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日常
第一話 からあげ
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人間、生きている限り切っても切り離せないものがある。
飯を食うこと。
毎日毎日、生きるために飯を食う。とても大事だが、ないがしろにされがちな行為だ。
俺、しがない男子高校生一条春都は飯を食うことが好きだ。作ることが好きだ。三度の飯より何々が好き、なんて言葉もあるが、俺の場合、どんなことより飯が好きだ。
誰にも指図されず、自分の裁量で、好きなだけ好きなものを食べる。
せっかく毎日やることだ。楽しまなければもったいないというものだろう。
これはなんと幸福な光景だろうか。
目の前にうず積みあがっているのは俺の大好物、から揚げだ。天にまで届かんばかりのそれはジュワジュワと音を立て湯気を立ち昇らせ、香ばしい色の表面はきらきらと輝いている。添えられたレモンもみずみずしい。
「これ、全部食っていいのか……?」
多分、今の俺は、相当愉快な顔になっている気がする。うちで飼っているゴールデンレトリバーのうめずが新しいおもちゃを目の前にしたときの顔と同じだと思う。でもそんなのどうだっていい。これだけのから揚げが俺のものとなるのだ。顔が緩むのも無理はない。
「いただきます!」
早速から揚げに箸をつけようとしたとき、どこからかけたたましいアラーム音が聞こえてきた。すると目の前のから揚げの山はゆらゆらと揺らぎ、たちまち消えて、俺の意識もだんだんと遠のいていった。
「ふがっ」
目を開けて視界に入ってきたのはから揚げの山ではなく無機質な天井だった。腹の上ではうめずがすやすやと気持ちよさそうに眠っている。
「……夢だよなあ」
俺を幸せな夢から引き戻したスマホのアラームを止めるべく、伸びをしながら枕元に手を伸ばす。
「うめず~」
一向に起きる気配のないうめずを腹の上から引きずり下ろし、洗面所へと向かう。自分で言うのもなんだが、寝起きの俺は普段よりも三割増しで目つきが悪い気がする。短く切りっぱなしの黒髪は寝ぐせを少し直す程度で良しとする。
静寂が広がるがらんとしたリビングの、大きな窓を開ける。マンションの三階に位置する部屋に春先の若々しい空気が吹き込んできた。
「朝飯……」
夢のせいもあってから揚げが食べたいが、都合よくあるわけもなく。炊きたてのご飯をどんぶり茶碗によそい、常々作っている味噌玉をお椀に入れてお湯を注ぐ。ふわっと味噌のいい香りが漂うこの瞬間が俺は好きだ。あとは生卵を準備して、俺の朝飯は完成する。
卵かけごはんとわかめの味噌汁。シンプルだがこれが俺のお気に入りだ。
四人掛けのテーブルに一人分の朝飯を用意する。うちは三人家族なので、余った一席はもはや物置と化しているわけだが。しかも両親は忙しい人たちで、日本はおろか世界中を飛び回っているので、家にいる時間はとても少なく、もっぱら使われているのは俺の席だけだ。両親はたまに帰ってきても二、三日すればもういなくなる。だからといってほったらかされているわけでもなく、学校にもちゃんと通わせてもらっているし、なんなら帰ってきたときはうっとうしいくらい構い倒してくる。
「ん、うめずも起きてきたか」
のそのそと俺の部屋から出てきたうめずは俺を見つけるや否や尻尾を振りながらすり寄ってきた。
「はいはい、お前も飯にしような」
うめず用の器にいつものドッグフードと水を入れてやると俺も椅子に座った。
「いただきます」
「わふっ」
何か仕込んだわけでもないのに、うめずは俺のいただきますという声といっしょに食べ始める。
卵の混ぜ具合は人それぞれ好みがあるようだが、俺はしっかり混ぜた方が好きだ。ドロッとした白身の食感はちょっと苦手である。醤油を少し濃い目に、塩昆布があるときは入れるとうまみが増す。じゃことか漬物とかいろいろ試してみた中で、一番の組み合わせだと俺は思っている。
合わせ味噌の味噌汁はほっとする味で、わかめの食感が好きだ。時間と元気があればだしをとって作るのだが、平日はそうもいかない。特に月曜日の朝ともなれば味噌玉利用率が高い。だからいつも日曜のうちに味噌玉を作っておく。今度は何の具を入れようか。
「ごちそうさまでした」
見ればうめずはとうに完食していて、定位置であるリビングの若葉色をしたソファの隅で丸まっていた。
片づけを済ませて身支度を整える。天気予報と空の様子を見る限り、今日は少し冷えそうだ。昼飯は何か温かいものでも食べよう。
「そしたら、うめず。行ってくるな」
わさわさと少し荒くなでてやると、うめずは顔をあげてソファから降りた。律儀なことにいつも見送りをしてくれるのだ。一度、遅刻しそうなとき何も言わず家を出たときは、帰宅すると俺の部屋の隅ですねて丸くなったうめずを発見したことがある。それ以来、どんなに遅れそうなときでも一言声をかけて家を出るようにしている。
「いい子にしてろよ」
「わう」
いつもは階段を利用しているが、今日はなんとなく気分が乗らなかったのでエレベーターで降りることにする。
今日は金曜日。今日の学食の日替わりメニューは何だったか。月に一度、学食に張り出されるメニュー表を思い出す。
「あ」
いまだぼんやりとした頭が一気に冴えわたるのを感じた。
「今日、から揚げ定食じゃん」
学食でも一、二の人気を争うから揚げ定食は、完売するのもあっという間だ。食券が準備される二時間目後の休み時間か三時間目後の休み時間に買いに行かなければその日はもうから揚げ定食を拝むことはできない。だから俺は学校に着いた時からすでに財布を準備していたし、すぐにダッシュできるように身構えていた。勝負は二時間目の後。三時間目は移動教室なのでうかうかしていられない。
しかし、今日に限って二時間目の授業が長引いた。ただでさえ教室棟から離れた場所にある食堂は遠いというのに、二年生になって教室が二階になり、余計に移動コストが増した。だからなるべく早く食堂に行きたいのだが、今日に限って、なぜ。
結局、食堂に行けたのは昼休みで、当然から揚げ定食は売り切れていた。
「はぁ……しゃあねえ」
から揚げ定食に化けるはずだった五百円は、大盛りのカレーうどんと白米になった。うどんを食った後にご飯を入れ、カレーライスも食べられるという算段だ。それにしても安いよな。学食って。
うちの学校の学食はなかなかおいしいと評判だ。確かにカレーは程よく辛く、うどんのだしもうま味がじんわりと広がってうまい。家で作るカレーとは違うスパイスの香りをたっぷり吸いこめば気分も変わるというものだ。
でも、やっぱりから揚げは食いたいので、自分で作ることにする。
放課後は部活に行く奴や補講がある奴やらで騒がしい。俺は帰宅部で補講もないのでとっとと教室を出る。
目指すは、行きつけのスーパーだ。
はやりのJ-POPからずいぶん古い洋楽まで流れる店内は少しひんやりとしている。夏場でも少し寒いぐらいだ。
まず、入ってすぐの青果コーナーでキャベツを買う。から揚げといえばキャベツの千切りだろう。そしてとり肉。すでに切り分けられているものでもいいが、今日はたらふく食べたいのでかたまりの方を買う。自分で切り分ける手間はかかるが、お得なのだ。
から揚げは油を大量に使うので油も買っておく。
はやる気持ちを抑え、スキップしそうな足を落ち着け、俺は帰路についた。
帰り着いて時計を見ればまだ五時半だ。とりあえず下味をつけておいて、一時間もすればいいだろう。ボウルにとり肉を入れて、白だし、しょうゆ、酒、にんにく、そしてレモン汁を目分量で入れてもみこむ。
「ん? なんだ。お前も食いたいか?」
キャベツを千切りしていると、足元にうめずがすり寄ってきた。
「お前にから揚げを食わせるわけにはいかねえからな。今度なんか作ってやるよ」
から揚げには白米が必須だ。米をとぎ、ちょうどいいタイミングで炊きあがるように設定しておく。
味をつけている間に今週の課題をあらかた終わらせ風呂に入っておく。うまい飯を食べるためには気がかりなことをなくしておくに限る。飯を食った後に風呂に入るのはどうも面倒くさい。
「さて、と」
少し深めのフライパンに油を張り火にかける。あたたまってきたところで味付けしたとり肉をそっと入れると、ジュワッといい音がしてぱちぱちぱちっと小さな泡がはじける音が響く。香ばしいニンニクのにおいがたって、ものすごい勢いで食欲が増進される。
カラッと揚がったから揚げは文字通り夢にまで見た輝きを放っている。1つ試しに食べてみた。
カリカリの皮目から脂が染み出てやけどしそうだ。プリッとした身にはしっかり味がついていて、かみしめるたびにうまみが口いっぱいに広がる。ニンニクと醤油の香ばしさが鼻に抜け、これはご飯が欲しくなってきた。
「んっふ。うまあ」
早く白飯と食べたい。と、思った時、炊飯器から軽快な音楽が流れてきた。から揚げも大半が揚がったところだった。ナイスタイミング。
残りのいくつかは明日の弁当用に取っておくことにする。土曜日も課外授業があるのだ。食堂は休みだし、昼飯は自分で作るかコンビニだ。それなら俺は、自分の食いたいもんを詰め込んだ弁当がいい。
テーブルにはすでにいくつか調味料を準備している。レモン、マヨネーズ、柚子胡椒、コショウ。
炊きたての白米はしゃもじを入れるとシュワッと音を立ててほんのり甘い香りを漂わせる。それにしてもさっきから腹の虫がうるさくてしょうがない。
「うめずー、ご飯だぞ」
朝と全く同じご飯を皿に入れてやると、うめずは嬉々とした表情で走ってきてお座りをした。
「俺も、いただきます」
夢の再現とまではいかないが、山盛りのから揚げに否が応にもテンションが上がる。まずはレモンをかけて食べる。みずみずしい酸味が爽やかだ。マヨネーズをつけるとこってりとして、ご飯が進むことこの上ない。なんだかジューシーさも増す気がする。柚子胡椒単体だとピリッと辛く、味が締まる。マヨネーズと和えるとそれが和らぎながらもちゃんと辛さと柚子の風味は残る。コショウもマヨネーズと相性がいい。
一通り食べた後、やっぱりレモンに戻る。なんだかんだ言ってから揚げそのものを味わうにはこれが一番だと俺は思う。でも、マヨネーズの威力とはすごいもので、やっぱり食べたくなるのだ。箸休めのキャベツにはポン酢をかける。から揚げとポン酢もレモンとはまた違った感じでさっぱりといける。
少し冷めたから揚げもおいしい。味が濃くなっている気がする。なんとなくジャーキーを思い出す。
しかし、調子に乗って作り過ぎた。残った分は明日の朝ごはんにしよう。
一晩経ったから揚げもうまいんだよなあ。
「ごちそうさまでした」
飯を食うこと。
毎日毎日、生きるために飯を食う。とても大事だが、ないがしろにされがちな行為だ。
俺、しがない男子高校生一条春都は飯を食うことが好きだ。作ることが好きだ。三度の飯より何々が好き、なんて言葉もあるが、俺の場合、どんなことより飯が好きだ。
誰にも指図されず、自分の裁量で、好きなだけ好きなものを食べる。
せっかく毎日やることだ。楽しまなければもったいないというものだろう。
これはなんと幸福な光景だろうか。
目の前にうず積みあがっているのは俺の大好物、から揚げだ。天にまで届かんばかりのそれはジュワジュワと音を立て湯気を立ち昇らせ、香ばしい色の表面はきらきらと輝いている。添えられたレモンもみずみずしい。
「これ、全部食っていいのか……?」
多分、今の俺は、相当愉快な顔になっている気がする。うちで飼っているゴールデンレトリバーのうめずが新しいおもちゃを目の前にしたときの顔と同じだと思う。でもそんなのどうだっていい。これだけのから揚げが俺のものとなるのだ。顔が緩むのも無理はない。
「いただきます!」
早速から揚げに箸をつけようとしたとき、どこからかけたたましいアラーム音が聞こえてきた。すると目の前のから揚げの山はゆらゆらと揺らぎ、たちまち消えて、俺の意識もだんだんと遠のいていった。
「ふがっ」
目を開けて視界に入ってきたのはから揚げの山ではなく無機質な天井だった。腹の上ではうめずがすやすやと気持ちよさそうに眠っている。
「……夢だよなあ」
俺を幸せな夢から引き戻したスマホのアラームを止めるべく、伸びをしながら枕元に手を伸ばす。
「うめず~」
一向に起きる気配のないうめずを腹の上から引きずり下ろし、洗面所へと向かう。自分で言うのもなんだが、寝起きの俺は普段よりも三割増しで目つきが悪い気がする。短く切りっぱなしの黒髪は寝ぐせを少し直す程度で良しとする。
静寂が広がるがらんとしたリビングの、大きな窓を開ける。マンションの三階に位置する部屋に春先の若々しい空気が吹き込んできた。
「朝飯……」
夢のせいもあってから揚げが食べたいが、都合よくあるわけもなく。炊きたてのご飯をどんぶり茶碗によそい、常々作っている味噌玉をお椀に入れてお湯を注ぐ。ふわっと味噌のいい香りが漂うこの瞬間が俺は好きだ。あとは生卵を準備して、俺の朝飯は完成する。
卵かけごはんとわかめの味噌汁。シンプルだがこれが俺のお気に入りだ。
四人掛けのテーブルに一人分の朝飯を用意する。うちは三人家族なので、余った一席はもはや物置と化しているわけだが。しかも両親は忙しい人たちで、日本はおろか世界中を飛び回っているので、家にいる時間はとても少なく、もっぱら使われているのは俺の席だけだ。両親はたまに帰ってきても二、三日すればもういなくなる。だからといってほったらかされているわけでもなく、学校にもちゃんと通わせてもらっているし、なんなら帰ってきたときはうっとうしいくらい構い倒してくる。
「ん、うめずも起きてきたか」
のそのそと俺の部屋から出てきたうめずは俺を見つけるや否や尻尾を振りながらすり寄ってきた。
「はいはい、お前も飯にしような」
うめず用の器にいつものドッグフードと水を入れてやると俺も椅子に座った。
「いただきます」
「わふっ」
何か仕込んだわけでもないのに、うめずは俺のいただきますという声といっしょに食べ始める。
卵の混ぜ具合は人それぞれ好みがあるようだが、俺はしっかり混ぜた方が好きだ。ドロッとした白身の食感はちょっと苦手である。醤油を少し濃い目に、塩昆布があるときは入れるとうまみが増す。じゃことか漬物とかいろいろ試してみた中で、一番の組み合わせだと俺は思っている。
合わせ味噌の味噌汁はほっとする味で、わかめの食感が好きだ。時間と元気があればだしをとって作るのだが、平日はそうもいかない。特に月曜日の朝ともなれば味噌玉利用率が高い。だからいつも日曜のうちに味噌玉を作っておく。今度は何の具を入れようか。
「ごちそうさまでした」
見ればうめずはとうに完食していて、定位置であるリビングの若葉色をしたソファの隅で丸まっていた。
片づけを済ませて身支度を整える。天気予報と空の様子を見る限り、今日は少し冷えそうだ。昼飯は何か温かいものでも食べよう。
「そしたら、うめず。行ってくるな」
わさわさと少し荒くなでてやると、うめずは顔をあげてソファから降りた。律儀なことにいつも見送りをしてくれるのだ。一度、遅刻しそうなとき何も言わず家を出たときは、帰宅すると俺の部屋の隅ですねて丸くなったうめずを発見したことがある。それ以来、どんなに遅れそうなときでも一言声をかけて家を出るようにしている。
「いい子にしてろよ」
「わう」
いつもは階段を利用しているが、今日はなんとなく気分が乗らなかったのでエレベーターで降りることにする。
今日は金曜日。今日の学食の日替わりメニューは何だったか。月に一度、学食に張り出されるメニュー表を思い出す。
「あ」
いまだぼんやりとした頭が一気に冴えわたるのを感じた。
「今日、から揚げ定食じゃん」
学食でも一、二の人気を争うから揚げ定食は、完売するのもあっという間だ。食券が準備される二時間目後の休み時間か三時間目後の休み時間に買いに行かなければその日はもうから揚げ定食を拝むことはできない。だから俺は学校に着いた時からすでに財布を準備していたし、すぐにダッシュできるように身構えていた。勝負は二時間目の後。三時間目は移動教室なのでうかうかしていられない。
しかし、今日に限って二時間目の授業が長引いた。ただでさえ教室棟から離れた場所にある食堂は遠いというのに、二年生になって教室が二階になり、余計に移動コストが増した。だからなるべく早く食堂に行きたいのだが、今日に限って、なぜ。
結局、食堂に行けたのは昼休みで、当然から揚げ定食は売り切れていた。
「はぁ……しゃあねえ」
から揚げ定食に化けるはずだった五百円は、大盛りのカレーうどんと白米になった。うどんを食った後にご飯を入れ、カレーライスも食べられるという算段だ。それにしても安いよな。学食って。
うちの学校の学食はなかなかおいしいと評判だ。確かにカレーは程よく辛く、うどんのだしもうま味がじんわりと広がってうまい。家で作るカレーとは違うスパイスの香りをたっぷり吸いこめば気分も変わるというものだ。
でも、やっぱりから揚げは食いたいので、自分で作ることにする。
放課後は部活に行く奴や補講がある奴やらで騒がしい。俺は帰宅部で補講もないのでとっとと教室を出る。
目指すは、行きつけのスーパーだ。
はやりのJ-POPからずいぶん古い洋楽まで流れる店内は少しひんやりとしている。夏場でも少し寒いぐらいだ。
まず、入ってすぐの青果コーナーでキャベツを買う。から揚げといえばキャベツの千切りだろう。そしてとり肉。すでに切り分けられているものでもいいが、今日はたらふく食べたいのでかたまりの方を買う。自分で切り分ける手間はかかるが、お得なのだ。
から揚げは油を大量に使うので油も買っておく。
はやる気持ちを抑え、スキップしそうな足を落ち着け、俺は帰路についた。
帰り着いて時計を見ればまだ五時半だ。とりあえず下味をつけておいて、一時間もすればいいだろう。ボウルにとり肉を入れて、白だし、しょうゆ、酒、にんにく、そしてレモン汁を目分量で入れてもみこむ。
「ん? なんだ。お前も食いたいか?」
キャベツを千切りしていると、足元にうめずがすり寄ってきた。
「お前にから揚げを食わせるわけにはいかねえからな。今度なんか作ってやるよ」
から揚げには白米が必須だ。米をとぎ、ちょうどいいタイミングで炊きあがるように設定しておく。
味をつけている間に今週の課題をあらかた終わらせ風呂に入っておく。うまい飯を食べるためには気がかりなことをなくしておくに限る。飯を食った後に風呂に入るのはどうも面倒くさい。
「さて、と」
少し深めのフライパンに油を張り火にかける。あたたまってきたところで味付けしたとり肉をそっと入れると、ジュワッといい音がしてぱちぱちぱちっと小さな泡がはじける音が響く。香ばしいニンニクのにおいがたって、ものすごい勢いで食欲が増進される。
カラッと揚がったから揚げは文字通り夢にまで見た輝きを放っている。1つ試しに食べてみた。
カリカリの皮目から脂が染み出てやけどしそうだ。プリッとした身にはしっかり味がついていて、かみしめるたびにうまみが口いっぱいに広がる。ニンニクと醤油の香ばしさが鼻に抜け、これはご飯が欲しくなってきた。
「んっふ。うまあ」
早く白飯と食べたい。と、思った時、炊飯器から軽快な音楽が流れてきた。から揚げも大半が揚がったところだった。ナイスタイミング。
残りのいくつかは明日の弁当用に取っておくことにする。土曜日も課外授業があるのだ。食堂は休みだし、昼飯は自分で作るかコンビニだ。それなら俺は、自分の食いたいもんを詰め込んだ弁当がいい。
テーブルにはすでにいくつか調味料を準備している。レモン、マヨネーズ、柚子胡椒、コショウ。
炊きたての白米はしゃもじを入れるとシュワッと音を立ててほんのり甘い香りを漂わせる。それにしてもさっきから腹の虫がうるさくてしょうがない。
「うめずー、ご飯だぞ」
朝と全く同じご飯を皿に入れてやると、うめずは嬉々とした表情で走ってきてお座りをした。
「俺も、いただきます」
夢の再現とまではいかないが、山盛りのから揚げに否が応にもテンションが上がる。まずはレモンをかけて食べる。みずみずしい酸味が爽やかだ。マヨネーズをつけるとこってりとして、ご飯が進むことこの上ない。なんだかジューシーさも増す気がする。柚子胡椒単体だとピリッと辛く、味が締まる。マヨネーズと和えるとそれが和らぎながらもちゃんと辛さと柚子の風味は残る。コショウもマヨネーズと相性がいい。
一通り食べた後、やっぱりレモンに戻る。なんだかんだ言ってから揚げそのものを味わうにはこれが一番だと俺は思う。でも、マヨネーズの威力とはすごいもので、やっぱり食べたくなるのだ。箸休めのキャベツにはポン酢をかける。から揚げとポン酢もレモンとはまた違った感じでさっぱりといける。
少し冷めたから揚げもおいしい。味が濃くなっている気がする。なんとなくジャーキーを思い出す。
しかし、調子に乗って作り過ぎた。残った分は明日の朝ごはんにしよう。
一晩経ったから揚げもうまいんだよなあ。
「ごちそうさまでした」
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