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第一部

最悪の出会い 9

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 こんな、なんの特徴もない身体を、まるで大事なものに触れるような手に、心までも震えて行く。

「や、やめて……ください……っ!」

ざらりとした熱い舌が私の肌を滑り、身体の中心にたどり着く。驚きのあまり、身を起こそうとした。

「だめだ。ちゃんとしておかないと、死ぬほど痛いぞ」

閉じようとする脚も、何の意味もない。私の脚の間に入り込んだ彼の身体は、そこに固定されているかのようい動かない。

「でもっ、そんなとこ、恥ずかしい……です」

死ぬほど恥ずかしいのに。そんな場所、自分でだって見たことない。耐えられないほどの羞恥心が自分を襲うのに、彼から与えられる快感にはしたなく身体を揺らすだけだ。

「恥ずかしいことなんて何もない。俺の手で、おまえがよがるのを見ると、俺もどうにかなりそうだ」
「そ、そんなこと……あっ」

私の中心を押し広げて行くように入り込んで来る指が、痛み以外の感覚も連れて来る。

「だ、め……っ、や……っ!」

とろとろに潤っているのが分かる。指とは違うぬるりとした感覚に身体が跳ねて。慌てて身体を反らす。

「快感だけに集中しろ。他のことは、考えるな」
「あぁっ……!」

彼から吐き出される掠れた声も、彼の切なく歪められていく表情も、その何もかもが私の身体と心を締め付けて行く。

 大きな身体が私にのしかかって来て、その重みと温かさが、肌に伝わる。

「出来る限り、力を抜いてろ……っ」
「あ……っ、はぁ」

身体の真ん中を、彼の熱く硬いものがゆっくりと少しずつ確かめるように貫いて行く。それでも、痛みが私を突き抜けて。張り詰めたような苦しさと痛みに、大きな背中に必死にしがみついた。
 あまりの痛みで、勝手に目尻から熱いものが流れ落ちて行く。ぴったりとくっついた彼の胸が温かくて、辛いのに心の奥がじんとする。

きっと、一晩限りのこと――。

そう頭の片隅でもう一人の自分が言っていた。そうだとしても、それでもいいと思った。

 繋がりながら、止まらない涙を彼の唇が拭う。そして、私が顔を歪める度に何度もキスをしてくれた。それがなぜだか嬉しくて。

「……雪野」

きつく抱きしめながら、私の名前を零した。初めて名前を呼ばれて、私はまた涙を溢れさせた。



「身体、やっぱり、辛かったか……?」

彼の身体がゆっくりと離れて、私をじっと見下ろしている。まだ整わない呼吸で、不安そうに私を見つめる。

「だ、いじょうぶです」

きっと説得力のない顔をしているのだろう。そう言っても目の前の人の表情は変わらなかった。それどころか、私の額に手を当て前髪をかき上げた。その仕草が、どこか労わるようなもので、目を見開く。

「じゃあ、なんで、そんなに泣いてるんだ」

表情、目の動き、何一つ見逃さないというように、私の顔を露わにして食い入るように見つめられる。

「すみません。自分でも、よくわからない……」

分からない。でも、いつも鋭くて冷たい表情をしている人が、そんな風に気づかわしげに見つめて来るから余計に苦しくなる。それ以上泣いている姿を見られていたくなくて、顔を逸らした。
 そんな私を何も言わずに抱きしめた。それはきつく激しいものではなく、私をなだめるようなもので。ぎこちなく、何度も私の髪を撫でる。そのたどたどしさに、私はまた切なくなる。

どうして、こんなことするの……?

頭では混乱しているのに、肌を重ねる温もりとそっと私を撫でる手のひらに、身体の力が抜けていく。心地いと感じてしまう。おそるおそる自らもその胸に頬を寄せた。

あと少しでいい。この温もりを感じさせてほしい――。

身勝手で強引で、抗いたいのにそうできない。
多分、私は、もうとっくにこの人に惹かれていたのだ。
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