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《番外編 新しい常務がやって来た!!》

1.広報室広報誌係 広岡広史の場合 ⑯

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「ん? どうした――」


あまりに黙りこくった俺に、常務が不思議そうに視線を寄こす。


「ええとですね……」


俺が言いあぐねていると、鋭い三井の声が飛び込んで来た。


「出会う順番が違ったら、私にも、チャンスはありましたか!」


「は?」
「え?」


俺と常務の声。
その次に入り込んで来たのは、もちろん――。


「あ、あなた、何を言っているんですか?!」


神原さん。その声は、もう、耐えられないとでもいいたげな悲痛な怒り。


「あ……ち、違います! そうじゃなくてっ」


バカな三井は、自分の発言のまずさにようやく気付いたのか、その手を大きく振る。


「”私”ではなく、女子社員からの声です!」
「――すみません。そのような質問が来ておりまして。どのようにお聞ききすればいいかと逡巡しておりました」


仕方なく、俺もフォローする。

だいたい。どうしてこの質問を採用したんだ。
後ろにいる、室長と係長よ――!


「申し訳ないが、ないな」


常務が静かに、でもはっきりとそう言った。


「私にとって妻でなければならなかったように、皆さんそれぞれに、その人でなければならないという人が必ず存在しているだろう」


赤い糸……ってやつだろうか。
引き寄せられる相手。連れ添う必然にある人。

そんなものが、本当に必ず全員にいるのかどうか。まだ、俺には分からない。


「では、次が最後の質問になります」
「そうか!」


今度は、常務が嬉しそうな顔をした。


「明日が人生最後の日だとして、今日一日どのように過ごしたいとお考えになりますか?」

「それも、仮定の話だな?」

「は、はい。想像していただければ」


もう、何も怖くないぞ。


「――それはもう、一つしかない。妻の傍にいて、妻の望みを叶えることにすべての時間を使いたい」


それは、即答に近かった。
考えることも悩むこともなく、すぐに常務はそう口にした。


「……おい」


視界に入り込んで来てしまった三井を見て、すぐに後悔する。

なんで、ちらりと見てしまったのか――。


「どうした? なぜ、君が泣いている?」


そうなのだ。いきなり、三井が号泣しだした。


「だ、だって……、榊常務の奥様への愛情に、感動して」


その言い方、微妙じゃないかと思うが、本人はいたって真面目らしい。

何度も目を擦りながらしゃくりあげている。


「はいはい、もう、これで十分ですよね? 広報室の皆様、大変お疲れ様でした――」


待ってましたとばかりに神原さんが飛び出て来た。


「容姿だけでなく、条件だけでなく、その奥様への愛情まで世の中に知れ渡ったら、いったいどうなるんでしょう。だって――」


そんな神原さんを更に遮る三井にぎょっとする。


号泣しているくせに、どうしてそんなにおまえは強いんだ――!



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