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第十章 君の気持ち
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しおりを挟む何の因果か、その翌日に営業部で大きなトラブルが勃発し、連日連夜、仕事に見舞われて。自宅には寝に帰るだけという日々を送っていた。
週末も潰れて、ろくに柚季に会えないでいる。朝は顔を見るだけ、そして夜は寝顔を見るだけ。妊婦に睡眠不足は厳禁だ。起きて待っていることも朝早く起きることも禁じていた。
そして、トラブルも収束し、ようやく早く帰ることができるという日。僕は社長室を訪れていた。
「――話があります」
柚季と再婚するにあたり、ずっと考えていたこと。
「大事な話です」
社長室に二人だけにしてもらう。
「どうした、改まって」
本題に入る前に、一つ父に尋ねた。
「姉さんの結婚の話はどうなっていますか?」
「ああ、その話か。ちょうど週末に挨拶に来てな。おまえの言う通り、立派な青年だった。彼になら理桜を任せられる。これから具体的な話になっていくだろう」
「そうですか」
貴明に問題がないことは会えばわかることだ。
「……いや、本当は理桜のことを心配していたんだ」
父が僅かに僕らのことを疑っていたのは知っている。
「だけどな、貴明君との話が持ち上がってから見違えるように明るくなって。今じゃ、式が楽しみだってはしゃいでいる有様だ。本当によかった」
「貴明なら、必ず姉さんを大切にしますよ。それでなんですが――」
これからが本題だ。
「次期社長のことです」
「次期? 急にどうした」
「僕が、候補になっていると思いますが、それを降りたいと思っています」
「……え?」
笑顔を浮かべていた父がその表情を変えた。
「もし、貴明にその意思があれば、うちに入社してもらって仕事を覚えさせるのも一つの選択肢だと思っています。貴明は有能で堅実な男だ。十分やっていける。それに、姉さんは、父さんと母さんの真っ当な血をひいた娘だ。その夫になる人間で何ら不思議はないでしょう。もちろん、貴明の意思が一番大事です。父さんから貴明に話をしてもらいたい。もし、貴明がそれを固辞したら、もう一つの選択肢として社内で新たな候補を育ててほしい」
「何を言い出すんだ。おまえは、これまで、トップに立つべく精進してきたじゃないか」
父が驚くのも無理はない。こんな話をするのは初めてだ。
「どこかで僕は、この地位が居心地が悪かったのかもしれません。どう足掻いても、僕はあなたの愛人の息子ですから」
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柚季を苦しめるものから、できる限り遠ざけたい。何のしがらみもない場所で、柚季と僕と子供と三人で生きて行きたい。柚季の心からの笑顔が見たい。
そして、姉にも。貴明との生活だけに目を向けてほしい。幸せをそこから見い出してほしい。
「――では、そのようによろしくお願いします」
父に頭を下げ、社長室を出る。
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