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第十一章 泡沫の夢
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しおりを挟むのぼせる前にお風呂を出て、天国かのような寝心地のベッドに二人して入り込んだ。
和樹さんの腕の中に包み込まれ、向き合うように横になる。
「……ちょっと、色々まずかった。ぎりぎり持ち堪えたって感じ」
私に顔を近づけて、どこか少年っぽい目で見つめてきた。
「柚季が可愛すぎて。理性を持ち続けるのは、並大抵のことじゃないんだよ」
和樹さんは、こういうとき、どうしているのだろう。
「あ、あの……私で、何か、できることはありますか?」
つい、聞いてみてしまった。
「え……っ?」
和樹さんの目がまんまるくなる。
「い、いや、あの、私は、一応妻ですから。夫婦だし、いろんなスキンシップの方法があるのかな、なんて……」
あたふたとする私に和樹さんがふっと息を吐いて、頭をくしゃくしゃっと撫でた。
「そんな可愛いこと言ってると、柚季には到底想像できないようなことさせてしまうかもしれないよ?」
「想像、できないこと……」
私の浅い知識では思いも及ばない。
「嘘だよ。大丈夫、心配しないで。その代わり――」
和樹さんが私の手のひらを取り、自分の唇へと引き寄せた。
「柚季が無事に出産を終えて、身体に負担がなくなったら。いっぱい、しよう」
「は、はい。私も、したい、です」
和樹さんに抱かれたいと心から思う自分がいる。
「そんな顔で、そんなこと言ってさ。僕の忍耐を揺さぶってるの? それとも、天然の小悪魔?」
「そんなつもりは!」
「……先が思いやられるな」
はは、と笑って私を抱きしめた。
「それと、もう一つ。柚季の出産が終わった後の話なんだけど、」
少し真面目になった声で、和樹さんが口を開いた。
「会社、辞めようと思ってるんだ。それで、少し落ち着いたら海外で暮らしたいって考えてる。新しい職の目処もついてる。でも、君の意見も大切にしたい。柚季の意見を聞かせて」
「辞めるって、伊藤楽器をですか?」
衝撃の発言に、勢いよく和樹さんを見上げた。
「そうだ」
「でも、和樹さんは――」
「伊藤家の人間だ。後継者になるつもりでいたのも確かだ」
「だったら……」
そこで、ハッとする。
それは、もしかして私のため、なのだろうか……?
伊藤楽器にいれば、この先もずっと、ご家族との関わりは続く。東京にいれば、たとえ関わらなくていいと言われていても、私は常にお姉さんの存在を気にしなくてはならない。
だから、和樹さんは――。
「和樹さんにとって仕事は大きなもののはずです。本当に辞めてしまっていいんですか? お父様だって、和樹さんに期待していたはずです」
そんなこと、私に言われるまでもなく、こうして私に話をする前に考えに考えた末のことのはずだ。私が今更聞いても意味はないのかもしれない。それでも、和樹さんの大きな気遣いに胸が苦しくなって、聞かずにはいられなかった。
「柚季」
私の背中に腕を回し、優しく抱き寄せる。
「この先の人生、僕が一番大切なことは、柚季と幸せに生きていくこと。他には何もいらないんだ」
温かい胸に包まれて、鼻の奥がつんとする。
「和樹さんが決めたことなら、何も言うことはありません。どこにでもついて行きます。私も、和樹さんと幸せになりたい」
「ありがとう、柚季」
私は私で、幸せになる努力をして行きたい。
旅行のお土産を渡しがてら美久に会って、和樹さんに全てを打ち明けたことを報告した。
「……よかったね。全て、丸く収まった」
本当に良かったと、美久がしみじみと呟く。
「私も、これでより覚悟が決まった。ちゃんと幸せになることを考えようと思う」
「そうだよ。幸せは受け身のままじゃやってこない。自分から掴もうとしなくちゃね」
新しい生活に向けて、私も私でやれることがある。
「あんたの旦那様は、本当に柚季のことを愛してるんだから。内緒にしてたけど、実は、伊藤が私のところに会いにきた」
「え……?」
美久の発言に、口にしていたストローを離した。
「わざわざ私のところにまで来て、柚季のことを聞いてきたの。その時はっきり言ってた。あんたのことを愛してるって。だからもう、伊藤のことだけを見ていなさい」
和樹さんが、私のいないところで、どれだけ考えていてくれたのか。またも思い知らされる。
「しっかり相手を信じて、余計なこと考えるんじゃないわよ!」
「うん。ありがとう」
美久の言葉に頷く。
「高臣の失恋も、浮かばれるというもの」
そう言って、美久が笑った。
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