一条春都の料理帖

藤里 侑

文字の大きさ
上 下
18 / 854
日常

第十八話 貰い物

しおりを挟む
「ああ、そうだ。一条君」

 先日の文化祭でおこなわれたポップコンテストの集計を終え、帰る準備をしていたところに漆原先生が声をかけてきた。

 ちなみに先生の髪色は、紫がかった黒から緑がかった黒に変わっている。

「これ、この間のお礼だ」

 渡されたのは白地に小さく、どこかの国旗が印刷された袋だった。これどこだっけ、フランス? イタリアだったか?

「あ、ありがとうございます」

「ラスクだ。俺は紅茶を合わせることをお勧めする」

「紅茶ですか」

 紅茶なんて入れたことないし、そもそもうちにあったっけ。中を少しのぞいてみれば、小分けにされたいろんな味のラスクが三、四種類入っていた。

「そういえばこれ、テレビとかで見たことあります」

「そうか。食べたことは?」

「ないです」

 俺のその答えに、先生は満足そうに笑って頷いた。

「よかった、よかった。君が食べたことがないものをと約束していたからなあ」

「ちゃんと覚えていたんですね」

「もちろんさ」

「ありがたくいただきます」

 と、その時、図書館の扉が開いた。この時間に来るとしたら生徒ではないはずだ。そこにいたのは石上先生だった。

「ああ、よかった。まだいた。一条君、君に用事があって、急いできたんだ」

 え、なんかしたかな。事務室に呼び出しでも食らっていたのだろうか。

 しかし、それは杞憂だったらしい。石上先生はえんじ色の紙袋を差し出して言った。

「先日の弁当の礼だ」

 その袋をよく見れば、どこかで見たことのあるロゴが金色で箔押しの様にされている。あ、これ、ポテチとかのお菓子メーカーのやつか。中身はおしゃれな色をした小さな袋がいくつか。確かちょっとリッチなポテチだ。これもテレビで見た。

「好みがあまり分からなかったから、口に合うかは分からんが……」

「いえ、ありがとうございます」

 もらったものはどちらも日持ちがするし、ゆっくり楽しむことにしよう。

「なんだ、なんだ。お菓子?」

 片づけを終えた咲良がカバンを持って、興味津々というように近づいてくる。

「ん、まあ」

「いいなー。ね、ちょっとちょうだい」

「いやだ」

 けちー、と咲良は騒ぐ。

「紅茶買って帰ろう。ペットボトルのでいいか」

「じゃあ、俺おごる」

「お?」

 俺の独り言に朝比奈が返事をした。

「お礼、してないし」

「まじ? じゃ、お言葉に甘えて」

 そういうことで、食堂の自販機に向かおうと朝比奈と連れ立って図書館を出たのだが、咲良が「ちょっと待てー」と追いかけてきた。

「なんか俺だけお礼してないみたいになってね?」

「大丈夫だ。お前に期待してない」

「ひでえ。俺もなんかおごるー」

 結局、朝比奈と咲良がお金を半分ずつ出す、ということに落ち着き、レモンティーをおごってもらうことにした。ペットボトルの紅茶はなじみがあるが、ちゃんとしたというか、ペットボトルじゃない紅茶は片手で足りるぐらいでしか飲んだことがない気がする。

「ありがとなー」

「ティーバッグとか、そういうのじゃなくていいのか?」

 朝比奈の問いに俺は苦笑する。

「んー、なんか持て余しそうだし」

「まあ……自分で入れて飲むことはないか」

「少なくとも俺はないな」

 俺がお菓子とか作れるんなら何かと使い道がありそうだが、あいにく飯しか作れない。そんなしょっちゅう飲まないし、ペットボトルぐらいでちょうどいい。



 今日の晩飯はインスタントラーメンにしよう。結構最近のインスタントラーメンって種類も豊富だし、味もいい。そのまま食べても十分だし、余裕があればいろいろ工夫してもいい。

 で、今日はこれ。ちょっと辛いやつだ。旨辛、と書いてあるが果たしてどれぐらいだろうか。

「おお……結構赤い」

 思ったよりも赤くでびっくりだ。匂いも辛そう。辛いのは結構好きだが……卵入れようかな。

 鍋にお湯を沸かして麺を入れてほぐし、スープを溶かしたところに卵を割り入れる。卵の白身が固まり始めたタイミングで器に盛る。ネギをかけたら完成だ。

「いただきます」

 まず一口麺をすする。確かに辛いが、出汁の様なうま味があるので食べられる。ネギの風味も爽やかだ。スープは……うん、辛いな。

 ここで卵を割る。真っ赤なスープに鮮やかな黄色がとろりと広がる。絡めて食べると幾分か辛さがマイルドになっていい感じだ。溶き卵にしてもよかったが、このラーメンには半熟卵が正解だな。

 しかし、うまかったが、食べ終わるころには口の中はヒリヒリしていた。なんか甘いもの食べたい。

 そこで、今日のもらい物の登場だ。

 ラスクはいろいろあって迷ったが、最初はプレーンからいただこう。ポテチもいろいろあるが、うすしおにしよう。で、レモンティーは氷を入れたコップに注ぐ。揺らめく透き通った黄色が涼しげだ。

 まずはラスクから。結構かたい。ざぐっとした触感は好きだ。バターの風味が鼻を抜け、砂糖の甘さが上品だ。……これ、やっぱちゃんと紅茶買った方がよかったか。レモンティーは甘い。でも、ちゃんとレモンの風味も茶葉の香りもするし、ラスクにも合う。

 ポテチの方は、イモの味がすごい。沖縄の塩とか書いてあるが、その塩味も相まってか凝縮されたようなジャガイモの味がものすごい。これ、ジャガイモ蒸かして食べるよりジャガイモの味がするんじゃないか。コーラとかと食べちゃいけないやつだ、たぶん。

「おいしいな……」

 毎日食べるには気負う味だが、時々こうやって食べるのにはいいかもしれない。自分で買う予定はまあ、ないけど。

 違う味も楽しみだ。今度はちゃんと紅茶も買ってきてみようかな。



「ごちそうさまでした」

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから

キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。 「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。 何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。 一話完結の読み切りです。 ご都合主義というか中身はありません。 軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。 誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

「今日でやめます」

悠里
ライト文芸
ウエブデザイン会社勤務。二十七才。 ある日突然届いた、祖母からのメッセージは。 「もうすぐ死ぬみたい」 ――――幼い頃に過ごした田舎に、戻ることを決めた。

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

処理中です...