上 下
176 / 196
《番外編 新しい常務がやって来た!!》

1.広報室広報誌係 広岡広史の場合 ⑲

しおりを挟む



「広岡君。いい社内報、出来そうだね!」


隣を歩く三井が満面の笑みで俺を見る。


「――誰かさんのおかげでな」


それを横目でちらりと見て、俺は前に視線を戻した。


「もう、最高。この写真も、これもこれも……。これ全部、アルバムにして私のコレクションにしよう!」


この日撮った写真を一枚一枚見ながらぶつぶつ言っている。


「一体、何枚撮ったんだよ」

「ん? 10枚くらい?  あ――、これ、いいわ。ちょっと、女性誌に売り込もうかな」

「は?」

「私が毎月読んでいるファッション誌に、『私のイケてるボス』っていうコーナーがあるんだけど。それ、毎月一人、女性社員の推薦でいろんな企業の上司が取り上げられてるのよ。これまで見て来た誰よりも、絶対榊常務の方がカッコいい! 私、応募しちゃおうかな……」


三井が一人考え始めている。
もう終わったかと思われた三井の暴走は、まだ終わっていないらしい。


「お、おい。そんなこと勝手にするなよ?」

「もちろんだよ。当然常務サイドの許可は取るよ? でも、丸菱テクノロジーの知名度も上がるし広告効果もある。悪くないと思うけど。よし。室長に企画書あげようっと!」


何を一人納得したのか、胸を張って歩き出した。


常務、お気の毒様です。

そして、神原さん。申し訳ございません――。





* * *



広報誌、年末特大号が、発行された。


「広岡君! すごい反響だよ! これ、重版いくよ!」

「バカか。社内広報誌に重版があるかよ」

「女子社員が、閲覧用と保存用とで2部欲しいって言うんだもん!」


確かに、社内の評判はすこぶるいい。
ここ数日の社内の話題は、広報誌、つきつめれば榊常務の話題で持ちきりだ。

一般社員にとっては、ベールに包まれていた雲の上のお方。

その人の、あんなにも率直な(プライベートにまみれた)インタビューが掲載されたのだ。

誰もが興味を引くだろう。

『妻が趣味』

あの言葉のインパクトは相当だったみたいだ。


女子社員たちが、昼の食堂で、給湯室で、盛り上がっているらしい。


俺は俺なりに、達成感を得ていた。

広報誌の作成に達成感なんてものを感じたのは初めてだ。


そして、常務の人柄に触れられたのも、嬉しかったのかもしれない。


つい、この顔が緩む。


「ねぇ――。私、いいこと考えてるんだけど」

「おまえのいいことは、だいたいとんでもないことだよ」


三井が俺の耳に顔を近付けて来る。


「打ち上げ、しない? 広報誌の作成打ち上げ!」

「打ち上げ? まあ、やればいいんじゃないのか? ああ、でも。どうせそろそろ広報室の忘年会があるだろ」

「違うって。広報誌係と常務とで」

「な、なにっ!」


俺は、思い切り三井の方に振り向いてしまった。


「おまえ、そんなこと神原さんが許すはずがないだろ」

「そこは、大丈夫。もう、根回しは始めてる。私たちだけじゃ、神原さんも動かないだろうと思ったから、もう一グループ巻き込んだ」

「もう一グループ……?」


俺は怪訝な目を三井に向ける。


「そう。ほら、先月、榊常務の指示で、新しい市場を開拓して大きな契約を決めたっていうじゃない? その時のプロジェクトチームだよ。彼らにも提案してみたら、のってきたの。みんな、常務とお近づきになりたいんだよ。仕事の話じゃなくて、打ち解けた雰囲気でいろいろ話してみたいんじゃない? だから、プロジェクトチームと私とで、神原さんのところにおうかがいに行って来たわけ」

「おまえの行動力が、俺は怖いよ……」

「えへ」


三井がまた気持ち悪い笑顔を見せる。



しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

処理中です...