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《番外編 新しい常務がやって来た!!》
1.広報室広報誌係 広岡広史の場合 ⑩
しおりを挟む「そう改まって聞かれると、どう答えればいいのかなかなか難しい。とにかく、彼女のことが気になって仕方がなかった。ということで勘弁してくれるかな」
常務。もういいんです。こんな女の、もはや個人的興味に付き合う必要はない!
「とにかく気になって仕方がない――。それが、まさに運命ですよね! 一目惚れで始まった恋なのに、それからずっとお付き合いが続いて結婚に至る――。それって、すごくすごく一途な恋じゃないですか? あー、私たち女子社員の妄想のはるか上を行くロマンチックぶり! あまりの感動に、ときめきまくりです」
「おい。一つの質問にこんなに時間かけていたら、予定の質問を消化しきれないだろ! 少し黙ってろ」
俺が止まらないその口を制する。
「でも、『奥様とは大恋愛だと風の噂で聞いていますが、本当ですか? どんな奥様ですか?』という質問も来ていますから!」
か、勝手に、質問を付け足すなーー!
「大恋愛……どうしてそんなことを、うちの社員は知っているんだ?」
常務が激しく混乱している。
無理もない。誰だってそうなる。
「ーーそうおっしゃるということは、それは正しい情報なのですね? 大恋愛なのですね! もう、その響きだけで私、ごはん三杯はいけます。どんな大恋愛だったんですか?」
「どんな、と言われても、とにかく結婚できるその日まで、意思を貫き通した……ということで許してくれ」
「強い意思、それってーー」
「よく、わかりました。お答えいただきありがとうございます!」
それでも食い下がろうとする三井の声に思い切り被せた。
さすがに、少し不満そうにしながらも三井が一歩下がる。
「――失礼いたしました。では、次の質問に行かせていただきます……」
あー、次の質問も厳しいな……。これ、本当に聞かなきゃダメか……?
考え込む俺に三井がきつく視線を送って来る。
「す、すみません。えっと、奥様との出会いが、そのホームパーティーではなく職場だったとしても、恋に落ちてご結婚されていたと思いますか?」
言ってる俺でさえ恥ずかしくてたまらないのに、これに真面目に答えなければならない常務は、もっと……。
「……ぶはっ」
「じょ、常務、大丈夫ですかっ?」
さっきの質問だけでも相当疲れたのだろう。テーブルの上のコーヒーを口にしていたところを、それを吐き出しそうになっていた。
「し、失礼。申し訳ない。それは、仮定の話か?」
「そ、そうです。”もしも”の話で――」
あーもう、俺じゃないのに、俺のせいみたいになるじゃないか。
「――ああ、まあ。彼女だから結婚したわけであって、どこで出会ったかは関係ないから、そうなっていたんじゃないかな」
「榊常務と、社内恋愛――。たとえば!」
もう出て来た。三井。
「奥様が、榊常務の秘書としていらしたとしたら。もう、お仕事にならないですよね?」
「三井さんっ!」
先ほどより何倍も大きな声の神原さんの声がした。
無理もない。
実際の秘書をしている神原さんからしても、非常に微妙な質問だろうよ。
だいたい、『お仕事にならないですよね?』って一体、何を想像しているんだ。
妄想。もう、ただの妄想。
「雪野が、秘書――」
じょ、常務……?
なぜか、常務が真剣に考え込んでいる。
そんな質問に真剣に考える必要なんてない!
難しい顔をしていたかと思ったら、佐藤常務は急にその表情を緩ませて。「いや、それはやっぱり、まずいな」なんてひとり言みたいにぼそぼそと呟いてなんだか照れている。
常務。一体、今、何を想像したんですか――。
「確かに、仕事に支障が出そうだ。それはやめておこう」
数十秒の逡巡のあとの、常務の結論はそれのようだった。
「どうして、仕事に支障が出るんですかぁ? 密室の常務室で奥様と――」
「すみません。次、行きます」
俺は強硬手段として、三井の口を俺の手で塞ぐ。
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