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第一部
君のすべてが力になる【side:創介】 4
しおりを挟む同じ家に住んでいながら、父とはほとんど言葉を交わさない。小さい頃から、父親として甘えたこともなければ遊んでもらった記憶もない。常に丸菱の社長として俺の目に前にいた人だ。縁談を破談にしてからは、より交わす言葉は少なくなった。でもそれは、俺のすることに何も言わなくなったとも言える。
平日は、普通の社員の二倍の業務をこなし、休日は宮川氏の邸宅に出向く。宮川氏は決して俺には会おうとはしなかった。でも、顔を見て謝罪するまで、諦めるつもりはない。
雪野の自宅に行った日以来、雪野には会えずにいた。
(少しでも休んでください。身体に気をつけて)
いつも、電話越しに聞く雪野の言葉はそれだった。その言葉に、複雑な心境になる。
”会えなくて寂しい”
本当はそんな言葉を聞きたいと思っていると知ったら、雪野はどうするだろう。一人、馬鹿馬鹿しいことを考えては息を吐く。
俺は、こんなにも会いたくてたまらないというのに――。
ジャケットも着たままで、ベッドに身体を投げ出す。疲労困憊の身体は、いとも簡単に鉛のようにベッドに沈み込んで行く。
雪野の誕生日には、雪野の笑顔が見たい――。
目を閉じれば、愛しい人の顔が浮かぶ。
約束の雪野の誕生日。なんとか待ち合わせ場所に時間通り到着することが出来た。駅の雑踏の中に立つと、こちらに向かって走って来る雪野が目に入った。
「創介さん、遅くなってごめんなさい!」
久しぶりに見る雪野の姿に、自然と自分の表情が緩んで行くのが分かった。
「雪野……っ」
雪野が通行人にぶつかるのを見て、緩んだ表情がいっぺんに強張る。
「そんなに急がなくていい、危ないだろ!」
すぐさま駆け寄り、よろけた雪野の腕を咄嗟に取った。
「大丈夫か?」
「すみません、でも大丈夫」
雪野が俺に微笑む。至近距離で雪野を感じれば、ようやく安心できた。会いたくてたまらなかった人がここにいる。この日をずっと待っていた。
雪野の誕生日であるこの日、思いのすべてを雪野に伝える。
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