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第一部
最悪の出会い 11
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次の日、何もなかったように授業に出席した。
あのパーティーに私を連れて行ったユリさんを遠目に見た時、胸が軋んだ。結局私も、彼女と同じ立場の人間になってしまったのだ。何もかもを心から追い出して、ただ前だけを見て足早に正門へと急ぐ。
正門にたどり着いたところで、息が止まる。
どうして――?
正門脇に、あの人が立っていた。あまりの驚きで、立ち竦んで動けない。鋭い目が立ち尽くす私の存在を認めると、すぐにこちらに向かって来た。それでも私は、硬直したまま動けない。
「なんで何も言わずに帰ったりした? 一体、なんのつもりだ!」
私の正面に立つと、怒りに満ちた目が私を射抜いた。
「どうして……?」
やっと吐き出した言葉は、情けないほどに弱々しい。何かにしがみついていないと倒れてしまいそうで、手にしていたバッグを強く胸に抱き締める。
「どうしてだって? おまえはこれっきりにしようと思ってたのか?」
声を荒げる彼をただ呆然と見上げた。
「勝手に消えるなんて、許さない」
どうして――?
目的を果たせば、もう何の意味も持たない存在のはずでしょう?
全部分かってこの人に抱かれたのだ。ちゃんと、ユリさんとこの人のやり取りだって覚えている。あのパーティーで、逃げるように飛び出しても耳に届いた声を全部理解している。
だから、泣くのは今日だけ。明日からは絶対にもう泣かない――。
そう決めたのに。目の前に突然現れた彼の顔を見たら、そんな決意なんてどこかに消えてしまったみたいに涙があふれた。涙と同じように、抑えつけた想いが溢れ出す。
涙を拭おうとした瞬間に、勢いよく抱き寄せられた。その時、自分のものではない心臓の音が耳に届いて。押し潰されそうなほどの強さで苦しいのに、苦しいのと同じだけ何故だか安堵する。だけど、すぐにここがどこかを思い出した。
「あ、あの、ここ、大学の前ですので……っ」
「あ、ああ」
その胸に手を置いて離れた。
急に我に返れば、周囲からの向けられる視線が痛い。それに耐えられなくて、俯いてしまう。
「もう、授業終わったのか?」
身体を離したはずなのに、私の腕は彼の手によって掴まれていた。
「は、はい」
「じゃあ、これから時間――」
私の顔を見ようとする彼の視線から逃れるように、その声も遮った。
「すみません! このあと、バイトで……」
もしかしたら、一緒に過ごそうと言ってくれるつもりだったのだろうか。そう思い至ると、急にそれが酷く惜しいことのように思えて。
「そうだったな。おまえ、いつもバイトしてたもんな」
「で、でも! バイトまで2時間くらいなら時間あります!」
前のめりになって叫んでいた。
――って、私、何言ってるんだろう。
「いえ、いいんです。すみません、そんな隙間時間みたなもの……」
「いや、いい。その時間を俺にくれ」
俯いていた顔を上げると、そこにはぎこちなく微笑む彼の顔があった。
ひとたび何かを考えてしまえば、きっと躊躇ってしまう。だから、私を掴んでくれている彼の手のひらのことだけを考えた。
あのパーティーに私を連れて行ったユリさんを遠目に見た時、胸が軋んだ。結局私も、彼女と同じ立場の人間になってしまったのだ。何もかもを心から追い出して、ただ前だけを見て足早に正門へと急ぐ。
正門にたどり着いたところで、息が止まる。
どうして――?
正門脇に、あの人が立っていた。あまりの驚きで、立ち竦んで動けない。鋭い目が立ち尽くす私の存在を認めると、すぐにこちらに向かって来た。それでも私は、硬直したまま動けない。
「なんで何も言わずに帰ったりした? 一体、なんのつもりだ!」
私の正面に立つと、怒りに満ちた目が私を射抜いた。
「どうして……?」
やっと吐き出した言葉は、情けないほどに弱々しい。何かにしがみついていないと倒れてしまいそうで、手にしていたバッグを強く胸に抱き締める。
「どうしてだって? おまえはこれっきりにしようと思ってたのか?」
声を荒げる彼をただ呆然と見上げた。
「勝手に消えるなんて、許さない」
どうして――?
目的を果たせば、もう何の意味も持たない存在のはずでしょう?
全部分かってこの人に抱かれたのだ。ちゃんと、ユリさんとこの人のやり取りだって覚えている。あのパーティーで、逃げるように飛び出しても耳に届いた声を全部理解している。
だから、泣くのは今日だけ。明日からは絶対にもう泣かない――。
そう決めたのに。目の前に突然現れた彼の顔を見たら、そんな決意なんてどこかに消えてしまったみたいに涙があふれた。涙と同じように、抑えつけた想いが溢れ出す。
涙を拭おうとした瞬間に、勢いよく抱き寄せられた。その時、自分のものではない心臓の音が耳に届いて。押し潰されそうなほどの強さで苦しいのに、苦しいのと同じだけ何故だか安堵する。だけど、すぐにここがどこかを思い出した。
「あ、あの、ここ、大学の前ですので……っ」
「あ、ああ」
その胸に手を置いて離れた。
急に我に返れば、周囲からの向けられる視線が痛い。それに耐えられなくて、俯いてしまう。
「もう、授業終わったのか?」
身体を離したはずなのに、私の腕は彼の手によって掴まれていた。
「は、はい」
「じゃあ、これから時間――」
私の顔を見ようとする彼の視線から逃れるように、その声も遮った。
「すみません! このあと、バイトで……」
もしかしたら、一緒に過ごそうと言ってくれるつもりだったのだろうか。そう思い至ると、急にそれが酷く惜しいことのように思えて。
「そうだったな。おまえ、いつもバイトしてたもんな」
「で、でも! バイトまで2時間くらいなら時間あります!」
前のめりになって叫んでいた。
――って、私、何言ってるんだろう。
「いえ、いいんです。すみません、そんな隙間時間みたなもの……」
「いや、いい。その時間を俺にくれ」
俯いていた顔を上げると、そこにはぎこちなく微笑む彼の顔があった。
ひとたび何かを考えてしまえば、きっと躊躇ってしまう。だから、私を掴んでくれている彼の手のひらのことだけを考えた。
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