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日常
第十八話 貰い物
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「ああ、そうだ。一条君」
先日の文化祭でおこなわれたポップコンテストの集計を終え、帰る準備をしていたところに漆原先生が声をかけてきた。
ちなみに先生の髪色は、紫がかった黒から緑がかった黒に変わっている。
「これ、この間のお礼だ」
渡されたのは白地に小さく、どこかの国旗が印刷された袋だった。これどこだっけ、フランス? イタリアだったか?
「あ、ありがとうございます」
「ラスクだ。俺は紅茶を合わせることをお勧めする」
「紅茶ですか」
紅茶なんて入れたことないし、そもそもうちにあったっけ。中を少しのぞいてみれば、小分けにされたいろんな味のラスクが三、四種類入っていた。
「そういえばこれ、テレビとかで見たことあります」
「そうか。食べたことは?」
「ないです」
俺のその答えに、先生は満足そうに笑って頷いた。
「よかった、よかった。君が食べたことがないものをと約束していたからなあ」
「ちゃんと覚えていたんですね」
「もちろんさ」
「ありがたくいただきます」
と、その時、図書館の扉が開いた。この時間に来るとしたら生徒ではないはずだ。そこにいたのは石上先生だった。
「ああ、よかった。まだいた。一条君、君に用事があって、急いできたんだ」
え、なんかしたかな。事務室に呼び出しでも食らっていたのだろうか。
しかし、それは杞憂だったらしい。石上先生はえんじ色の紙袋を差し出して言った。
「先日の弁当の礼だ」
その袋をよく見れば、どこかで見たことのあるロゴが金色で箔押しの様にされている。あ、これ、ポテチとかのお菓子メーカーのやつか。中身はおしゃれな色をした小さな袋がいくつか。確かちょっとリッチなポテチだ。これもテレビで見た。
「好みがあまり分からなかったから、口に合うかは分からんが……」
「いえ、ありがとうございます」
もらったものはどちらも日持ちがするし、ゆっくり楽しむことにしよう。
「なんだ、なんだ。お菓子?」
片づけを終えた咲良がカバンを持って、興味津々というように近づいてくる。
「ん、まあ」
「いいなー。ね、ちょっとちょうだい」
「いやだ」
けちー、と咲良は騒ぐ。
「紅茶買って帰ろう。ペットボトルのでいいか」
「じゃあ、俺おごる」
「お?」
俺の独り言に朝比奈が返事をした。
「お礼、してないし」
「まじ? じゃ、お言葉に甘えて」
そういうことで、食堂の自販機に向かおうと朝比奈と連れ立って図書館を出たのだが、咲良が「ちょっと待てー」と追いかけてきた。
「なんか俺だけお礼してないみたいになってね?」
「大丈夫だ。お前に期待してない」
「ひでえ。俺もなんかおごるー」
結局、朝比奈と咲良がお金を半分ずつ出す、ということに落ち着き、レモンティーをおごってもらうことにした。ペットボトルの紅茶はなじみがあるが、ちゃんとしたというか、ペットボトルじゃない紅茶は片手で足りるぐらいでしか飲んだことがない気がする。
「ありがとなー」
「ティーバッグとか、そういうのじゃなくていいのか?」
朝比奈の問いに俺は苦笑する。
「んー、なんか持て余しそうだし」
「まあ……自分で入れて飲むことはないか」
「少なくとも俺はないな」
俺がお菓子とか作れるんなら何かと使い道がありそうだが、あいにく飯しか作れない。そんなしょっちゅう飲まないし、ペットボトルぐらいでちょうどいい。
今日の晩飯はインスタントラーメンにしよう。結構最近のインスタントラーメンって種類も豊富だし、味もいい。そのまま食べても十分だし、余裕があればいろいろ工夫してもいい。
で、今日はこれ。ちょっと辛いやつだ。旨辛、と書いてあるが果たしてどれぐらいだろうか。
「おお……結構赤い」
思ったよりも赤くでびっくりだ。匂いも辛そう。辛いのは結構好きだが……卵入れようかな。
鍋にお湯を沸かして麺を入れてほぐし、スープを溶かしたところに卵を割り入れる。卵の白身が固まり始めたタイミングで器に盛る。ネギをかけたら完成だ。
「いただきます」
まず一口麺をすする。確かに辛いが、出汁の様なうま味があるので食べられる。ネギの風味も爽やかだ。スープは……うん、辛いな。
ここで卵を割る。真っ赤なスープに鮮やかな黄色がとろりと広がる。絡めて食べると幾分か辛さがマイルドになっていい感じだ。溶き卵にしてもよかったが、このラーメンには半熟卵が正解だな。
しかし、うまかったが、食べ終わるころには口の中はヒリヒリしていた。なんか甘いもの食べたい。
そこで、今日のもらい物の登場だ。
ラスクはいろいろあって迷ったが、最初はプレーンからいただこう。ポテチもいろいろあるが、うすしおにしよう。で、レモンティーは氷を入れたコップに注ぐ。揺らめく透き通った黄色が涼しげだ。
まずはラスクから。結構かたい。ざぐっとした触感は好きだ。バターの風味が鼻を抜け、砂糖の甘さが上品だ。……これ、やっぱちゃんと紅茶買った方がよかったか。レモンティーは甘い。でも、ちゃんとレモンの風味も茶葉の香りもするし、ラスクにも合う。
ポテチの方は、イモの味がすごい。沖縄の塩とか書いてあるが、その塩味も相まってか凝縮されたようなジャガイモの味がものすごい。これ、ジャガイモ蒸かして食べるよりジャガイモの味がするんじゃないか。コーラとかと食べちゃいけないやつだ、たぶん。
「おいしいな……」
毎日食べるには気負う味だが、時々こうやって食べるのにはいいかもしれない。自分で買う予定はまあ、ないけど。
違う味も楽しみだ。今度はちゃんと紅茶も買ってきてみようかな。
「ごちそうさまでした」
先日の文化祭でおこなわれたポップコンテストの集計を終え、帰る準備をしていたところに漆原先生が声をかけてきた。
ちなみに先生の髪色は、紫がかった黒から緑がかった黒に変わっている。
「これ、この間のお礼だ」
渡されたのは白地に小さく、どこかの国旗が印刷された袋だった。これどこだっけ、フランス? イタリアだったか?
「あ、ありがとうございます」
「ラスクだ。俺は紅茶を合わせることをお勧めする」
「紅茶ですか」
紅茶なんて入れたことないし、そもそもうちにあったっけ。中を少しのぞいてみれば、小分けにされたいろんな味のラスクが三、四種類入っていた。
「そういえばこれ、テレビとかで見たことあります」
「そうか。食べたことは?」
「ないです」
俺のその答えに、先生は満足そうに笑って頷いた。
「よかった、よかった。君が食べたことがないものをと約束していたからなあ」
「ちゃんと覚えていたんですね」
「もちろんさ」
「ありがたくいただきます」
と、その時、図書館の扉が開いた。この時間に来るとしたら生徒ではないはずだ。そこにいたのは石上先生だった。
「ああ、よかった。まだいた。一条君、君に用事があって、急いできたんだ」
え、なんかしたかな。事務室に呼び出しでも食らっていたのだろうか。
しかし、それは杞憂だったらしい。石上先生はえんじ色の紙袋を差し出して言った。
「先日の弁当の礼だ」
その袋をよく見れば、どこかで見たことのあるロゴが金色で箔押しの様にされている。あ、これ、ポテチとかのお菓子メーカーのやつか。中身はおしゃれな色をした小さな袋がいくつか。確かちょっとリッチなポテチだ。これもテレビで見た。
「好みがあまり分からなかったから、口に合うかは分からんが……」
「いえ、ありがとうございます」
もらったものはどちらも日持ちがするし、ゆっくり楽しむことにしよう。
「なんだ、なんだ。お菓子?」
片づけを終えた咲良がカバンを持って、興味津々というように近づいてくる。
「ん、まあ」
「いいなー。ね、ちょっとちょうだい」
「いやだ」
けちー、と咲良は騒ぐ。
「紅茶買って帰ろう。ペットボトルのでいいか」
「じゃあ、俺おごる」
「お?」
俺の独り言に朝比奈が返事をした。
「お礼、してないし」
「まじ? じゃ、お言葉に甘えて」
そういうことで、食堂の自販機に向かおうと朝比奈と連れ立って図書館を出たのだが、咲良が「ちょっと待てー」と追いかけてきた。
「なんか俺だけお礼してないみたいになってね?」
「大丈夫だ。お前に期待してない」
「ひでえ。俺もなんかおごるー」
結局、朝比奈と咲良がお金を半分ずつ出す、ということに落ち着き、レモンティーをおごってもらうことにした。ペットボトルの紅茶はなじみがあるが、ちゃんとしたというか、ペットボトルじゃない紅茶は片手で足りるぐらいでしか飲んだことがない気がする。
「ありがとなー」
「ティーバッグとか、そういうのじゃなくていいのか?」
朝比奈の問いに俺は苦笑する。
「んー、なんか持て余しそうだし」
「まあ……自分で入れて飲むことはないか」
「少なくとも俺はないな」
俺がお菓子とか作れるんなら何かと使い道がありそうだが、あいにく飯しか作れない。そんなしょっちゅう飲まないし、ペットボトルぐらいでちょうどいい。
今日の晩飯はインスタントラーメンにしよう。結構最近のインスタントラーメンって種類も豊富だし、味もいい。そのまま食べても十分だし、余裕があればいろいろ工夫してもいい。
で、今日はこれ。ちょっと辛いやつだ。旨辛、と書いてあるが果たしてどれぐらいだろうか。
「おお……結構赤い」
思ったよりも赤くでびっくりだ。匂いも辛そう。辛いのは結構好きだが……卵入れようかな。
鍋にお湯を沸かして麺を入れてほぐし、スープを溶かしたところに卵を割り入れる。卵の白身が固まり始めたタイミングで器に盛る。ネギをかけたら完成だ。
「いただきます」
まず一口麺をすする。確かに辛いが、出汁の様なうま味があるので食べられる。ネギの風味も爽やかだ。スープは……うん、辛いな。
ここで卵を割る。真っ赤なスープに鮮やかな黄色がとろりと広がる。絡めて食べると幾分か辛さがマイルドになっていい感じだ。溶き卵にしてもよかったが、このラーメンには半熟卵が正解だな。
しかし、うまかったが、食べ終わるころには口の中はヒリヒリしていた。なんか甘いもの食べたい。
そこで、今日のもらい物の登場だ。
ラスクはいろいろあって迷ったが、最初はプレーンからいただこう。ポテチもいろいろあるが、うすしおにしよう。で、レモンティーは氷を入れたコップに注ぐ。揺らめく透き通った黄色が涼しげだ。
まずはラスクから。結構かたい。ざぐっとした触感は好きだ。バターの風味が鼻を抜け、砂糖の甘さが上品だ。……これ、やっぱちゃんと紅茶買った方がよかったか。レモンティーは甘い。でも、ちゃんとレモンの風味も茶葉の香りもするし、ラスクにも合う。
ポテチの方は、イモの味がすごい。沖縄の塩とか書いてあるが、その塩味も相まってか凝縮されたようなジャガイモの味がものすごい。これ、ジャガイモ蒸かして食べるよりジャガイモの味がするんじゃないか。コーラとかと食べちゃいけないやつだ、たぶん。
「おいしいな……」
毎日食べるには気負う味だが、時々こうやって食べるのにはいいかもしれない。自分で買う予定はまあ、ないけど。
違う味も楽しみだ。今度はちゃんと紅茶も買ってきてみようかな。
「ごちそうさまでした」
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