巻き付け、まずは麺だけで一口。トマトの風味と甘さ、そしてバターのコクとうまみが口にまったりと広がる。濃厚、というほどではないが、鼻に抜ける香りの余韻がすごい。
ウインナーもプリッとしている。普通に炒めるよりジューシーに感じるのはなんでだろう。
ピーマンは程よくシャキッと歯ごたえが残っている。ナポリタンのピーマンが無性に好きだ。ケチャップ味に隠れたピーマンのわずかな苦みがおいしい。
玉ねぎはほとんど赤に染まって、味も消えたかのように思えるが、玉ねぎ特有の食感、香り、そして甘みもちゃんと感じられる。
このレシピのナポリタンを初めて食べたときは、その風味に驚いたものだ。
バターを入れるだけでこれほど風味が増し、コクが生まれるとは。正直バターの風味は苦手だと思っていたのがうそのようだ。使い方次第でここまでうま味を引き出すのだな、と感心する。
今度はマッシュルームも入れてみようかな。ちょっとリッチになるんだ。
それと、ナポリタンを食べ終わった後はちゃんと口を拭かないと。真っ赤っかで大変なことになるからな。
「ごちそうさまでした」
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